49話 ハートブレイク 後編
文字数 7,244文字
前回のあらすじ。
グラスオーヴィの食堂で全員が自己紹介した日、
ジャックに告白する寸前まで行ってしまった事が頭から離れず、ジャックを気にしすぎてしまう自分の気持ちに悩んでいたソニア。
今まで恋などした事のない彼女は、
ジャックの事を好きになってしまったのではないか、これが恋なのかと悩んでいた。
その後、
戸惑いながらもジャックに触れたソラのおかげで、氷が溶け一命を取り止めるジャック。
ソラ、リリム、ノノ、リサ、ソニア、そして小鳥は、グラスオーヴィを休みにする事で、全員で目を覚さないジャックを看病する事に。
しかし……
"何か"に精霊が怯え、魔法が使えない
その時、自分の後ろにいた小鳥の方から光の粒が飛んでくるのが見えたソニアは、それが治癒魔法だと気付き、小鳥がジャックを凍らせた犯人ではないかと疑う。
……ジャックと同じ異世界人で、
グラスオーヴィで働く女子高生。
ジャックに対する気持ちに悩むソニアを問い詰めた彼女は、ソニアも含めソラ達もジャックの部屋から出て行くのを確認すると……
小さく呟くと、ジャックの寝顔をぼんやりと眺めながら部屋を出て行った。
****
グラスオーヴィ。
ジャックの部屋。
頭に乗っている濡れたタオル。
真新しい白とピンクの2枚の布団。
「ボーン」と鳴る壁にかけられた丸い時計。
ジャックは目を覚まし、
12時を指した時計の針をぼんやりと眺めると、リサが「昼になったらみんなで看病する」と言っていた事、ハーレムの夢で起きた事を思い出した。
そう。
「こっちにおいで」と言ったジャックに、顔の見えない女の子はバケツを振りかぶり水をかけた。
そして気が付けば朝になり、凍ってしまった。
ジャックは顔の見えない女の子の特徴を思い出そうとするが、顔は見えず服装も何も着ていない状態だったので誰だかはわからない。
白い髪のナナならメイド服は薄い黄色。
このように、もし服を着ていれば、本人の髪の色、または目の色に近い色のメイド服を着ているはず。
「それがわかれば誰が水をかけたのかわかるのに」と推理するジャック。
髪型は?身長は?
大人の体?それとも子供?
胸の大きさは?
男ではない、という事しかわからないジャックは、ふと何かを思い出す。
それは……
突然どこからか女性のような声が聞こえ、辺りを見渡すジャック。
部屋にはベッドの他に、長い間使われていなかったクローゼットや机、剣などの武器を入れる木箱などが置いてある。
しかしそれらしい人影を見る事はできず、
何もわからない……と思いきや、ジャックは"ある事"に気付いた。
そりゃあんたとは……
ゔゔん。さぁ?何の事かしら?
あたしは……そうね。「天の声」とでも名乗っておくわ。
そうそう。その天の声でいいわ。
さて……あんた、気になる事があるんじゃない?
したと言えばしたし、してないと言えばしてない。
物の感じ方は人それぞれだから、あんたは別に気にしなくていい。
でも、ここは客を除いて従業員が全員女の子の酒場、グラスオーヴィ。
みんな年頃の女の子であんたに惚れやすい。ソラとか言う男の子もベタ惚れみたいだし、ただの好意がドロドロの三角関係にも四角関係にもなる。
ジャック。
あんたを凍らせた犯人は、あんたに惚れた誰か。
しかもこの後、あんたを看病する誰かの中にいる。間違いないわ。
そうよ。
まぁせっかくハーレムなんだから、みんなに看病してもらいながら犯人を探ってみなさい。
答えはきっと、後でわかるから♪
そうだ!
画面の前のあなた達も探ってみなさい♪
ほらほら、もうじき来るわよ。
あんたを看病する最初の女の子が……♪
じゃあね〜♪
思ってもいなかったジャックの笑顔に照れてしまうミノル。
ジャックに顔を近付けようとするが、今までジャックが拒否していた事、顔が怖いと言っていた事から、もじもじとしていた。
するとジャックは「あぁ、そっか」と何かを思い出し、ゆっくりと起き上がり、お互いの顔を近付けようとする。
その途端、ミノルは予想外の行動に驚き、慌ててジャックから離れようとするが……?
甘い声でミノルに囁き、左手でグイッとミノルの腕を引っ張り……
右手でミノルの胸を服の上から触ろうとする。
途端に叫び出し、バチーーンとジャックにビンタするミノル。
そのまま部屋を出て行ってしまった。
何でも何もあるか!
そもそもジャックは凍ってたんでしょ?
あんたがジャック一筋なのは知ってるけど、今は体調が悪いんだから看病が先でしょ!
変な言い方だけど、ジャックとイチャイチャしたいなら今は我慢しなさい!
普段のツッコミよりも少し必死になり、普段通りのソラを止めるリリム。
ふとリリムは横になっているジャックに目をやる。
そう。
昼になる前、リリムもジャックが会話した"天の声"と名乗る誰かと話していた。
ただ、その内容はジャックとは違い、リリムは部屋に入った時からジャックを警戒していた。
なぜか勝手にルルカがジャックに手を出された事にして、グラスオーヴィの風紀を乱す未来のハーレム王を阻止しようと立ち上がるリリム。
すぐにソラに注意を促し、看病するため用意してきた道具を取ろうとするが……
ソラに腕を掴まれていたリリムは、
ミノルと同じように全力でソラをビンタすると部屋から脱出する事に成功。
ソラはまるで夢が覚めたかのように、キョトンとした顔でリリムの後を追いかける。
服のボタンをプチプチと外しながら、ジャックが寝ているベッドの布団の中へ入ろうとする結衣。
ジャックは、まるで目の前のご馳走によだれを垂らすように布団をめくり、結衣を受け入れようとする。
その時、
ヤバいニャルシーの魂に、火がついた――。
ジャックの非道な言葉に泣き叫ぶナナ。
ジャックにビンタをしようと、猫のように飛びかかる。
しかしその時、
ジャックの部屋の扉が突然開き、物音とナナの叫び声が聞こえたのか、ソニアが入ってくる。
次の瞬間、あろうことか、
ジャックは自分に飛びかかって来たナナの腕を掴んで自分の目の前に引っ張ると、
無理矢理、ナナの唇にキスをした。
開いたままの扉からひょっこりと顔を出し、部屋の中を覗くリサ、ノノ、ヒナは見てしまった。
ソニアが手に持っていたオボンから落ちていく氷枕と、
手作りのお粥、ソニアがいつも飲んでいるお気に入りのお茶。
そして、体調不良に良く効くと聞いて買いに行った薬。
そして、
ただ呆然と立ち尽くすソニアと……
抱き合いながらキスをするジャックとナナ。
途端に、ソニアのジャックに対する気持ちに気付いていたリサは、ソニアを部屋から出そうと呼んでみるが……
笑顔を浮かべていたソニアの目から涙が落ち、
ソニアはすぐに部屋を出て行ってしまった。
リサはすぐにソニアを追いかけ、部屋から出ようとするが……