87話 ただいま!ジャック完全復活!
文字数 7,124文字
前回のあらすじ。
リリムがラブシャワーを投げ捨てる直前、
現れたのは時雨とメルーナの姿になったナナ。
自分の姿が変わってしまったのを「死神のせいにゃ!」と言って慌てるナナをよそに、操縦室から少年が姿を現す。
彼の名はオズウェル。
かつてウエノで大文字タケル、アイザワらと警備ボランティアをしていた素性の分からない人物。
その正体はリリムと同じ死神で、検定試験1級の所持者。
ナナ、リリム、結衣、時雨と協力し、共に行動する事を宣言。
【結衣&時雨】
おーーー!
……突然現れた死神、オズウェル。
彼は現実世界とも異世界とも違う死神の故郷出身で、リリムの過去を知っているだけではなく、目に見えない力でリリムの力を抜くことも可能。
さらにリリムが経験したチョコレート・クライシスでの出来事に関係しているような反応。
ジャックの元に起きたミノルとアイザワのまさかの戦闘もそう。
「思わぬ戦闘も
そして、なぜナナをメルーナの姿にしたのか。
なぜ嘘を教える幻に混じってここへ現れたのか。
いくつもの謎を抱える死神は静かに笑っていた……。
****
飛空艇。食堂。
リリムは寂しげな
普段は頼りないけれど。
普段はよく食べてよく笑うけれど。
普段は決してかっこいいなんて言えないけれど。
まして好みとは程遠いけれど。
ウメダダンジョンからここに来るまでで出会った男の中で、気を遣わずに話しやすい男子といったらこの2人しかいない。
片方は「怖い」って言うけどツッコミだし、
片方は能天気な顔してボケてくるし、
本気で引いたり驚いたり嫌ったりしてるわけじゃない。
「助けて!」と言えば慌ててやってきてくれるはず。
……たぶん。
いや、むしろ助けに来ないなんてありえない。
あとちょっとだけ待つから来てほしい。
あれ?遅いなぁ?なんで来ないの?
早く来てくれないと困るんだけど。
今すぐ来い。来い。
来い。来い。来い。来い。来い来い来い来い来い来い来い。
リリムの置かれている状況。
食堂の椅子に座ったまま体を縄で縛られ、
自由を奪われた上、「HELP」と書かれた木の板を首からぶら下げている。
そして最後にとっておきのアレを……
にっこりと笑うオズウェルに脅えて変な声が出てしまうリリム。
こいつは悪魔なのか?鬼なのか?
あ、死神か…………じゃなくて!!
そんな事を考えている間に口にガムテープを貼られてしまい、謎のカウントダウンの後……
ベリッッッ
勝者、オズウェル。
声にならない悲鳴を上げたリリムは恐怖と痛みと衝撃で気絶。
ガムテープを一気に剥がされたのは洒落にならない……。
死神同士の戦い(?)は
そう言って「やれやれ」と言わんばかりに小さくため息をするオズウェル。
一瞬優しい顔になると、あらぬ顔のまま気絶しているリリムに目をやる。
****
エンジンルームの扉の前。
オズウェルは気絶したリリムの縄を少し解いて縛り方を変更。
リリムを縛った縄を最小限に短くして、残った縄をカウボーイが使う投げ縄のように手に持つ。
オズウェルの行動にパニックになる結衣。
簡単にオズウェルを信じてしまう時雨。
そんな中、メルーナの姿になったナナは何かに気付き始めていた。
そう言うと、オズウェルは縄で繋がった椅子の背もたれの部分を掴み、扉に向かって投げる。
するとその瞬間、
扉が壊れてリリムが部屋の中に放り投げられたと同時に、黒い渦と青い炎が部屋の中から飛び出して廊下の壁に直撃。
明らかにミノルとアイザワの攻撃だが、オズウェルの右と左を通過したため結衣達は無傷で済んだ。
驚く結衣、時雨、ナナ。
オズウェルは笑みを浮かべたまま、縄を引っ張ってリリムを天井に誘導。
するとどうだろう。
部屋の中で戦っていたミノルは扉の向こうから現れたリリムを敵だと思ったのか、天井に向かって攻撃。
すぐにアイザワがリリムだと気付いて攻撃を相殺して止めようとするけれど、ミノルの攻撃スピードは極めて早い。
しかし、オズウェルに動揺はない。
何故か縄を引っ張ってリリムを攻撃から遠ざける事もなく、まるで火の上で肉をころころと転がすように、ミノルの出した黒い渦に当たるギリギリの所で椅子を転がす。
オズウェルの名前を聞いて反応するアイザワ。
すると安心したのか、ミノルの攻撃を相殺するための技「緋桜拳」を止める。
驚くことなかれ。
オズウェルが縄を引っ張った途端、目を覚ましたリリムはマッスルポーズと共に縄をブチ破って自由の身に。
その表情は怒りに満ちていて、身も凍るような寒気を感じるほど。
空中にいるのにも関わらず、魔物のように「ウウウウ……」と唸りながらオズウェルを睨みつけ、手足をピタッと壁にくっつけてそのまま張り付く事に成功。
さっきよりも低い唸り声に変わり、
全てを恨むかのような
指を素早く動かしてオズウェルを睨みつけ、
ガタガタと歯ぎしりをするリリム。
チラリと見えた白い下着。
後ろにプリントされた茶色のクマの顔。
前にはかわいらしいリボンが付いている。
しかし今の彼女はそんな下着を付けるような可憐な少女ではない。
まして大人の黒下着を付けるような魅力的な女性ではない。
冷静も余裕も全て捨て、鎌を舐めながら1人の男に殺意を抱く――
恐ろしい死神である。
頬に手を当てて叫ぶリリム。
「首!首!首!首!」とコールを始めて黒い
しかしオズウェルは至って冷静。
この混乱の中リリムの背後に忍び込んだミノルに気付くと……
ナナの言った事が本当なのか、
ヤケクソになってラブシャワーのフタを開けるリリム。
するとどうだろう。
スポーツで優勝した選手同士がシャンパンをかけ合う「シャンパンファイト」のように、ラブシャワーの先端から白い泡が勢いよく吹き出る。
さらにシャボン玉も吹き出ると、
甘い桃のようないい香りが部屋を満たす。
第3試験チョコレート・クライシス。
バルバトスがメルーナに連れて行かれた時に一緒に居なくなって、それから今まで帰って来なかった。
「今すぐに取り返しに行くんだ!」
「ボクがしっかりしなくちゃ!」
「みんなで行こう!」
と、誰もが協力し合い、必ず取り戻す事を決意した。
と言っても「彼」は普段からかっこいいわけではないし、強いわけでもない。
おまけに頼りなくて女々しい、男らしくない性格をしている。
……でも。
とても優しいからか、周りにはいつもたくさんの仲間がいる。
今こうして集まっている者もそう、飛行船に乗っているソラもそう、セクシャルレインボーにいるバルバトスもそう。
きっとそれは、本物のメルーナもそうだろう。
誰もがこの瞬間を待っていた。
ゆっくりと歩き出し、セクシャルハーツの目の前に立つミノル。
何故だろう。今まで我慢をしていたからか、涙が止まらなくなる。
両手で自分の涙を吹いて深呼吸。
大切な瞬間なんだから泣いてはいけない。
精一杯笑って、最高の笑顔で言うんだ。
ずっとずっと言いたかったこの言葉を。
ずっとずっと大好きな君に。
嬉しさに耐えられなくなって泣き叫ぶミノル。
するとジャックはミノルを抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
ジャックを強く抱きしめながら号泣するミノル。
「離したらもっと泣いちゃうぞ!」と言いたかったはずが、本当に泣いてしまった。
慌てるジャックは頭を撫でつつ「よしよし」を連呼。
けれどミノルの涙は止まらず、ハグは続く。
いや、決して離さない。たとえ涙が止まっても。
ジャック、完全復活!
つづく!