141話 潜在能力開花!?ジャックの新しい可能性!
文字数 4,893文字
前回のあらすじ。
ダクトを移動している最中、
建物内で騒がしい声を聞いて謎の部屋に移動したジャック達。
たどり着いたその部屋にあったものは大量の木箱。
その中身はなんと、臓器などの器官を壊して別のものに再構築する薬の入った瓶が。
これこそ獣人達が話していた「人間を蜘蛛の獣人に変える」物に違いない。
そんな中、フェリスがウルクの声を聞き、
コタローが勢いよく部屋の扉を開けると、そこには瓶を手に持ったウルクの姿が……。
ジャック達が動揺する中、
コタローはなぜアラネアに協力しているのか、
もう悪い事をするのはやめてほしいと訴える。
そしてその時、女性の悲鳴が……
その正体はなんと、涙目でこちらに向かって走ってくるアラネアととんでもない顔をしているドゥーンだった。
って、あれってドゥーンさん!??
何でここにいるの!?
そう、なぜドゥーンがアラネアを追いかけているのか。
数十分前、建物の外で囮になってコントをしていたはずが、まさかの黒幕であるアラネア本人と出会ってしまったドゥーンとパンザレス。
今まで何をしていたのか?
あんた達!
この変態どうにかしなさいよ!仲間でしょう!?
え、ええと……
そうだけど、どういう状況なんだろう、これ……?
今、変態って言わなかったかい?
そもそも囮作戦で外にいたはずなのにどうしてここにいるんだい?
あの女、どう見ても下半身だけ蜘蛛の体の獣人よね?
って事はアレがアラネアで間違いない……
じゃあ、囮になって気に入られようと変な事言って、キモすぎてアラネアが逃げ出してそれを追いかけたら建物に着いた、とか……?
……いやいやまさか〜!
そんな事あるわけないよ!うんうん!
君の綺麗な足にチューするんや!
逃げんとこっちおいでや姉ちゃん!!
ストップ・スパイダーガール!
ミーと永遠のチュウウウウウウウ!!!
通路の奥から全速力で逃げるアラネアと
それを追いかけるドゥーンの「まさかの話」。
2人のやりとりを見ていると本当にそうなんじゃ……と思ってしまう。
するとさらにそれを裏付けるように、
囮作戦を決行した変態の相棒がジャックの背後からニョキっと顔を出す。
うわぁ!?いきなり後ろから声かけないで下さいよ!?
どうやってんだい?
ちゃんと説明してもらおうじゃないか。
さもないと斬るよ?
ノーノー。これは作戦!
外で囮になって足止めする作戦の最終局面!
フィナーレってやつさ!
ノー!話を聞いてくれルルカちゃん!
そもそも囮になったのは手下を引きつけてる間に建物に潜入して親玉のアラネアちゃんを叩く作戦だったよね?
でもすでにボク達の作戦を知ってたアラネアちゃんはそこに狼少年を向かわせて、ドゥーンとボクは大ピンチ!
そうだ……!
アラネアから時間稼ぎをして足止めしておけと言われた……!
アラネアちゃんがボク達を始末しにやってきた。
その時彼女はこう言ったんだ。
『本当に用があるのはジャックの方だけど罠を用意しておいたから勝手に死ぬし、ヒマだから囮に引っかかってあげる!』
ジャックに用がある、ねぇ?
そんなに潜在能力を利用したいのかしら?
さすがルルカちゃん!いい所に気が付いたね!
でも彼女の目的は悪用したいわけじゃない。
深い悩みがあったんだ。
そうだ……!だから俺は協力している……!
ジャック、お前にはアラネアの願いを2つ叶えてもらうぞ……!
ボクも同じ気持ちさ。
アラネアちゃんの事情、それは……
パンザレスの話を聞いて静かにアラネアを見つめるジャック。
ドゥーンから必死に逃げ回るアラネアに声をかけようとする。
しかしその時、あらぬ顔で追いかけていたドゥーンの足に糸が付いて拘束されてしまった。
調子に乗りすぎなんじゃない!?
所詮ただの人間が、犬や狼の獣人よりも強い"蜘蛛の"私に敵うはずがないのよ!!
当然でしょう?
私を馬鹿にした罰を与えなくちゃいけないんだもの。
死ぬか新しい生き物に生まれ変わるか、どちらかを選びなさい!
悪いけど薬は飲まない!死ぬつもりもない!
アラネアちゃん、落ち着いてくれ!!
誰も君を馬鹿にしてなんかいない!
人間とか獣人とか蜘蛛とか、そんなの関係――
ドゥーンの言葉が届いていないのか、
アラネアはドゥーンの足に付けた糸を引っ張ってプロレス技のジャイアントスイングの要領でくるくると回し、勢いをつけて投げる。
あはは!
かわいそうに!今ので頭蓋骨が粉々になったわ!
私に逆らうからこうなるのよ!あはははは!
な、なぜ立てるんだ!?
服は汚れたようだが、傷1つついてないぞ!?
嘘よ!無傷なはずがない!!
もう一度頭から壁にぶつけてあげるわ!!
どう!?
さっきより勢いをつけてやったわ!!
今度こそ粉々に――
嘘よ……!
私は獣人の中でも強い戦力を持って生まれた種族!
牛や馬の獣人なら軽傷で済むことはあっても、ただの人間がまともに喰らったら重傷は免れない!!
どうなってるんだ……!?
どうしてドゥーンはなんともないんだ!!
(驚いたねぇ……思っていたより潜在能力の成長が早いじゃないか……ここまで開花するなんて思わなかったよ……)
私を見て笑うな!!
今まで私を馬鹿にしてきた奴と同じように殺してやる!!
あなたはそんな事望んでない。
ただ嫌われるのが嫌で、認めてほしかっただけ。
でも周りの人はみんな、
あなたの外見を気味悪がったり、必死にジョブレベルを上げて強くなったあなたを恐れて離れていったり、追い出そうとしたり、心ない人ばかり。
同じ獣人の人でさえもそうだった。
「蜘蛛だ」っていうただそれだけの理由で。
パンザレスさんに聞きました。
囮作戦の時、あなたは2人にこう聞いたんです。
『ねぇ、蜘蛛って素敵よね?
あなた達を殺すのは簡単だけど、どうしても生きたいっていうならとっておきの薬で変身させてあげてもいいわよ?』
その時2人は何て言いましたか?
あなたを嫌った人達みたいに笑いましたか?
蜘蛛って聞いて「気持ち悪い」って言いましたか?
『蜘蛛かぁ。
糸を飛ばしてピュンピュン飛べたら楽しそうだな!』
『せっかくの異世界だし、それもいいかも!でも殺すのは勘弁してくれよ!?』
だからあなたは2人に自分の過去を話した。
戦わずに、殺さずに、寂しそうに話した。
それで元気付けようとしたんでしょ。
変態みたいな顔して、好きとかかかわいいとか、君の綺麗な足にチューするとか。
それにしたってやりすぎだけどねぇ。
肝心の本人に伝わってなきゃ意味ないじゃないか?
あの薬、蜘蛛の獣人だからって馬鹿にする人を薬で同じ種族にするために作ったんですよね?
オレのクエストクロックをウルク君に盗ませたのもここに連れてくるため、ですよね?
でも大丈夫です。
オレは相手がどんな種族だろうと馬鹿にしたりしないし、ここにいるみんなも同じですっ!
そうだよ!
ジャック君とは友達だけど、人間とか獣人とかそんなの関係ないんだ!
おいちょっと待てよ〜!
ミーもお近付きになりたいんだ!
まったく、騒がしい男どもだねぇ……
アタシみたいなイイ女がいるってのにまた女を増やそうってのかい?
クエストクロックで友達登録した記念でデートしてやってもいいんだけどねぇ?
もう大丈夫!
オレ達はあなたをバカにしない!
友達になりたいんです!
(武器も持たず丸腰で笑ってる……?そんな事言われても信じられるわけない……!)
(それなのになぜ……?どうしてか信じたくなる……!何が起きているの!?)
(ジャックの潜在能力は味方の強化だけじゃない。相手が持つ負の気持ちを払う力が開花する事もある……)
(でも本人にはまだ伝えてない……つまりこれは能力に頼らず本心でアラネアと友達になろうとしている……!)
(こうして、ラトリア獣人街の騒動は解決。アラネアさんとの戦闘はなく、捕まっていた人も解放されて、クエストクロックも無事に戻ってきた。)
――えっ!?
オレがアップデートで好きな世界に変えられるスキルを持ってる!?
それは違いますよ!オレにはスキルはありません!
好きな世界に変える力もないし、オレの行動で誰かが変えてるだけなんです!
騙されたんだよ。
その男、シャカラカ・ベイベだろう?
つるてかの宿でブッ飛ばされた後、この町で会ったんだねぇ……
なるほど……
それで足止めついでに薬を飲ませるつもりだったんだね?
奴の目的はブラッドラバーからジャックを遠ざけるためか……
……まぁ、今回はジャックの成長が見れたから良しとするよ。
それより今はアラネアだね。これからどうするか……
気持ちはありがたいけど無謀すぎるわ。
もちろんラトリアから出ても行く宛なんてないし……
……アラネアさん。
オレにはスキルがない代わりに味方を強化する力があります。
少しでも危ないと思ったらすぐに連絡して下さい。
なるほど……
それで私の攻撃の時、人間が無傷で済んだのね……
(こりゃいつかグランドールとの全面戦争になりそうだねぇ……)
あっそうだ!
オレ達まだラトリアに来たばっかりだから、クエスト受けたりいろいろ観光したりして楽しみたいです!
だってまだシロナさんのミルクも飲んでないし、ウルク君ともお話してないんですよ?
ほらほら、早く行きましょう!
わかったわ。
そんなに強く手を引っ張らないで。
私だって女の子なんだから。
自分の過去を打ち明け、ドゥーン達に元気付けられたアラネア。
それはジャックやコタローも同じ気持ちで、彼女の心を救った。
4つのエリアからなる繁華街ラトリアのお話は、
まだ始まったばかりである。
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