30話 裏切りと陰謀渦巻くウメダからの脱出!Part.2
文字数 4,427文字
…………。
かつてグラリオさんが説明してくれたジョブカウンターに、
いつもみんなと話していたテーブルと椅子に、
綺麗な夕日が差し込む。
……3つ並んだテーブルの、1番はじっこ。
その真ん中の椅子がいつもオレが座っていた椅子。
隣にミノルと煌さんがいて、
反対側にはリリカちゃんとルルカちゃんとサキちゃんがいて。
最初は何もわからなくて、正直1人じゃ寂しかった。
でもミノルが来てくれて、煌さんやゴワスさん、ゴッツァンさんに会えて、
グラリオさんにいろいろ教わって、リリカちゃんやルルカちゃんと会えて、
たくさん笑って、たくさん泣いて、
本当にたくさんの思い出が詰まった、オレにとって大切な場所。
でも、ここにはもう誰もいない。
「男だらけの冒険者ギルド」で、「みんなに会える場所」だったこの場所にはもう、
戻れない。
****
ウメダ。冒険者ギルド。
ジャック一同は、来たるヴェイルノートの攻撃によるウメダへの被害を考え、町の住民に避難を呼びかけていた。
おいおい、いきなり避難って……一体何があったんだ?
ええと、もうすぐここに帝国がやって来るんです!ここは危ないので、”あの人”に着いて行って下さい!
うっふ〜ん❤︎
ヒミツのアイテムでアナタの体にマジックバリアをかけて……
うおお!?ツインテールでビキニ着たおっさんがオレに投げキッスしたああああ!?
バリアをかけたらすぐ町の入り口に走りなさい❤︎
秘密のアイテムでクラスタにワープできるようにしておいたから、あたしと一緒に大人しく避難……
おおジャック君!
今日は一段とツッコミが派手じゃないか!
ねぇねぇ!
「ツインテールでビキニ着たおっさん」ってジャックも言ってなかった?初めて会った時が懐かしいわねぇ〜❤︎
うん、素晴らしい!
いやぁ、ジャック君のツッコミは最高だなぁ!いつまでも聞いていたいよ!
っていうかなんでオレ達の世界の事知ってるんですか……
いやぁ、さすがグラちゃんだよなぁ〜。
最初は1人ずつ手分けして避難を呼びかけるって言うからヤヴェーと思ってたけど、みんなグラちゃんの名前を出した途端、すぐに避難してくれたぜ!
って事は、ルルカちゃんの方も上手くいってそうだね!
そう。
ジャック、ゴワス、ゴッツァン、グラリオ以外は一旦別行動。
確実に避難してもらうため、ジャックは東、煌は西、という風に手分けをしてウメダに住む全ての人々に呼びかけていた。
よしてくれ、煌君。
ヴェイルノートが想定の範囲外の行動を取った場合の対策だよ。
これだけ避難をさせておいて何も無かった、という可能性は十分にある。
後で町の皆に怒られるのが怖いよ。
これならロザリアちゃん、今頃避難させんの終わってるだろうな〜。
さっさとアイツを追い返して、元通りにしてやんねぇとなー!
そうだな。
ジャック君の見送りもしなくてはいけないし、すぐに帰ってもらおう!
「おーーー!」と笑顔になる煌とグラリオ。
そしてジャック。
しかしグラリオは、身も凍るような冷たい気配を感じていた。
(ジャック君を怖がらせてはいけない。笑顔のままでいよう。混乱を招いてしまってはチームワークが乱れ、思わぬ怪我に繋がってしまう。)
(しかし、なんだ……!?この気配、尋常ではないぞ……!本当に奴の気配なのか……!?)
その瞬間、グラリオは何かを感じ、目を大きく開けて動揺した。
巨大な化け物が狙いを定めるかのように、じっと見られているような感覚。
多くの生き物を殺し、多くの返り血を浴びたかのような生臭い死臭。
「自分は今、生きているのだろうか?」
「いや、もう死んでいるのだろうか?」
そんな自問自答を繰り返す程の殺気が、グラリオを襲う。
(た……耐えろ……!ジャック君と煌君が目の前にいるんだ……!)
あ、そーだ!
ロザリアちゃん、1人じゃ寂しいだろうし守りに行ってあげよう!
そして、人気のない路地に連れ込んで……
だはは!そうだったそうだった!勝手に人の決めセリフパクっちゃダメだよなー!んじゃオレ、ちょっと行ってくるわ!
よし、私達も行こうか。
ジャック君、避難を呼びかける前に話をしただろう?覚えているかい?
”あそこ”は君がここを旅立った後に行く場所。
この件が終われば向かうことになるが、万が一という事もある。一足先に見に行こう。
(よし。これで最悪の場合、すぐにジャック君を安全な所へ避難させられる。その時は見送る事もできず、ミノルちゃんもいない状態で旅立つ事になるが……やむを得ないな。)
(それにしても、この気配は一体何なんだ……!?煌君、ロザリアちゃん、皆無事でいてくれよ……!?)
****
ウメダ、北にある町の入り口。
「ようこそ」と書かれたアーチの下に、ゴワスのアイテムによって設置されたゲートがあった。
よし!今の男の子で最後ね!
リリカ、冒険者ギルドに戻るわよ!みんなもういるかもしれないわ!
それにしても、この町って東西南北4つの入り口があったなんて……。
ここに来るまでも結構歩いたけど、ほんと大きい町よね。ウメダって。
そうだ!ねぇ、おにーさんとバイバイしたら学園に戻ろうよ!
はぁ?あたしは戻れ……う”う”ん。
いい?あたしは学園を卒業した天才少女なのよ?そんなあたしが戻ったら、すぐにイケメンに囲まれちゃうに決まってるじゃない。
そうなったら学園どころかクロノス全体が大パニックになるでしょ?
そりゃみんなには会いたいけど、パニックになったら会えるものも会えなくなっちゃうわ。
じゃあじゃあ、えーとえーと、一緒にクロノスに帰って~、それから~……
ううん、なんでもない。
いい?1年経っても2年経っても、ずっとそのままでいなさい?
よし、じゃあとっとと戻りましょうか。
あたしはこのゲートを片付けてから戻るから、先に行っててくれる?
ルルカに元気よく手を振り、冒険者ギルドに向かって走り出すリリカ。
ルルカも手を振るが、ひらひらと元気がない。リリカの後ろ姿を見つめながら、寂しそうに小さな手を握り、俯いてしまった。
黙り込むルルカ。
町の住民はルルカとリリカがゲートに案内した。
今ここにいるのはルルカのみ。
避難先の場所に繋がるゲートに手を伸ばしても、誰にも見られる事はない。
つまり、今感じている恐怖から逃げるには目の前にあるゲートに手を伸ばすしかない。
ルルカは意を決し、震える手でゲートに手を伸ばす。
途端に聞こえた声。
それは少女の声ではなく、落ち着いた女性らしい声だった。
ルルカはすぐに辺りを見渡し、ゾンビを召喚しようと地面に魔法陣を出現させる。
すると、ゲートの後ろ……つまり、町の入り口の外の方から見覚えのある女性が現れた。
その瞬間、ルルカの召喚しようとしていたゾンビがサキに襲いかかる。
って、ちょっと脅かさないでよ!?ヤバい奴かと思って攻撃しちゃったじゃない!大丈夫!?
ルルカが召喚したゾンビは、サキの顔をめがけて飛び出す。
しかし、サキに当たる直前黒い球のようなものに当たり、バキバキッ ゴリッという音と共にゾンビの骨を粉砕。
そのおぞましい音とゾンビの断末魔を聞いたルルカは、思わず「え?」と声を漏らす。
それより私、ルルカちゃんに謝らなくちゃいけないことがあるの。聞いてくれるかしら?
あんた……今、何したの……!?
今の魔力、普通じゃない!!ねぇ、どういうこと!?
私は生まれつき魔力が少ない。
私の故郷、魔族の村は壊されて、ヴァーデルという男から逃げてきた。
それにルルカちゃんと会った時、トラップの魔法も簡単に破られた。
ウフフ……♪
どうしたの?怯えた顔して。こっちにおいで?ルルカちゃん……。
怪しい笑みを浮かべながら一歩ずつルルカに近付くサキ。
ルルカは必死に逃げようとするが、なぜか……
何がおかしいの……!?あんた、どうしちゃったのよ!!ねぇってば!!
ごめんなさいね、嘘をついてしまって。
私、”あの方”に気に入られちゃってね?びっくりしちゃったかなぁ?
嘘なんてそんなのどうでもいい!
あんたの魔力は普通じゃない!危険すぎる!!あの方って誰!?
途端に、突然現れたノノカにしがみつこうとするルルカ。
あはは!
安心して♪後でちゃんとヴァーデル様本人が来てくれるから♪
ほら、魔物を捕らえる時はまず弱らせるものでしょ?
間違って死んじゃわないように手加減してあ・げ・る❤
サキ!あんたどうしてヴァーデルって奴に気に入られてんのよ!?あいつはあんたの村を――
あら、やっとサキって呼んでくれたの?
嬉しいけど……そろそろ休んだらどうかしら?
知りたくなかった真実。
サキの嘘と力、ヴァーデルとの繋がり、そして裏切り。
ノノカの裏切り。
そして、恐怖で体が動かないルルカへ迷いもなく魔力を溜めるサキとノノカの姿。
ルルカは目に見える絶望と目に見えない絶望に青ざめ、
ふとリリカの手を振っていた姿を思い出す。
気が付けば涙が溢れ、体に力が入らない。
今まで信頼していた仲間に裏切られ、自分の命を狙い攻撃を仕掛けようとするサキとノノカの姿。
大好きと言ってくれたリリカに会うことも、グラリオや煌に危険を知らせること、見送りをしていないジャックにさよならを言うことも、全て叶わない。
ルルカは震える手を握りしめ、誰にも届かない小さな声で呟いた。
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