121話 ジョビデ到着!新たなクエストはバンジージャンプ!?
文字数 5,166文字
前回のあらすじ。
「ジャックの潜在能力を鍛えるための修行」。
ジャックの旅の目的を明かしたハル。
最初のクエストの舞台「ガチャの世界」に異変をもたらした犯人を突き止める事と、他人のスキルへの被害の阻止のため、一行は"異次元"と呼ばれる酒場「ジョビデ」を目指す。
パーティはジャック、ハル、ルルカ、ドゥーン、パンザレスの5人。
その中でもジャックは剣士から新しいジョブに変更。
その名もファントム。
体の一部を幽霊のように実体化せずどこかに飛ばしたり、扉や壁をすり抜けたり、少しの間なら浮かぶ事もできるジョブ。
ゴースト系の魔物が寄ってこないオマケ付き。
その後、
2つの目のクエストをクリアし、いよいよジョビデを目指して先へ進むけれど、時刻が進みだんだんと「夜の顔」へと変わっていくアーリーの森。
ジャック達は、暗く不気味な森の中を歩いていく……
****
時刻は夜7時。
ここアーリーの森は、同じ名前の付く「アーリーナイト城」へと続く道として使われていた街道。
今は使われていない状態で、砂利道は草木が生えていて、かつて繁盛していた茶屋は廃墟。
生息する鳥の名前や生活を説明する看板も折れていて、今では通る者も少ない。
まして夕方からあっという間に時間は過ぎ、
「もうこんな時間?」と疑ってしまうくらいの早さ。
人気も無ければ街灯もない暗い道をひたすら歩きながら、ビクビク怯える異世界人……否、社会人が2人。
ホラー系の脱出ゲームで定番のセリフを言うドゥーン。
そしてなぜかジャックに偉そうな態度を取るパンザレス。
2人は身を寄せ合って歩きながら、キョロキョロと周りを見ては怖がっていた。
ファントム悠哉16歳!
こいつさえいればゴーストはノーセンキュー!!
っていうか!
本当にこの先に酒場なんてあるの!?
どう見ても真っ暗だし、明かりすら見えないんだけど!?
確かにそうですね……
グラスオーヴィくらい明るい酒場がこんな森の中にあるなんて思えないです。
それはグラーディア自体が明るいからだろう?
あそこはカジノもある都会の町だからね。
でも、ジョビデは全然違うよ?
そこまで明るくないし、普段は結界が張られててその存在に気付く事が難しい秘密の酒場なのさ。
ヒッヒッヒ……
何ィィィ!?
そんなんで顧客が来ると思ってんの!?
コンプライアンス見直した方がいいよ!?
あぁ大人だとも!
リピートしてもらえるってすごい事なんだよ?
規則を守るだけじゃなくて適度に相手に合わせる事も大事なの!
当たり前の事も思いやりも強化しないと売り上げに繋がらないの!
そうやってできてんの!社会は!!
おおおおおおおお〜!
かっこいい!かっこいいですよドゥーンさん!
ドゥーンの言葉に純粋にかっこいいと感じて拍手をするジャック。
パンザレスは腰に手を当ててドヤ顔するドゥーンをさりげなく本名で呼ぶ。
清村っていうんですね!
下の名前は何て言うんですか?
教えるわけないだろ〜?
今の時代、個人情報なんてすぐネットで流れるんだから簡単に人に教えちゃ〜
いいじゃないですか減るもんじゃないし〜!
どうせ女の子にはすぐ本名教えるんだから!
剛毅君〜?
黒岩剛毅君〜?
ビール2杯で酔っ払う25歳が何言ってるのかな〜?
ドゥーン、本名、清村航平。
パンザレス、本名、黒岩剛毅。
なぜドゥーンとパンザレスという名前なのかは分からないけれど、2人の本名は至って普通。
ジャックは「とっても仲良しなんだなぁ」と微笑ましい笑顔を浮かべると、たまたま2人の後ろで笑っていた1人の騎士に話しかける。
ジャック、誰を相手にしてるのか分かってるのかい?
そりゃ1000年前のアーリーナイト城の騎士だよ?
話しかけた相手は人間なので1000年も生きているはずがない。
つまり間違いなく幽霊。
まさかの事態に悲鳴を上げるジャック。
暗闇の中を無我夢中で全力疾走するドゥーンとパンザレス。
そのスピードは自分でも信じられないほど。
「あれ?前にも同じ事あったような?」
一瞬デジャブかと疑うけどそれどころじゃない……。
しょうがないでしょ。
ジャックがなってるジョブ「ファントム」は相手が生きてても死んでても気付かないっていう特性があるの。
そういえば半分幽霊みたいなものって言ってたっけ……
そう。
それに相手がアーリーナイトの騎士で良かったと思うわ。
ジョビデについて聞いてみたら?
当然でしょ。
「アーリーナイト城」には世界中の武器が保管されてる場所で、誇りを持った騎士がたくさんいるの。
彼はその一員ね。だから大丈夫♪
この辺りに城があるからねぇ。
たとえ肉体を失っても、自分が生まれ育った土地を愛してるんだよ。
卑怯な事なんて考えず立派に戦った本物の戦士なのさ。
かっけぇ!!!
めちゃくちゃクール!最高なんだけど!?
かつては使われていたアーリーの森。
それはウエノからアーリーナイト城を結ぶ街道。
多くの店が建ち並び、100年も前からたくさんの人で賑わっていた。
けれど使われなくなって自然に覆われて、魔物が住み着いた事から「心霊スポット」と呼ばれるようになって。
しかしそれでもこの地を捨てず、愛し続け、見守ってきた。
どれだけ怖がられようと廃れていこうと誇りは消えない。
「かっこいい」と言ってくれたジャック達にそう語るアーリーナイト城の騎士の霊は、満足そうに笑顔を浮かべると、森の奥にジョビデがある事を教えてくれた……。
****
それから歩くこと数時間。
いや、2時間も歩いていないはずなのだけど、不思議と深夜を回っているような感覚。
さっきまで「怖い怖い」と言っていたのは何処へやら。
夜空に輝く星々は綺麗で、静かな森は落ち着く空間にさえ思える。
そんな中、ついに"それ"が姿を現した。
かなりの変わり者なのは間違いないよ。
奴の好物は"女の子"だからね、あんたは気に入られるだろうけど……
ジャンキラーは全てを見据える。
その力は本物で、ジャックの本名、趣味、住所、何でも分かっちまうのさ。
それについては後で話してやるよ。
ついでに「敵」の正体も暴いてもらおうか……
余計な手出しなんてさせないよ?
ヒッヒッヒ……
そう言ってジャックの背中をポンと叩くハル。
今の言葉は誰に向かって言ったものなのか。
パンザレスは「ひょっとしてまた幽霊!?」とすぐ後ろを振り向くけれど、さっきアーリーナイトの話を聞くと敵とは思えない。
目の前にあるのは白い建物。
形は丸く、とても酒場には見えない。
ハルは木でできた扉の木目調を指でなぞると、周囲を警戒しながらジャック、ルルカ、ドゥーン、パンザレスと共に中へ……。
最初に目に飛び込んできたのは……?
ぎゃあああああああああ!?
出たあああああ!?血まみれババァあああ!?
それならお姉さんがいい!
ババァなんて嬉しくねーぞコノヤロー!!
入って早々失礼すぎるんですけど!?
どう見てもお婆さんじゃないし!!
ジョビデに入るや否や、突然現れた血まみれの女性に驚いて失言をしてしまうドゥーンとパンザレス。
ジャックはすぐに「ごめんなさい!」と謝るけれど、なぜか勘違いしたドゥーンは何か閃いて……
あっそうか!
この人もアーリーナイトの幽霊なんだ!
立派な最期を遂げたんだよ!
なーるへそ!
きっと生きてた時から居酒屋やってて、今になっても見捨てられずに経営してるのか!
あの世の人達を相手にさ!
ぎょえええええええ!?
ファントム悠哉が出たあああ!?
あんた達が悪いんでしょ!
ジャックとジャンキラーに謝りなさいよ!
ドゥーン。
本名は清村航平。
スキルはガチャ。
パンザレス。
本名は黒岩剛毅。
スキルはゾンビを元の姿に戻す。
言っただろう?
奴は全てを見据える存在。
姿を消してても誰だか分かるし、
嘘も隠している事もお見通しなのさ。
まるでジャック達とジャンキラー以外の誰かを意識するかのように扉に向かって叫ぶハル。
そう、それは今入ってきたばかりの扉……。
すると皆の視線が扉に集まる中、
ジャンキラーはジャックの前に立つ。
「今は」気にしなくていいわ。
それよりあなた、自分の力を信用してないわね?
いいわ。
信用、というより安心できてないだけ。
本当に潜在能力で仲間を守れるか試す機会がほしい……
そんなあなたのためにクエストを用意しといたわ。
実は店内にある樽が壊れちゃったの。
中身のお酒が台無しになっちゃってね、材料の水を汲んできてくれないかしら?
ただし、向かうのは滝。
「ステラフォール」っていう綺麗な滝があってね、その上には大きな橋がかかってる。
だから、あなたはその橋の上から落ちて水を汲めばいい。簡単でしょ?
え!?
橋から落ちるってヤバくないか!?
どう考えても死ぬじゃん!
どうやって水を汲むんだよ!!
なるほど、
バンジージャンプってやつかい。
それなら度胸も試せるし、今は夜中だから体力も求められる。
無事に戻ってこれるとは限らない……
無事にって、死ぬかもしれないじゃん!!
真夜中のバンジージャンプなんて聞いた事ないよ!?
魔物も出るんじゃないの!?
やるやらないはジャックが決めてちょうだい。
クエストクロックを見てくれるかしら?
クエスト。
「橋からバンジージャンプして滝の水を汲む。
ただし同行者はドゥーン、パンザレスのみ。」
そうだよな!そう言うと思ったよ!
訳わかんないクエストなんて受けられるわけ……
そう言うと、ジャンキラーは大きな樽を用意。
背中に背負うヒモが付いている。
見た目より重くはないけど、
帰りは水でいっぱいにしてもらうつもりだから気を付けてね♪
ふぅ……どうやらジャックを気に入ったようだね。
ジャンキラー、クリア報酬は「例の件」で頼むよ。
謎の声と分身の消滅ね?
声に関しては今のところ店内だから平気だけど、外は何が起きるか分からない。
この後のジャックが心配ね。
後で詳しく話すけど、少なくとも”ジャックに対しては”味方ね。
それなら、ドゥーンさんとパンザレスさんも大丈夫だと思います!
オレ達3人の手助けをしたいって、ガチャの世界で言われたから!
なるほど、それなら「あの子」がいてもいいかもね。
ジャック、橋の途中に茶屋があるからそこに寄って行きなさい。
かわいい女の子がいるわよ♪
ジャック、2人を監視しておきなさい?
もしその子に変な事したら……
意気投合するルルカ、ハル、ジャック。
またもや「ぎゃああああああ!?」と悲鳴をあげるドゥーンとパンザレス。
そんな彼らを見たジャンキラーは笑顔で応援。
新たなクエスト、真夜中のバンジージャンプでの水汲み。
次回、茶屋にいるかわいい少女に、1人の男が恋をして緊急事態!?
つづく!
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