7話 オルテガと男の約束
文字数 6,086文字
(オレの名前はジャック。
突然この異世界にやってきたオレは、悪名高いゲノン帝国の幹部グラリオさんの提案で「依頼主の希望した事を何でもする代わりに冒険のいろはを教わる」という目的でクエストを募集。
知識と経験を積み、異世界の冒険者としてレベルアップを目指すつもりだ。
しかし……。)
(遥か遠くにあるという学園都市からやってきた女の子、リリカちゃんのクエストによって出会ったもう1人の女の子……。)
(学園の卒業生でネクロマンサー、天才美少女のルルカ様がこのウメダに住み着き、なんとオレは、彼女のお気に入りになってしまった……。)
ううう……ルルカちゃんの魔力吸収、血を吸わないといけないって言ったってどうしてオレなんだ……。
おお、親愛なるクラスメイトよ……。我の体力はもう0だ……。
後は頼ん――
えええ!?
っていうか、なんでオレの部屋にいるの!
ルルカちゃんが泊まってる部屋は隣じゃないかぁ!?
だってジャック、おもしろいんだもん!
あのおばけの件だって責任とってもらってないし、一緒にいることにしたの!
「ギャランドゥ」と「厚化粧」でしょー?
大人は好きじゃないもーん。
(そう、ルルカちゃんがこのウメダに住み着いてからというもの、大人という大人に突拍子もないあだ名をつけ、大人達のプライドはズタズタになっていた……。)
あんた、いつまで隠れてるつもり?さっさとあたしに従いなさいよ!
さぁ!あたしがあんたの主人よ!
ルルカ様とお呼び!!
はいっ!
幽霊屋敷の噂の正体はルルカちゃんとおばけさんでしたし、これで私のクエストは解決しました!これからは私も一緒に挑戦していいですかっ?
良かった!
私、おにーさんと一緒に東の大陸の事を知りたいんですっ!
ねぇねぇ!じゃあ、とっておきのクエストがあるんだけど……その前に、ジャックを呼んできてくれる?
ジャック君。
ジョブカウンターへようこそ。
このジョブカウンターでは、ジョブという職業に就く事ができる。
クエストの度にワープするよりも、実践の経験を積みながら依頼主の元にたどり着いた方がいいと思ってな。これからはモンスターとの戦闘もあるぞ!
いやったああああ!
ついに来た!来たぞおおおおおおお!
(異世界といえば剣士や魔法使い!かっこいいドラゴンに乗ってボスを倒したり、とんでもない魔法で大勢のモンスターを一斉に倒したり、ストーリーの鍵を握る勇者になったり、お約束でありながら誰もが憧れる要素!ジョブ!!
そしていつか……!)
いいかい?
戦闘とは命の奪い合い、自分が勝利するという事は相手は敗北。
つまり、自分は生きているが相手は……?
そうだ。
この世界ではいつ誰がどこで負け、死ぬかわからない。それは「当たり前」だが、恐ろしい事なんだ。
だから、これから先どんなにレベルを上げたくさんの技や魔法を扱う戦士になっても油断してはいけないよ。もちろん「自分は強いんだ」と慢心するなんてもってのほかだ。
力は自慢するものではない。
守りたい誰かを笑顔にしてこそ、力なのだ。
コホン。
というわけで、本題だ。
このジョブカウンターでは種族、性別、身分関係なく好きなジョブになれる。
とは言っても、初めてジョブカウンターに来る者は予め決められた「基本職」の中から好きなジョブを選ぶ形になるんだがね。
剣士、ランサー、シーフ、レンジャー、ハンター、ファイター、魔法使い、アーチャー、ガンナー、モンクだ。多いだろう?
あのなぁジャック、チートみたいなモンあるわけないだろ〜?こういうのはキチンと順序を踏んででっかくなるんだよ~!
「ジョブ診断」。
誰でも無料で何回でも利用でき、己の運命や特技、才能、考え方、心の変化、日々の行いによってどのジョブにもなれる。
えっ。それってもしかして、才能さえあればいきなりすごいジョブになれたりするってこと!?
その通り!
なれるジョブは基本、上位物理、上位魔法、特殊、その全てだ。例えば……
はいはい!あたし、特殊ジョブのネクロマンサー!ちょちょいっと墓地行ってその辺の湿気臭いヤツを魔法でババーンとやって、ムリヤリ従わせんの!ジャックもやる〜?
そ・し・て、アタシは特殊ジョブのギャラクシー!
宇宙の神秘を拳に乗せて、敵をねじ伏せる圧・倒・的・物・理ジョブ!!!
知らないの?
格闘系ジョブの中じゃ有名なポーズよ?
ある異世界人が広めたおかげでブームになってるんだから!
ナイスナイス!なかなかやるじゃな〜い!ジャックもギャラクシーヤっちゃう〜??
私は上位魔法ジョブのソーサラーです!
回復魔法が使えない代わりに、攻撃魔法を得意とするジョブなんですよ!
あたしも魔法科だったわ!
ま、飛び級してあっという間に卒業したけど♪
……ふっ。
私はジェネラル。物理防御と物理攻撃が高く、剣、槍、斧を装備できるジョブだ。
その代わり、スピードは劣るがね。
みんなすげーなー!
オレっちもなんかすげー感じのジョブになりたいわー!
よし。
前置きが長くてすまなかったな。
それでは、この蒼い玉に手を当て目を閉じてくれ。
ここでワンポイントアドバイス。
緊張、不安は捨ててリラックスだ。
さぁ、肩の力を抜いて気を楽にして……そうだ。気持ちが落ち着いてきたな。
眩い光に包まれるジョブカウンター。
そして……。
――
ウメダの入り口。
ジョブカウンターの後武器屋に寄ったジャック達は、いざクエストに出発。
じゃあ気をつけてね!
危ないと思ったら引くのも大切よ!
わ、私も行っていいですか?
実は何も思い出せないんです!1人はイヤです!
****
ウメダ周辺。
ジャック、ミノル、煌、ルルカ、リリカ、幽霊の少女は、深い森に差し掛かった。
そうです!
今回のクエストの依頼主さんは「ソラマシ」という町に向かっている途中だそうなんですが……
モンスターに襲われるのが面倒だからって、誰でもいいから蹴散らして欲しいんだって。
まぁでも、ソラマシはこの森の奥だからこのまま歩いてれば会えるでしょ。
じゃあこの先にいるのか!
依頼主さんってどんな人なんだい?
それなんですが、どうやら東の大陸では有名な技師の方のようですよ。
かの有名な騎士の国「セント・ブルム」のお城や、技師の町「マギアルクラフト」の飛空挺に携わった、まさに技師の中の技師。「技師の神様」とも呼ばれているそうです。
この世界、飛空挺もあるのか!!乗ってみたいなぁ~!!
あのスケベでしょ?
腕は確かだけど、1つだけ残念な所があるのよね〜……♪
……!
私、その人の事知ってる気がします……。
たしか、作った物にお名前をつけるのがヘンテコでしたよね?
ヘンテコなんてレベルじゃないわよ。
アイツ、センスのかけらもないわ。ブッとんだ名前が好きなのよ、きっと。
つまりネーミングセンスが皆無ってわけか……。いるよね、そういう人。
いやほら、グラリオさんがギャランドゥ、ゴワスさんが厚化粧だっけ?
依頼主の人と気が合うんじゃないかな〜なんて……
あれ、おかしいな。
ウメダから一緒に歩いてきたはずなのに……。
拙者……どうせ冒険に出るなら右も左もウロウロしたいエンジョイ勢の忍じゃあ……。
でもオレっちの股間は〜……いつだって上向いてますからあああああ!!!
残念!!!
ワーオ……。今なんか聞こえちゃいけないセリフが聞こえた気がする……。
行ってみよ!
逆らうヤツは蹴散らしてあげるから平気平気!行きなさい、あたしの下僕ども!
おお!?ルルカちゃんの足元の魔法陣からゾンビが出てきた!
走るジャック、ミノル、リリカ、ルルカ。
小川に着くと、1人の男性が野生のモンスターに襲われていた。
誰がスケベじゃ!失礼な奴だな!!
とにかくこいつらなんとかしてくれよ!
あれ?スケベ?
ってことはこの人、クエストの依頼主の人!?
悪いな!出遅れちまった!
敵の数が多いが、やっちまおうぜジャック!
あいつら思った以上にタフでびっくりしたよ……!これがバトルか……!
ふん、ザコモンスターのくせに大勢来るからあたしの下僕どもでフルボッコするしかないじゃない。あ〜あ、魔力の無駄遣いよ。まったく。
私の魔法、どうでした?
ドーンってやりましたよ!ドーンって!
ふぅ。
にしても、ジャックとかいう奴遅いじゃねぇか〜。
――
ソラマシ。
酒場。
男性の奢りで、ジャック達は腹ごしらえをすることに。
はっはっはっは!
そうかおめーがジャックか!わりぃわりぃ!!
さぁ遠慮なく食べてくれ!
ゲッ!?
1番たけー奴じゃねぇかー!?5000リエルって高すぎだろー!?
「向こう」の料理があるって末吉さんが言ってたもんね。
気にすんなって!助けてもらったんだ、当然さ!
それよりジャック、オレはおじさんって名前じゃねぇぞ?
【オルテガ】
オレの名はオルテガ!
マギアルクラフト出身の技師よ!!
バカ言ってんじゃねぇ!
男は誰だってスケベな心を持ってんだ!
ヘンタイで何がわりぃ!
よくぞ聞いてくれた!
1にワーオ。2にワーオ。
3、4はたぷんたぷん。5にボイン。
わかったか?
あ〜嬢ちゃんにはまだ早えな。
もっとおっきくなりゃそのうち……
デヘヘ……❤︎
へいへい、チビは黙ってな〜。
オレは今未来の可能性をだなぁ……。
メニュー、ここからここまで全部注文するわね。ごちそうさま❤︎
ううう……。容赦ないぜこのチビ……。
本当に10皿も食いやがった……。メニュー制覇する気か〜?
あぁ、ちょうど森を抜けてここに来たくてよ、助けてもらったからクエストクリアさ。おつかれさん♪
ミノルちゃんだっけ?
なかなかいい体つきしてるじゃない。
何カップよ?デヘヘ……。
この子、ウメダの近くの屋敷で会ったんですけど記憶がないみたいで……。
えっ。オルテガさん、この子と会った事あるんですか?
会ったも何も、あの屋敷のリフォームの依頼で一緒に遊んだんだよ。
確か名前、ノノカだっけか?
……ジャック。
この子の面倒、見てやってくれるか?
ずっと1人ぼっちで、ずっと待ってんだ。
……安心しな。
ジャックはおめーから離れたりしない。
今までの記憶も全部思い出せるはずだ。
それからジャック。
いつか一人前の冒険者になったら、飛空挺と技師の町「マギアルクラフト」に来い!
待ってるぜ?
ちぇ。スケベのくせに。
ちょっとだけかっこよかったじゃん……。
おいハーレムかよー!羨ましいぞこらー!オレっちも混ぜろー!
かくして、初めての戦闘を経験し、有名な技師オルテガと出会ったジャック達。
幽霊屋敷で出会った少女、ノノカの記憶は戻るのだろうか。
そして、オルテガの言った「待っている」訳とは。
そして、クラスタの末吉、マギアルクラフトのオルテガとの冒険が待っている事を、ジャックはまだ知らない……。
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