136話 モーレツ!刺激的!たまんねー!ミルク売りのお姉ちゃん登場!
文字数 6,887文字
ここはアーリー街道。
グロウブリッジからまっすぐ伸びたこの道は、飲食店や服屋など、つるてかの宿の他にもあらゆる施設が並ぶ観光地。
なんと言ってもアーリー街道のコンセプトは
「田舎から都会へ。都会から田舎へ。」と思わせる道。
というのも、
グロウブリッジに近い方は田舎の風景で、道に沿って建てられた施設は温泉施設や小さな定食屋のような飲食店など、落ち着いたものが中心。
それと反対に、アーリー街道の奥はオシャレなカフェや服屋など、都会をイメージするような建物が並んでいて、観光客の数がとても多く、道幅も広くなっている。
そしてそんな中、
木でできた4人掛けのテーブルとイスを見つけて、たまたま売っていたアイスクリームを買って食べていたジャック。
ドゥーン、パンザレス、ハル、ルルカもそれぞれ好きなものを買いに行っていた最中「美味しそうだなぁ……」と言いながら尻尾を振っている少年が……。
僕も食べたいなっ!
ねぇねぇ、何の味?美味しい?どこに売ってたの?
彼の名前はコタロー。
農場のストックリバディー出身の少年。
犬の獣人らしく暑さに弱いのか、数分前からジャックが食べているアイスクリームを羨ましそうに見つめていた。
オレはストロベリーにしたんだ!
コタロー君の分はルルカちゃんが持ってきてくれるはずだよ!
そんなに怒ってどうしたの?
もしかしてお腹痛いの?それとも熱があるの?
うわお生返事。
そういえば、コタロー……だっけ?
冒険者って事はクエストクロックを持ってるんだよな?魔物とかちゃんと倒せるのか?
もちろんさ!
ラトリアのビースト街でもいろんなクエストをクリアして、報酬もたくさん貰ったんだから!
ふぅ、ただいまっと。
どこも混んでて買うのに時間かかったよ。
それで、そのビースト街ってどんな所なんだ?
闘技場とか学校とかあるよ!
牛のお姉さんとか、ニャルシーっていうネコの種族もいるんだー!
ビーストっていうのは獣人のことみたい。
ハルが言ってたわ。
ニャルシーなら会った事あるよ!
ナナちゃんっていう破天荒ガールでね、結衣ちゃんっていう純粋でかわいい女の子もいたなぁ!
なんかジャックって女の子に囲まれてるイメージあるよなぁ〜?ずるいよなぁ〜?
そ、そんな事ないよ!?
今まで会った人は男の人も女の子もいるし、種族だってバラバラだよ!?
新番組!ごちゃエピ!!
男も女も種族だってバラバラの異世界に来ちゃった!
こりゃもう女の子だけのパーティを組んで種族を超えたハーレムを作り上げるしかないっ!
みんな、せいぜい見て羨ましがってね〜!
キャッチコピーは「あ、男はノーセンキューだから。」
♪ぼーくめつ!ぼーくめつ!ハーレムっ撲滅っ委員会っ!
なんかルルカちゃんと対決する流れになってる!?
勝てるわけないじゃないかーーー!
誰が救世主だい?
まったく、緊張感が無いというか何というか……
アンタ、今の状況分かってんのかい?
ブラッド・ラバーだよ。
大文字タケルがブッ飛ばした男と一緒にいただろう?
ええと、スナックのママみたいな格好した奴?
確かバラを咥えてたけど落として……
あれは忘却の化身だよ。
大昔、封印される前はジルベスタにしつこく付き纏っていたストーカーでね、邪魔者をことごとく殺していった男なのさ。
悪いやつって事だよね!?
ラトリアに被害が出る前にやっつけちゃおうよ!
そうだな!
何も悩む事なんてないじゃん!
ミー達でとどめを刺してやろうぜ!
……戦う意思はあるようだね。
いいだろう、それならこうしようか。
ギャラララ・ラルルがあの場から逃げ出したのはブラッド・ラバーの力で温泉が壊れると思ったから。
奴は無類の温泉好きでね、薔薇が落ちた事で恐れている事態になるのを避けた結果、タケルに投げ飛ばされたと考えていい。
そしてラトリアにもあるはずだ。
ビースト街にも、他のエリアにも。
それならもしラトリアまで飛ばされて建物に激突しても、暴れるのは避けるはず……
そうなればギャラララ・ラルルが出て行く可能性がある。
つまり、ラトリアに着いても探す必要はない……
ただし、万が一どこかに潜んでいるなら、すぐに潜在能力を使って住民を守る。
ジャックの力は少しずつ成長してるはず。
久しぶりに会った仲間に感謝するんだね。
……分かりました!
潜在能力を使って戦います!
どこまで強くなったのか見てて下さいっ!
よし、じゃあこれからの行動が決まったところで行きますか!
ジャックの潜在能力の効果は
味方の身体能力を強化すること。
けれどジャックができる事はこれだけではなく、今はファントムといったジョブになっているので自分も戦うこともできるし守ることもできる。
もちろんラトリアの中の冒険者ギルドでジョブを変えてみるのもいいかもしれない。
コタローを加えた6人は、
アーリー街道をまっすぐ進み、やがて遠くに見える賑やかな都市に期待を膨らませる。
ところでコタロー君、一度ラトリアの冒険者ギルドに行ってたんだよね?
じゃあ戻る感じになるの?
そうだね!
実はお風呂に入る前に、クエストクロックが落ちててね。
友達の名前が書いてあったから届けてあげようと思って!
うん!
でもその友達がクエストクロックを持ってるなんて知らなくてね!
せっかくだから冒険者祝いをしたいなって思ったんだ!
ふふっ!楽しみだなぁ!
会う前にプレゼントも買わなきゃ!
いいねぇ!やっちゃいますか!
よし、ラトリアまで競走だ!!
というわけで、一行が目指すのはビースト街。
獣人達が日々生活するエリアで、どのような出会いが待っているのか?
****
一方、ここはたくさんの人で賑わう商店街。
言うならば観光客にとっての人気スポットで、
飲食店や野菜、肉、魚などが売っている小売店、本屋、服屋などが建ち並んでいて、床もオシャレなタイルが敷き詰められている。
しかしそんな中、
よほど嫌な事があったのか、何も食べていないのか、ふらふらと歩く女性がいた。
どうしよう〜……
ミルク、結局ひとつも売れないんだもの……
へなへな、すとん。
商店街の中央に設置された木製のベンチを見つけると、力弱く歩いて腰を下ろす。
ついでにストックリバディーの絵が書かれた大きな牛乳箱を床に置いて「ふぅ……」とため息。
すると彼女の秘密である、恥ずかしい"癖"が出てしまう。
神様、かわいそうな私を見捨てないで下さいっ!
美味しいミルクをいろんな人に飲んでほしいだけなんですっ!
あぁ、なんてかわいそうな私……
これからどうなってしまうのかしら……?
きっと悪〜い人間さんに声をかけられて……!
あぁん!ダメ!
確かに私は牛さんの獣人だけど、本物の牛さんじゃないから胸からミルクは出ないのぉ〜!
きゃーーーーっ!
私ったらなんてハレンチな妄想をしてるの!?
誰かに聞かれてたらどうしよう〜〜〜っ!
そう、この女性は牛の獣人。
不安になったり辛くなったりすると、なんとも刺激的な妄想癖があるちょっと変わった性格。
スタイルも良く大きなサイズの服を着ているのにハミ出しそうな胸、大きなお尻、ぷにぷにほっぺ。
そのため「ストックリバディーってあんな女の子がいっぱいいるの?」と、道行く男からあらぬ誤解を招いてしまう事も少なくない。
さてと、気を取り直してもう少し頑張ってみようかな♪
男に鼻血を出させておいて何事も無かったかのように立ち去る……だと……!?
今までに100人以上の男を刺激したという彼女。
鼻血を出した男達はこう言い残し、ガクッと気絶するという。
毎日の生活雑貨から冒険に必要なものまで"出るかもしれないし出ないかもしれない"。
今日の運を試したいあなたも珍しい掘り出し物をお探しのあなたも寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
ラトリア商店街の福引き!
冒険者だってオシャレしたい。
冒険よりファッションを大切にしたいあなたをセクシー美容師が全力でサポート。
冒険者専門の美容室!
異世界人の文化を完全再現!
お気に入りのメイドとツーショットを撮れるチェキやオムライスなど定番メニュー楽しめちゃいます!
ラトリアのメイド喫茶1号店!
よし行こう!今すぐ行こう!!
きゃわわなメイドちゃんが待ってるぞーー!!
ったりめーよ少年!
萌え〜なメイドちゃんが弾ける笑顔でお出迎えしてくれたり、一緒にゲームしたり、ステージで踊るライブショーなんかもあるんだぜ?
しかも、一言でメイド喫茶って言っても妹系、男装、ネコ、アイドル、巫女さん、魔女、スパイとかのもコンセプトによって違いがあってな?
普通のメイド喫茶なら「おかえりなさいませ、ご主人様」だけど妹系なら「おかえり!」みたいに、定番の挨拶も変わるんだ!
すごいなぁ……!
スパイだったら先輩のエージェントとミッションを受けたりするのかな!?
よし!
こうなったらこのメイド喫茶を知り尽くしたミーがここの1号店とやらを辛口で採点してやろう!!
ジャック、特別に連れてって――
ここに着いたのはそんな事をするためだったかな〜?
ねぇ〜あたしに教えてくれる〜?
ヒィィィ!?
ラトリアに着いて早々、命の危機だあああ〜!?
7人が着いたのはラトリアの玄関口と言われる「セントラルエリア」。
冒険、武器、魔法というより東京の秋葉原や渋谷がイメージに近い都会のような街並み。
ドゥーンはセントラルエリアの入り口に置いてあった観光客用のパンフレットを読んでいた。
それにしてもすごいよなぁ〜!
天井はアーチみたいに丸くなってて雨降っても大丈夫だし、ミー達が普段見るような店ばっかりだし、まるでショッピングモールだよ!
確かに周りの人も剣とか持ってる人より、家族連れとかカップルとか普通の人が多いなぁ……
……やぁ。
メイド喫茶1号店ってのはここかい?
ミーは通りすがりのご主人様さ。ドヤッ。
ドゥーンさんが精一杯のドヤ顔でビラ配りしてるメイドさんに話しかけてる!??
きゃはははは!
今宵の生贄が決まったわ〜!
あのメイド喫茶ごとブッ潰してあげる〜〜〜!
ふぅ……
今のところは特に騒ぎもないし、大丈夫みたいだね……
いろんな匂いがするから、何の匂いかな〜って想像してたんだ!
人間が使う香水だけはどうしても慣れないけど!
っていうか、ビースト街ってどうやって行くのよ?
さっきから同じような景色ばっかりなんだけど?
それなら大丈夫!
このセントラルエリアの床には3つのエリアに行く魔法陣がいろんな所にあって、上に立つ事で行き来できるようになってるんだ!
うん!
どこかに丸い模様が書いてあるはずだよ!
その前にプレゼント買わなきゃだけど!
だって!まだ子供だぞ!?
それなのにミルクだなんて!!
あーあーいいなー!
ミーだって優しいお姉ちゃんのボインを吸いたいよ!
んなッ!?ジャックが裏切ったあああ!?
ちょっと待ってくれよおおお!
男なら分かるだろおおおおお?
そーだそーだ!
っていうかその目、コラボしたブラウンを見つめた時のやつじゃんか!
ドゥーンとパンザレスを冷たい目で見つめるジャック。
そんな3人をよそに、コタローは匂いの元を辿ろうと周りをキョロキョロ見渡す。
すると、またもやミルクが売れなかったのか、ベンチに座って絶賛妄想中の女性の姿が……
何だって!?
ブラッド・ラバーの奴、よりによってこんな街中で暴れようってのかい!?
あぁん!ダメです!
そんなに激しくされたら、どうにかなっちゃいます!
こんなの初めて〜〜〜!
……はっ!
いくらミルクが売れずにクエストを受けてくれる人もいないからって、私ったらまた恥ずかしい事を……!
いやんっ!
腰をくねくねと動かして、服の上からでも分かるくらいの大きな胸を揺らし、色っぽい声を出す彼女にドゥーンとパンザレスは「下心丸出し大興奮」。
代わりに、ルルカはまるでゴミでも見るかのような目付きに変わりだす……。
はいミールーク!ミールーク!
ミールーク!ミールーク!
あそれミールーク!ミールーク!
もいっちょミールーク!ミールーク!
紹介するね!
このお姉ちゃんはストックリバディーからいろんな町にミルクを売りに行ってる、牛の――
コタローの耳元で何者かが呟いた途端に強風が吹き荒れ、近くの店で売っていた野菜や本、さらにはジャックとコタローが持っていたクエストクロックが一瞬で無くなってしまい……
なんと、牛乳箱が真っ二つに斬れて
中にあったミルクの瓶が割れてしまった。
バカだね動くんじゃないよ!
手足が切れてもいいのかい!?
あれ?
ジャック、クエストクロックがないぞ?
どこかに落としたのか?
どうしよう!
僕が温泉で拾ったクエストクロックも無くなってるよ!
あたし達だけじゃないみたい。
周りの物も消えてるわ。
さっき風が吹いた時、すごい速さで動いてる男の子を見たんだ。
体が黄色に光ってた……
それならファントムのスキルだね……
一定時間自分の歩く速さを上げて、相手に気付かれないようにする効果があるのさ……
でも、ジャックもファントムだったから一瞬でもその姿を見る事ができたんだね。
やるじゃないか。
よし!それなら捕まえようぜ!
ジャックがいれば追いかけられるかもしれないだろ!
とりあえず大丈夫みたいだね。
追いかけるなら一度落ち着いてからにしよう!
この人は冒険者のジャック君!
優しい人間で、僕の友達だよ!
あら、コタロー君のお友達なの?
じゃあ私も自己紹介しなくっちゃね!
【シロナ】
私はストックリバディーのスタッフ、シロナです♪
牛の獣人で、ミルクを売りに来たの♪
ジャック君、よろしくね♪
よっしゃ!
じゃあジャックとコタローの持ち物を盗んだ奴を捕まえに行くぞ!
ラトリア中探せば絶対見つかるはず!
まずは情報取集だ!行くぞーーー!
かくして、突然盗まれたクエストクロックを取り返すためラトリア中を捜索する事になったジャック達。
そんな中、友達との記憶の中に思い当たる人物がいるのか、ひどく混乱しているコタロー。
そして遠くの物陰からこちらを見つめる少年が……
さっきの声……
ふわっと感じた懐かしい匂い……
もしかして……!もしかして……!
【????】
人間なんかと一緒にいやがって……!
俺を捕まえられるもんならやってみろ……!
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