20話 ゴラゴランとグラリオの絆!想いが繋いだ奇跡!
文字数 7,176文字
これまでのあらすじ。
バーチャルなんとかチューバー、後藤ケバブ。
ある日ウメダにやってきた彼は、ジャックと出会い勝負を挑む。
『ジャック、お前さんへの要件はただ1つ!
動画投稿サイトで実況主として活動する者同士、ワイと勝負や!!』
その勝負の内容とは、
同時に動画撮影をして現実世界の動画投稿サイトにアップロードし、
再生数とコメント数とアンケートの結果で勝敗を決めるというもの。
さらに、ケバブは3つの場所に行く事を宣言し、3つのルールを追加する。
『1つ!アイドルのライブを見る!
2つ!10人以上のお客さん、アーティストに会う!
3つ!3人のアーティストに自己紹介をしてもらう!』
最初の場所は、以前綿貫末吉と出会った町クラスタ。
アイドルがライブをしているというクラスタドームの楽屋に転移し、勝負が始まると個性溢れる者達と出会う。
『にゃにゃーん!ウチはナナ!ナナ・ニャルキットっていうにゃ!よろしくー♪』
『問題ないヨ。きっと"向こう"も上手くやってるからサ。』
事態は急展開へ。
ケバブからゴラゴランへ驚きの真実が告げられる。
『ライブ会場のどこかに、ジャックを狙う奴らが潜んどる。
相手は帝国や。』
一方、ミノルやグラリオのいるウメダにも帝国の仲間が現れる。
その正体は「鬼人」と呼ばれる帝国の幹部の1人、紅に雇われた4人の手下。
自分達の正体とジャックとミノルを捕まえる目的を説明した狼の獣人の少年は、クラスタドームが炎と爆発に包まれる事を宣言する。
『アイドルも!3000人の客も!ジャックも!ケバブも!!
全てが終わる!!炎と爆発でな!!』
果たして、秀樹、鬼塚アモン、ゴラゴランを含める3000人の客や、ライブをするアイドル星乃未来、
そしてケバブとジャックのいるクラスタドームは……。
へぇ、ここがクラスタドームか。
ウチが来たんだ、もし4人が失敗っても問題ないな。
****
クラスタドーム。
ライブ会場。
ライブステージに近い位置にあるVIP席。
2人の紅の手下は、ソワソワした様子でライブステージを見つめていた。
(まずいな……。
こいつ、手足が震えてる……。このまま合図が長引けば、抑えられなくなる……。
そうなれば計画は……。)
(話を聞いていない……。
そもそもこいつ、人間なのか?
中に何も入っていない人形というのも考えられる……。
厄介な奴と組まされたな……。
確か名前は……。)
【リリック】
「計画に支障が出たらどうするつもりだ。」
ヒヒヒ。驚いたカ?
ボクにはキミの心臓の意思が伝わるんだヨ。
そんなに心配しなくても問題ないから安心してほしいナ。
"毒斬り"のヴェインくん。
それよりアレは何なのか気になるネ。暑苦しくて敵わないヨ。
――
同クラスタドーム。
客席。
ヴェインとリリックの視線の先には、ジャックのカメラの前でたくましいマッスルポーズをとりながら暑苦しいセリフを叫ぶゴラゴランがいた。
うう、熱い……。
ゴラゴランさんってグラリオさんよりも熱血かも……。
そうだな!
私は優しさよりも熱くてうるさくて派手好きだと言われるが、反対に彼は優しい所が強く下ネタはあまりわからない!
五智谷市のジムで一緒に鍛えていた頃は、毎日が楽しくて仕方なかったよ!はっはっはっは!
そうそう!その通りだ!
あのラーメン屋には女の子が通っていてね。たしか……
と、元気よくお店を出て行く所を見た事があるよ。きっと学校に向かう所だったんだろうなぁ。
(ふぅ。
こうやってジャック君と話せる日が来るとは……。涙が出てくるなぁ……。
本当なら君はあの日……。)
(しかし、だからこそ守らねばならない。 ジャック君だけではない、この会場にいる全ての命を!)
(他の人間に迷惑をかけずにジャック君だけを狙うわけがない!お前達の好きなようにはさせんぞ!!)
気に入ったヨ。
ヴェイン君。合図の前に"味見"してもいいかナ?
あの赤髪のマッチョと目が合ったんだヨ。
おもしろいネ……!
これでも周りの人間を守れるかナ?
「ブラッドクラーフィ」。
するとリリックは、手を前にだらんと出し、不気味に俯く。
続けて2、3秒ブツブツと呟くと、ゴラゴランに向かって口から赤い針をプッと吐き出した。
しかし、それに対しゴラゴランは右手に数本のサイリウムを持つと、右手を上に挙げたまま勢いよく回転。
赤い針をキンッと上空へ弾き、破裂したのを確認すると、満面の笑顔でガッツポーズをして……
すごいにゃすごいにゃ!今のどうやってやったにゃ!?
ジャック、ナナ、リサ、思わず拍手。
すると、数人の客がゴラゴランに気付き、次第に拍手と歓声が大きくなった。
兄貴!あれってゴラゴラン親分じゃないっスか?サイン貰いましょうよ!
ん?ジャックのヤツ、なんで親分と話してるんだ?羨ましいぞコノヤロー!
気が付けば、ライブのメインである星乃未来が登場する前に大きな拍手が起きていた。
するとゴラゴランは両手を大きく広げ、どこまでも聞こえるくらいの声で叫ぶ。
みんなありがとう!!
私がここにいるのは、未来ちゃんには秘密にしていてほしい!サプライズなのだ!
それじゃあいつものいくぞ!
せーの!
会場の盛り上がりは最高潮。
ジャックやナナも笑顔になり、リサは天に召され渋い顔のまま立ち尽くし、その一部始終を見ていたグラリオは……。
つーか、花火って何?
"あいつ"の攻撃を弾いただけでいい気になって恥ずかしくないの?
しかもサプライズとか、自分が特別だと思ってんのかよ!はははは!はははははははは!
そうだな!こいつ、人を精神的に追い詰めるのが好きなのかもしれないぜ?
ルルカ様も完全敗北だったじゃねーか!
ワオ。こりゃかなり弱ってるな。
元気出せ2人ともー!
煌君、すまない……!
私としたことが、敵の口車に乗せられるとは……
いいって事よ!
あの筋肉すげーにーちゃん、大事な人なんだろ?
だったら「あいつは負けねぇ」って信じてやればいいのさ!
誰に何言われたって関係ねぇよ!
それにさぁ、さっきから攻撃をせずオレ達をおちょくってるだけなら、大した事ないんじゃないの〜?
確かにそうね……!
人にトラウマ思い出させといて、タダで済むと思ったら大間違いだっつーの……!
何もかも後悔してもらうんだから!
ワオ。ルルカ様が怒ってるぞ〜?
名前くらい名乗ったらどうなんだ〜?
オオカミくん♪
【ユーマ】
オレはユーマ。こっちはレン。
よろしく〜!
いーじゃん名前くらい!
「オオカミくん」じゃ嫌でしょ?
マジックアイテムね。
遠くにいる相手と会話ができる伝達魔法の術式が施されてる。
恐らく相手は……。
(リリックの奴、さっきよりも手足が震えている……。本当に大丈夫なのか?)
その瞬間、リリックは体に電撃が走ったかのように奇声を上げながら激しく動きだす。
そのまま両手を広げ、ゆっくりと口から巨大な槍を出すとゴラゴランに向かって放つ。
おいおい。
そんなでかいもの出したら目立つだろ……。
そう言うと、ヴェインの背後から紫色の煙が発生。
煙は、まるで生きているように巨大な槍を包み、槍の先端だけが見える状態になった。
ゴラゴランはすぐに気付き、「もう1発YESマッスルをするか!」と叫び、周りの客やジャックから離れる。
そして力を溜め、自分の真上から勢いよく飛んでくる槍を先端ごとへし折るつもりでジャンプし……
おおおおおおおおお!今のめっちゃすごいですよ!勢いヤバすぎて吹っ飛んじゃうかと思いました!
ゴラゴランの迫力に盛り上がるジャックとナナ。
しかし。
表情に出ないようにしているが、ゴラゴランは何かに気付き怯えていた。
それは、目に見えない槍を粉砕する直前、槍の先端がキラリと光った瞬間の事。
血の気の引いた顔でこちらに手を伸ばすもう1人のゴラゴランが、ゴラゴランに助けを求めていた。
(今のは……私……!?
今、何と言ったんだ……!?)
やがて、ゴラゴランの手足が震え、みるみるうちに顔色が変わっていく。
その瞬間、全身の色が変わったゴラゴランを見て客席に座っていた子供が叫び出し、会場はパニックに陥る。
途端に、ゴラゴランは目の前のジャックめがけて豪腕を振るう。
うわあ!?
ど、どうしたんですか!?ゴラゴランさん!!
――
ウメダ付近の森。
ライブ会場の映像が映し出され、グラリオは拳を握りしめていた。
おいどうなってんだよ!
なんであのにーちゃん、ジャックにパンチしたんだ!あんなの喰らったら……!
リリックって奴はヤバいんだよ……。
あいつは人間の死体に魔法をかけて好きな武器に変えられるんだ……。
まさに怨念がギッシリ詰まった呪いの武器だよ……。
そして、それが標的に当たると粉々になって呪いが解かれるのさ……。
そうさ。
呪いの正体はトラウマだ。
本人が「なりたくない」と思っている自分になっちまうのさ。
見ろよ。味方のはずのジャックも、何の関係もない客もぶん殴ってる。
あの筋肉バカは、誰でも簡単に殴るバケモノになっちまったんだ。
ゴラゴラン……!
お前が避けているのは、やはり”あの時”話していた事だったのか……!
――
クラスタドーム。
ライブ会場。
ジャックの背後に移動し、強力なパンチをしたゴラゴランの拳を、ソニアが刀の鞘で受け止めていた。
何もしねーとは男が廃る!
鬼塚アモン、死ぬ気で止めるぜ!夜露死苦!!
なんと、ソニアが刀の鞘ごと殴られる瞬間、鬼塚アモンが釘バッドを持ち、助太刀に入った。
ゴラゴランは憧れの親分!ジャックはダチ!!
これ以上の説明が要るか!?
さっき別れたばっかで再会ってのもアレだが、今はそんな事言ってる場合じゃねぇ!非常事態だ!!ここはオレに任せろ!!
いや!まずは他の客をここから逃す事が優先だ!!
いいかジャック、オレの子分が出口の扉に立ってる!そいつと一緒に案内してやってくれ!
ゴラゴランの親分がこんな奴じゃない事ぐらいオレも知ってる!親分をこんな風にした黒幕が必ずいるはずだ!
それに……!
オレってば地獄耳でさぁ、聞いちゃったんだよね〜!ジャックを捕まえるために帝国がここに来てるってこと!
じゃあ、そいつらがジャックを捕まえるためにゴラゴランを暴走させたっていうのか!?
自分達は高みの見物で、ジャックと仲良く話してる奴を操って再起不能にすりゃ余計な体力は使わなくてOK!
ってとこだろ?
わかったらさっさと行け!
秀樹に轟鬼だったか?他のメンツにも伝えといてやるよ!
ナナ!姉さん!
ジャックに着いてってくれ!
他の客に落ち着くよう声をかけて、なるべく落ち着いて脱出してもらうんだ!
(どうしてこんな事に……!ケバブ君はどこにいるんだ!?)
途端に、ジャック、リサ、ナナは走り出す。
そして、多くの客がパニックになったまま、出口を目指して走る。
……暴れるゴラゴランを見て悲鳴を上げながら。
あいつは化け物だったんだ!俺達を殴り殺すためにここに来たんだ!
ちょっと!どうしてそうなるにゃ!
あの人間はとってもおもしろくてかっこいいにゃ!
ナナちん落ち着いて!
お客さんは帝国が来てる事もあの方がおかしくなった原因も知らないんだよ!
そんな事より、今はここから出るのが1番!
我慢だよ、ナナちん♪
ううう〜〜〜〜!
ジャッきゅん、出口に向かって走るにゃ!
みんな落ち着いて!
スタッフの指示に従って!走らないで!!
やっと見つけた!
あんたがアモンって子の子分だね?
あたしはリサ!協力するよ!
おお!美人に美少女!ジャックとかいう異世界人は無事か?
ジャックはいつの間にか逆走し、ライブ会場に戻っていた。
荒れ果てた客席。天井から落ちたであろう巨大な照明。
大量の瓦礫。
賑やかだったライブ会場とは違っていた。
ゴラゴランさんは……?
ソニアちゃんは……?アモンさんは……?
その瞬間、ジャックは目を疑った。
先程までゴラゴランと共に笑っていた場所にはソニアが仰向けになって倒れ、近くの壁にはアモンが壁に倒れていた。
そしてゴラゴランは、ソニアの頭を踏み……。
ゴラゴランさん……もうやめて……またかっこいいポーズとって下さいよ……!
あなたの筋肉、すごくかっこよくて……オレ、グラリオさんに会ってから会いたいなって思ってたんです……!
それで、やっと会えて……!
話してみたらおもしろくて……!
あぁ、ライバルっていいなぁって思ったんです……!あなたが羨ましいって思ったんです……!
その瞬間、ゴラゴランはソニアの頭から足をどけ、頭を抱えて叫びだす。
ゴラゴランさん……!
お願いだ……!元に戻って……!!
そんな事できません!
だって、ゴラゴランさんがおかしくなった時……とても悲しい顔してたから……!
みんながゴラゴランさんを怖がって逃げてるのを見るの、とても辛かったから!!
その瞬間、
ジャック、ゴラゴランは謎の声とその声の持ち主を見て驚く。
……友と、ライバルとなったあの日から……!異世界でお前の話を聞いたあの日から……!ずっとお前と戦ってみたいと思っていた……!
しかし何故かな……。どんな時でも豪快に笑う親友が、永遠のライバルのトラウマが現実になり、こんなにも悲しく泣いているのは……。
ジャック君。「バケモノではない」と言ってくれて、どうもありがとう。
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