33話 裏切りと陰謀渦巻くウメダからの脱出!Part.5
文字数 6,088文字
ウメダ。
冒険者ギルド付近。
ルルカの強力な攻撃によって冒険者ギルドや民家が燃える中、ふらふらと歩く少女の姿があった。
それはリリカ。
ルルカに「先に行ってて」と言われたリリカは、あるはずの冒険者ギルドを探し、燃え盛る炎の中を彷徨っていた。
しかし、すでに火の手は町全体に広がり、リリカの体力と視界を奪ってゆく。
故に、リリカは気付かない。
自分のすぐ後ろに、親友であるルルカそっくりの少女が立っている事に。
またしても一瞬。
背後から聞こえた声に驚き、すぐに振り向くリリカ。
しかし強力な光線を避ける事ができず、グラリオと同じように飲み込まれ、町はさらに壊れていく。
狂ったように笑うルルカそっくりの少女。
その瞬間、軽い拍手の音が聞こえると……
音のした方向へ攻撃。
グラリオとルルカに放った時よりも巨大な光線を放ち、何度も「死ね」と叫ぶ。
しかし、強力な攻撃が来るのをわかっていたのか、拍手をした張本人は「やれやれ……」と呟き、目の前に手を出す。
すると、ヴェイルノートの前に黒いバリアが出現。
バリアよりも遥かに大きな光線に当たった瞬間、ルルカそっくりの少女に光線を跳ね返す。
光線は見事に命中。
轟音が鳴り響く中、ルルカそっくりの少女は悲鳴を上げると倒れてしまった。
その瞬間、光線に飲み込まれたはずのリリカがヴェイルノートに向かって魔法を放とうと現れた。
二度と外へ出る事などなかったはずの膨大な魔力、張り裂けそうな胸の痛み、小さな体が耐えられるはずがない。
「苦しそう」と思うのは当然の事。封じられた力を無理矢理引き出されたのです。この器はあまりにも小さすぎる。
ルルカの前に立ち、魔法を放とうと魔力を上げるリリカ。
震える手を前に出し、大きな炎の球を召喚。
ヴェイルノートから溢れだす膨大な魔力。
地面に巨大な魔法陣が現れ、蒼く光っている。
ルルカをぎゅっと抱きしめ、
笑顔のまま「怖くないよ、大丈夫。」と囁く。
リリカの涙が、ルルカの頬に落ちる。
両手を広げ、2つの黒い球を召喚するヴェイルノート。
2つの球を合わせると、リリカ、ルルカの周りに巨大な黒い空間が発生。
全てを破壊する黒い空間は、サッカーボールほどの大きさから次第に大きくなっていく。
そして……
ウメダの全てを飲み込むほどの大きさになった黒い空間は、轟音と共に爆発。
サキ、ロザリア、煌、ノノカ、グラリオ、そしてリリカ、ルルカの消息がわからないまま4つの入り口と町を囲む壁だけを残し、
冒険者ギルド、武器屋、酒場、金剛寺の湯、その全てを破壊。
今までウメダと呼んでいた場所には、巨大な穴が開いてしまった。
****
ウメダ。西の入り口。
ルルカの暴走による火事、そしてヴェイルノートによる巨大な黒い空間。
その一部始終を見てしまったジャックは、全速力でどこかへ走っていた。
語彙力を失ったジャックは、ただひたすらに走る。
なぜだろうか、こんなにも心臓の音が聞こえるのは。
なぜだろうか、生きた心地がしないのは。
皆が心配なだけではない。さらにまずい事が起きるのではないか。
「みんなと会えるのかな?」
「これからの旅はどうなるのかな?」
という気持ちなどどこかへ消え、一本道だったはずの道から外れ、一心不乱に走り、転びそうになっても走り、どこへ向かっているかわからなくなっても走る。
たとえ行く先が、絶対に近付いてはいけないと言われるダンジョンでも。
ようやく道を外れ、深い森の中に迷い込んだ事に気付いたジャック。
辺りを見渡すが、元の一本道に戻る方向もわからず、周りには誰もいない。
頭を抱え、混乱するジャック。
その時、いつかのようにザァァ…と風が鳴り、木が揺れ……
ええそうです。あなたの好きなロールプレイングゲームに例えるならば「状態異常」の一種、混乱。
キャラクターの操作はできず、味方であるはずのキャラクターを攻撃してしまったり、自分自身を傷つけてしまう事のある状態。
……はい、これでもう安心です。混乱状態を解きました。
そう言うと、ヴェイルノートはローブの中から小さな2つのクリスタルを出す。
その中身には、人形のような何かがうっすらと見える。
ヴェイルノートの持つクリスタルの中身。
そこには、傷だらけになったミノルと桃華が閉じ込められていた。
ヴェイルノートの言葉に動揺するジャック。
その時、ウメダの住民を避難させる前、冒険者ギルドでグラリオ達と作戦を練っていた時の事を思い出す。
『ジャック君。もし万が一、私達の誰かに何かがあって冒険者ギルドへ戻れなくなった時、ヴェイルノートと対峙した時は……町の外にあるウメダダンジョンへ向かってまっすぐ走ってくれ。
ただし、どんな敵が現れても絶対に戦ってはいけないぞ?』
【一同】
『おおおーーーーーー!!』
そう。
「ジャックは一切戦わず、ウメダダンジョンへ入ること」。
これがグラリオの考えた作戦。
1人困惑するジャックをよそに、
その場にいる全員がジャックのために戦う事、すぐに再会する事を決めて笑顔になった。
あぁそうそう。
ミノルさん、桃華さんの時も簡単でしたよ?彼女達は抵抗せず、「ジャックくんを殺さないで」と願っただけなのですから。
つまり、彼女達はあなたの代わりに犠牲となった……。
うむ、素晴らしい……。なんと素晴らしい友情なんでしょうか……。
ルルカさんは、ヴァーデルという最強の魔族によって無差別に人間を殺すだけの道具になってしまった。
ルルカさんは何倍もの力を手に入れ、グラリオ将軍はその犠牲となったのです。
残念ですが、私にも止められません。
どんな時も笑い、どんな時も人の気持ちを理解し、どんな時も優しかった。
その優しさから、ジャックやルルカ、多くの町の住民からの信頼も厚く、決して人に見せない涙もあった。
そして、相棒でありライバルであるゴラゴランとの強力な2人技をリリックにお見舞いし、周りの客を魅了する事もあった。
まさに「優しさと強さの象徴」と言っても過言ではない。
そんなグラリオの死を告げられ、正気でいられるはずがない。
「グラリオさんが死んだ……?」
「嘘だ!グラリオさんだけじゃない、みんな生きてる!」
「でもグラリオさんが来ない。ウメダは消えちゃった。もしかしたら……。」
そんな自問自答を繰り返すジャックの頭は限界に近付き、
ただ呆然と立ち尽くしたまま、現実を受け入れられないでいた。
そして同時に、あなたは私に「友達になりたい」と言った。
あの時私は驚き、嬉しかった……。悪名高いゲノン帝国の最高幹部、この私が誰かと友達になれるはずなどない。そう思っていた私に、あなたは手を差し伸べてくれた。
「あなただけは特別なんだ」と、そう理解した……。
しかし……
私が特別だと思ったのはジャックさん、あなただけ。
あなたにとってかけがえのない仲間であっても、私にとっては特別でも何でもない。
ゲームで例えるならば、仲間も顔のグラフィックも存在しない、ただの村人に過ぎないのです。