176話 ヴァーデルの爪痕とヴェルグの怒り!
文字数 6,103文字
3本のロープを四方に張り巡らせたリング。
その上に立つ上半身裸の2人の男は血まみれで、意識も薄くフラフラと歩くばかり。
それを取り囲むように設置された観客席からは非道な言葉が飛び交う。
するとそんな中、謎のBGMがかかり、リングの中央がライトアップ。
観客は歓声を上げて、
元気がある声とは違う、男達の低い声によるコールはまるで唸り声のよう。
今、この会場の盛り上がりは最高潮。
ただ、物陰に隠れる1人の男を除いて――。
****
ラトリア。
ブラックエリア。ゲート前。
ジャック達はゴラゴラン、グラリオ、タケルが公開処刑の危機に陥っている事、自分達はそれを止めようとウメダに向かっている事をセリカに説明。
それを聞いたセリカは今回起きた事も含めて報告するため、腕に付けた時計のような物を操作。
目の前にミニサイズで半透明になった女性の姿が現れた。
――なるほど。
彼らの行方は分かったし、君達の行動の目的も分かったわ。
セリカちゃんのランブルク騎士団も、私達のクラウディア連合軍も協力するから、
この先でメンバーの誰かに会ったら遠慮なく頼ってね。
おいおい、めちゃくちゃ怒ってねーか!?
このねーちゃん!!
あれ?この人、見た事あるような?
確か星乃未来ちゃんと同じアイドルで、
人間ではなく「プラント」の女性……ですよね?
異世界人に分かりやすく説明するなら、
「擬人化した植物」って言えば良いかな?
まぁ、いろんな種族が居るからなぁ。
スパ・ラトリアで集まったジャックの仲間で言うと人間、獣人、女神、スライムくらいだけど、世の中には珍しい奴も居るもんさ。
なるほど、確かにそうだね。
あと会った事があるのはサキュバスとマギアドールと鬼と……
えーと……
ディアスを忘れてもらっちゃ困るけどな!
まぁ俺と親父だけだろうけど!
えっ!??
どういう意味だ!?ねーちゃん、何者だよ!?
【サンダーソニア】
表向きはプラントのギルドマスター兼、歌って踊れるアイドル。
裏ではクラウディア連合軍、七番隊隊長。
サンダーソニアよ。
簡単に言うとその人がもともとやっている事を越えて集まったグループみたいなものだよ。
名前の由来は連合を立ち上げた人の名前から来てるんだ。
なるほど。
で、その中に俺と同じディアスがいると?
もしかしてそいつも隊長だったりするのか?
そう。一応四番隊の隊長でね。
お調子者で女好きでナンパ癖があって、
すぐお金使うから貸して貸してってうるさいし、
私が連合に入ってる事は秘密にしてあるのに、ライブで「七番隊最高!」って叫んだり……
人に何かを相談されたらすぐ「大丈夫だ!筋肉は全てを解決する!」とか言って、ギャラクシーになってどっか行っちゃうし……
料理、洗濯、子供の相手は得意で、
明るくて、話しやすいところ……くらいかな?
もともとギルドマスターをやってたらしいけど、その時どうだったかは知らないんだ。
もしかしたら今より変な人だったのかも。
何でだよ!
どう考えても俺とは大違いだろ、そいつは!!
こっちはディアスの王子様なんだぞ!?
普通だ、普通!!
とにかく、アイツが居ないなら仕方ないわ。
バベルも居なくなって一応ゲートは通れるようになったし、あなた達はこの先に進んで、"ここ"に来てちょうだい。
くれぐれもメテオヴァラスには気を付けてね。
はい!
要塞に寄って、その後あなたが今居る忍びの里に向かいます!
いや、1人用の転移魔法陣を使って戻っておいで。
ジャック君達には先に出発してもらって、
セリカちゃんは「エディ」を見つけて、後から要塞に向かうよう伝えてくれればいいから。
クラウディア連合、四番隊隊長の筋肉バカよ。
さっき話した"アイツ"、巨乳好きのディアスの変態野郎。
だから俺じゃねーよ!!同じディアスだからって一緒にすんな!!
あ、そうそう。
言い忘れてたけど要塞で待ち構えてるメテオヴァラスも君と同じディアスだから。
まぁ!という事は3人ともディアスなんですね!
ヴェルグさん、エディさん、メテオヴァラスさん!!
はあああああああああああああああああああああああああああ!??
……ふぅ。
誰も欠けずに無事にラトリアを出れて良かった。
さてと、あの変態……エディさんを探さないと。
イヤだなぁ〜。すぐ胸をジロジロ見てくるんだから……
……ま、まぁ、ここはブラックエリアだし?
彼女達が胸を出して外を歩いているのは今さらだし?
まだ慣れないけど、これが当たり前――
もう、お金無いんでしょう?
また来た時にたくさん堪能していいから、我慢して❤︎
【エディ/クラウディア連合軍四番隊隊長】
じゃ、何か困った事があったらいつでも呼んでね❤︎
このエディ様が筋肉でぜ〜〜〜んぶ解決しちゃうからぁ❤︎
****
セントラルエリアのゲートはアーリー街道に続いていて、ジャック達が最初にラトリアに入ったルート。
ビーストエリアのゲートはピットセレブに続いていて、ドゥーン、パンザレス、ハル、ルルカ、ラズリーが通り、
マジックエリアのゲートは通っておらずどこに続いているのか不明。
そして今、ジャック達が通ったのはブラックエリアのゲート。
続く先は要塞と忍びの里しか分からないけれど、どんな道があってどんな景色があるのだろうか。
最初は何もないただの一本道で寂しいところだな〜と思ってたけど……
周りにあるのこれ全部……!!
墓じゃねぇかあああああああああああああああああああああ!!!
まさに一生忘れられない道だね!!
思い出の一枚、撮っていい!?
やめとけ不謹慎ヤロー!!!
映るぞ!いろいろヤバいのが!!
わぁすごい!
子ども達にも人気の観光スポットなんでしょうか?
よく見たらヴェルグさんの隣に小さい男の子がいますよ~!
そんなわけあるか!
ゲートの前にこんなのあったらビックリして泣くわ普通!!
つーかお前、見えてるだろ!?
長男と次男じゃないし無理だよ。
ブッ飛ばすぞコラ!!!
兄弟じゃねぇし、3番目だからって残念そうな顔すんな!!
ヴェルグのどうでもいいツッコミは置いておいて、
ゲートを越えた先は一本道がまっすぐ続いていて、その周りを何基もの墓石が一定間隔を空けて建てられている状態。
ただ風化してしまっていたり、欠けていたりと管理されているようには思えない。
大丈夫なのかよ、これ?
ずっと放置されたままこの状態だったらまずいんじゃ……
いや、誰かがいるはずだよ。
このお墓はとある人の犠牲になった人が眠ってて、その関係者が夜な夜な見回りをしてるらしいんだ。
ただ、あまりにも墓石が足りなくて全員分は無理みたい。
オイオイ……
墓も充分怖いけどその見回りしてる奴の方も怖いな……
でも何でそんな事分かるんだ?
スパ・ラトリアの宴会場でアルテミアさんに教えてもらったんだ。
まさかここの事だったとはね……
それってあのセクシャルレインボーのスタッフだろ!?
本当は魔界の城で毒の研究をしてたっていう……
どうやらオレがまだグラスオーヴィに居た時(第2章)の事らしいんだけど……
この辺りには村もあって、この道もかつてはアーリー街道みたいにいろんなお店が建ってたらしいんだ。
でもある夜、暗闇の中
赤いツノが光ってるのに気付いた途端……
ここに居た人達は……
え!?
それじゃあここがこうなったのはヴェルグさんのお父様のせいなんですか!?
……うん。
ヴェルグ君にも生えてるツノは赤くなると攻撃力が一気に上がるんだ。
そして、ディアスなら誰でもその能力があるわけじゃない。
同じ種族の中でも限られた人だけが使える特別な力。
ふざけんなよ!!!
アレは一歩間違えば自分の体を壊す禁忌の力で、俺でもまだちゃんとコントロール出来てねぇ!
だからギャラクシーになって鍛えて、自分の力で戦うのを選んだんだ!
ジャック!!
オヤジは何でこの近くに住んでた人を殺したんだ!?
アルテミアは何て言ってた!?
ヴェルグ君、落ち着いて!!
お兄ちゃんの胸ぐらを掴むのはやめてよ!!
お願い!!
ううん。
動揺するのは無理もないよ。
それにヴァーデルさんが何の罪もない人に手をかけたのはオレが原因かもしれないし……
まだウメダから出る前(第1章)。
ヴァーデルさんとシャルティアさんはヴェイルノートさん、チョコさん、ノノカちゃんと一緒にウメダに居たオレを襲いに来た。
でもオレのお父さん……
金剛寺優一郎が手を引いて見逃すようヴェイルノートさんに交渉したんだ。
だから、アルテミアさんは「本当は手を引くのを納得していなくて城に帰らず行方不明になって、他の所で暴れて犠牲者を出してるんじゃないか」って言ってた……。
ストレス発散のため、何の関係もない人達に手をかけたってこと?
……ここがお墓でいっぱいなのはオレのせいかもしれない。
あの時もっと強くて、真正面から戦っていればこんな事にはならなかったかもしれない。
本当の所は結局分からないんだけど、でも……
真実はわからなくても自分が原因になっている可能性は0じゃない。
ジャックはお墓に向かって手を合わせた。
するとヴェルグはため息をひとつ。
ジャックの隣で手を合わせる。
謝るのは俺の方だ。
平和に暮らしてただけなのに急に命を奪われて、その理由も分からないなんて納得出来るわけないよ。
俺の家族が迷惑かけてごめん。
ねぇ、そのヴァーデルって人はオイラ達と同じようにゲートを通ったのかな?
もしそうならこの先オイラ達が戦う敵かもしれないし味方かもしれないよね?
公開処刑に関わってるかもしれないって事か。
ははは。そりゃいい。
もし敵なら俺の気持ちを全部ぶつけて全力で戦ってやるよ。
もし味方ならこれ以上無いくらいの心強さがあるよね!
ちゃんと一緒に戦ってくれるまでお話しよう?
ジャック君、ヴェルグ君、行こう!!
この先に行けば全部分かるかもしれないよ!
そうだな!
まずはナイトメア連合軍の要塞を目指すぞ!
段々とヴァーデルへと近付いている。
期待と不安が入り混じるけれど、今は先に進むしかない。
『いや、誰かがいるはずだよ。
このお墓はとある人の犠牲になった人が眠ってて、その関係者が夜な夜な見回りをしてるらしいんだ。』
(親父が暴れてこうなったのを関係者が見回りしてる……)
ヴェルグは一度だけ寂しそうに後ろを振り向くと、前を向いて走って行った――。
****
一方、ここはとある町。
今はもう名前は無く、町を乗っ取った者達が楽ができるように都合の良い施設が建ち並んでいる。
ちょうどその中の1つである食堂で問題が発生していた。
おい!何だこの料理は?
俺の嫌いな野菜が入ってるじゃないか!
俺はあの十三番隊の隊員だぞ、この事を隊長に言いつけても良いのか?
【????】
お客様、申し訳ございません!
すぐに新しい物をご用意させていただきます!
実は今朝獲れたばかりの肉があるんですよ!
フン、それを先に出せ!
こんな不味いものはこうしてやる!
どうせもう必要ないからな!
そう言うと、態度の悪い男は人参の入ったお皿を床に落とす。
ほら、とっとと肉を持って来い!!
割れた皿もちゃんと片付けるんだ!
踏んでケガでもしたら大変だからな〜!
おい、このスープも捨てるぞ!
好みの味じゃないんだ!
お怪我をしたら大変です。
すぐに片付けさせていただきますね。
男達はまさにやりたい放題。
店内にゲラゲラと汚い笑い声が響くけれど、食堂の店員は表情ひとつ変える事なく笑顔で接客をして、まだテーブルに出したばかりだった料理とお皿を回収する。
そして、それは他の店員も客も同じ……。
どんなに非常識な事をされてもみな見て見ぬフリをして、誰も関わろうとしない。
そんな中、1人の少年が食堂の外から窓を覗いて一部始終を見ていた。
【????】
(クソ……!!
せっかく人が作った料理をあんな風に粗末にして、馬鹿にしやがって……!)
おい女、もし他の男と付き合ってるなら別れろよ?
俺達が彼氏になって相手してやるからよ!
さっそく全部脱げよ!裸になれ!!
ギャハハハハハハハハ!!
おいおい!何だこの肉は?
今朝獲れたばかりなんじゃないのか?
俺の好みじゃねぇ!これも割ってやる!!
人を人とも思わない非道な行動と言動に少年の怒りは限界。
ズボンのポケットに入れていた小さなナイフで立ち向かおうと、食堂の入り口に向かおうとした……
その瞬間。
十三番隊は要塞のゲートに集合。
そう連絡が入っているはずだが、お前達は此処で何をしている?
え、ええと、そんな連絡あったっけか?
っていうか隊員の人数は多いんだしわざわざ俺達が行かなくても……
お、おっかねぇな〜……!
わ、分かったよ!すぐ行くからそんなに怒るなって!
あっという間に態度の悪い男達は食堂から出て行き、どこかへ走ってて行った。
すると「全裸になれ」と言われていた女性は突然泣き出し、「用心棒」と呼ばれた男に駆け寄る。
私、あなたが誰だか知っています……!
どうかこの町を……みんなを助けて下さい……!
お願いします……!!
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