189話 会いたくなかった!望まぬ再会と史上最悪の親子喧嘩!
文字数 6,914文字
ナイトメアスタジアム、地下1階。
倉庫で起きた悲劇――。
冷蔵庫に大量に入ったドリンクを、
何百人もの人に飲まさなければ、
つまり誰も犠牲にならなければゲームはクリア。
エディの熱い説得を聞いて、
誰もが元の心を取り戻し、無事に済んだ。
そのはずだった。
ゲノン帝国幹部、チョコ。
彼女の槍で、モリゾーの腹部が刺されてしまった。
ぐったりと横たわり、目は閉じたまま。
出血は止まらず、みるみるうちに服や髪が赤く染まる。
まだ息はあるのか?それとも?
シロナが少しでも希望があるならと、
諦めずにモリゾーに治癒魔法をかけようとする。
しかし……
モリゾー君は死なせません!
私のジョブはヒーラーです!
魔法少女にだってなれます!
急いで回復させれば間に合います!
あはははは!無理だよ無理!
そんな事させるわけないじゃん!
バーーーーーーカ!
こいつは人間じゃないんだよ?
忍びの里で人間をいーーっぱい殺した、
ウチの帝国のバケモノなんだよ!
そう!そうだよ?
皇帝ちゃんが禁断症状を起こしても自分のために動く操り人形になる人間、
「適性者」を増やすためにドリンクを飲ませた!
それで、見事にこいつは合格!!
今までは"目的"のために自由にさせてたけど、
これからはウチの言う通りに動いてもらうよ!
ねぇ、何でか分かる?
大正解ーーーっ!
適性者に選ばれた奴は、自分が覚えてる人間から1人ずつ殺していく!
つまり、一度でも会った人間はぜーーーんぶ死ぬんだよ!
こんなの人間だなんて言える?
無理だよねーー?バケモノだよねーー?
あ、牢屋にいた人間達?
お疲れ様!もう用済みだよ!
あとは死ぬだけ!ウチは何もしないけどね!
良かった!じゃあ助かるな!
こいつには気の毒だけど死んで良かったぜ!
槍で刺されて動かないのをいいことに、
モリゾーに対して非道な言葉を投げる人。
彼らも間違いなく人間扱いなどしていない。
自分も適性者かどうか試されていたけど大丈夫だった。
もし自分も合格していたらと思うと恐ろしい。
彼には悪いが自分の命が大事だ。
さぁここから脱出しよう。
メテオヴァラスは他人に任せればいい。
モリゾーも命懸けでドリンクを飲ませないようにしていたのに何という態度なのか。
誰もが口を揃えて勝手な事を言っている中、とある人物の怒りが限界に達する。
それはエディでもカブトでもなく……
あのさぁ、こいつはバケモノって言ったでしょ?
今は元に戻りそうでムカついたから刺しただけだけど、ウチが命令すればすぐに起きて皆殺しにするよ!
ほら起きろ!いつまで寝てるつもり?
冷蔵庫の中のドリンクも全部飲んでいいから、
さっさとウチの言う通りにしてくれる?
彼は何も悪い事なんてしていない。
ただ平和に暮らしていたかっただけ。
そんな日常を突然変えたのは誰?
住む場所も、未来も、自由も、全部奪ったのは誰?
教えて下さいよ。
なぜ友達が欲しいと願ってはいけないのですか?
なぜ友達として見てくれる誰かと、
一緒に居たいと願ってはいけないのですか?
それほど難しい事だからですか?
普通の人より何倍もの力を持っているからですか?
悪い人達の言いなりに動く危険な人だからですか?
死んだからもう大丈夫?殺されずに済む?
よくも人の友達に対してそんな事が言えますね。
彼はさっきまであなた達の命を守ろうとしていたんですよ?
騎士団やギルドというのは仲間と一緒に戦うものではないのですか?
それがこんなに自分勝手なものだとは思いませんでした!!
そう、モリゾーは自分から望んで忍びの里を壊滅させたわけではない。
豹変した状態から元に戻った後、返り血を浴びたまま竜人族の里へ行き、
セシリアの前で死ぬ事を選んだ。
彼にとってはそれほど辛く、悲しい事。
住んでいた家も元の生活も奪われてしまい、
自分のした事も許せなかった。
けれどセシリアの言葉を信じて冒険者として生きる事で、
ジャックや桃華、シロナやヴェルグと出会えた。
そして彼は、この地下に捕らえられていた人達を守ろうと必死にデスゲームをクリアしようとしたけれどチョコのせいで致命的なダメージを負い、
自分の事をまだ友達だと思ってくれている事を信じて「みんなとごはんが食べたい」と言い残し、目を閉じた。
それなのに、このままチョコに操られてこの倉庫にいる全員を殺す事になれば事態は最悪。
シロナ達がなんとか無事にここを脱出しても、モリゾーに自分のした事の記憶があれば今度こそ自決をしかねない。
ここは何としても、これ以上の悲劇は避けたい。
ところが、チョコの口から衝撃の事実が……
ウチが命令するか、冷蔵庫のドリンクを全て飲ませればもちろんこいつはここにいる全員を殺すよ。
その代わり、ウチが刺した傷は全て治って、無かった事になる。
モリゾーの命は助かるし、パワーアップもする。
でも、適性者から普通の人間にするならモリゾーの命は助からないよ?
もちろんパワーアップなんかしないし、
ウチが今度こそ息の根を止めてあげる!!
さぁ、どうする?
バケモノとして命を助けるか、人間として命を見捨てるか!
選べるのはどっちかひとつだけだよ!
あははははははははははは!
モリゾーが懸かった命の選択。
セシリアは何か気がかりな事があるのか、倉庫の入り口をチラッと見つめる。
(……どこへ行ったの?
さっきまでそこに居たはずなのに……。)
『この手紙が届いた時点でウメダの公開処刑に強制参加。
顔も名前も知らない異世界人が止めに来るからそれを阻止。
もしこの誘いに逆らったり遅刻したり負けたりする事があれば殺される。』
(困ったわ……。
どっちを選択しても、私の風の力でモリゾー君の攻撃を止められるとは思えない。)
(彼ならあるいは、とは思ったけれど居ないのなら頼めない……。)
『――竜人族の里へようこそ。
あら?あなたは……?』
『オイラは人殺しです。
今は普通だけど、さっきまで忍びの里のみんなを殺していたんです。』
『それなのにオイラは生きてる。
自分の事が許せません。死にたいです。』
『待って!
どこからどう見てもあなたがそんな事をするようには見えません。
自分で望んだわけではないのでしょう?』
『今はどうして普通なのですか?
豹変する時間に制限があった。
何かが満たされて元に戻った。
あなたを操っていた誰かが居なくなった。
または、操っていた魔法が解けた……』
『本当ですか!?
そうだとすると、その人はあなたの圧倒的な力でも傷を負う事なく、鎮静化させたはずです!
かなりの実力がある人と考えて間違いありません!
それは誰なのですか!?』
(――まさに"怪物"と呼ぶべき男。
まさか行方が分からなくなっていた王族が、人間を助けるなんて……!)
(という事はその血を引く者もモリゾー君に会っている?
もしも上の階に居るなら解決できるかもしれない!)
ねぇ、どうするの?
ちゃんと決めてくれないとウチが勝手に決めちゃうよ?
どっちかなんて決められません!
いいえ、この選択は間違っています!
簡単です、あなたをここで倒せば――
何言ってんだよ!?
メテオヴァラスと戦ってるジャック達をここに呼ぶつもりか!?
誰かを待てば決まるの?
じゃあいいよ、待っててあげる!
どうせモリゾーもお前達もみんな死ぬし、ウチに勝つ事もできない奴を連れて来ても無駄だけどね!
"彼"が敵か味方か、私達にとってどっちなのかは分かりません。
けれど……
この状況を救ってくれるセシリアの希望。
まるでその人物に会いたいとでもいうのか、
地下の倉庫から姿を消した謎の男は、1階でこっそりと一部始終を聞いて、不気味な笑みを浮かべていた。
気になるなぁ。
一体どんな奴が来るんだろう?
このまま帝国に従ってるよりおもしろいなら、そいつを仲間に入れようかな?
あ、そうか!
ちょっと前から何かあったみたいでうるさいの、そいつのせいかもしれないなぁ!
もしメテオヴァラスが暴れてて逃げてるなら興味ないけど……
とりあえずもうコレは要らないね。
ドリンクの副作用を消す薬、捨てちゃおう!
****
2階、通路。
ヴェルグ、バルトリオ、桃華サイド。
第1会場から多くの人を出口まで誘導してる途中、敵であるナイトメア連合軍の隊員が慌ててスタジアムの通路を走っている状態。
目的地は出口のようで、誰ひとり自分達を捕まえる感じではないし、襲ってくるわけでもない。
それはまるで何かから逃げているよう。
3人は慌てて走っている敵を見て只事ではないと思い、
ヴェルグが敵の1人の肩を掴んだ。
おい!俺はお前らの敵だぞ?
メテオヴァラスを倒しに来たんだ!
捕まえなくていいのか?
うるさい!そんな事どうでもいい!
こんな緊急事態にお前達に構っている暇はないんだ!
逃げたきゃ勝手に逃げろ!!
奴が来るんだよ!
ドーピング済みのメテオヴァラス様と互角、いやそれ以上の力を持つ"悪魔"がな!
もしも戦いに巻き込まれれば命は無い!!
そうだ!
呼ぶキッカケを作ったのはメテオヴァラス様だろうが、冗談じゃない!
とっとと――
う、うわあああああああ!?
お前も"同じ"じゃないか!ヒィィィ!!
た、助けてくれええええええ!!
よし、その"悪魔"というのが何なのか確かめに行こう。
もしかすると味方になってくれるかもしれない。
普段はメテオヴァラスかバベルが居るから入れないが、このスタジアムの中心部に行けばすぐに分かるだろう。
ナイトメア連合軍の本部に連絡する部屋や治療室、重要な部屋が並ぶエリアの事だ。
早速、周辺の状況を見るモニタールームに行こう。
もし"何か"がここに近付いているなら画面上に映るはずだ。
大丈夫だって!
メテオヴァラスよりも強い奴がここに向かってるんだろ?
敵が慌ててるんだから味方に決まってるよ!
その結果はジャック君の方にもモリゾー君の方にも伝えた方がいいかもしれないな。
もし敵なら一大事だ、ついでに地図を見て逃げ道も知っておこう。
モニタールームにスタジアム内に放送をかける部屋があるはずだから、それを使おうか。
学校の放送室みたいなものかな?
それだったら私、やった事あります!
ビーッビーッと鳴り続ける警報。
慌てて人が居なくなったのだろう、部屋の中にたくさん散乱する紙。
車輪が付いた椅子も倒れていて、紙コップに入ったコーヒーのようなものが床にこぼれていて、
電気も付いたままで、機械の電源もモニターも付いたまま。
本当にさっきまで人が居て、急に居なくなった。
それもこんなに部屋を荒らして。
酷いな、これは……
あった、これだな。
他の階のカメラの映像も見れるみたいだ。
これで他のみんなの状況は分かる。
あとは問題の……
コンピューターを操作してモニターの映像を切り替える事に成功したバルトリオ。
すると画面に映ったのは、今いるスタジアム周辺の地図のようなもの。
画面は白黒で、ラトリアも映っている。
位置はスタジアムとラトリアを結ぶ道だな。
緑の丸もたくさんあるが、どんどん消えているぞ。
なるほど、緑の丸はナイトメア連合軍。
つまり、さっきから慌てて逃げているメテオヴァラスの手下。
それが赤い丸に消されていると考えていいかもしれない。
じゃあコレが味方じゃん!
なんだよどこのどいつだ〜?
敵がどんどんやられていくぞ〜?
このスタジアムから出るも、驚くほど早く消えていく敵。
そう示しているかのように、たくさんの緑の丸がここから移動して、赤い丸に近付いて消えていく。
まるでたった1人でナイトメア連合軍に立ち向かうヒーローのように見えなくもないけれど、桃華は少し怖くなっていき、ヴェルグのテンションは高くなっていく。
ところが……
なぁなぁ!地図じゃなくてさぁ、実際の映像を見せてくれよ!
ん?あぁ、やってみよう。
カメラの映像に切り替えて……っと。
お、すっげぇなぁ!
あんなに煙が出てるぞ!
動きも早すぎて何が起きてるかわかんないな!
一体どんだけすげぇ戦いをしてるんだ?
よし、リアルタイムではないがスローで見てみよう。
煙でいまいちどんな姿をしているのか分からないからな。
これで……
よし、今度こそ!
もし見た目が怖い奴なら、先に味方だって知っておかないと攻撃されかねないからな!
知り合いだったら別に――
た、大変だ!
大量の瓦礫が落ちて来ているじゃないか!
きっと上の階に何かが衝突して、そこから落ちたんだ!
これじゃあ1階から外に出られない!
避難経路もそうだが他の階の通路が通れるかが心配だ!!
ジャック君のいる2階も無事かどうか分からないぞ!
建物が崩れればさらに脱出は難しくなる!!
何を言っているんだ、今はそれどころじゃない!
さっきの赤い丸が気になるのかもしれないが、まずは自分達と仲間の避難の確保が優先だ!
アレが敵でも味方でも自分達が怪我をしたりここから出られなくなるような事になれば一大事!
物事には順序があるんだ!!
ひゃっ!?
今の、クエストクロックのメッセージの通知が来た時の音だけど、私じゃない……!
アルテミア……俺達の仲間だ。
ラトリアを出る前、クエストクロックに情報をメッセージで送るって言ってたんだ。
俺の予想が合ってれば、これは……!
あの男の行方が分かった。
ラトリアから忍びの里に向かったなら途中で"ここ"に辿り着くはず。
絶対に近付くな……。
行ってしまった……!
桃華ちゃん、彼はオヤジと言っていたが、その父親というのは誰なんだ?
かなり焦っているように見えたが……!!
くそっ! なんだよ……!
味方じゃねぇのかよ!?何でだよ!?
『どうやらオレがまだグラスオーヴィに居た時の事らしいんだけど……
この辺りには村もあって、この道もかつてはアーリー街道みたいにいろんなお店が建ってたらしいんだ。』
『でもある夜、暗闇の中赤いツノが光ってるのに気付いた途端……
ここに居た人達は……』
『公開処刑に関わってるかもしれないって事か。
ははは。そりゃいい。
もし敵なら俺の気持ちを全部ぶつけて全力で戦ってやるよ。』
はぁ……はぁ……!
いいよ……!やって、やるよ……!
『私はこの国の王、お前は王子。
我々ディアスの生きる未来を共に作っていくんだ。』
『なに、友達が欲しい?
父と母、弟、妹、姉がいるじゃないか。
家族が駄目なら国の者から選んで……』
『うん?自分の力で友達を作りたい……?
そうか。では私も楽しみにしていよう。
お前が友達と笑顔でいることを、願っているぞ。』
『友達?くだらん!!
貴様はディアスの王、この私の息子なんだ!
同族は己の力を鍛えるための道具、殺して当然!
大人しく命令を聞け!』
おかしいな、覚えてる記憶と全然違う……!
グラリオのスキルで記憶が消えてるからかな……?
倒れたベッド、中身がこぼれた薬品と、それが入っていた木の棚。
逃げ遅れたのか、”それ”に襲われて倒れている敵の死体。
……そして、荒れた室内の中央に立つ男――。
こんな形で会いたくなかった。
でも、会ったらやりたいと思ってた事があるんだ。
一緒にやろうぜ?
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