126話 アーリーナイト城を救え!パンザレスの知られざる力!
文字数 5,112文字
グロウブリッジ。
アルクと対峙していたパンザレスは、クラーチェからジルベスタがすでに亡くなっている事と「忘却の化身」について聞く。
忘却の……
って事は、じゃあこいつの槍と同じ!?
武器って喋るのか!?
忘却の化身は
古戦場の武器に宿る元の持ち主の魂の事。
アルクの槍も喋る可能性はあるわ。
例えば……
アルクの顔が変わった原因が化身の場合。
そうなると「殲滅」を繰り返しているのも、圧倒的な強さを持つのも、人間の方じゃない……!
いいえ。
武器を持つ者はその封印を解いた者もいれば
その武器に取り憑かれた者、認められた者もいる。
待ってくれよ……
じゃあまさか、こいつの正体って……!
ゼイルノートに取り憑かれて殲滅を繰り返している少年。
それが……
恐らくね。
ここまでの行動が「個人の性格」のせいだなんて言えない。
おいお前!今すぐその槍を捨てろ!!
そうすれば元に戻るかもしれないんだ!!
僕は今まで何度も素手で僕の動きを止められていたんだ。
あれは僕を止めてたんじゃなくてゼイルノートを止めてたんだ……
団長の事……?
確かいつも素手でアルクを抑えてるって聞いた事あるわ……
忘却の化身は魂で、
同時に武器そのものでもある。
相手の動きを止めたり攻撃を相殺するのは簡単。
素手であって素手じゃない、って言ったらわかるかしら?
でも無理だよ……
この僕を止めるなんて不可能なんだ……
そして奴も……
奪うつもりでしょ?
団長はそんなに弱くないわ!ふざけないで!!
ははは……
奴さえ殺せばこの城は消えたも同然……
まずはお前達2人の番だ。この橋と一緒に粉々にしてやる……
団長もアーリー城も守るわ!
あんたなんかに負けるもんですか!
だまれ!僕に逆らう奴は全員殺すんだ!
こんな場所なんて必要ない!
それにジャックを利用すればこの世界は僕のものになる!
アルクとクラーチェの会話に思わず拳を握るパンザレス。
その原因は言うまでもなくアルクで「よく何度も何度も同じような事ばっかり言えるな」と、彼の発言を聞くたびに思っていた。
それは「殺す」「消す」「死ね」などのマイナスな言葉。
見た目も尋常じゃない上に恐怖感を与えて体の自由を奪う行動も然り。
そもそも自分は「ジャックが水汲みのクエストをするからその付き添いに」来ただけで、それも果たせぬまま先輩であるドゥーンを傷付けられた時点で頭がおかしくなりそうだった。
そして同時に、パンザレスの知られざる力が発揮されるその時が……
うんざりだって言ってんだよ……
異世界に来てからそれなりにいい事あってさ、先輩と一緒に冒険者になってテンション上がりまくりでさ、もうこのまま帰れなくてもいいかなーなんて思ってたんだ……
そんでジャックに会って、今度は真夜中のバンジージャンプのクエストだろ?
いよいよ異世界ってパネェくらいヤベーなって思って、またおもしろい事を期待してたんだよ……
でも……お前のせいで台無しだわ……
全部殺すとか死ねとか、正直つまんねーんだよ……
何を言ってる?殲滅して死体をぶら下げるのは最高の気分だぞ?
なんなら日本も殲滅してやろうか?はははは!
ごちゃごちゃうるせぇんだよ……
それをやめろって言ってんだよ……あ~耳障りだ……
パンザレス君……?
ど、どうしたの?何か様子がおかしいわよ?
そりゃおかしくなんだろ。
こっちは大切な人を傷付けられてるんだ。
異世界の奴らはそんな事もわかんねぇのか?
アルクはパンザレスに違和感を感じてじっと見つめる。
それは怒りの言葉ではなく、パンザレスの体の周りにうっすら見える虹色のオーラ。
そしてドゥーンの現状とアルクの変化を知った時の恐怖感がいつの間にか消えている事。
いや、それだけじゃない。
「うんざりだ」と言った時から他の声も聞こえる。
それはとても小さく気付かないほどの囁き声だけど、クラーチェは聞き取っていて、聞き覚えのある声と一致していた。
「させるわけがない」。
「アーリー城は我々が守る」。
っへへ。そうだよな。
そりゃ変な奴くらいいるけど、異世界はもっと楽しくておもしろい所だ。
少なくとも"彼ら"はお前なんかよりもずっと強くてすげぇよ。
クラーチェが見たのは数年前に亡くなった自分の祖父。
気が付くとパンザレスの後ろから武装した男達が武器を構えてゾロゾロとこちらに歩いている。
じゃあこれが、異世界人だけが使える特殊能力!!
あなたの力は死者蘇生!?
いいや、
「ゾンビを元の姿に戻す」スキルだよ。
覚醒する事でゾンビになってなくても死者から一時的に力を借りれる。
まぁ、ネクロマンサーに近いかな?
残念。
スキルの覚醒はジャックに会う前からしてるよ。
使ったのは初めてだけど。
すでに死んだ奴に用はない!
僕は無敵だ!強いんだ!敵なんていない!
へへ。すごいや。
「自分達が生まれたこの地を守るんだ」って、熱い気持ちが伝わってくる。
力を借りといてなんだけど、この人達の想いは止められないや。
だから何だ?僕が一番なのは変わらないぞ?
とっくに死んだ奴にどんな力があるって言うんだ?
さっきからイライラしてたのは自分だけじゃなかった。
城を壊されるのもクラーチェちゃんが襲われるのも守りたい、その気持ちはどんな奴よりも強いって事。
胸に手を当てて目を閉じるパンザレス。
彼にはアルクが現れ始めた時から悲しい声が聞こえていた。
それは最初は小さく弱かったけど、
アルクの非道な言葉を聞くたびに大きくなって、
パンザレスの心に「うんざりだ」という言葉が浮かんだ事でスキルを使用。
それによって墓地に眠る死者の声と気持ちがより大きく伝わって、「アーリー城を守る」といった声がクラーチェにも聞こえた。
いつの間にか墓地の死者達はパンザレスとクラーチェの前に立つ。
彼らはすでに錆びてしまった杖や剣などの武器をしっかりと握って、アルクを見つめる。
もうずっと昔からこの地を守って来たんだろう。
それからどれだけ戦って、どれだけの大切な人の笑顔を見てきたんだろう。
パンザレスはまるで2人を守るように怒りに任せた顔ではなく優しい顔で堂々と立つ戦士達に、心が一杯になっていた。
これがアーリーナイト城の戦士……!
なんてかっこいいんだよ!!ちくしょう!!
……あれ……?
死者から力を借りれるって、もしかして……?
さらにクラーチェが何かに気付く。
その時、彼女の髪を優しく撫でるような風が吹き、2人の目の前に1人の男が現れた。
団長……
って事は、人間じゃなくて武器の化身の……!
ハロー。パンザレス君。
実はさっきまで看病をしてたんだけど、君の声が聞こえてね。
突然の事でびっくりしたけど、クラーチェが泣いてるような気がして……
ははは……
誰かと思ったらお前か?
まさか死んでいたなんてなぁ?
ははは!
いくらお前が来たって無駄だよ!
僕の攻撃が効かなくてもジャックさえいれば好きな世界に変えられる!
そしたら全部おしまいだ!!
忘却の化身、ジルベスタ!
"今度こそ"完全に壊してやる!!
昔のようには行かないぜ!長年の決着を付けてやる!!
壊す!?
もしかして、クラーチェちゃんが言った通りアルクの正体は武器に取り憑かれてるだけなのか!?
よく知ってるね。
アルクの事は気付いていたけど、見守っていたんだ。
……しかし困ったなぁ。
アルクがうちの騎士団に所属したのは僕の正体を掴むため。
そしてゼイルノートも僕も"同じ"で因縁を断ち切るのは必然……
仲良く和解とはいかないか!
いやぁ参った参った!あはは!
何で呑気な事言ってんの!?
アーリー城最大のピンチなのよ!?
相変わらず呑気な奴だ……
せっかくお前に会えたのに、現代の人間の体に宿るなど何を考えている?
その上和解なんて甘い事を……
アルク。
いや……ゼイルノート。
確かに僕は"あの戦い"の武器の使い手そのもの。
それが「忘却の化身」だ。
それから時が過ぎ、
「古戦場」に封印された後、アーリーナイト城の人間が封印を解いて、何百年何千年と受け継いできた……
そして、
そうしているうちにこの体の持ち主である男の所に渡って、人一倍優しい心の持ち主を見つけた。
その時僕は感動した!
化身である僕達の中にはまだ戦闘を好む者、今を生きる者の憎悪の心を乗っ取る者がいる。
でも彼は違う!
そうだよ。
この体の持ち主は、命が尽きる前に化身である僕とひとつになる事を選んだんだ。
そうする事で永遠に死なずにアーリーナイト城を守る事ができる。大切な人を守る事ができる。
それだけを強く願ったんだ。
僕は彼の願いを断れなかった。
だから今日まで騎士団長として、人として、皆を愛する者としてやってきたんだ。
そう。
すごいでしょ?「似た者同士の絆」ってやつさ。
すげぇよおおおおおおお!
かっこいいよおおおおおおおおお!
ジルベスタの過去に号泣するパンザレス。
顔の模様で分かりにくいけれど、涙がドバドバと出てくる。
そしていつの間にかアルクの攻撃も止まり、覚醒状態も解除。
顔も元に戻っている。
これはジルベスタの体に宿る武器の化身の力で、敵の攻撃頻度を下げたり武器を捨てたり体が動かなくなったりと、様々な効果をもたらす戦意喪失の力。
いつもアルクの動きを止めていたのはこれを使っていたから。
しかしその力はこれだけではない。
負傷者の魂に声をかける事で生命力を発揮させていち早く傷を治す事もできる。
よし!ひとまずはこれで解決だな!
ゼイルノート。また君の負けだけど恨まないでくれよ?
緊急事態だからね。
僕の力も完全なものじゃないし、パンザレス君の友達が傷付いたのは事実だ。
地下牢に入れるのはかわいそうだけど、仕方ないか……
はぁ!?
何考えてんのよ!監獄島に連行でいいでしょ!?
まぁまぁ。
せっかくアルクとゼイルノート、両方とも手の内にあるんだ。
次に活かすヒントを見つけないとね!
それよりパンザレス君、
そろそろ"彼"が「喋ってもいいか」とタイミングを見計らってるようだけど……
話聞いてる!?
かーーーんーーーごーーーくーーーっ!!!
ほら、彼が出てこれないじゃないか。
パンザレス君、あそこだよあそこ……
ハロー。ジルベスタの旦那のおかげで生きてました。
パンザレス君、気分はドゥ〜?
ちょ、ちょっと待つんだパンザレス君!?
彼はまだ治ったばかりでお腹の傷はまだ――
散々心配させといて何言っとんじゃゴラァアアアアアアアアアア!!!
――かくして、ジルベスタの登場で一件を収められたパンザレスとクラーチェ。
その引き金となったのがパンザレスのスキルで、ドゥーンもジルベスタの治癒の力で一命を取り留めた。
しかし問題なのはアルクとゼイルノート。
いつまた起き出して襲ってくるか分からないし、アルクと同じグランドール騎士団がこの事を知ったらどういう行動に出るか分かったものじゃない。
そして忘れてはいけないのがアーリーナイト城の地下牢からファントムの状態で抜け出したジャック。
彼はなぜか胸の上に手を置いたまま地下牢の中で眠っていた。
その理由を知る者は、ドゥーンの一緒にいたあの謎の声だけ……。
ドゥーン君が攻撃を避けたのはジャック君の潜在能力だけど、やっぱりまだ不安定だね!
でも一応ピンチは乗り越えたみたいだし、ここにいたおかげで襲われなくてよかったね!さぁそろそろ起こしてあげよう!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)