188話 みんなと友達でいたい!モリゾー涙の願い!
文字数 5,623文字
今、ナイトメアスタジアムでは2つの戦いが勃発。
2階、会場。
ジャック、ナイトハルト、レオンVSメテオヴァラス。
脱落者、バベル。
地下1階、倉庫。
シロナ、エディ、カブト、セシリアVSモリゾー、ロザリア、牢屋で捕らえられた大勢の人。
倒す相手はいないけれど、ドリンクを飲ませない、攻撃もしないの条件をクリアした上で鎮静しなければならない。
****
2階、廊下。
ジャック達が戦っている会場から1人でも多く逃がすため、扉を開けていたヴェルグ、バルトリオ。
あぁ、メテオヴァラスの犠牲にならずにここまで走ってこれたのは今の人で最後だ。
後はもう……!
くそっ……!
あれだけ居たのに半分以下になっちまうなんて……!
俺達も行こう。
桃華ちゃんを休めないといけないからな。
ひょっとしたらモリゾー君達も誰かに立ち塞がれているかもしれないな。
すでにナイトメア連合軍の隊長が2人も居たんだ、まだ他にも居れば、状況はもっと悪くなる。
まずいな……!
ただでさえメテオヴァラスがあれだけ飲んで暴れ回ってんのに、モリゾー達が探してるドリンクを誰かが渡すような事になったら……!
これ以上強化されれば勝ち目どころか俺達が生きてここから出る事自体、難しくなる。
それにあの3人の副作用も心配だ……!!
ジャック達に加勢しても強化無しでは戦力にはならず、
それどころか真っ先にやられてしまうだろう。
という事はまだモリゾーの方に行った方がいいけれど、今優先しなければならないのは仲間の命。
本人達は知る由も無いけれど、
もしも副作用を消せる方法があるなら、
ジャック、ナイトハルト、レオン、モリゾー、ロザリアを救えるのは、
ヴェルグ、バルトリオ、桃華の3人なのかもしれない。
落下した天井、壊れた壁、
手が無い、足が無い、首が無い、見るも無残な死体の山。
その巨漢は両手を広げて叫び、ツノは赤く染まり、目につく物を片っ端から破壊していく。
そんな中、ジャック、ナイトハルト、レオンは落下した天井に身を隠し、様子を見ていた。
あぁ。奴は今、頭の中でドリンクに含まれる成分と戦っている。
だから俺達との戦闘で頭を使ってる場合じゃないんだ。
だから近くにあるものを壊したりするのかな?
でも毒って……?
う〜ん。
オレもそこまで知ってるわけじゃないから、詳しくはないんだよなぁ。
ゲノン帝国の狙いは「心を壊す」事。
パワーアップさせつつマイナスな感情を持たせる毒が含まれている。
怒り、悲しみ、恨みを抱くような「作られた記憶」を心に芽生えさせて、根本的に人を変えてしまう。
これがドーピングの正体だ。
じゃあ、あいつの見えてる世界とオレ達の世界は違うんじゃないか?
そうだろうな。
人の物の見方は心によって変わるものだ。
何でもないただの人形でも、それを見ただけで震え上がる恐怖心を抱く事だってあり得る。
そっか、車も同じだよね?
車が好きな人にとってはかっこいいって思うけど、
車に轢かれた事がある人にとってはトラウマでしかない!
でも、毒は自分が経験したわけでもないのにいろんな物を怖がったり怒ったりするんだよね?
「作られた記憶」だから!
その通り。
他人はもちろん兄弟、家族、仲間もそうだ。
物だけじゃない。
もしも友達に嫌われたと思い込んで、独りぼっちになって……
それがドーピングのせいだっていうのも気付かなくて、どうすればいいか分からなくなったら……!!
おいおい!ちょっと待てよ!
あいつは敵だろ?同情なんかしてどうするんだよ!
っていうか、オレ達も同じじゃねーか!!
呑気な事言ってる場合かよ!?
今のところは何も無いけど、だんだん毒が効いてくるんじゃないのか!?
ほう!じゃねーだろ!何で関心してんだよ!
どう考えたって無理だろ!
確かにこのまま戦うのは危険だな。
ドリンクを1本しか飲んでないとはいえ、少なからず毒は効いてくる。
どんな事が起きても動揺しないメンタルの持ち主でもいつか必ず限界が来る……
かと言って、メテオヴァラスとの力の差を埋めるには俺達も同じ量を飲まないといけない。
毒で別に死ぬとかどうでもよくなってから自爆して終了。
縁起でもない事言うんじゃねーーよ!!
死んでんじゃねーーか!!
プラン2。
爆弾をメテオヴァラスに向かって投げて……
爆発する前に毒を大量摂取して、別に死ぬとかどうでもよくなって終了。
なぜかバッドエンドのアイデアばかり提案するナイトハルトとジャック。
「実はすでに心が病んでいるのか!?」と焦るレオンだけど、2人はわざと言っているだけ。
しかし、ジャックが最初にドリンクを飲んだ時はナイトハルトによって毒が弱くなった状態だった。
という事は……
……毒を抜く事はシンプルにパワーアップする事を意味する。
さすがにメテオヴァラスがそんな事をすれば俺達の命は無い。
したがって、ジャック君の言うように奴を救う事は難しいが、
俺達3人が助かる方法はある。
この会場の上、つまり3階に、
俺が密かに毒を抜いていた秘密の部屋がある。
ここの床に散らばっているドリンクを拾ってそこに行けば……
そうか!
そこで毒を抜けば、オレ達の命はもう大丈夫!
さらに今よりパワーアップしちゃって、メテオヴァラスの野郎をドカーン!
って訳だな!?
ゴクッゴクッゴクッ パリン!
ゴクッゴクッゴクッ ガシャン!
チッ。
残りのドリンクはこれだけか?
地下の冷蔵庫からもっと持ってくるべきだったな……
あの〜。
毒の効果で訳わかんなくなってますよねぇ?
敵、味方関係なくブッ壊す感じですよねぇ?
オレ達が誰かなんて分かんないし、
さっきウオオオオーーーって叫んでましたよねぇ?
異世界人、ジャック。
クラウディア連合軍、ナイトハルト。
赤い一匹狼、レオン。
ええええええええええええええええええええええええええええええええ!??
****
一方、地下1階。
倉庫。
ジャックサイドと同時刻。
すでに隣の牢屋の鉄格子は壊されていて、
子供から大人まで、約200人以上の人間がドリンクの入った冷蔵庫に向かって押し寄せている状況。
ただ毒によって抱いた負の感情に負けないよう抵抗しているのか、歩幅は小さく、歩き方も変で、歩くスピードも遅かった。
対して、それを止めるのはシロナ、エディ、カブト、セシリア。
ロザリアとモリゾーも戦力として加わりたいけれど、チョコによって禁断症状になった状態。
特にモリゾーは自分のした事を認め、セシリアによって「新しい自分」として生き続けようとしていた前向きな心があったにも関わらず、
惨殺を繰り返した過去の自分の見た物、言葉、感情を思い出し、頭を激しく爪で引っ掻きながら独り言を繰り返していた。
自分は許されない事をしたんだ……!
命を奪ったんだ、生きる資格なんてない……!
何で今も生きてるんだ……?死ねばいいのに……
でも気持ちよかったなぁ!!
お腹をズタズタに引き裂くのも楽しかったし、
足を引っ張ったら泣いて助けを求めてて、惨めでバカみたいだった!!
人間の体をどう傷付けたらもっといい悲鳴が聞けるかなぁ!?
だ、駄目だ……!
こんな時に自分は何を考えているんだ……!
何人たりとも、絶対にドリンクを飲ませちゃいけないんだ!
まるで後悔するモリゾーと、惨殺を思い出すモリゾーと、人の命を守ろうとするモリゾーがそこにいて、話し合っているよう。
ロザリアは剣でシロナ達を斬ろうとするも、
セシリアが強風を起こして手元を狂わせ、まだ誰も斬っていない状態。
しかしセシリアは肩に例の針が刺さったままなので威力は落ちている一方、ロザリアはパワーアップ済み。
1人を止めるのが限界。
エディとシロナは冷蔵庫を背に、
大の字になって立ち、大声で説得をするけれど……
どくわけねぇだろ!
あれを飲めばパワーアップする代わりに自分の体が壊れるんだぞ!?
分かってんのか!?
そうですよ!!
私達はあなた達を死なせたくないからここに居るんです!
何が何でもこれ以上飲ませません!
諦めて下さいっ!!
駄目だと言っているでしょう!?
近付けると思わないで下さい!
強風で吹き飛ばしますよ!
どうしましょう!
すでにセシリアさんがロザリアさんを止めてくれているのに、他の方にも狙われてしまいます!
駄目だ!!
こいつらは味方だ!敵じゃない!
俺達は助けるために来たんだ!!
でも相手は普通の人じゃないんだよ!
どこかのギルドとか騎士団のメンバーなら武器なんて使い慣れてるだろうし、ドーピングしてあるからその分強いんだ!
オレ達も無事じゃ済まないよ!!
このままでは相手の振り下ろす剣や斧をなんとかギリギリで避けるも、どんどん追い詰められていくだけ。
相手の攻撃を避けきれず大怪我をするか、冷蔵庫の扉を開けられて全員がドリンクを飲む事態になるのは時間の問題。
――と、その時。
なんと、1人の男が剣を抜いてシロナに斬りかかるまさかの事態に。
その瞬間エディの怒りが頂点に達し、その剣を蹴り上げた。
俺達は武器を持たず、素手でお前らを止めてんだぞ!
丸腰の相手に剣を抜くなんて何考えてんだ!?
それでも騎士団か!?ギルドか!?漢か!?
ふざけんじゃねぇぞおおおおおおおお!!!
もう、死にてぇなら勝手にしろ……!
卑怯者の命なんてどうでもいい……!
俺はずっと勘違いしてたんだ……!
お前らはメテオヴァラスに家族や仲間の命を奪われて、命懸けでここに潜入した戦士だ……!
それぞれが所属してる所がバラバラでも、覚悟を決めて、信念を曲げずに生きてきた……!
それは牢屋に捕まってても、ドリンクを飲んでも変わらない、誰かのために戦える正義の味方だ……!
でも、全然違ったんだな……!
ちょっと飲まされただけで常識なんか忘れて、平気で卑怯な事をして、
簡単に悪い奴にやられるようなかっこ悪い奴だったんだな!
闇なんかに負けてんじゃねぇよ!!!
打ち勝てえええええええええええええ!!!
このドリンクを飲めば、敵の思い通り、ここにいる全員が死ぬ……!
じゃあよ、自分の帰りを待ってくれてる人はどうなるんだ!?
お前らが死ぬなんて思ってもいない、
同じ騎士団やギルドの仲間、友達、家族……!
もう二度と帰ってこないのにずっと待ち続けるんだぞ……?
そんなの嫌だろ!?
生きてここを出て、大切な人の元に帰りたいだろ!?
俺は勇敢に戦ったんだ!って言いたいだろ!?
そうやってずっと笑い合っていたいだろ!?
エディの説得を聞いて、戦意が無くなったのか、
次々に手に持っていた武器を捨てていく。
それはモリゾーの心にも響いたようで、まだ完全ではないけれど、明るく前向きな言葉が。
そ、そうだよ……!
こんな事はもう、やめて……!
好きなものをいっぱい……食べるんだ……!
やめろ……オイラから離れろ……
みんなでここを出て、おうちへ帰るん、だ……
平和などどうでもいい!どうして私の邪魔をするんですか?
あなたも目を覚ましなさい!
破壊衝動や殺意はあなた自身の意思ではない!
帝国によって作られたものなのよ!
ドリンクによる症状は他人の言葉で揺れ動く事がある。
それは家族や友人など、本人にとってより近い人物ほど効果があり、
そうでなくても心に響くような言葉によって元に戻るケースもある。
段々と心に植え付けられた憎しみや殺意が消えているのか、冷蔵庫の目の前まで押し寄せていた大勢の人間達の動きが停止。
間一髪、誰ひとりドリンクを飲ませないデスゲームはクリア。
何言ってんだ!お前だって元に戻ってないだろ?
安心しろ、絶対なんとかするから!
そう、きっとモリゾーもロザリアもなんとかする方法は見つかるはず。
……そう、そのはずだった。
一時停止したモリゾーの体。激しい吐血。赤く染まった服。
腹部に刺さった槍。
みんなでここを出ておうちへ帰る?
そんなの無理なんだよ!お前はバケモノなんだからさぁ!
ジャック君と……桃華ちゃん……
ヴェルグ君と、シロナお姉ちゃん……
セシリアお姉ちゃんと、カブト君と、みんなと……
いいに決まってるだろ!!
モリゾーは友達だ!!みんな一緒だよ!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)