73話 新たなる敵と悲劇の花嫁!
文字数 6,526文字
第3試験、チョコレート・クライシスから1日。
ジャックとバルバトスが居なくなった事から焦ってしまうも、仲間のおかげで立ち直るミノル。
リリムやソニア、ナナも最終試験に立ち向かう事を決めていた。
ミノルはメルーナが置いていった青い石を手に取る事で試験の内容を知り、リサからジャックのスマホを渡されると、セクシャルレインボーに行く事を決意。
「最低4人は酒場に残る」ルールに従い、
ヒナ、小鳥、ゴワス、ゴッツァンはグラスオーヴィ。
ジャックの許嫁の紗桜ゆめ、執事アイザワを含めた12名は飛空挺に乗りセクシャルレインボーへ向かう事に。
――最終試験「嘘の航路」。
ミノル達の乗った飛空挺を墜とすため、メルーナによって召喚された"いるはずのない"敵が……
じゃあみんな、
「VIP」って書かれた飛空挺があるはずだから、そこに向かってちょうだい♪よろしくね♪
なんっっっっじゃこりゃああああああああああああ!??
壁一面に描かれたハートマークと綺麗なバラの絵。
大きな丸いベッドと2つ置かれた白い枕。
意味深なティッシュと意味深な……
ついさっきまで使っていたのか、びしょ濡れになったバスタオル。
紫色の長い髪の毛が付いていて、ほのかにモモのような香りがする。
この色だとアルテミアちゃん、時雨ちゃんと同じか……
真剣な顔をしながら推理しつつ、「クンカクンカ」と音が鳴るくらい嗅覚をフル活用して香りを楽しむバルバトス。
「ウム……けしからん。」と言いながらバスタオルを手に、部屋の中を探ろうとしたその時……
ごめんなさい、バルバトス様。起きてしまいましたか?
あろうことか、誰かにバスタオルを鼻に付けたままの状態を見られてしまった。
しかも、声のした方向を振り向くとバルバトスはさらに困惑。
理性がどこかへピューッと飛んでいき、やがてバグりだす。
あらイヤですわ。あまり見られると照れてしまいます……
何が起こっているのかは分からない。
いや何故こうなっているのか分からない。
しかし確かに、今話しかけてきた女性はベッドのシーツの中から姿を現し、何も着ていない。
バルバトスは思わず土下座で感謝。
おかしな方ですね♪
バルバトス様?ごはんにしますか?お風呂にしますか?
心も体も正直なもの。
何がとは言わないが、満点を出すとバルバトスの下心に拍車がかかりベッドにいる女性の元に禁断のダイブ……
と思いきや、一度自分の気持ちを整理して状況を整理しようと女性に背を向けて、ベッドに腰を掛ける。
(お、思い出せ思い出せ……!
なーんでオレ、こんな所にいるんだ?
そもそもこの子は誰だ?何でオレを知ってる?
なんで何も着てない?)
そっぽ向かないで下さい。
気持ちよくなりたいんですよね?
いいんですよ?私に任せて下さい♪
自分に喝を入れようと両手で自分の顔にビンタし、目を閉じてこれまでの事を思い出すバルバトス。
そう、それはチョコレート・クライシスの世界からゲートを通り、セクシャルレインボーの宮殿に着いた時の記憶――。
――どこまでも続く長い通路。
竜や女性の絵が描かれた白い円柱が一定間隔で並び、
天井には天使や女性の絵が描かれ、白いシャンデリアが取り付けられている。
そして最も目を疑うのはズラリと並んだ美女、美女、美女。
顔も良し、胸も良し、腰つきも良し。
セクシーで綺麗で思わず目を奪われてしまう美しい女性達が、バルバトスを見てにこやかに笑っていた。
『き、綺麗だ……!
いや綺麗にも程がある!こんな事あり得るのか!?』
『ど、どういう意味だ?
どうやったらこんな美女を何人も……!』
『ひゃーーー!天井高っ!この柱なんていくらするんだよってくらい綺麗じゃねーか!うおーすげぇーなー!』
『アルテミアよ。メルーナ、あの方が呼んでいるわ。彼は例の部屋でいいのよね?』
『あ?なんだ、男もいるのか?美女だけだと思ったぜ。』
『なぁアルテミアちゃん。よくわかんねぇ男はどうでもいいとして、こんなすげぇ所に住んでたのか?羨ましいぜ!』
『別に私達は住んでるわけじゃないわ。この後はアルテミアに付いて行って。』
『わかった!これから住む予定なんだな?羨ましいなオイ!』
『……わかってると思うけど、生きていたければ逃げ出そうなんて考えない事ね。』
『ほら、こっちよ。この宮殿の中はとても広いから、迷子にならないようにね。』
『なんだ?ここに着いた途端、メルーナちゃんが不機嫌になったような……?』
『VIP!?いいねーVIP!!ベッドにシャワーまで付いてんじゃん!!』
『あなた、緊張感無いのね。もう脱出する方法でも思い付いたの?まぁいいわ。私も疲れちゃったからシャワーでも浴びてこようかしら。』
『そんなのわかってるさ。今オレは囚われの身で、助けに来てくれるナイト様はグラスオーヴィにいる。』
『よく喋るのね。メルーナがご機嫌ナナメなのはあなたのせいか……』
『いや、オレは違うと思う。なぁ本当は知ってるんだろ?教えてくれよ〜?』
『イヤ。この部屋にいる間は食事も睡眠もとれるしバスルームもあるわ。大人しくしててよ。』
『首を突っ込むと怪我するわよ。いい子だから大人しくしてて?今は何もしないから。』
あ〜思い出した……
あの後アルテミアちゃんはどっか行っちゃったんだよなぁ……
で、この子はなんか食べようと思ったら部屋に来たメイドちゃん。メシと酒を持って来てくれて、酔っ払って寝ちゃったんだ……
うーん、それにしても……
ごはんの続きにしますか?
それでは……はい、あーん❤️
****
宮殿内。
暗闇に包まれた部屋で、中に何も入っていないショーケースを見つめる影がひとつ。
……随分正直に言ってくれるのね。
立ち入り禁止なのは知ってるわ。あまり騒がないで頂戴。
…………あら。あなたもいたのね。
ねぇ、異世界人って興味ある?
おもしろい男の子がいるんだけど。
何かを察し、ショーケースの前に立ったままジャスパーのいない方向に向かって声をかけるメルーナ。
すると暗闇の中で何かが動き出し、赤い眼光が不気味に光り出した。
なんでもないわ。
いずれにしてもまだ早い。
シャワーでも浴びてくるわ。昨日帰って来てから疲れが取れなくて困ってるの。
くれぐれも絶対に覗かない事ね。
そりゃメルーナちゃんのいる所ならどこだって行くさ!!
そんな事より!
おい化け物!メルーナちゃんに手ぇ出したらブッ殺すぞ!!
出てけ!!
2人ともありがとう。
あら?「筋肉」と「料理」だけ?他のみんなは?
「美肌」と「愛」は飛行場。
チビ2人は食堂じゃないかな?
こら。
チビって言わないの。いつも言っているでしょう?
そんな事よりメルーナちゃん。
何なんだよあの男。下心丸出しじゃねーか。
何で連れてきたんだよ……アルテミアちゃんにも気安く近付いたんだぞアイツ!!
あの方の指示よ。
それより、その男を引き取りに来るのは女の子よ?あなた戦える?
何だと!?
半端な料理人がここに来るなんて許さねぇぞ!!
メルーナちゃん、どの飛空艇だ!?教えてくれ!!
あらら……♪
今頃快適な空の旅の最中で、これから幻と会うはずなのだけれど……
大変な事になるかもしれないわね♪
****
一方、ここはグラスオーヴィよりも北に進んだ先にある森の上空。
前回から数十分後、さらに準備を整えて飛空挺に搭乗したミノル達は無事にグラスオーヴィを離陸する事に成功。
操縦席に舵があるものの、自動運転になっていた事から各自自由に行動する事に。
ゆっくり空を飛ぶ飛空挺のスピードに合わせて、のんびり景色を楽しむ……
のはずが、「嘘の航路」を教える幻が来る前にも関わらず、食堂でのとある事件が起きてしまった事で船内は騒然としていたのだが……
あたしだって女なんだよ〜!
ソラちん!何であたしの体に興味持ってくれないの〜!?
女の子みたいにかわいい所あるけど、君は男の子でしょ〜!?
食べ物は大好きだけどエッチな事には興味ないんだ〜!
早く服を着ないと風邪引いちゃうよ?
あたしなんて……!あたしなんて……!
どうせ魅力無いんだああああああああ!!!
どうでも良くないわ!
もう身投げしてやるううううう!!
下着も何も着ていない「生まれたままの姿」で甲板に出ようと走り出すリサ。
「丸出し」を連呼しながらリサを追いかけるソラ。
確かに年頃の女性が全裸なのにも関わらず、
それを見た男が無反応なのはいろいろ傷ついてしまう。
「性に興味はない」とは言うけれど、あんまりではないか。
少しは喜んで、または照れながら「服を着て!」と言うならわかるけども。
そもそもこうなったのは別の問題が発生したから。
それはほんの少し前、食堂でひと休みしていたリサがドヤ顔で「とあるアイテム」を披露していた時の事……。
『もし向こうに着いて集団に襲われても大丈夫!これをシューッてかけると、相手を魅了しちゃうのだ!言うなれば媚薬だね♪』
『これでソラちんはあたしの事を好きになって、攻撃なんて出来なくなるってわけ!どうどう?イケナイ気持ちになっちゃう?』
『まぁ、多分闇市場のアイテムだろうからね。バルバトスの奴、倉庫に溜め込んでいたみたい。』
『そもそも闇市場はそのまんま、表の世界では出回らない便利な道具を売買する所。とんでもない効果を発揮するけど何かを代償にするとか、化け物に変身しちゃうとか、そういうのもあるから危険。』
『でもこれは安心安全間違いなし!なぜならほら、蓋にハートと虹のマークがあるでしょ?ヤバい感じがしないから持ってきたんだよ!』
『ねぇねぇどう?あたしの服の中、見たくてしょうがないでしょ〜?ソラちんだったら見せてあげてもいいのよ〜?』
くねくね腰を動かしながらソラを誘惑するリサ。
片手を顎に当てて何かを考えるソラ。
ソニアは「まったく、姉さんは……」と呟き、リサに一声かけて食堂を出て行ってしまう。
『シャワーを浴びてくるので、戦闘に役立つアイテムを用意しておいて下さいね?いつ何が起きるかわからないんですから……』
セクシーポーズをとりながらソニアに返事をするリサ。
しかしその瞬間。
バリバリッ
バーン!
あろうことか、リサの服が全て破裂。
ソラにしっかりと見られてしまったリサは慌てて手で体を隠そうとするけれど……?
同じ胸でも筋肉ではなく脂肪。
女性だからこそ膨らむ、その大きな胸は女性の魅力であり女性の武器。
「この筋肉バカ!」と言いたい所だけど褒め言葉になってしまうし、自慢の胸を見られて無邪気に笑われてしまったのでは女性として見られていない証拠。
別に好きな相手ではないけれど、
いざ無反応だとさすがに自信を無くしてしまう。
止めないでえええええ!
どうせここから落ちても「親方!空から女の子が!」「おおおお!デカい!」なんて会話にはならないで……
「あ、そう。」って言われて誰も受け止めてくれないんだああああああ!!!
食堂の扉を開けて廊下に出て、そのまま階段を登れば甲板へ出られる。
揺れる胸を隠す事もなく廊下に出ようと扉に手をかけた……
まさにその時。
誰かの叫び声と共に飛空挺が大きく揺れ、あらぬ顔で絶叫したリサは転倒。
その途端、ソラはすぐにリサの手を掴み、抱き寄せる。
リサを安心させようと笑顔を浮かべるソラ。
リサはそんなソラにちょっとだけドキッ。
しかし、リサの手を離そうとしたその時、廊下に人影が。
ソラは何かを察し、少し力を入れてリサの手を掴んでしまう。
ソラちん、あんまり強く掴んだら照れちゃうよ!?あたしにはゴラゴラン様という推しが……
リサの話を聞いていないのか、周りを警戒しながら食堂を見渡すソラ。
「よし。」と何かを決め、すぐにテーブルに手をかけると……
なんと、テーブルクロスをクルクルと回し、
リサの体にドレスのように着せ、
冷蔵庫の中にあったイチゴとバナナをスキルで操ってテーブルクロスに飾り、
テーブルクロスでできた綺麗なドレスの出来上がり。
リサはあっという間に全裸から花嫁に早変わり。
予想外の展開にリサは戸惑いつつも嬉しさが増し、「うそ!?これがあたし!?やーだー!」とご満悦。
しかし。
えっやだ!これって駆け落ち!?
あたしまだ心の準備が……
ソラは動揺するリサをお構いなしにお姫様抱っこをしたまま、テーブルの奥にある大きな窓の方を向いて足のストレッチを始める。
いやあの、これって、え?
おーい、ソラちん?「プロポーズに空の旅をプレゼント〜」だなんて考えなくていいんだよ!?
ちょ、ちょっとソラちん待って!
タンマタンマ!ストップううううううう!!
降ろしてええええええええええええええ!!
位置についてよーい……パン!
と言わんばかりに、ストレッチを終えたソラは一気に走り出し、窓ガラスを割ってリサと共に大空へダイブ。
誰かエイプリルフールって言ってえええええええええええ!!!
悲鳴を上げながら落ちていく悲劇の花嫁。
リサ。
そして誰も居なくなった食堂に、その一部始終を見ていた者が……
チッ。逃したか。
こんな高さから落ちたんだ。
運良くゼルガが乗ってる小型飛行船に落ちて助かるなんて事は……
あるのかよ……
ゼルガの奴、もともとは空賊だぞ?
思いっきり船乗っ取られてるじゃねーか……
そういや名前が似てる奴がティブルエイドとかいう大陸にいて、海賊やってるらしいが……
親戚か?コラボか?
あぁそう?わざわざ通信機で教えてくれるなんて嬉しいじゃん。
じゃあもしかしてオレの名前もコラボか?コラボなのか?
【レックス】
まぁいいや!
メルーナちゃんが言ってた料理が作れる男ってのはアイツで間違いねぇ!
セクシャルレインボーの一流料理人、このレックス様から逃げられると思うなよ!!
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