82話 さよならバルバトス!地獄のトロッコアドベンチャー!
文字数 5,305文字
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セクシャルレインボー。
地下にある「ブラックボックス」。
そこは島の女性に鼻の下を伸ばした男達が奴隷として働く場所。
宮殿でマホと出会ったバルバトスは、
ソラ達の乗る飛行船の迎撃に使う「大砲の弾」をなんとかするため、ブラックボックスの奥へと進み、薄暗く狭い部屋へ。
壁には「下」を向いた矢印が書いてあり、その下には高さ2メートルほどの穴が開いている。
そして一際目立つのが、レールの上に置かれた「それ」の存在。
何かを期待するようにバルバトスの背中を押して「それ」に近付かせるマホ。
「押すなあああ!」と情けなく悲鳴を上げるけれど、マホは笑顔のまま。
ツッコミをするのも束の間、
マホにドン!と背中を押された拍子に、トロッコに足が引っかかってしまい前に転倒。
よりによって頭をトロッコの先端にぶつけてしまい、下を向いていると……
キィィ……
悲報。
バルバトスの悲鳴と共に地獄のトロッコアドベンチャースタート。
マホとの会話中、部屋の壁まで進んでしまったトロッコが壁に開いた穴に入ってしまった瞬間、まるでジェットコースターのように急降下。
電気も
――
トロッコの両端にしっかりと手で掴み、頭を低くしながら悲鳴を上げるバルバトス。
暗闇で周りに壁や天井があるのかわからないため、天井に頭をぶつける可能性がある。
ジェットコースターでもトンネルなど暗い所を走り抜ける時は頭がぶつからないとわかっていても低くする人がいるように、トロッコと同じ高さになる。
ガッツポーズでドヤ顔をして叫ぶバルバトス。
勢いよく身を乗り出したその瞬間、前に見えるのは
ガッツポーズをとってカウントダウン。
暗闇から飛び出した瞬間、ジェットコースターで落ちる時のように両手を上げて叫ぶバルバトス。
キメ顔もバッチリ。
そして、目の前に飛び込んできた地底の光景は……!
なんと、3つのレールが並ぶ細長い通路に、バルバトスと同じようにトロッコに乗ったジャスパーとリリックが別の穴から登場。
バルバトスを囲むように右にジャスパー、左にリリックが並ぶ。
リリックは、以前ジャックがクラスタドームに行った時に紅の手下として登場した敵。
バルバトスはリリックと会った事はないが、ジャスパーはチョコレート・クライシスで会っている。
敵だとわかった途端、
攻撃されると察したバルバトスはすぐにしゃがむ。
するとジャスパーはバルバトスの目の前に首を出してパカッと口を開け、紫色のガスを噴射。
しゃがんだ事でガスを吸わなかったバルバトスは「やっぱりな!」と叫ぶと、ジャスパーの
さらに、ガスが止まったのを確認すると……
ジャスパーの肩を片手で掴み、
ニカッと笑いながら頭突きを決める。
バルバトスは「オラオラオラオラ!!」と叫びながらリリックの腹部に連続でパンチ。
さらにリリックの腰をガッチリと掴み、そのままブリッジをする要領で自分の真後ろへ反り投げる技「ジャーマンスープレックス」を決める事に成功。
リリックがバルバトスの右のトロッコに乗っているジャスパーの上に投げられると、3人はそのまま別々の通路へ。
1本のレール分しか横幅のない細長い通路に入って行ったバルバトスはしゃがみながら決めポーズ。
そう。
リサがゴラゴランに憧れていたのを知っていたバルバトスは、密かに筋トレの日々を過ごして今に至る。
ジャスパーとリリックにダメージを与えたのは間違いない。
とはいえ敵2人も自分と同じようにトロッコに乗り、今も別の通路を通っているだろう。
当然どこかでまた会えば戦闘再開、次も上手くいくとは限らない。
あぐらをかいて座り、また灯りが見えるのを待つ。
なぜか無数に増え、壁や天井にへばりついてこちらを見つめる「ジャスパーの群れ」にも気付かずに……。
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それからしばらくして、
トロッコのレールがまっすぐに続いていたものがくねくねと蛇行して地面も右へ左へと傾いている通路では、曲がる時や傾く時にトロッコが倒れてしまわないよう逆方向に体を傾かせて上手くコントロールしたり、
まっすぐ伸びるレールの左右に宝石のように光る水色のクリスタルがいくつも並んでいる通路では「あれ1つで何リエルで売れるんだ?」と目を輝かせたり、
なんとかギリギリで部屋を通過して気付かれなかったり、
まるで温泉の水風呂に入った時のように「冷たい」と感じてしまうくらいとても寒い洞窟では、
バルバトスにとっての「トロッコの旅」と違っていたのか、待っていたのはハプニングばかり。
せっかく元気を出して最深部までの景色を思いっきり楽しんでやろうと思ったのに。
トロッコの中であぐらをかいて座り、ガックリと肩を落とす。
しかし、トロッコのハプニングはこれだけではなかった。
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鍾乳洞のように長い年月を経て生成された
高かったり低かったりと不安定なレールに、ガタガタと揺れて変にスピードが落ちるトロッコ。
そして。
ドリル状になった翼で人を刺して襲ってくるコウモリ。
「スパイクバット」。
食用ではなく、口から炎を吐く事から名付けられたコウモリ。
「スパイシーバット」。
そして、ブラックボックスの最深部にあるという「ブラックハーツ」の影響を受けて凶暴になってしまったコウモリ。
「ムールバット」。
そう。
ここはセクシャルレインボーとその近海に生息する数々の生き物を見る事ができる観光スポットの1つ「フューリーパーク」の一部のエリア。
様々な種類のコウモリ達が共存する巣。
現在は立ち入り禁止区域になっていて、すぐ近くまではセクシャルレインボーのツアーで行く事ができる。
全力で悲鳴を上げて慌てるバルバトス。
しかし何故だろうか、ここに着いてからトロッコのスピードが遅くなるばかり。
なかなか進まないトロッコにコウモリの超音波によっておかしくなった事に気付くと、トロッコから降りて全速力で走る。
無数のコウモリに追いかけられ、翼や炎に襲われるバルバトス。
初めてここに来た上に地図もない、どこへ行けばいいのかもわからない。
そこでバルバトスは……
同じ世界ではないけれど、
生まれも育ちも違うけれど、
偶然読んだ本に書かれてあった謎の男「レブロン」。
顔は絵が書かれてあったから見た。
筋肉を愛してトレーニングを欠かさない熱い男だ。
そんな彼に会ってみたい。そう思っていたのに。
シルドラとはとある冒険者の名前。
"友達の証"として知られるリンクリングをして、シルドラとレブロンの名前を登録したい。
それができたらどんなに嬉しいだろうか。
バルバトスがその思いを叫ぶと急激な坂に敷かれたレールを発見。
コウモリに向かって「あばよ!」と言うと、なんとトロッコが出現。
これはマホが魔法をかけてくれたおかげ。
そう思い、トロッコに飛び乗って坂を下る。
バルバトス。
無事にコウモリに襲われず、無傷で洞窟から脱出成功。
コラボできた嬉しさを噛みしめつつ、
か細い声で呟いて、遠い大陸の物語の続きを切なげに願うバルバトス。
トロッコの旅はまだまだ……