29話 裏切りと陰謀渦巻くウメダからの脱出!Part.1
文字数 7,229文字
金剛寺の湯を堪能してから一日が経った。
あれから、ジャックがカチンコチンになったアモンを見つけ、なぜかお湯に落ちてから浮かんでこないグラリオを救出し、一同は金剛寺の湯を堪能。
その後、酒場に行き飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。
収拾のつかない一日を楽しんだジャックは、
アモン、末吉、千本松、オルテガ、そして桃華と別れ、いつも通りの宿屋へ帰宅。
今までの事を思い出しながら、最後の夜を過ごした。
****
ウメダ。酒場。
煌、ルルカ、サキは昼食をとっていた。
んもう、飲みすぎよ!?倒れても知らないんだからね!
あれ~?天下の最強少女ルルカ様が珍しく優しいぞ~?
昨日はラスボスかと思ったぜ~!!
それはおもいっきり盛り上がろうって言ったからでしょ。
今日は朝から”変な感じ”がして、ピリピリしてるんだからふざけないでよね。
んもう、ベロンベロンに酔って……。
一応確認するけど、これってランチよね?
こんな時間からフラフラになって大丈夫なの?
ルルカちゃん、優しいのね。
このサンドイッチ、美味しいわ。食べる?
なぁんだよ元気出せよ〜!昨日はマジで楽しかっただろ〜?
……金剛寺の湯を堪能し、今と同じ酒場に移動した時の事。
普段とは違い、小さなステージ付きの大人数用の部屋に案内されたジャック達。
ルルカの好きなステーキやハンバーグ、おでんやお寿司などの料理、お茶、ジュース、お酒などがテーブルに並び、
さらにオルテガが異世界人をヒントにマギアルクラフトで作ったというカラオケのような機械を置き、
まさに飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎの真っ最中。
周りの客も便乗して踊り出すほど、これでもかというくらい騒いでいた。
『♪チーッチッチッチ おっぱぁい!
♪ボインボイーン!』
『あり?もしかして今の歌知ってんの?意外だねぇ~!』
『うおっ!出たなパネェー図書館!!
なんでかわからねーけど、オレらの世界にあるものについて載ってる本があるんだとよ!!
うひょー行きてーなー!!』
『っつーか前から思ってたんだけど、この世界ってオレ達寄りじゃねぇ?
異世界っていう割にカレーもハンバーグもスマホもあるし、見た事あるものが多いよなぁ?』
『確かにそうだなぁ……。
聞いた事ある名前の町もあるし、食べ物も道具も知ってる……。
なんでなんだろう?』
『おい異世界人諸君!そんなの考えたってわかんねーだろー?
こういう時は酒飲んで騒いで豪快に笑ってりゃいいんだよ~!』
『あぁ~ん?大人が酒飲んで何が悪いってんだオイ~?
つーか、ジャックも飲めよ!飲んだら楽しいぞ~?』
『なんだ~?おめーの故郷は酒飲むのに制限があるのか~?
いいか?ここはおめーにとって異世界!それなら赤ん坊が飲んだって大丈夫なの!!
オラ飲め!ビールは美味いぞおおおおおおおおおお!』
『しょうがねぇなぁ~。
はい、オレの提案聞いてくれる人~?なんの提案とは言わないけど~!』
『とゆーわけで、今からミスコンを始めまああああああす!!』
『エントリーナンバー1番❤︎
サキです❤︎愛と誘惑のサキュバスよ❤︎
最大の武器は、天使のGカップです❤︎うっふ〜ん❤︎』
『はい、ハサミ!ソーセージを切り落としちゃおうね!きゃはは!』
『い、嫌だあああああ!まだヤりたい事いっぱいあるんだ!やめてくれえええ!』
『ソーセージが1本、2本、3本、4本……えへへ……みんなどんな形してるのかなぁ……?』
『どうしちまったんだ?オレ達の顔を見てソーセージなんて言い出して……?』
『ねぇねぇねぇねぇ!
この中で1番大きいソーセージはどれ〜?全部切り落として食べてあげるよ〜!』
『リリカちゃん!?ねぇ本当に君リリカちゃんなの!?本物!?』
『「まさかこうなると思ってなかった」みたいな顔すな!確信犯だろー!』
『かっこよく聞こえるけど股間の話ですよこれ!?意味わかんないし!?』
『あぁジャック君、そこの醤油をとってくれないか?お豆腐にかけようと思ってね。』
『あぁ……!いいぞ……!チョポチョポと鳴るいい音、素晴らしいぞ……!』
『ワイの息子から出た自家製の醤油や!美味いやろ〜!』
『ってちょっと!今股間って言いました!?ってかいつの間にケバブ君いたの!?あとグラリオさん驚かないんですか!?』
『せやで!おふくろの味ならぬ、なにわの味や!ワイの味、覚えてな!』
『ヘンタイ達はともかく、あんたの料理はさすがね!この味、このルルカ様が覚えておいてあげる!ありがたく思いなさい♪』
『おいおいおいおいちょっと待てよー!お前、1人だけルルカ様に気に入られようなんて思ってねーか!?』
『あのなぁ、オレはこう見えて味にうるさいんだぞ?なにわの味だかうちわの味だか知らねーが、ギルドのメンツの頭であるこのオレを唸らせるモノを出せるわけ――』
『くそー!負けたくねぇ!やっと推しに会えたのに醜態晒しただけじゃ帰るに帰れねぇ!空から落ちてコンニチハしただけじゃねーか!』
『しかーし!なんとしてもお近付きになりたい!気に入られたい!そしてあわよくば……!』
『くぅーーーっ!そんなの言われたらたまんねぇーーー!』
『いいじゃないの!もっとくれたっていいでしょ?ほらほら、出しなさい?もっとあるでしょ?あんたのそれ、もっと出して♪』
『ルルカちゃん、なんかおかしくない?ケバブ君、何持ってるの?』
『オルテガのおっちゃんのために「快感おっぴろげ」を持ってきたんやけど、テーブルの下に隠しとったのを見つかってしもたみたいでなぁ……。』
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!あの幻の名酒「快感おっぴろげ」!!本当に飲める日が来るとは!!』
『せやけど、この嬢ちゃんが飲んじまったみたいで……!』
『ねぇねぇ、いいでしょ?こんなにおねだりしてるのに、くれないの~?』
『かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!』
『マジ卍いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!』
――いやぁマジで楽しかったなぁ~!だはははははははは!
ビール、おかわり!
忘れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
巨大なゾンビの魔物が召喚され、剛腕の一撃を喰らい空を飛ぶ煌。
ピューッ。
****
一方、宿屋。
連泊が終わり、掃除をして綺麗になったジャックの部屋。
ジャックとミノルは、自分の活動するサイト「Gocha tube」に投稿した自分の動画を見ていた。
ほんとだ!暴走したゴラゴランさんを止めるアモンさんとソニアさんが映ってる!ってことはジャック君も映ってるはず!
だけど、この時ジャック君はスマホを持ってない。
ってことはこの映像……!
『せや!ジャックが映ってる動画だけ、ワイが代わりにGocha Tubeに上げといたんや!』
『ジャック!チャンネル登録数56人おめでとさん!』
『実はクラスタドームのコントロールルームをちょいちょいっといじってな?クラスタドームの監視カメラの映像からジャックが映ってる映像だけをトリミングして、Gocha Tubeのジャックのアカウントに直接アップロードしたんや。』
『こう見えてバーチャルやからなぁ?ちょちょいっと弄れば朝飯前や!』
『よい子のみんなー。人のアカウントに勝手にログインしたらダメだぞー。』
『いやぁ、あの紅とかいうねーちゃんにボコられる前に間に合ってよかったわ。
それに……』
『いいや、なんでも。
それより動画のタイトル、適当な数字の文字列になっとるから変えといた方がええで。
もちろん自分で撮った動画だけをアップロードしたいなら消してええからな。』
そういえば、どうしてジャックくんとケバブ君のスマホが現実世界のSNSと繋がってるのかはわからなかったんだよね?
『そればっかりはバーチャル特権をもってしてもわからんなー。もしかしたらワイとジャック以外にも”繋がってる”奴がいて、これから先そいつと出会う可能性もあるから、期待してみるのもええかもな~。』
「他にもいるかもしれない」って、なんだか楽しみだよね!これからいろんな動画撮りに行こうね!ジャック君!
ジャックくんのパパとママがビックリするような動画も撮っちゃおうよ!
そうだ!昨日考えたんだけど、ウメダを出たらギルドに入ってみるのはどうかな?
まずはギルドについてグラリオさんに教えてもらう所から動画を撮って、ギルドに入るか作るか決める会話シーン、それから……
あっでもやっぱり、せっかくこの町を出るんだし他の町だからできる事を撮らないといけないよね?だったらマギアルクラフトの飛空挺の方がいいかなぁ?それともアクスビットの市場に行ってみるとか?でも、う〜〜〜ん?
あそうだ!お金ないんだし、ボランティアから何でも屋さんに変えて、いろんな町の人のお手伝いをしてお金を稼ぐんだ!
いや、それとも普通にモンスターを倒して報酬をもらうのもアリ?勇者ジャックくんが剣でヒロインのボクがスマホ、レベル100になるまでの長い長い冒険を撮影して……!
あっ。もちろん君が望むなら"あっち"の方も撮っていいんだよ?ボクのあんなところやこんなところ、恥ずかしいから公開するのはアレだけどジャックくんだけで見るならいくらでも……❤
照れていいんだよ?
ボクは女の子なんだから。リリカちゃんとルルカちゃんと一緒にお風呂に入ったし。
て、照れてねーし!くっつくなし!変なこと言うなし!
ジャックの股間をうっとりした表情で見つめるミノル。
「見るな見るな!見るなったら見ーるーなーーー!」と逃げ回るジャック。
いつも通りの日常、いつも通りの茶番。
しかし、1つだけ”いつも通り”ではないことがあった。
それは、宿屋の廊下に立つ1人の少女の姿。
ジャックとミノルがいる部屋の扉の前に立つノノカ。
そして……。
彼は強くなりました。
あなたの魔力は元に戻りつつあります。
しかし、本当にいいのですか?
あのオルテガという男に植えつけた偽りの記憶について、彼は真実を求めあなたを救うかもしれません。
……まぁ、"あのお方"が来ればバラバラになるのは時間の問題。私はここを離れたら親友に会いに行くつもりです。
あなたはどうするつもりですか?
ふふ♪聞くまでもない、ですね♪
これで"彼女"を恐れる演技なんてしなくて済むんですし、"彼女の行き先"は決まった……。
かわいそうですが、天才のネクロマンサーなら生きて帰って来れるでしょう。
はぁ、私も楽しみで仕方ないです♪早く会いたいなぁ……♪
****
冒険者ギルド。
ノノカとサキの不審な会話など誰も知らないまま、ジャックとミノルはグラリオに呼ばれ、重要な話をしていた。
あぁ。
実はルルカちゃんが震えてしまってね。
訳を聞いたら、昨日のウメダとは何か違う、不思議な感覚を感じ取ったらしい。
さぁルルカちゃん。
ジャック君だけじゃない。リリカちゃん、ロザリアちゃん、ミノルちゃん、それにサキちゃんもいるぞ。詳しく聞かせてくれないか?
ジャックは微笑むようにルルカを見つめ、
ルルカは少し安心したように口を開く。
あいつ……?
そういえばオレもなんか忘れてるような……?
おい待てよ!あいつってあいつだろ!?もう少しゆっくりさせてくれてもいいじゃねーか!グラリオの言う通りかよ〜!!
覚えてるわよ!
ケバブちゃんもアモンちゃんもいたわね!
ボクも覚えてる!千本松さん、オルテガさん、末吉さんもいたよね!
『わかっていたさ。
いつやってくるかと思っていたが、クラスタドームの事件以来襲いに来る様子など全くない。
そして、今日という日が来た。
皆で銭湯に入り、皆でこうして食事を楽しむ今日という日が。』
『あぁ。ヴェイルノートの奴、私達がこうして楽しむ日を待っていてくれたのかもしれないな。』
『いやいや、感心してる場合かよ!ピンチじゃねーかー!』
『なに、奴の狙いはジャック君だろう?それならばやる事は変わらない。ジャック君を守り通すのみ。』
『それならオレも戦うぜ!せっかくジャックに会いに来たんだ!』
『なに、守るといってもそこまで必死になる事はないさ。』
『帝国の最高幹部はヴェイルノート。
そのヴェイルノートはジャック君の……?』
『って、まさか……友達だなんて言うつもりじゃ……!』
『正解だ!
奴も心のある人間、あの時ジャック君が言った「友達になりたい」という言葉に動揺していたのは間違いない。
なんとかなるさ。もしここにいる全員がバラバラになったとしてもまた会える。
そうだろう?ジャック君。』
おいおい、泣くのはまだ早いぞ?
きちんとした見送りの時まで待ってくれ。
おにーさん!お別れになるかもしれないなら、今のうちに伝えたいです!
私、おにーさんに会えてよかったです!これからも元気でいてください!
オレもだぜ!これからどーすっか決めてないけど、ブラブラしてりゃまた会えるだろ!
あんたの活躍、期待してるわよ?
いっそのこと、元の世界とこの世界の誰もが知るくらい有名になっちゃいなさい!
よし!!
これから先、いつヴェイルノートが来てもいいように作戦を立てよう!!!
……かくして、来たるヴェイルノートの襲来を凌ぐため対策を練るジャック一同。
しかし、ルルカは違和感を抱き、
(違う……!この感じ、1人じゃない……!もっとヤバいのが……来る……!!)
ほう?
なるほど、将軍は私と会うのが楽しみなようですね……。
剣士の女性……、
彼女はゾンビではありませんが、まだ使えるでしょう?捨てていいんですか?
だってめんどくさいんだも〜ん。"あのコ"苦手なの~。
チョコさんにも苦手な人がいるんですねぇ?
あっほら、来ましたよ?
いえいえ。
ゆっくりで構いません。あなたはプリンセスなんですから。
……では、ジャックさんの次の行き先も決めましたし……
冒険者ギルドへ向かうヴェイルノート、チョコ、そしてノノカ。
果たして、ジャックは無事にウメダから旅立つ事ができるのか?
次回、怒涛の急展開――。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)