128話 水汲みバンジーと新たなる緊急事態!?
文字数 5,281文字
でっかい橋から一気に飛んで!
綺麗な川の水をチョコっともらっちゃえ!
その名も!
グロウブリッジの真ん中で!
バンジージャンプして水を汲むぞ大作戦〜〜〜!!!
ここはグロウブリッジのすぐ真下にある飛び込み台で、観光客がバンジージャンプを楽しむ場所。
橋の左右に見える森をバックに笑顔で叫ぶジャックに、クラーチェが安全帯を装着。
その間にドゥーンとパンザレスも加わった会話を始める。
水を汲むってマジ!?
バンジーついでに川の水を頂いちゃうってそれ……
何で嬉しそうなんだよ〜!
ジャック、今からでもまだ間に合うぞ!
引き返すなら今のうちだーーー!
まずは深呼吸して自然と一体化。
自分を鳥と思い込む。
さぁ、準備できたわよ!
特別にステラフォールの水を分けてあげるんだからありがたく思いなさい!
まったくもう、今までのお客さんの中でもあなたみたいな人初めてでびっくりしてるんだから!
まるで「アウトー!」と言うように鳥のように手をバタバタと動かすジャック。
その勢いを利用して飛び込み台の前に立ち、一気に……
あっあっあっ……!
飛んだああああああああああああ!!!
高さ120メートルを超えるグロウブリッジからダイブ。
ジャックの「コケーッ!」という声に反応したのか大きな鳥が大空を飛びながらこちらを見ている。
これはクラーチェが安全帯を付けた時にジャックの頭にスマホを固定するベルトを付けた事で撮影成功。
しかしそれも一瞬で、
大自然の景色が高速でスライドしていく。
そのまま一気に川の水面ギリギリまで落下して、背中の樽から伸びたチューブを手に持つ。
するとチューブから勢いよく水が吸い寄せられて……
キュポン!
勝手にチューブが樽の中に入ってしまい、謎の機械音とアナウンスが聞こえる。
識別完了!
クエストクリアを確認!おめでとうゴザイマス!
そう。
この樽は普通の樽ではなく、中に入れる水に近付くと自動的にチューブから吸い取る仕組み。
そして中身を識別するというもの。
念願のクエストクリアを果たしたジャックは思わず両手を広げて叫ぶ。
その後ぐいーっと体を引っ張られながら周りの景色を実況。
しかし……?
ゴムのように伸びたり引っ張られたりする状況が楽しいのと、想像以上に景色が綺麗で壮大な事で語彙力がポーンと消えてしまう。
けれど「楽しい」と叫んだのは素直な感想。
どんな景色を見たか言いたかった気持ちを飛び越えてしまった本音。
ジャックはロープを引き上げてもらうまで、目の前の絶景をしっかりと目に焼き付けた……。
****
ジャックがクエストをクリアしてからさらに時間が経って、時刻は午前8時。
いろはと再会した3人は茶屋のおだんごをご馳走になっている途中、クエストクロックにメッセージが送られてきて困惑していた……。
すぐにジョビデに戻ってきな!
大変な事になったよ!助けておくれ!
嫌だあああああ!
もっといろはちゃんと一緒にいるんだあああ!
元気になって良かったですけど、もうお別れなんですね……
うーん……
私達としてはいくらでも居てくれて構わないけど、人に呼ばれているのに止めるわけには……
ミーはここに残る!!
ジャックが行けばいいじゃん!!
こら。
ジャックが困ってるわよ?
あなたも一緒に行ってあげなさい?
先輩、戻りますよ。
女の子ならルルカちゃんとハルさんがいるじゃないですか?
女の子を困らせてどうする!
さっさと行くぞドゥーン!
それじゃあここでお別れのようだね。
ジャック君、ドゥーン君、パンザレス君、
アーリーナイト城を守ってくれてどうもありがとう!
この恩は決して忘れないぞ。
そして同時に、怪我をさせてしまって申し訳ない。
もし許してくれるなら、またここに来てくれると嬉しい。
何言ってるんですか!
ジルベスタの旦那は命の恩人です!
ボクは悔しいです!
誰かの力を借りないで自分の力で勝ちたい!
もっと強くなりたいって思ったんです!
ふふ♪
私はパンザレス君に守られたんだけど、忘れちゃったの?
とってもかっこよかったわよ?
ドゥーンさんもかっこよかったです!
またいつでも遊びに来て下さいねっ!
自信を持ってくれ。
君の潜在能力のおかげで被害を最小限に抑えられたんだ。
あ、そうそう!
アルクと戦った時、なぜか体が軽くてさ!
初めての戦闘なのに攻撃を避けてたんだよ!
あれってジャックのおかげなんだろ?
でもオレ、途中から記憶が無くて……
気付いた時にはベッドで寝てて……
まだ自分の潜在能力が信じられなくて下を向いてしまうジャック。
地下牢で「守りたい」と呟きながら眠っていたのは知る由もなく、それを知っているのは謎の声だけ。
ましてそのおかげでドゥーンが避けられたのも同じ。
するとジルベスタは、
何か思い当たる節があるのか、
不安そうな顔をして口を開く。
ジャック君を狙う者の仕業……
その可能性は充分にある。気をつけてほしい。
それってもしかして、アルクみたいにジャックの力を狙ってる奴が他にもいるって事か!?
……あぁ。
さっきメッセージを送ってきた星乃ハルというお婆さんからこんな話を聞いてね……
『味方を強化する力?
という事はドゥーン君の動きは……』
『と言ってもまだ不安定だから短時間しか効果はないし、身体能力を上げられる人数も1人ずつだよ。
それに……』
『欠点、というと……
ジャック君の力を奪おうとする者がいる?』
『それは当たり前さね。
じゃあ聞くよ。味方って誰にとっての味方だと思う?』
――待てよ!?
ジャックにとっての味方を強くするって事は……
ジャック君が「仲間」だと思った相手なら誰でも強くできる。
たとえアルクでもゲノン帝国の幹部でも。
ジャック君。本当に気をつけてくれ。
君はあのヴェイルノートに「友達になれる」と言うくらいの優しい心の持ち主だと聞いている。
ゲノン帝国の最高幹部ですよね?
どうしてそんな人に友達だなんて……
そう。ジルベスタが心配しているのはジャックの潜在能力の対象。
「優しすぎる」と聞いて驚いたけれど、同じように周りから言われている自分と重ねていた。
優しいからと騙されたり、利用されたりするのはよくある話。
ジルベスタ自身も子供の頃に辛い想いをした事があって、それでも考え方を変えなかった。
そしてその先で、命を落とした。
もしかしたら、
いつかジャックも命を落とすかもしれない。
それだけでも避けたいけれど、他にも不安はある。
それと、アルクについてわかった事がある。
グランドール騎士団の服には現在位置を知らせる発信機が付いていた。
そしてアルク本人は眠ったまま……
という事は、これから先アルクの仲間のグランドール騎士団が襲ってくるかもしれない。
もちろん私達は城を守るためさらに鍛錬を強化するつもりだ。
君達も気をつけてほしい。
冗談じゃないぞ!
あんなに強い奴がまだまだいるってのか!?
そんなの嫌だぞ!!
誰かに襲われるからってビクビクしたくない!!
もっと異世界を楽しみたいじゃないか!
何言ってんだよ!
怖くてしょうがないよ!
いつからダークファンタジーになったんだよ〜!
パンザレスさんの言う通りですよ!
メタ発言をする元気があるなら大丈夫!
生きるか死ぬか怖がってたって仕方ないです!
オレ達なら乗り越えられます!!
ジルベスタさん、いろいろ教えてくれてありがとうございました!!
この世界をいっぱい楽しんできます!!
あぁ!行っておいで!
東の大陸の各地にいるアーリー騎士団の団員に力を貸すように言っておくから、いつでも声をかけてみてくれ!必ず君の役に立つだろう!!
ドゥーンさん、パンザレスさん!
行きましょう!次のクエストが待ってますよ!
くそー!
こうなったら行き当たりばったりでも進んでやる!
いろはちゃん、元気でな!!
クラーチェちゃん!
あんまりお土産食べ過ぎないようにね!
太っちゃうぞ〜
ジャックの不安定な潜在能力と欠点。
グランドール騎士団に襲われる可能性。
それら全てを跳ね返すように、茶屋から勢いよく飛び出す3人。
ジャックは元気よくジャンプして、ジルベスタに別れを告げる。
そしてそのまま振り向かず、ジョビデへと走り出す。
おだんご、ちゃんと残さず食べてくれましたよ?優しい人達ですよね♪
正直、不安で押し潰されてしまうと思っていたが、その心配は要らなかったようだ!
これからの無事を祈るため。
守ってくれた事の感謝のため。
脅威に対して恐れない心への敬意を表して一列に並ぶジルベスタ、クラーチェ、いろは。
ジャック、ドゥーン、パンザレスは元来た道をまっすぐ走っている。
もう遠くにいて、後ろ姿がどんどん小さくなっているけれどそのまま敬礼を続ける。
いつか再会できるその時を祈って……。
あああああああ!イライラするよ!
ジャックは何をやってんだい!
まだ帰って来ないつもりかい!?
このアタシのメッセージを無視したらどうなるか思い知らせてやろうか!?
一方、ここはジャンキラーのいる酒場、ジョビデ。
星乃ハル、ルルカは2階でバスタイムや睡眠をとっていたはずが、訳あって「超」がつくほどの緊急事態。
と言っても早速グランドール騎士団に襲われたわけではなく、ジャックに用がある誰かが来たわけでもない。
実は、次なるクエストに挑戦する事すら許されないトラブルが起きていた。
ひっ!もうやめてくれええええ!店がめちゃくちゃだよ!
倒したテーブルと壊した椅子。
それから使い物にならなくなった冷蔵庫とその中身。
も、もう少し待ってくれないかい!?
あと5分!いやあと3分!!
被害総額70万リエル。
そっくりそのまま払ってもらうまで……
ハルの顔面に請求書をバン!と張り付けるジャンキラー。
そう、緊急事態のその内容とは金銭トラブル。
その原因となったのは決して飲んではいけない10才児。
人呼んで「クロノスの酔いどれガール」。
そして今、何も知らずにジョビデの店の前に着いたジャック達が……。
もう、まだ言ってるんですか?
ほら、ルルカちゃんとハルさんが待ってますよ!
クエストの報酬を貰って次へゴーゴー!
ボクも付いていくぞ!
せーの!で元気よく入ろうじゃないか!
あ、それなら笑わせてみるのはどうかな?
例えば変顔でもして……
ん?今店の中から声がしたような?
やけにかわいいなぁ……
ブッチュウウウウ!
私はジャミ子よ〜!チューしまちょ〜〜〜!
チュー!チューしよチュー!!
待ってたんだよダーリン!
(なっなんだろう……この柔らかい感触……甘い匂いがして……とっても……とっても……!)
突然の出来事に驚くも、体のどこかに感じる感触を味わうジャック。
こうなる直前、目の前から何かが飛び込んできて思わず目を閉じてしまった。
そして後ろから聞こえるのは、震える声の男2人……
何だかわかんないけど!
とっても気持ちいい〜〜〜!!
その時、クシャクシャになった請求書を持ったジャンキラーが忍び寄る……
ほへ?
あれ、ジャンキラーさんが2人に見えるぅ……
フラフラするぅ……
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