60話 目を覚ませ!リサの願い!
文字数 6,876文字
あはは♪
インパクト担当のバルバトチュ君は〜欲望も妄想も心も失って〜……
えっ……?
ここ、ジャックの部屋……?
じゃあ今のは夢……?
はい!
バルバトスさんの後、リサさんも倒れてしまって……
休んでなんていられないよ!!
あいつはあたしの弟なんだよ!?それなのになんであんな事に……!
落ち着いて下さい!
バルバトスさんの事より、まずは自分の事を……!
どうだっていいなんて言わないで下さい……!
そんな悲しい事言わないで下さい……!
みんな、みんなリサさんとバルバトスさんの事が心配なんです……!
そうですよ。
大切な人を想うのはとても素晴らしい事ですが、自分の事も大事に想ってあげて下さい。
****
グラスオーヴィ。
1階。
厨房。
ジャック達は、厨房をステージに出る前の控え室にしていた。
うん!この通り大丈夫っ!
みんな、心配かけちゃってごめんね!
寝てるなんてできないよ。
うちの弟が世話になったんだ、ライブで楽しませてやらないとね!
ったく、あたしが寝てたのもメルーナの仕業だなんて信じられないよ!やんなっちゃうよねホント!
わかってる。
メルーナはあたしを眠らせた後、みんなに言ったんだ。
『インパクト担当のバルバトス君は瀕死寸前。もちろんライブには参加できないし、彼の事気に入っちゃったから貰っちゃう♪』
『でも……もし試験を合格できたら、バルバトス君を解放してあげるわ♪インパクト担当抜きで頑張ってね♪』
『あ、それと特別ルールとして、不合格になった場合「選択」をさせてあげる♪』
『1つは不合格になってもお店は潰さずに全員生存、次の試験に合格すれば良い。もう1つはバルバトス君には死んでもらって、アンデッドモンスターとしてずーっと一緒に暮らしてもらう。』
――つまり、試験の内容は変わらないけど、バルバトスは参加できない。
でももし不合格になったら、グラスオーヴィを潰さずに全員生きるかバルバトスが死ぬかを選択できるってわけだ。
はーあ。
ったく、ほんとに昔から美人には目がないんだから。どうせどこかでメルーナに気に入られてこんな事になったんだろうね。
ほんとにいつもいつも困るよ、あのポンコツマッチョには!
リサさん!バルバトスさんはまだ生きてるはずです!みんなで頑張って助けましょう!
姉さん!許せないのは私も同じです!ライブ客がいなければ、今すぐ戦って……!
そんなのめんどくさいし、別にいいじゃん!ライブは楽しいからするけどあいつなんてどうでもいいよ!
そのまんまだよ。
あたしはあいつが「生きたい」って思わないなら助ける気はない。
さぁ、もうライブは始まってるんでしょ?
ナナちんが居ないって事はライブは始まったばかり!
ステージでオープニングトークしてる頃だね?
パーッと盛り上げてやろうよ!
姉さん!?どうしてそんな気楽にいられるんですか!このままではバルバトスは……!
いいから!
さぁ、オレ達も準備をしよう!
ちょっと確認したい事があるから、セトリを見て!
あっ!
2曲目と3曲目にバルバトスさんの名前が……!
そう。
残念だけど、バルバトスさんがいない以上歌えない。他の歌に差し替えた方がいいと思うんだ。
賛成。
あたしが歌うのって「革命戦士モロ出しレンジャー」でしょ?
ちゃんとしたのも歌いたいんですけど!
リサさん時雨さん他3名って書いてあるから分からなかったけど、リリムちゃんも入ってたんだね……
それもいいかもしれないね!
ただ、多分お客さんの中にメルーナさんがいるかもしれないから、全部歌えるとは限らないかも。
もし何かあったらすぐ誰かに伝えて、お客さんをお店の外に避難させよう!
戦うのはダメだ。
そうなればバルバトスさんは助からない。
これはみんなが楽しむライブだよ。
笑顔がとっても大事なんだ。
みんなでやれば絶対成功する、大丈夫。
****
グラスオーヴィライブ。
ナナによるオープニングトーク。
リサが目を覚ましてから20分が経ち、ナナのトークはライブのスケジュールや注意事項などをひと通り説明し、1曲目に入るはずが……
なんでこんなに暑いにゃ……?
これじゃトークなんてできないにゃ……
何故か店内の温度がジワジワと上がり、次々に暑さを訴える客が続出。
その中には、昨日と同じように
自分達を周りの客と同じような姿に変える魔法を使ったメルーナ、魔族のアルテミア、不気味な顔をした「人形」……
そして全身を赤いオーラで包み込んでいるヒビキの姿があった。
んもう、私が試験の邪魔をしないって言ったのにバルバトス君に手を出したからってそんなに怒らないで♪特別ルールを用意して試験をおもしろくしただけよ♪
そ・れ・に……♪
いくら竜人族の力を使ってもバルバトス君は返してあげないわ♪
竜人族は1人1人属性を持っている。
その力はドラゴンとほぼ同じ。神と魔族は無傷で済むけど、こんな所で本気を出せば人間もニャルシーも獣人も異世界人もあっという間に死んでしまう。
いいの?
確かにあたしには「炎」の力がある。
故郷の……いや、今は筋肉を使う事が多いから炎の力を使う頻度は低い。
だが、元々は全てを燃やし尽くすための力。
でもな。
あたしを挑発してこの場を燃やして終わりにしようって考えんのは勝手だが、このまま調子に乗ってっと容赦しねぇぞ。
あら残念。意外に冷静じゃない♪
ドラゴンは怒りの感情で我を忘れるって聞いた事あるけど、あんたは違うのね?
メルーナの発言に隠された狙いを見抜き、竜人族の力を抑えるヒビキ。
しかし卑怯な事が嫌いな自分の性格を利用されている事は間違いない。
ヒビキは怒りを抑えようとするが、うっかり「昔の自分」について話してしまった事を後悔し、さらに怒りは増す。
すると、メルーナは「ふふ……♪」と舌舐めずりをして怪しく微笑むと、自分達の座っているテーブル席の上にバルバトスが入った大きな結晶を召喚した。
綺麗でしょう?
まるで水の中にいるみたいに、中身がよく見える♪
まぁ、この結晶が見えているのは私達だけなんだけど♪
まずは……
どうしてこうなったのか説明してあげる。
昨日、この席で彼と楽しんだでしょう?
その時にアルテミアの力を使ったのよ。
すごいでしょう?
私はもともとサキっていうサキュバスの父であり魔族の王……
つまり魔王の城で毒の研究をしていたの。
そう。
いつか魔族にとって計り知れない力を持った「脅威」が現れた時、それを倒せるような力が必要。
じゃあ、
私達にはどれ程の力があるのか?
コントロールできるものなのか?
数ある力の中から「毒」を研究していたのが私。
いろんな効果を持つ毒を扱えるようになったの♪
つまり、バルバトスが今ここにいるのは昨日毒を付与したから、なのか?
アルテミアに指示をしたのは私。
でも安心して♪人間の呼吸器に毒をちょっと入れてこの結晶の中に入れたけど、今は仮死状態になっているだけ♪
意識と呼吸は止まっているけど、心臓が動いている状態よ。死んだように見えるけど生きてるわ♪
解放条件はもう伝えてあるわ。
バルバトス抜きでこのライブを成功させればすぐに合格、解放してあげる。
でも……
これ以上あなたが妨害するなら即失格にするわ。私は特例としてルールを変えていい事になっている。
まぁ、妨害なんてできないと思うけど♪
メルーナに与えられた権限に疑問を抱くヒビキ。
しかし、この場にはジャックやソラ、何の関係もない多くの人間がいる。
結晶に閉じ込められたバルバトスから目を逸らし、怒りを抑えるとゆっくりと炎の力を弱める。
(バルバトスを助けられるのはあいつらしかいない……!ジャック、ソラ、がんばれ……!)
****
数十分後。
ライブは進み、次の歌はリサによる
「モーレツ!はちゃめちゃラブストーリー」。
恋に敗れた少女が必ず恋が叶う神様と出会い、男という男を悩殺しまくるというストーリーのある歌。
コンセプトはキュートとセクシー。
銃を撃ったり手でハートを作ったり、女の子らしい振り付けが特徴。
♪キミと繋がりたいのに
♪キミは興味を持ってくれないの?
♪あたしの気持ちどうすればいいの?
♪誰か教えて お願い神様
1番のサビ、かわいいなぁ!
ここから2番で、神様に会ってキュートからセクシーに変わるんだよね!
ソニアちゃん、大丈夫だよ。
リサさん、あんな事言ってたけどバルバトスさんの事が心配で仕方ないけど、強がってるだけかもしれない。
さぁ、この次はセクシー担当のリサさんと時雨さんの歌だよ!
……「夏の夜空に置いてかNight」。
花火を見に行った少女が迷子になり、森の中で不思議な少女と出会う事から2人の夏が始まるというストーリーのある歌。
歌詞の前にセリフで始まるのが特徴。
初めましてのはずだけど、実はとっくに会った事がある2人の不思議な出会い……リサさん、よく思い付いたよね!
次はソラ君の……
あそうだ、リリムちゃん、どんな歌と差し替えるか決まったかい?
♪死にたい奴は出ておいで〜
♪ヒュルリラ ヒュルリラ ドーロドロ
♪踊れや踊れ お前の死に様
♪あの世のみんなも 首ったけ
♪おまえもあいつも 首ったけ
♪それ首ったけ
テーマはホラー。
タイトルは「あの世はみんな首ったけ」。
……続いてソラによる「ナタデココ」。
いろいろな食べ物が好きだけどやっぱりナタデココが一番だよね!という歌。
ソラのスキル「フードモンスター」を使い、ナタデココでできた人形2体と一緒に踊りながら歌う。
♪食べ物いっぱいあるけれど
♪ボクはやっぱりナタデココ
♪ツルンッとひんやり美味しいよ
♪フィリピン発祥ナタデココ
フィリピン?
ナタデココって日本の食べ物じゃないんだ?
ないけど、なんだかこの歌聞いてると食べたくなってくるなぁ
ソラの奴、いい筋肉してるくせにかわいい歌だなぁ!ますます気に入ったぜ!これなら大丈夫そうだな!
……そして、休憩前の最後の歌。
リサ、時雨、リリム、ナナ、ミノルによる、
「革命戦士モロ出しレンジャー」。
ジャックは、タイトルで「アウト!」とツッコミを入れまくってしまうと察し、何が起きるかわからない歌に困惑していた。
隊長!我々はまもなく、「性」を禁じられた惑星に着きます!
いいだろう。
青い星、地球の者達よ!今こそ心に秘めた妄想をモロ出しにするがいい!
【リサ&時雨&リリム&ナナ&ミノル】
モロ出しレンジャー!!!
デデーンデデーンデデーンデデーン
デデデデ ワーオ❤
ん?妄想って欲望に似てる?
ま、まさか、これってもしかして、メルーナさんを意識した歌!?
♪妄想暴走大好き(あはん❤)
♪あなたの胸の中にある(うふん❤)
♪あんなことやこんなこと
♪恥ずかしがらなくていいの
♪いつの日かセクシーに虹かかる
♪ホントはホントは知ってほしいでしょ?
(でしょ?でしょ?)
♪Ah…感じたいのよ全てを
♪Ah…胸の奥まで響いちゃう
♪あなたのヒミツに溺れたい
♪今こそ解き放てトキメキの〜
へぇ?
さりげなくセクシャルレインボーと欲望をキーワードに入れるなんてやるじゃない?
振り付けも足を上げたり舌を出したりセクシーな歌だな!これは行けるぞ!
****
その後、休憩を挟みナナの「ワイルドバーさんのworld war」、ソニアの「このタコ!」などで店内は盛り上がり人気急上昇。
すごいわ!生放送の来場者数も300人を越した!コメントも弾幕状態よ!
あーう”う”ん。生放送を見てる日本のみんな、あたしの声聞こえる?会場はすごい熱気よ!アゲアゲ↑↑ってやつね!
みんな!あともうちょっとだけ着いてきてくれるかな?
もうサイコー!ワイルドバーさん、もっと聞きたーい!
笑顔で曲名を叫ぶリサ。
前奏のギタソロが始まった途端、笑顔から真剣な顔に変わり、客席の奥を見つめる。
今までのセクシーな歌やかわいい歌を歌っていた時とは違い、真剣な顔をするリサ。
しかし。
この「取り戻せ!」っていう歌、歌うのはリサさんだけじゃないはずだ!
このままじゃまずい!
実は昨日バルバトスさんとリサさんが練習してるのを見たんだけど、この歌はパート分けされてるんだ!
1番はリサさんのソロパートがあって、
2番はバルバトスさんのソロパートがあるんだ!
止めてももう遅いわ。
多分わかってて歌ったんじゃない?
言ってたでしょ?
「バルバトスが生きたいって思わないなら助ける気はない」。
リサはバルバトスが自分からメルーナの所から出てくるのを待ってる。
メルーナもバルバトスもこの中のどこかにいるはずでしょ?
そんな……!バルバトスさんは呼吸困難で倒れたんだよ!?
バルバトスは誘惑に負けて捕らえられた……!
でもきっと自分から戻ってきてくれる……!
姉さんはそれを待ってるんだ!!
(おい、どこかで聴いてるんでしょ?もうライブ終わっちゃうぞ?あんたの出番無くなっちゃうぞ?いいのかい?)
(ったく、あんたはいつもこうだ。ウエノのスラム街で闇市場への行き方を探って闇市場を潰してやる!とか言って、それっきり全然帰ってきやしない。ジャックがウエノに行かなかったらまた会う事も出来なかったかもしれないんだ。わかってんのかね?)
歌いながら客席を見つめ、心の中でバルバトスに文句を言うリサ。
店内のどこかでライブを聴いているはずなのに、もうライブも終わってしまうのに、未だに戻ってこない。
(はーあ。いつものあんたなら魔物に襲われようが毒を受けようが関係ねぇ!とか言ってすっ飛んでくるのに。いつだって一緒にいたのに。なんで訳わかんない女に鼻の下伸ばしてんだよ……!)
(この歌のタイトルを「取り戻せ!」にしたのは、セクシャルレインボーであたしとあの子がまた一緒にいられるように付けたんだろ……?)
(それなのに急に倒れて?ごめんとか言って?女に捕まって?はぁ……いい加減にしなさいよ。いつまで寝てるつもりだよ、このアホ!)
あいつ、確かバルバトスの姉のリサ……?なんであたしを睨んでんだ……?
リサと目が合ったと思い、不思議に思うヒビキ。
自分の隣にある結晶を見ると、僅かにバルバトスがピクッと動いていた。
いや、それだけじゃない!
よく見ろ、バルバトスの口が……少し動いている……!
(ほら、1番のサビがもうすぐ終わるよ。そしたら次はあんたのソロパート、あたしは絶対に歌わないよ?)
(ははーん。上手く歌えるのかなんて気にしてるなら心配はいらないよ。あんた昨日からずっと練習して、夜中も歌ってたじゃんか。)
(大丈夫。あんたはデキる男だ。あたしが1番よく知ってる。さぁ歌いな!あんたの番だ!)
その時。
ヒビキの耳に、ピシッという音と小さな唸り声が聞こえる。
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