35話 ウメダダンジョン突入!グラリオの涙を超えて!
文字数 10,222文字
ウメダ西の森。
深い森の中を走る少女がいた。
ジョブ、ソーサラー。レベル7。リリカ。
リリカは指先に赤く燃える炎の矢を放ち、次々に襲いかかる野生のモンスター達に炎の雨を降らせる。
続いてネクロマンサー、レベル28。ルルカ。
因縁の相手、チョコが召喚したゾンビを潰すべく、黒いローブを着た人物を召喚。
召喚された者は、黒い剣を持った瞬間ゾンビ達をものすごいスピードで斬っていく。
力強く叫んだのはジェネラル、レベル56。グラリオ。
先頭を走っていたはずが、背後から追いかけるヴェイルノートに大ダメージを与えるため、ルルカの後ろに行くと魔力を込めた剣をブンッと振る。
するとヴェイルノートの周りにチョコのゾンビ達が集まり、ゾンビに攻撃が命中。
ゾンビ達が一瞬で凍ると、グラリオは力を込めてもう一度剣を振る。
するとどうだろう。ゾンビ達の体は氷ごと斬られてしまった。
対するはネクロマンサー、レベル不明。
ゲノン帝国幹部であり、ゾンビを従わせる力の他にゾンビをお菓子に変える力を持つ少女、チョコ。
無数のゾンビ達を集め、森の中に巨大なプリンを作り上げると、前を走るジャックやグラリオ、ルルカ達を飲み込むように雪崩のように崩れ始める。
突如、巨大なプリンの横に白い大蛇が出現。
「汚い」と言われた事に腹を立てたのか、「は?」と不満そうにシャルティアを睨みつけるチョコに、白い大蛇は機嫌を損ねたのかプリンを睨みつけプリンの真上から尻尾を叩きつけて破壊。
プリンはさらに崩れ、1体ずつバラバラになった無数の死体が雨のように森に降り注ぐ。
その瞬間、チョコの手から白い大蛇の頭の上に立っていたシャルティアへ紫色の光線が発射。
おぞましい人の顔をした光線がシャルティアの眉間を狙う。
しかし。
チョコの光線が目の前に迫っているのにも関わらず、ゆっくりと武器を構えるシャルティア。
彼女は横笛を
次の瞬間、パンッ!という音と共に、大量に降り注いでいた死体が一斉に破裂。
光線も跡形もなく消えてしまった。
――大蛇を従わせ、横笛で音を奏でる女性。シャルティア。
ジョブ、ミンストレル。レベル不明。
炎、水、雷などのエネルギーを使った攻撃はもちろん、
悲しみ、喜び、怒りなどの感情から天候、季節、生と死さえも、彼女の音次第。
微笑を浮かべ音を奏でるその姿は、天使か悪魔か。
そして……。
ディアス最強の男、ヴァーデル。
ジョブ、レベル不明。
シャルティアの奏でる音に目を閉じ堪能していた彼は、不気味な笑みを浮かべながら角を赤く染めると、全身に炎を纏う。
ディアスの「覚醒」。
互いの力を競い合い、強靭な肉体を持つディアスの潜在能力の1つ。
炎、水、雷などのエネルギーを選び、それを体に纏う事で、自身の攻撃の強化や凍結、火傷などの状態異常、さらには攻撃を跳ね返し防御する事もでき、
攻撃、支援、壁となる防御、その全ての役割を果たす事ができる。
その中でも最強と呼ばれるのが闇の炎の組み合わせ。
闇単体ではなく、闇と炎両方を纏う事でディアスの持つ魔族の力をより強化する事ができる。
そう、ヴァーデルこそがディアスの中で唯一、闇と炎の力を併せ持つ男。
故に最強。
ヴァーデルはなぜかヴェイルノートに向かって叫び、フルパワーで地面を叩き割る。
その攻撃は地中を走る衝撃波が生まれ、ヴァーデルの真下から巨大なプリンの真下まで伝って走り、さらには元の体の色に戻ったヴェイルノートの心臓へ向かって走る。
そして、ヴァーデルに狙われるのを知っていたのか、こちらへ迫り来る衝撃が見えたのか、困り顔で「やれやれ……」とため息をするのは……
はぁ……。
協力というものを知らないのですか?これでは標的を逃してしまうどころか、こうして集まった意味が無い。
このままではこの世界の支配をする帝国の、それも幹部としての面子が丸潰れ。やはり人の手に余る力を持つ者というのは、鎖を繋いでおくべきなんですねぇ……。
共に満足できる世界を、と思っていましたが本当に残念だ。
ゲノン帝国の最高幹部、ヴェイルノート。
ジョブ不明。レベル不明。
地中を走る衝撃派が目の前に迫る中、右手に漆黒の魔法陣を纏い、手を開き地面に触る。
その瞬間、ヴェイルノートが立っている地面を中心に草木が枯れ、地面は雨の降らない地域のように枯渇。
さらに地面は砕け、「ドドドド」と大きな声を立てながらものすごいスピードで巨大な穴が開いていく。
ヴェイルノートの魔法、アブソリュート ・アビス。
たった一撃でシャルティアの大蛇に致命的なダメージを負わせ、余裕の表情をしていたヴァーデルも一時的に戦闘を中断し穴の開いていく森の中からシャルティアを救出しに向かわせ、攻撃手段のプリンを失ったチョコも穴に落ちる寸前まで追い込んだ。
そしてさらに穴は大きくなり、ウメダへと届いてしまう。
その時、ウメダ周辺の大きな木の上で一部始終を見ていた1人の男性がウメダが手を前に出し、ため息をついて呟く。
やれやれ。
ただでさえ壊滅状態だっていうのに、これ以上町が壊れたら大変だよ。
まったく……。せっかくの異世界なのに、ヴェイルノート君はやりすぎなんじゃないかな?
じゃあ、かなり恥ずかしいけど……使わせてもらうよ。僕のスキル♪
その瞬間、ウメダの周りを囲むように虹色の薄いバリアが出現。
ものすごいスピードで広がる穴は、ガガガガッと大きな音を立てるもそれ以上は広がらず、見事ヴェイルノートの攻撃を止めることに成功。
男性は「よいしょっと」と木から降り、ルルカやグラリオ達が走っている方向をじっと見つめる。
――
一方、足元が深い穴になってしまったチョコ。
お菓子の絵が描かれたノートを手に、空中をふわふわと浮きながらヴェイルノートを探していた。
シャルティアに「嫌」と言われた眼をしながら巨大な穴を見つめるチョコ。
ヴェイルノートが攻撃をする前とは違い、視界の悪い森から一転して、ただ深い穴が広々と続いていて隠れる場所は無い。
しかし時刻は夜。もともと森だったため灯りは無く、穴を見つめても暗闇の中。
そこに誰かが居ても見つける事は難しい。
その時、月の光がチョコを……
否、チョコの背中にピッタリとくっつく少女を照らす。
チョコの背中にくっついていたルルカ。
懐かしげににっこりと笑うと、以前宿屋を崩壊させたあの魔法を発動。
ナイトメア・ネクロエンディア。
以前は巨大な悪魔を召喚して自爆する魔法だったが、実は密かに改良を加えていたルルカ。
チョコの頭上に巨大な悪魔を召喚し、闇と炎のエネルギーを最大まで引き上げ、まるで爆弾のように空中で爆発。
さらに、自爆ではないので悪魔は傷1つついておらず、爆発に巻き込まれたチョコの後頭部を……
フルパワーでブン殴り、ヴェイルノートの攻撃によってできた深い穴……文字通り"奈落の底"に落とす事に成功。
ルルカは喜びのあまり、中指を立てて「落ちろ落ちろ〜!あはははははははは!」と大笑い。
その様子を見ていたのは……
と、改めてルルカの恐ろしさを知りつつもツッコミを忘れない桃華。
そして……
チョコさんがやられましたか……。
それよりも、さすがにやりすぎましたねぇ……。あの魔法は魔力の他に闇の力も消費してしまう……。
"あいつ"を消せるならと使ってみましたが、このままでは本当に逃してしまう……!
想像以上の力を消費してしまったヴェイルノート。
自身の攻撃が届いていない森までふらふらと移動し、木にもたれて休む。
両手で顔を覆い、苦しむヴェイルノート。
シュウウ……と身体中から黒い煙を出しながら、またふらふらと歩きだす。
途端に、木の影から現れたグラリオ。
自分の予想が当たっていたのを察すると、ヴェイルノートに向かって手を広げ、「覚えているか?」と声をかける。
……それは数年前。
日本、五智谷市にいたはずのグラリオは、
ゲノン帝国の中心に位置する「ゲノンムルグ城」の大広間、大きな魔法陣の上に召喚されたかのように立っていた。
辺りには、
天使や人間の絵が描かれた大きなステンドガラス、
神殿やゲームに登場する城にありそうな柱、
赤い絨毯と地球儀がある。
『おやおや、貴方ともあろう者が自分に置かれた状況を理解していないようだ。
……仕方ありません、説明しましょう。それではまず1つ目。先程も言いましたがここは貴方の居た世界ではない。言うならば"異世界"です。
武器、魔法、ギルド、魔物などが存在するファンタジーの世界。貴方も映像で見た事はあるでしょう。コンピューターゲームはお好きかな?』
ヴェイルノートの胸ぐらを掴んで叫ぶグラリオ。
ここまでの態度とはまるで違い、怯えるヴェイルノート。
ヴェイルノートとグラリオの間にジャックの父親、金剛寺優ー郎が現れた。
なるほど……あなたの交渉とは、チョコさんにも見逃してほしいという事ですね……?
わかりました。私はチョコさんに立ち去るよう伝えます。
ノノカさんにはシャルティアさんとヴァーデルさんに立ち去るよう伝えてくれますか?
苦笑いをする優ー郎。
警戒しながら立ち去るヴェイルノートとノノカ。
その後、交渉通りチョコ、ヴァーデル、シャルティアも森から消え、ジャック達の戦いは終わった。
そして……。
草木に覆われた壁。割れた窓ガラス。
まるで滝のように、部屋の中から流れる大量の水。
ミノルが目を覚ましたのは、大きな建物の前だった。
説明を続けるぞ?
ダンジョンには、お宝以外にもメリットがあってね。
ダンジョンの中にいる魔物を倒すと大量の”ジョブ経験値”のようなものを獲得できるんだ。ジョブ経験値というのは……有名ゲーム実況主ならわかるだろう?
それと……
ほんとは諦めてる事があって、ずっと悩んでて、もう無理って思ってた……。
でも、ジャックの言う「嫌だ」って言葉聞いて思ったの。
誰に何を言われても諦めないで「嫌だ」って言えば、きっとなんとかなるかもしれないって。
だから……
ジャック、号泣。
大粒の涙を流すグラリオを、耐えきれなくなったジャックがぎゅっと抱きしめる。
ジャックと抱き合いながら、何度も何度も「笑え!」と叫ぶグラリオ。
けれども、「決して泣かない」と決めていた想いはすでに限界を超えていた。
そんなグラリオを見たジャックは、グラリオを安心させるため、笑顔になって優しく囁いた。
どんな時も涙を見せず、皆を励ましてきたグラリオ。
そんなグラリオをいつも見ていたジャックは、初めて見るグラリオの号泣する姿にほっと安心し、
「ありがとう」という気持ちを込めて「行ってきます」と囁いた。
ウメダダンジョンに響くグラリオの声はどこまでも聞こえる。
ジャックはダンジョンの入り口に立ち、スーーッと息を吸うと、大きな声でハッキリとお別れを告げる。
かくして、
ウメダ、ウメダ周辺の森から旅立ち、
ウメダダンジョンに入って行ったジャックとミノル。
果たして、ダンジョンは安全なのか?
そしてダンジョンを抜けた先は?
ジャックの冒険の次の舞台は?
次回。
ウメダダンジョンの甘い誘惑が、ジャックを襲う!?