91話 禁忌覚醒!
文字数 6,645文字
前回のあらすじ。
複数に分裂したジャスパー、リリックに襲われていたノノ、アイザワ、時雨。
すぐにジャック、ナナ、リリム、オズウェル、ミノルと合流するも、襲われた原因がノノの持つ魔剣だと分かる。
それは
ジャックの持つ魔剣フレイムイーター。
そしてその対となる魔剣アクアトリック。
かつてノノの父親グランとソニアの父親グラス・オービィがダンジョンに挑戦した事で手にしたという2つの魔剣。
なぜそれを狙うのかは分からないが、
その場にいるジャスパーとリリック全員を倒そうとそれぞれ力を発揮。
さらに……
ついに目的地であるセクシャルレインボーを見る事に成功。
「あともう少し!」と喜ぶジャック達。
ノノの発言でライドウの名前を知り、
メルーナもライドウも敵ではないのではないかと察し、
裏で糸を引く本当の敵が誰なのかも分かってしまう。
しかし、その行く手を阻むまさかの出会いが……
ライドウは死ぬ。
これは運命だ。ノノ、わかってくれ。
そう。
それはかつて精霊の森を救った事から森の英雄として語られる男。
ノノの父親、グラン。
なぜ彼がこんな所にいるのか。
なぜライドウの死をノノに宣言するのか。
セクシャルレインボーを目前にした
最後で最悪の悲劇が、今始まろうとしていた――。
なんでそいつがここにいるの!?
おかしいじゃない!そいつは嘘を教える幻に決まってる!!
忘れたの?これは最終試験なのよ!?
ゴラゴランとかいうマッチョがいたでしょ!?
アレと一緒よ!
ノノ、俺が幻なわけないよな?
そういえば、前に会った時より大きくなったんじゃないか?
久しぶりに身長でも測ってあげようか?
さぁ、もうこんな危ない事はやめて帰ろう。
ライドウの事は本当に残念だ。でもお前に何ができる?
どうしようもない事だってあるんだ。仕方ないさ。
そうだよ!
メルーナさんが言ってた「あの方」がライドウさんで、その人は闇市場のアイテムでおかしくなってる!
元に戻す方法だってあるはずだよ!
なんで嘘を教える幻なのにジャッきゅんを知ってるにゃ!?
ジャック。
君の事はアルバート君から聞いたよ。
結構な腕を持ってるそうじゃないか。
精霊の森とノノを助けてくれて、嬉しいよ。
精霊の森で紅に「死んだ」と言われたはずのグランがこんな所にいるわけがない。
いや、正確には生きているはずだ。そう思いたい。でもここにいるのはどうして?
なぜジャックが精霊の森を助けた事を知ってる?
そもそもジャックの事を知っているのはなぜ?
もしかすると本物のグランなのかもしれない。
そう頭によぎったのはジャックだけではなく、ノノやミノル、リリムも同じだった。
俺は死んだ、そう言われたんだな?
安心しなさい。俺は生きている。寂しい思いをさせてすまなかったな。
やはり親子の絆というのはいいものです!
こんなに素晴らしいものを見てしまったら、ストライカーの愛の力がさらにパワーアップしてしまいます!
さっきの矢でグラスオービィをめちゃくちゃにする気にゃ!?
いえいえ!
まずはお祝いに、セクシャルレインボーの上空へ花火のように打ち上げて……
ちょっと待ちなさいよ!
呑気な事言ってる場合じゃないでしょ!?
そいつは幻!ニセモノ!さっき話に出てきたライドウとかいう男を騙した張本人の仕業かもしれないのよ!?
でも、ニセモノなら何でジャッきゅんの事知ってるにゃ?
それは……!
わ、わかんないけど!敵の仕業なんだし、いろんな方法があるに決まってる!
ノノの親に化けて、何かを狙ってるつもりなのよ!
ノノ、今まで預かってくれていてありがとう。
この魔剣はアイツとの友情の証、誰にも渡したくなかったんだ。
返してくれるな?
その昔、雨が降らず枯れてしまった町に恵みをもたらし、多くの命を救ったという魔剣アクアトリック。
間違いなく「古戦場」の1つ。これさえ奪えば用はない。
はははは。バカな女だ。
本物のグランがこの飛空艇に乗ってセクシャルレインボーを救う?
”あの時”も言っただろ!
ノノから渡されたアクアトリックを握り、大きく高笑いするグラン。
さらにグランはノノの額に黒い十字架のようなものを触れさせる。
その途端、ノノは姿を消してしまった。
すぐにグランへ向かって走りだすジャック。
その手にはもちろんフレイムイーター。
グランのセリフを聞いて本物ではないと確信したからこそ、攻撃を仕掛ける。
しかし。
突然グランの横にゴラゴランが出現。
クラスタドームで初めて会った時のように優しく笑って両手を広げる。
どうしたんだ?
久しぶりに会ったんだ。熱いハグをして再会を喜ぼうじゃないか。
うむ、それは魔剣フレイムイーターじゃないか。
やはりかっこいいな。もっとよく見せてくれないか?
あぁ、そんなに怖い顔をしちゃいけないぞ。
君はいつだって笑顔だったじゃないか。
目の前に迫るゴラゴランに向かって本気で叫ぶジャック。
「この人は本物のゴラゴランさんじゃない!」と自分に言い聞かせると、少し距離をとる。
あなたは……!あなたは幻だ!!本物じゃない!!
だって、本当のゴラゴランさんは……!
拳を握って”あの時の事”を思い出すジャック。
それはかつてクラスタドームでゴラゴランと会った時の事。
ジャックを襲うため、
紅の手下のリリックによって操られてしまったゴラゴランと轟鬼。
しかし、ジャックの「覚醒」によって洗脳状態を無効化。
そして……
『嫌だ!!オレは反対です!!
ゴラゴランさんはどうなるんですか!
轟鬼さんはどうなるんですか!』
ジャック、グラリオ、鬼塚アモン、後藤ケバブ達を逃すため、
ゴラゴランと轟鬼はクラスタドームに残ってしまい、ゲノン帝国へ連れて行かれてしまった。
ゴラゴランさんは自分から犠牲になって、大好きなグラリオさんと再会できたのにまた離れ離れになって……!
オレだって会いたくて仕方なくて、また会えるか不安なのに……!
それなのにゴラゴランさんの姿になるなんて……!!
涙を流し、ゴラゴランに向かって渾身の一撃。
フレイムイーターを勢いよく振り、目の前にいるゴラゴランを真っ二つに斬る。
しかし。
確かに斬れたはずのゴラゴランの体。
しかし、白い煙のように消えてまた現れ、再びくっついてジャックの背後に移動。
ジャックは首を絞められてしまう。
動くなよ。
「あれ」からずっと探してた奴が、やっと手に入ったんだからな。
ははは。力を入れすぎてしまったか?
今すぐ殺してしまっては意味がない。
「向こう」に着いてからにしよう。
当たり前だろ。
本物のグランもゴラゴランも殺したんだ。
ここにいるわけがない。
ははは。
仲間に首を絞められる気持ちはどうだ?
ざまぁみやがれ。
禁忌のスキル「嫉妬」発動。
円柱の形になった数十メートルほどの大きさの黒い渦が現れる。
困惑する一同。
しかし、肝心のグランとゴラゴランの姿がない。
リリムはすぐにミノルに声をかける。
ジャックくんが居なくなるなんて絶対に嫌だ!そんな事させるもんか!!
何があっても絶対に……!!
その瞬間、ミノルの目から涙がひとつ。
すぐに気を失い、その場に倒れてしまった。
****
揺れるライト。
木目調の天井。
視界の端に見える誰かの頭。
そのどれもボヤけて見えるけれど、いくつか分かる事がある。
ここは飛空艇の甲板ではなくて、天井があるどこかの部屋。
ライトが見えているのだから自分は仰向けに寝ている。
そして、遠くで聞こえる誰かの声と爆発音。
次に、どうして自分がここにいるのか。
頭の片隅にあるけど、とても怖い事があったと思う。
例えば、大切な人を奪われそうになったとか……
ジャックくんは!?
ジャックくんはどうなったの!?ねぇ!!
ジャックの笑顔が浮かんだ途端、
血相を変えてナナの肩を揺さぶるミノル。
すると、ミノルの声に気付いたアイザワが部屋に入る。
目を覚ましたようですね。
ミノルさん、私の話をよく聞いて下さい。
恐らく首を絞められた時でしょう。
首に軽い怪我を負っていますし、大きなショックを受けています。
しかし彼はどこかに連れて行かれたわけではない。
きちんとこの飛空艇に乗っています。
しかし、事態は深刻です。
ノノさんは残念ながら敵に捕われてしましたし、魔剣アクアトリックも奪われてしまった。
あれはメルーナさんが用意した「嘘の航路を教える幻」でしょう。
本来は操縦士を混乱させるため右だ左だと言ってくるだけのはずですが、恐らくノノさんの察してしまった「黒幕」の仕業で変わってしまった……
じゃあノノちゃんが拐われた理由はアクアトリックを持っていたから、じゃない……
ええ。黒幕の正体に気付いたから、でしょう。
アクアトリックの件もありますし、一刻も早く彼女を助け出さなくてはなりません。
……古戦場。確かに敵はそう言っていましたね。
正確には「忘却の古戦場」という名前なのですが、その昔この世界で大きな戦いがあったときに実際に使われた武器の事です。
そして、その1つが魔剣アクアトリックで間違いないでしょう。
しかしそれだけではない。
ジャックさんとゴラゴランさんのやり取りを思い出すと、恐らくフレイムイーターも古戦場の武器の1つ……
じゃあ、グラス・オービィさんとグランさんが挑戦したダンジョンのお宝は2つとも古戦場の武器だったって事!?
それは分かりませんが、単純に強い武器が欲しかっただけとは考えにくいでしょう。
ライドウさんのように、アクアトリックで人を騙して闇市場に連れていくというのも考えられる。
止めなくちゃ!
そんなの絶対ダメにゃ!!
みんなで助けようにゃ!!
しかしその時。
ミノルの視界が揺れ、頭がズキッと痛み……
大丈夫、ちょっと痛いだけだよ……!
必ずノノちゃんを助けに……!ううう……!
無理しちゃダメにゃ!やっぱり寝てた方がいいにゃ!!
頬が熱い……!まさか発熱!?
ナナさん!ミノルさんが出したあの力は一体何なのですか?
リリムさんが禁忌と言っていたと思いますが……!
ミノルっちは異世界人で、
ジャッきゅんを妬む気持ちを力に変える事ができるにゃ!
でもそれは禁忌のスキルで、使っちゃいけないものだってリリムっちが言ってた事があるにゃ!
そうにゃ!
前にも同じ事があったんだけど、ソラきゅんのおかげで止められたにゃ!
でもさっきのは初めて見たにゃ!!
異世界人の持つ特別な力は成長し、その力を開花させる事ができる。
そう聞いた事があります……!
じゃあ、ミノルっちの黒いヤツが大きくなったのは……!
覚醒の一歩手前でしょう。
そして今、ミノルさんが頭痛と発熱に苦しんでいる。
もしこの苦痛が終わった時、彼女は……!
****
同時刻。
セクシャルレインボー。
ピチピチビーチ周辺。
必死に砂浜を走り、息を切らしてジェットコースターに向かっている最中。
理由はもちろんバルバトスを迎えに行くため、無事を確認するため。
さらに同時刻。
ここはセクシャルレインボーの西に位置する大きなドーム状の建物。
そう、ソラ達に歌を歌ってもらう予定のライブ会場。
飛空艇のオペレーターでありメルーナの仲間でもあるラビッタの案内によって、ライブ会場の裏手にある空港にソラ達の乗る飛行船が無事に着陸。
皆さん!やっと会えましたね!
お話した作戦通り、ここからは皆さんにライブ会場で歌っていただきます!
ブラックハーツの材料、つまり嫌な気持ちを晴らすために楽しませればいいんだよね?
そういう事なら任せてよ!
ゼルガさんとレックスさんですね!
2人は任せて下さい!宮殿に運んであげればすぐに治療できるはずです!
これでライブに集中できそうだね!
ソラちん、気持ちを切り替えて思いっきり盛り上げちゃおう?
その時、何かに気付いて空を指差すリサ。
それはセクシャルレインボーを向かって飛ぶ、黒い煙が上がっている何か。
よく見ると炎のような赤いものも見える。
ちょっと待って……?
あれ、どっかで見たような気がするんだけど……?
た、大変デス!!
分析の結果、アレは飛空艇!!飛空艇デス!!
なぜ飛空艇から火が出ているのか。
なぜ煙が上がっているのか。
みんな無事なのか。
その全てが分からないけれど、
きっと敵に襲われてああいう状態になって、それでも必死になってここに向かっているに違いない。
気が付けばソラは空を見上げたまま前に向かって歩き出していた。
あなた達と連絡を取った時に約束しましたよね?
これから先、飛空艇に何が起きてもライブに集中するって!
それに、あの飛空艇から負のエネルギーを感じるんです!
もしかしたらセクシャルハーツの幸せのエネルギーよりも大きい闇を持った敵がいるかもしれません!
行くのは危険です!!
無理だよ。
このままじゃジャック君は死んじゃうかもしれない。
そんな事絶対にさせない。助けに行かなくちゃ。
皆さんが心配なのはわかります!
でも、ライブはもうすぐ始まっちゃうんです!
お願いします!このままライブ会場に入って、ライブの準備をして下さい!!
放っておく事は不可能!
ライブなどしている場合ではないデス!
はい!
グランさんの姿をした敵が飛空艇に火をつけたんです!
ノノさんもいないし魔剣もない、この状況でどうやって火を消せばいいんでしょうか!?
なぜか火を喰らう力が消えてしまったんですよね?
きっとあの方に首を絞められた時のショックでジャックさんの心が弱く……!
覚醒しちゃったにゃああああああああああああああああああ!!
ジャックのフレイムイーターの力を無効化した原因。
それはミノルの覚醒した嫉妬のスキル。
果たして、ジャック達は燃え盛る飛空艇から無事にセクシャルレインボーへ着けるのか?
そして、嫉妬のスキルが覚醒したミノルはどうなるのか?
次回、怒涛の展開にソラ号泣!
つづく!
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