179話 ヴェルグの過去!悲劇と約束の物語!
文字数 6,397文字
前回のあらすじ。
ジャックサイドはモリゾーが少年とぶつかったのをキッカケに食堂に入り、店員のバルトリオに敵か味方か疑われるも和解。
知っている情報を提供してくれる仲間となってくれた。
そして一方、ヴェルグは魔法少女になって変身する事で要塞の中を自由に歩き回るつもりが、
思っていた物と違う「演歌歌手」になるし、銀杏の強烈な匂いが出るし、不審者として追いかけられるしで散々な目に。
そして……?
スタジアムの会議室に居たナイトハルトは、どうやらヴェルグにとって「師匠」と呼ぶくらいの重要な人物の模様。
今回は2人にどんな過去があったのか、その出会いと悲劇と今に繋がるお話――。
****
盗賊や魔物に襲われた、土砂崩れなどの災害に遭った。
そんな困った人達を助けて、多くの信頼と人気を誇るクラウディア連合軍。
彼らの活動はジャックがまだジャミ子としてグラスオーヴィのスタッフとして働いていた時にはすでに始まっていた。
そんなある日の事。
「すでに一番隊から十番隊まで作られているのだからこれ以上は必要無い」という意見に反対して、彼らが普段使っている施設をドタドタと走り回る者がいた。
【エディ(2年前)】
何でダメなんだよ!いいじゃねーかケチ!
正義の味方はいっぱい居た方が良いだろ!?
ほら、この人数を見てくれよ!
バッカじゃないの!?
新しい隊員候補をこんなに連れてきて何番隊まで作る気!?
えーと、1つのグループで5人だとして、100人居るから〜……?
まぁいいや、たくさん!!
はぁ……
あんたと話してると無駄に疲れるわ……
もし本当に三〇番隊まで増えたらどうするつもりよ?
【ナイトハルト(2年前)】
連合の規模については会議で決まった事だ。
1人の意見でいちいち変わる事などあり得ない。
それに、ここは隊長以外立ち入り禁止の廊下のはずだが?
融通が効かないケチ。
マニュアル通りにやらないと気が済まない。
遊び心ゼロ。
ちょっと!なんて事言うの?
この人は絶対に怒らせちゃダメなの!
だって……!
と、とにかく連れて来た人達をなんとかしなさいよ!
ちゃんとお家まで送り届けるんだからね!?
クラウディアさんはいらっしゃいますでしょうか……?
この連合軍を作った人だと聞いたんですけど……
【クラウディア・ビギンズ(一番隊隊長・2年前)】
天使が住む天界、魔族が住む魔界……
我々の中にも元々は違う世界に住んでいた者が集まっているが、
どの世界でも武器、魔法、ジョブ、ギルドという言葉を聞けばその意味が分かるはずだ。
しかし、彼女はそれらを「現実ではなくゲームの中にあるもの」と認識し、
魔物も実際に見た事がないと言う。
あの子、森で倒れていた所をクラウディアさんに拾われて助かったって言ってました。
それでこのバカ……
エディが人を集めている時に恩返しをするため、付いてきたみたいですね。
本当に不思議だ。
金銭も武器も何も持っていない状態だったからな。
あのまま見過ごす事は出来なかったんだ。
理解出来ませんね。
そのような得体の知れない者を受け入れて、もしもナイトメア連合軍のスパイだったらどうするつもりですか?
大体、魔物に襲われて命を落とす人はいくらでも居るのに、見た事がないなんて……
言っている事がめちゃくちゃだ。
今すぐ追い出すべきです。
ケチ。いーじゃん困ってるんだから。
住む所も食べる物も無いなんてかわいそうじゃん。
っていうかわざわざ恩返しに来てくれるような優しい女の子にそんな事言える?
オレには無理だね!
おいおい!どこ行くんだよ!
ちょっと待てって!本気で追い出すつもり!?
考え直せよ!かわいそうじゃないか!
ナイトハルトさん、部屋を出て行っちゃったよ……!
どうしよう、このままじゃあの子……!
大丈夫、こうなる事は予想していた。
彼女には私しか知らない部屋に居てもらっているんだ。
クラウディア隊長。
この連合を作り上げたあなたの権限であの子の保護を続けてあげて下さい。
知らない所に突然放り出されて、誰にも信用されずに生きる術が無いなんて可哀想です。
そうだそうだ!
あんな奴放っといて、あの子の居場所を作ってあげようぜ?
他の隊長もちゃんと話せば分かってくれるよ!
ありがとう。
彼女の事は元の世界に帰る方法を一緒に探すのを前提に、「衣食住」を確保し、私の監視下に置こうと思っているんだ。
そこで2人にはギルドの活動もあるし、忙しいと思うけど……
我々が生きるこの美しい世界の事を教えてあげて欲しい。
これは任務ではないが、協力してくれるかい?
異世界人。
それはディアスやプラント、エルフ、マギアドールなど様々な種族が集うクラウディア連合軍にとっても理解しがたいもの。
ましてこの時は敵対するナイトメア連合軍から各隊長が所属するギルドや家族が攻撃を受けて、会議室に全員が揃う事は難しい時期。
そんな時に正体の分からない人物が現れれば敵と疑うのは仕方のない事だった。
……そして、それから数ヶ月が経過。
女性は「雪菜」と名乗り、
サンダーソニアやエディのおかげでこの世界の常識を知っていき、
隊長の手伝いをしているうちに打ち解けて行く。
そして「いつも1人で修行をしている」と聞いて、小川で剣の素振りをするナイトハルトの元へやって来たある日――。
事態は大きく変化する。
お前はクラウディア隊長に拾われてから随分と信頼を得たようだが、俺は違う。
汗をタオルで拭いている所を襲うつもりだろうが、そんな事じゃ俺は殺せないぞ。
剣を取れ。相手になってやる。
戦闘の経験などあって当たり前、魔物なんて何体も相手にしているだろう?
俺を騙せなくて残念だったな。
……図星か。
クラウディア隊長はいつ殺すつもりだったんだ?
まぁどうせ、もう叶わないが……
いい加減にして下さい。
私は武器で人を傷付けた事なんてありません。
それにモンスターなんて実在するわけない。
人が作った空想上の生き物です。
突如聞こえた声の方へ剣を投げるナイトハルト。
草むらが揺れた途端、姿を現したのはなんと、重傷の……
やる気か?おいおい、やめときな。
魔剣ってのは頭に血が登って振り回してる奴には向いてないんだよ。
なぁ、ナイトハルト君♪
はははははは!
そういや数年前、俺と同じナイトメアの誰かに家族を殺されたんだよなぁぁぁ?
悔しかったぁ?苦しかったぁ?死にたかったぁ?
そうだ!もっと憎め!!
お前は"ここ"にいるべきじゃないんだ!
魔剣に闇を込めろ!"こっち"へ来い!!
落ち着け!
バベルは虫を操って君の思考を変えているだけだ!
目を覚ませ!!
イヒヒヒヒ!逃さねぇよ!
お前ら3人とも俺達の所に連れて行くんだ!
特にグラリオ……。
お前とゴラゴランは親友だよなぁ?
もしも要塞に閉じ込められている事を知ったらどんな顔をするかなぁ?
グラリオ〜〜今助けるぞ〜〜!
どんな卑怯な罠があろうとも、私は諦めな〜〜い!
イヒヒヒヒ!イヒヒヒヒヒヒ!
そのツノ……ディアスか。
お前、クラウディア連合軍の仲間か?
なるほど、俺は部外者に余計な事を喋っちまったのか。
ならどこの人間だろうが死んでもらうしかねぇな。
私はこの通り重体だ。
ここから走ってどこかに身を隠すのは不可能。
大人しくじっとしているから、私の親友に手を出すのはやめてくれ。
彼がお前にとって不都合な事実を知ってしまったのなら、虫を使って記憶を消せばいいだけ。
もちろんこの女性にも、魔剣士の男にも手出しは無用だ。
……私のスキルは「消す力」。
消せるものは人そのもの、痛み、そして記憶……
それならちょうどいい。
グラリオとヴェルグ、お前達が親友である事も消してしまえ。
えっ……?
お前、本気で言ってるのか……?
なぁ嘘だよな?本当はスキルなんて使う気無いんだろ?
ここにいる全員の命を保障するにはこれしかないんだ。
当然、小細工も演技も通用しない。
奴の言う通り、今日ここで会った事も、起きた事も、
私達が出会った時の事も、忘れてもらうしかない。
いや!何とかなる!!俺は諦めねぇぞ!!
あんな奴、俺がブッ飛ばすからよ!そんな事……!
君なら、覚えていてくれるだろう?
どんなスキルや魔法を使って記憶を消しても、きっと。
いいかい?私と君は親友だ。
どうやって出会ったのか、どんな思い出を作ったか、
どんなに時間が経ってもいいから、
おぉそうだ。
せっかく話すならゴラゴランやタケルも呼んで、
ジャック君、ルルカちゃん、サキちゃんも呼ぶだろう?
それから料理を作って、みんなで囲みながら楽しく過ごすんだ。
拳と拳をゴツンと当てて、再会の約束をするグラリオとヴェルグ。
演技をせずにきちんとスキルを使い、ヴェルグと雪菜の記憶を消すと、2人は意識を失う。
気絶しただけだろう。
時間が経てば目覚めるが、きちんと記憶は消えている。
後で誰かが気付いてくれればいいんだが。
ん?後は魔剣士の男だが……
どうやら彼もヴェルグと同じように気を失っているようだな。意識が無い。
イヒヒヒ……別にいいさ。
必ずまた”こっち”に引きずり込んでやる。
恨み、憎しみ、そういう心の闇を持った奴はクラウディア連合軍には向いてないんだよ。
じゃあ行くぞ。お前をメテオヴァラスの要塞に連れていく。
君にはグラリオという「親友」が居たことを、いつか思い出してくれよ。ずっと待ってるから。
ナイトメア連合軍、バベルの襲来。
ナイトハルトが心の闇を負った事。
グラリオとヴェルグの別れ――。
後にこの事件がキッカケでクラウディア連合軍の戦力と規模が拡大。
十番隊から十五番隊まで作られた。
一方ナイトメア連合軍は、
後にグラリオとタケルを人質にゴラゴランをおびき寄せる事に成功。
彼はメテオヴァラスに敗北する……。
さぁ、これで最後にしようじゃないか!!
相手が下っ端とはいえ無抵抗で耐えた事は認めているんだ!
お前が俺に勝てれば2人を解放して、
考え方が間違っていたと認めてやるよ!!
私はサンダーソニア。
このクラウディア連合軍の七番隊隊長よ。
あなたはこの近くの小川で倒れてて、たまたまナイトハルト隊長の様子を見に行った隊員が見つけたの。
彼は精神的にダメージを受けてて、意識を失っている状態。
ねぇ、一体何があったの?
雪菜ちゃんもあなたと同じで何も覚えてないみたいだけど、絶対何かあったはずよ?
ちょ、ちょっと待って!
安静にしてなきゃダメよ!どこへ行くつもりなの?
分からない……
でも頭の中に知らない男が浮かんで、どこか遠くに行くんだ……
俺はそれを追いかけたい……!
待って欲しいのに、男はどんどん遠くに行って……!
今の声は……ナイトハルト隊長!?
もう大丈夫なんですか!?
この男の名前はヴェルグ。
見ての通りディアスだ。
バベルと戦おうとしていた。
って……ナイトハルト隊長、もしかして覚えてるんですか!?
小川で何があったか!!
『ん?後は魔剣士の男だが……
どうやら彼もヴェルグと同じように気を失っているようだな。意識が無い。』
や、やった!!
すぐにクラウディア隊長を呼んできますね!
2人とも絶対にそこを動いちゃダメですよ!!
いいですね!?
何か取り返しのつかない事があったはずだ!
大事なものを失ったはずなのに、それが何なのか分からねぇ!!
「グラリオ」。ゲノン帝国の幹部の1人だ。
お前はあの時、その男と一緒に居た。
お前にとって彼はどんな存在なんだ?
何か関係があったんじゃないのか?
良かった!ちゃんと居た……!
クラウディア隊長を連れて来ましたよ!!
ちょ、ちょっと待って下さい。
まさか、このヴェルグって子をここから追い出す気じゃ……
私はしばらく彼の様子を見る事にします。
つきましては、私を三番隊の副隊長に、
ヴェルグを三番隊の隊長にして下さい。
突然のナイトハルトの希望によって、
なんとヴェルグは三番隊の隊長になって、
雪菜はその隊員のメンバーとなった。
その後、ナイトハルト、ヴェルグ、雪菜の3人は共に過ごし、徐々に仲良くなり、戦いの修行も行い、
ナイトハルトが記憶を失った事で忘れてしまった常識やジョブの知識、クラウディア連合軍の事、ヴァーデルの事などを教えていく日々が続く。
そして……
グラリオは俺の親友。
でも厄介な連中に連れ去られた。
全部忘れたのは敵の仕業で、いつかぜってーブッ飛ばす!!
それと……
必ず思い出してやる!!
グラリオと初めて会った時の事も、思い出も、全部!!
寂しくなるね。
このままここに居てくれてもいいのに、本当に連合軍を辞めちゃうの?
あぁ!
ナイトハルト師匠の厳しい剣の修行から解放されると思うと安心するよ!
まぁ、俺にはギャラクシーの方が合ってるけど。
それに、やっぱり三番隊の隊長は師匠しか居ないよ。
今日まで面倒見てくれてどうもありがとう。
雪菜副隊長とお幸せに〜。
ハイハイ。
ナイトハルト隊長と雪菜副隊長、カップルが成立するなんて思わなかったよ。
これからも三番隊頑張ってくださ〜い。
元気でな。
どんな事があっても挫けずに前を向くんだ。
ヴェルグなら大丈夫だ、必ず全部思い出すと信じてる。
おうっ!!
師匠のおかげで前を向けたんだ!何があったって諦めたりしないよ!!
こうして、
ヴェルグはクラウディア連合軍を辞めて、
グラリオを探し求める途中、ラトリアを訪れて、
獣人街でジャックと出会い……
今に至る。
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