120話 ジャックの新たなジョブ炸裂!?ジョビデを目指して!
文字数 4,971文字
ここはウエノ。
ジャックがクエストクロックを登録した冒険者ギルドの反対側に建つ宿屋。
その一室に、ああでもないこうでもないと話し合う2人の異世界人がいた。
だからさぁ、本当に見たんだって!
絶対ミー達の他に誰かいたんだよ!
嘘つけ!ガチャの世界にいたのはボク達だけで、あの変な声は気のせいだって!
いいや気のせいじゃないね!
子供みたいな声だったけど、もしかしたらガチャの世界をおかしくした犯人かもしれない!
ミーが見た「くるくる眼鏡」はきっとそいつなんだ!!
だからガチャの分身も消えたんだよ!!
ドゥーンとパンザレスの話す内容は今回の騒動の犯人について。
起きた事の中で分からない事をノートに記し、ドゥーンが一瞬だけ見たという「くるくる眼鏡をかけた奴」が怪しいという話になった。
するとそこへ隣の部屋にいたハルがやってくる。
2人はなぜか正座になって……
誰が親分だい?
別に寝てたわけじゃないし、1つに絞らないのかい?
はぁ……
あんた達分かりやすいねぇ。
確かにガチャの世界から出る時から気まずいのは分かるけど、別に怒ってるわけじゃないよ?
ビビるのはやめてくれないかい?
でも、あのお爺さん消えちゃったんですよね?
紋ちゃんっていう……
いいんだよ。
その件については話しただろう?
「ガチャの分身と本体は別」で、本物の爺さんには影響はないって。
なら平気さ。
アタシも初めての経験だったからね、ちょっと驚いただけさ。
余計な気遣わせちまってすまないね……
いいんです!!
ミーも知り合いを召喚して池に落ちた時は焦りましたよ!
ハルさん!
このノート見て下さい!
ウエノに戻ってきてから今回の件で起きた事をまとめたんです!
ふむ、そりゃありがたいね。
すまないけどジャックのために借りてもいいかい?
気が参っちゃっててね、ちょうど起きた事を整理したいと思ってたんだよ。
あ!
ジャックに「大丈夫だから落ち着いてくれ」って伝えといて下さい!
パンザレスからノートを受け取り、「やれやれ」とため息をして部屋を出ていくハル。
その表情は笑顔そのものだった。
****
ジャックの部屋。
ルルカは椅子の上で体育座りになったまま、ジャックに背を向けていた。
……まだ気にしてんのかい?
何であんたが何も無く、無事に起きれたかは分からないけど……
もしかするとジャックの潜在能力のおかげかもしれないねぇ……
落ち着きな。
殺したんじゃない、消えたんだよ。
それはジャックのせいじゃない。
あんたもアタシもガチャの世界なんて初めて行って、大切な存在と会えて驚いた。
それだけでもすごいのに急に消えたらもっと驚く。
それよりジャックと仲直りした方がいいんじゃないかい?
このまま旅を続けるのはお互いに辛いよ?
ジャック、
ドゥーンが今回の事についてまとめてくれたよ?
こっちに来な。
さて、
今後覚えてほしい事だけ話すから、しっかり聞いとくれよ?
まずひとつ。
ジャックには潜在能力がある。
この旅はそれを鍛えまくるのが目的さ。
これは大切な人を守りたいって思う気持ちが強ければ効果を発揮しやすくなる。
今は一度しか使ってないし、不安定だけどね。
「味方の強化」だよ。
これをー段階鍛えると、別の効果も現れる。
ドゥーンとパンザレスは崩壊に巻き込まれるはずだった。
けど最終的にアタシ達がいた部屋にたどり着いただろう?
あれはジャックが守りたいと願ったからさ。
「急にパワーがみなぎった」って言ってたから間違いない!
消えた理由は分からないけど、一瞬本体のグラリオに近い姿になったのはアタシも見たよ。
ともかく、ジャックの潜在能力は味方の強化。
自分自身が強くなるのも重要だからいろいろ体験するのはもちろんだけど、これはよく覚えておきな!
いい返事じゃないか!
よし、そろそろ行こうか!
仲直りをして、次のクエストを受けるよ!
あ、あたしも行っていい?
せっかくジャックに会えたし、その……
ごめんなさい!
リリムの事、ジャックが何かするわけないのに、あんな事言って……!!
ううん!大丈夫だよ!!
次のクエストも一緒がいいなっ!
うんうん、それじゃあの2人も呼んでもうひとつ話をしようか。
今後の行動についてね!
ワーオ!
じゃああの人に会うんですね!
命がいくつあっても足りないクレイジー・レディ!
人も人でない者も集まる酒場さ。
そこにはジャンキラーっていうのがいてね、冒険者がクエストをクリアする代わりに好きな情報を何でも教えてるのさ。
なるへそ!
そこでミーのスキルがおかしくなった犯人のヒントを貰うんですね!
ドゥーンだけじゃなくて、他のスキルにも悪さをしてたら止めなきゃいけないもんな!
今後の冒険のヒントに繋がるかもしれないし!
ただ、あそこは"異次元"って呼ばれててね。
近くに「つるてかの宿」っていう温泉宿があるんだけど、そこの客が夜中にジョビデの近くを通ると……
コーン……コーン……
何かを打ち付けるような音が鳴って、呪われるって噂があるんだよ……ヒッヒッヒ……
どうせゴーストの仕業でしょ?
あたしは魔法拳闘士だから、実体が無い相手でも攻撃が当たるわ。
物理ジョブだからね。
戦うなら魔法ジョブがいいと思うよ。
ちょうどいいからジョブチェンジしてきな?
ジャックもやる!?
魔法拳闘士!!
それともネクロマンサー!?
じゃあアタシはクエストを受けとくから、ジャックはジョブチェンジしたらパーティに参加しな。
新しいジョブに期待しながら冒険者ギルドに入るジャック。
数分後、とあるジョブになってハルがクエストを受けたパーティに参加。
ハル、ドゥーン、パンザレスとバディして「ジョビデ」を目指すけれど、気になるクエストの内容とは……?
****
それから数時間後、時刻は夕方。
ここはアーリーの森。
アーリーの森とは……
ウエノの南にある深い森で、かつて森を抜けた先にある「アーリーナイト城」に続く道があった場所。
今は使われていなくて、茶屋などが建っていたけれど廃墟となっている。
特に森の奥にある山荘ではスケアゴーストという強力な魔物が住み着いているという噂があって、心霊スポットとして有名である。
茜色の夕日が木々を照らす中、薄汚い服を着た男達が荒い息を立てながら走っていた。
へへへ……!
手に入れたぜ、宝の地図!!
これで俺も異世界人のスキルが手に入るんだ!
男達は剣を手に取って斬り合う。
「その場所に行けば異世界人のスキルが手に入る」という地図を手に入れたものの、仲間割れが始まってしまった。
するとその時、夕日に混じってオレンジ色の球のような何かがどこからともなく浮遊。
まるで墓場で起きる怪奇現象の「火の玉」のように、ゆらゆらと飛んで男達に迫る。
その球の正体、それはなんと……
生首…………ではなく、
胸から上の、上半身だけのジャック。
オレンジ色の霧のようなものを纏って、うらめしそうに男達の目の前を浮かぶその姿は、まさに……
って、何だよガキかよ!
怖い顔しやがって!そこをどきやがれ〜!
そんな事言わないでよ〜
足が無いんだからいいじゃないかぁ〜……
ルルカとジャックを見て
一目散に森の中を走って出て行く男達。
けれど「これだけは手放さないぞ!」と地図を必死に掴んだままの男。
「それならしょうがないねぇ!」と、
恐怖のラストを飾るのは皆さんご存知のあのお方……。
ひひひひひひひひ!
持ってる物全部置いてきなァ!!!
星乃家って恐ろしい家系なんだなぁ。
頭に包丁かましてるお婆ちゃんを
アイドルの孫娘が見たらどう思うだろうか?
星乃未来、異世界で人気のアイドル。
星乃紋三郎、スケベなスーパーお爺ちゃん。
そして星乃ハル。
本当に血縁関係ある?と疑ってしまうほどのヤバさ。
一応自分だってホラーチックな感じで男を驚かせたのに、ハルさんが出てきたら自分なんてミジンコみたいなもの。
それに本気で怖がる男達がかわいそうに見えるし、まさにラストを飾るのに相応しい……
ごめんなさ〜い……
腰抜けちゃってますけど立てますか〜?
く、来るなああああああ!
バケモノめえええええええ!
せっかくジャックが心配したのに慌ててその場から逃げ出す男達。
持っていた地図もポーンと投げ捨てて森の入り口へと全力疾走。
しかし、他にも被害者がいたようで……?
クエスト
「森の愚か者を追い出せ」をクリアしました。
よし、これでクエストは終わったよ!
みんなお疲れ様!はっはっはっは!
バーさん!!そろそろ変装解いてよ!!
心臓がブレイクしちゃうってばよ!!
なぜかジャックを本名で呼ぶドゥーンと
本名を間違えるパンザレス。
そう、ジャックの新しいジョブは「ファントム」。
体の一部を幽霊のように実体化せずどこかに飛ばしたり、扉や壁をすり抜けたり、少しの間なら浮かぶ事もできる。
で、悠哉君は何でファントムになったんだい?
やっぱり透明になって女湯を覗くためかい?それともスカートめくり?
そりゃランダムだからね。
自分の気持ちや目標で決まる「ジョブ診断」の結果、今のジャックにはお似合いなんだろう?
まぁ、半分幽霊みたいなものだからゴースト系の魔物は寄ってこないと思うよ?
おもしろそうだしいいじゃないか!
用心棒にはなるって事かー。
で、やっぱりジョビデの近くにあるっていう温泉宿には行くんだろ?
ぎゃあああああああああああああああああああああ!??
ジャック&ルルカ&ハルのトリプルツッコミを受けて絶叫するドゥーンとパンザレス。
夕日はだんだんと沈んでいき、木々はオレンジに染まっていたのが暗いブルーへと変わっていく。
霧もかかっていき、時間の経過を早く感じさせる。
アーリーの森を抜けた先にある、
「異次元」と呼ばれる酒場ジョビデ。
そこに「愚か者を追い出せ」というクエストの依頼主、ジャンキラーがいる。
その人物は人か魔物か獣人か、
ジャック達の敵となるか味方となるか。
それを知るのは――
ヒッ!?どうしたんだよ!?
酒が入った樽が勝手に壊れたぞ!?
あーあーもったいない!
なぁジャンキラーさんよぉ!
こりゃ何かが起きる前兆なんじゃないか!?
【ジャンキラー】
来るわね……来ちゃうのね……?
ふふふ……ふふふふふ……!
ジョビデの店主ジャンキラーと、それを支える店員達……。
厄災も付いて来てる……
分身が消えたのはあなたの力じゃない……
"声"を信じては駄目よ、ジャック……
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