155話 ジャックのパンチに惚れた男!ディアスの王子現る!
文字数 6,343文字
前回のあらすじ。
ビースト学校で起きた緊急事態でジャック達に伝えるために走っていたパンザレス。
その途中で出会ったのはジャックの妹の桃華と冒険者のモリゾー。
「害虫駆除のクエストを一緒にやってほしい」と言うモリゾーだけど、パンザレスと桃華は一刻も早くジャックと会うため後で連絡する事を伝えてその場を移動。
その一方、
コタロー、ウルク、ミルフィーは救助作業をしている途中でコタロー救助隊を結成。
本当にジャックは無事なのか、という不安は大きいけれど今は信じるしかない……
****
ビーストエリア。
民家が建ち並ぶ所から少し離れた森。
♪コタロー救助隊 よし行くぞ〜
♪山越え 谷越え それ行くぞ〜
♪みーんな助けに 行くんだよ〜
こら、遠足じゃないんだぞ?
まだまだ困ってる人はたくさんいるんだ。
楽しくなってきたのは結構だが、そんなお気楽気分でいたら思わぬハプニングが起きるぞ。
♪ハプニング トラブル なんのその〜
♪ラトリア 守るよ 大丈夫だよ〜
♪スマイル! スマイル! 笑顔大事〜
まぁ、コタロー君は本当にお歌が上手ね!
私も救助隊の歌姫として練習しなくっちゃ!
先生?もっと真面目にやって下さい。
この救助活動は訓練じゃなくて実際に起きてるんです。
あのゲノン帝国のヴェイルノートが現れたんですから、奴の手下がいる可能性は少なからずあると思うんです。
それなのに呑気に歌を歌っていてもしも襲われたら……
平気だよ!僕のスーパースターの力でコテンパンに――
きゃあ!?
今、そこの茂みの中から音がしなかった!?
おい、そこに隠れているのは分かっているぞ!
お前は誰だ。武器を捨てて大人しく出て来い。
さもなくば……!
いけません!
素性も分からない人にいきなり脅しをかけるなんて乱暴すぎるわ!
まずは挨拶から、笑顔が大事なのよ!
やった〜!
じゃあコタロー救助隊の新メンバーに決定ね?
おいお前、身分を証明できる物はあるか?
ギルドのバッチ、騎士団の勲章、何でもいいから出してもらおうか。
大体いきなり茂みから出てくるなんて怪しすぎるぞ。
俺達に何の用だ!!
オイラ、モリゾー!
はい、クエストクロックでいいかな?
じゃあ君も冒険者なんだね?
やった〜〜〜!僕達と一緒だよ〜!
それで、どうしたの~?やっぱり入隊希望者かなぁ?
ねぇ君達、さっきの救助活動見てたよ!!
お願いがあるんだけど聞いてくれる!?
随分慌てているけど……
もしかして急用かしら?どうしたの?
急用も急用!緊急事態っ!!
この先のおっきな家で大変な事になってるんだよ!
お願いだから助けてあげて~~~!!
ちょっと待ってくれ。
爆発の被害が大きくてどこも危険だが、全員助けるのはどうしても無理がある。
俺達は3人だけで、騎士団やギルドのような大人数じゃないんだ。
いいえ、助けに行きましょう!
困っている人がいるのだから当然よ!
ここに住んでいる人達は普通に生活しているだけ。
武器も持っていないし、大きな組織でもない。
でも、みんなで声をかけ合って誰かを助けようとしてる。
『おい、危ないぞ!
この家も崩れる!みんな離れろおおお!』
『ああっ!無事で良かったわ!
ミルフィー先生、うちの子を守ってくれてありがとうございます!』
力があるか、人数が多いかなんて関係ない。
相手の顔も名前もどんな人なのかも、知り合いかどうかも関係ない。
それでもみんな、誰かを助けようと必死に動いているの!
モリゾー君、案内してちょうだい。
この先で大変な事になっているんでしょう?
よーーーーーし!
ウルク君、コタロー救助隊出動だよ!
僕達ならきっと大丈夫!一緒に行こう?
思わず下を向いて黙ってしまったウルクと手を繋いで笑顔になるコタロー。
モリゾーを含めた4人は、緊急事態になっているという場所へ走る。
ここはコロシアムとビースト学校の中心に位置する一軒家。
3階建ての洋風の家で、それはまるで大金持ちの大きな屋敷。
白い壁に青い屋根、黒い門と高い壁に囲まれたそれは、ビーストエリアの自慢の1つ。
しかし、今は怪我人が何人出てもおかしくない状態。
燃え盛る炎と黒煙が立ち上り、大勢の獣人が消火に当たろうとするも火の手に警戒してなかなか進まず。
今のところ被害は軽い火傷と怪我のみだけど、このまま火が激しくなれば周りの民家にも……。
おい!冒険者はまだ来ないのか!
冒険者ギルドにクエストの依頼をしたはずだろ!
中にまだ子どもがいるんだぞ!!
さっき太った少年が血相を変えて走って行ったが戻ってこない!
その前に屋敷に入って行った筋肉質の男も心配だ!
くそっ!どうすればいいんだ!?
いや、諦めるな! 噴水、井戸、川、何でもいい!
みんなで水を運んで火を消すんだ!
なんとか諦めまいと誰もが声を上げて協力しようと水のある場所へ走っていく。
するとそんな中、恐れも知らず屋敷の扉を壊して中へ入って行く人影が。
……ふん。
この中に子どもがいるなら普通に入ればいいじゃねぇか。
人間も獣人も火が怖いのか?
オレにはこんなもの効かねぇよ!
燃え盛る炎の中を余裕で歩くのは、
大きな角にマッスルという言葉が似合う筋肉質な体を持つ人外の男。
身長も190センチを越す長身の男で、腕は誰が見ても「すごい!」と声を上げてしまうほどの厚さと大きさを誇る。
故に天井の一部が落ちてこようとパンチ一発で粉々……。
ところが、どうやら彼には気になる事があるようで、屋敷に入ったのは子どもの救出ではない様子。
おい!!誰かいるんだろ!?
オレはさっきお前のすげぇパンチを見たぞ!
隠れても無駄だ、出て来やがれ!!
オレは子どもなんかどうでもいい!
今からこの屋敷をブッ壊してやる!
もちろんお前だって例外じゃねぇぞ?
オレこそが真のディアス最強の男になって、親父を超えるためならどんな奴だって容赦しねぇ!!
男は上の階に向かって大声で叫び、力を溜めているのかファイティングポーズをしてその場に立ち止まる。
すると何処からか、唸り声のようなものが聞こえてきて……
……逃げ遅れた子どもはまだ見つかっていないんです。
どんなに強そうな人でも人助けを邪魔するっていうなら許さない。
おっ?やる気みたいだな。
相手が誰でも……って考えはオレと一致してるんだ!
お前の拳がどれほどのものか見てやるよ!!
知ってるか?
ディアスは魔族の中でも戦闘能力に長けた種族!
お互いの力を鍛えるために闘技場を用意して、人間以上の強靭な肉体を手に入れるために殴り合うのさ!
角が赤くなる……?
どこかで聞いたことあるような……?
じゃ、早速行かせてもらうぜ!!
まずは小手調べだ!!
途端に男はその場から移動。
そのスピードはまさに一瞬で、上の階にいるもう1人の声の方に向かってジャンプ。
全力のパンチを振るうべく力を溜めて準備完了。
自分の拳を黒く染める事でパワーアップしたパンチ、オメガスマッシュ。
その特徴は純粋なパワーだけでなく重い一撃も兼ねていて、攻撃の方向……つまり軌道を変えるのも難しい。
やがてそれは、相手の拳とぶつかり合って大きな音と衝撃を生む。
大変だーーーーーーっ!!
今なんかすごい音鳴って、火が激しくなったよ!?
やっと着いたのにーーー!
大変な事って火事だったんだね!
みんなバケツリレーして火を消してるみたいだけど、熱くてしょうがないよ!
大変なのはそれだけじゃないよ!
あの家の中には子どもが取り残されてるんだよ〜〜〜!
いくらスーパースターでスピードを上げても炎の中は危険だ!
何かいいアイデアは無いか?
水を出せなくても大きな風を起こせれば……!
クエストクロックには近くに同じものを付けた人がいると画面に表示されるんだ……!
これ知ってるよね……?
同じものってクエストクロックだよな?
確かにクエストクロックを付けた冒険者が近くにいると、画面で確認できるが……
一体どうしたんだ?
クエストクロックの画面?
えーと、周辺の冒険者を検索っと……
オイラはウエノの冒険者ギルドで会ってからバディしたくてワクワクしてたんだ。
でも彼はお婆さんと女の子と一緒に姿を消しちゃって、それからずっと探してた……!
でも……!
でもやっと彼とバディできるんだ!
きっと近くにいるはずだーーーっ!
ウルク君!いたんだよ!!
きっと近くにいるはずだーーーっ!
モリゾー君、オリジナルソングを考えておけば好きな人に聴かせたり踊らせたりできるよ!
彼のジョブはラスターなんだ!
♪M・O・L・I モリゾー!
♪M・O・L・I 食いしん坊!
♪M・O・L・I レッツゴー!
♪oh!なかいっぱい食べた〜い
♪まだまだ食べたい足りな〜い
♪食べ過ぎなんて言わせなぁ〜い
♪もったいないよ好き嫌〜い
わぁ!もうオリジナルソング出来てるの!?
イントロもAメロもいいじゃん!
ありがとうコタロー君!
いやぁ、いつか友達ができた時のためにアピールソングを考えといてよかった〜!
1番も2番も歌詞考えてあるんだよ~!
どこかにいるはずのジャックに向かって叫び、走り出すコタローとモリゾー。
ミルフィーとウルクは慌てて追いかける。
視線の先には燃え盛る屋敷、という事はもしかして……
お、おいまさか、あの火事の中に巻き込まれたなんて言うんじゃ……!?
ええっ!?
いけません!早く助けに行かないと!!
すみません!バケツを貸して下さい!
え!?
ま、まさか水をかぶって屋敷に突っ込む気じゃ……!?
待ってくれ!!
水をかぶれば燃えてくくなるが、高温の中にしばらくいれば燃えるし火傷もする!
それに中は煙や火で見えにくくなっているかもしれないんだぞ!
確かにあの中に子どもはいるんだろうが、助け出すのに時間はかけられない!
それに屋敷の見取り図もないのに迷ったら出て来れない!もしそうなったら……!!
その時屋敷から大きな音が鳴り、辺りは騒然。
たくさんの悲鳴も聞こえる中、燃え盛る室内では……
――戦いたくない?
おいおい、やっと姿を見せたと思ったらさっきからオレの攻撃を防いでばかり。
どうしたよ?もしかしてビビってんのか?
人助けだよ。
これだけ探しても逃げ遅れた子どもが見つからないんだ。
こんな事してる場合じゃない。
へぇ?
その子どもはお前の仲間なのか?
それなら手を貸してやるよ。戦うのはその後でいい。
いや、知らない人だよ。
獣人なのか人なのか、どんな服を着てるのかも分からない。
でも、このまま放っておいたら死んでしまう。
ん?待てよ。
オレには火なんて効かないが、放っておけば死ぬのはお前も同じなんじゃないのか?
それなのにわざわざ他人のために体を張ってどうするんだ?
そんなの関係ないよ。
きっとどこかで泣いてるはずだ。
「助ける理由はそれだけで充分」ってか。
……よし、気が変わった。お前と戦うのは止めだ。
そもそも、さっきは容赦しないとは言ったが殺す気はない。
実はオレの親友がタチの悪い連中に捕まっちまってな。
すぐにでもブチ殺しに行きたいが相手が悪すぎる。
つまり、オレは一緒に戦ってくれる仲間を探してるのさ。
そうさ。オレはお前に惚れてるんだ。
さっきお前のすげぇパンチを見たって言っただろ?
いやぁビックリしたよ、まさかコロシアムの方から女2人を抱いて空を飛んでる奴がいるなんて。
――数十分前。
ヴェイルノートによる攻撃が来てすぐの事。
ジャックは急いでラスターからギャラクシーにジョブチェンジ。
シロナとアラネアを抱いて部屋から脱出しようとしていた。
『ジョブチェンジ!ギャラクシー!
シロナさん、アラネアさん!オレに掴まって下さい!ここから脱出します!!』
『2人の事など放っておきましょう。ギャラクシーは技を使わなくても身体能力がパワーアップされる。あなた1人で充分助かるんです。』
『……へぇ、教えてくれてありがとうございます。それなら――』
『アラネアさんが言っていた事。
あなたに付き纏う謎の声はゲノン帝国の皇帝。
修行の旅のゴールはゴラゴランさんの公開処刑。
あなたはそれを止めるためにここにいる。』
『あなたの敵は私を含めて数人。
言っておきますがアップデートではどうにもなりません。
仲間を連れて処刑場に行けばみんな死ぬかもしれない……』
ヴェイルノートの言葉に動揺するジャック。
そのままカオス・エクスプロージョンが壁に激突……
かと思いきや、ギャラクシーの強力なパンチで窓の鉄格子を壊し、アラネアとシロナを抱いて飛び降りる。
その直後、部屋は大爆発――。
『……見事。
女性2人の命を守るとはさすがジャックさんだ。
さて、爆風でどこまで飛ばされるのか……』
『危ないけど、このまま爆風に乗って遠くへ行くしかない!
シロナさんもアラネアさんも怪我ひとつさせないし、公開処刑なんて……!』
『ん? 女2人を抱きながら飛んでる!?なんじゃありゃあ!?』
『勢いが弱くなった!?こうなったらギャラクシーのパンチで勢いをつけてもっと飛ぼう!なんとか着地できる所は……!』
『おいおい、あのまま飛んだら屋敷だぞ!?
爆発のせいでボロボロで危ないじゃねぇか!』
『ぐっ……!さっきヴェイルノートさんにやられた傷が……!』
『あいつ、怪我してるのか……?
それなのに女2人を抱いて……!?』
『あのままじゃ落ちるぞ!?
おい頑張れ!もう少しだ!!空中でパンチして勢いをつけろ!!
屋敷のガラスにパンチして中に入れ!!なんとか助かるはずだ!!』
『シロナさんとアラネアさんは死なせない……!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『ギャラクシースマアアアアアアアアアアアアアッシュ!!』
――ってわけだ。
ここに来たのは仲間を守るためなんだろ?
お前がいい奴なのが分かったから一緒に友達を助けに行ってやりたいが……
今はそれどころじゃないな。
一緒に逃げ遅れた子どもを探そうぜ!
あっそうだ、自己紹介がまだだったな!
オレは魔物を倒して旅してるから冒険者みたいなものかな。
あと最強と言われるヴァーデルの息子!
【ヴェルグ】
ディアスの王子、ヴェルグだ!!よろしくな♪
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