32話 裏切りと陰謀渦巻くウメダからの脱出!Part.4
文字数 4,844文字
ウメダ。北の入口。
サキ、ノノカは魔法を唱え、地面に描いた巨大な魔法陣に魔力を注ぐ。
するとどうだろう。
魔法陣のある地面の上空に、黒い雲が発生。
激しい雷が降り注ぎ、魔法陣の中央に上空から紫色の大きな雷が落ちた。
そして……。
お待ちしておりました。ヴァーデル様、シャルティア様。
あら、ノノカじゃない。
こんな所に私達を呼んでどうしたの?
不気味に笑うヴァーデル。
サキは、仰向けになったルルカの体を抱き、魔法陣の中央へ寝かせると、魔法陣から離れて魔法を唱える。
するとヴァーデルは、右手に魔力を集中。
ルルカの胸に手を当て、自分の魔力をルルカの体の中に送り込む。
古に眠りし悪魔よ!
高貴なるディアスの王、ヴァーデル=コアの前にその力を示せ!!
怪しい笑みを浮かべるヴァーデル。
うっとりとした表情で何かを期待するシャルティア。
すると、単調な拍手の音が聞こえた。
おいおい。
今は手が離せないんだ。後にしてくれるか?
おや。
ヴァーデル卿ともあろうお方が、ただの人間に興味を持つとは珍しい。この少女がどうしたと言うのですか?
ふふっ。そう怖い顔をしないで下さい。
ほら、終わったようですよ?あなたの期待通り……いや、それ以上の力を感じます……
あぁ、いけません。
あまり力を注いでは、少女の体が耐えきれなくなってしまう。
”器”が壊れれば”力の増幅”は止まってしまいます。
あなたが欲しいのは限界まで増幅した完全なる力ではありませんか?
ふぅ。相変わらず恐ろしい殺気ですねぇ……。
シャルティアさんのおかげで助かりました……。
勘違いはやめてほしいわね……。
ヴァーデル様も私達姉妹も帝国とは何の関係もないのよ?
それなのに勝手にうちの妹を帝国の仲間入りにして、どういうつもりかしら?
おやおや。色気さえも凍り付くような眼、おっかないですねぇ……。
しかしなんと美しいのでしょう……。
よろしければ私と優雅なデートでもいかがかな?
あら。実はステキなカフェを知ってるの。
冥界にあるのだけれど……あなた1人で行ってみたらどう?
きっと帰っては来れないけれど、別にいいでしょう?
おい。
人の女に手を出すとはいい度胸だ。今すぐ冥界に送ってやろうか?
お姉様、私は大丈夫です。きちんと役目を果たします。
ノノカがそう言うなら仕方ないわ。また今度にしましょう。
ヴェイルノートは右手に黒い渦を、
ヴァーデルは黒い球を、
シャルティアは禍々しい形をした槍を召喚。
緊迫した空気の中、サキは激しく動揺していた。
(生きている心地がしない……!一体何なの、この3人……!?)
(それにルルカちゃん、どこか苦しそう……!ヴァーデルが怒りで魔力を上げたせいで、送り込む力が尋常じゃないんだ……!このままじゃルルカちゃん、本当に……!!)
(口が思うように動かない!?どうすればいいの!?)
ヴェイルノートさん。”彼”に会わなくていいんですか?
あぁ、いけないいけない。そうでした。
ヴァーデル卿。この続きはまた今度にしましょう。
私がここへ来たのは異世界人に会うため。よろしいですか?
フン。”戯れ”は後にとっておくほどおもしろい。いいだろう。
そうでした。
あなたは人間の血が大嫌い、そう記憶しています。
そんなに力を送り込んでいたら、その少女の体は破裂してしまいますよ?
ヴァーデルはルルカの体を見る。
変わり果てたその姿を。
おぉ……やりすぎてしまったようだ。
今にも暴走し、死んでしまいそうだ。これなら存分に楽しめるな……。
あら、かわいそう……♪
酷い体、酷い顔♪もう普通の生活なんて戻れないわね♪
では、私はこれで失礼しますよ。お2人はどうするおつもりで?
私の魔力は強い者の力を引き出す能力がある。
これから奴の魔力は暴走し、破壊を繰り返すだろう。
その後、この人間は必ず私の元へ帰ってくる。
その時は好きなように使ってやるさ。
おっと。
そうだ、サキ。お前にいい事を教えてやろう。こっちへ来い。
怯えるようにヴァーデルに近付くサキ。
ヴァーデルはサキの耳元で囁く。
懐かしいな……。
あの村でお前と会い、デミアと会ったんだ……。
その後お前は人間界へ、デミアは闇へと進んだ……。
ノノカに接触したのはシャルティアと繋がるため。
シャルティアと繋がりが持てれば私に会うのは簡単……。
ずっと会いたかったんだろう?デミアを奪ったこの私に……!
デミアは城にいるぞ。ずっとお前を待ってるんだ。
冷たい牢獄の中でな……。
私は強くなった!
魔界から人間界へ行って、人間と分かり合えた!諦めない心を知った!
デミアを助けるために、あの日からずっと……!!
(まずい……!こいつがジャックの前に現れたら……ジャックは……!)
(最悪だ……。ジャックを裏切って、みんなを裏切ってここまで来た……!ルルカちゃんも回復魔法で起こして、逃がすはずだった……!ヴァーデルから奪われた友達だって、デミアだって助けられると思ったのに……!!)
知ってるだろう、サキ。
私は気が短いんだ。5つ数えるまでに答えなければ……
……ジャックは……!
ジャックは私が殺した!だからジャックはいない!!
ヴァーデル卿。ジャックさんは生きています。
この町の西から逃げるつもりだったんでしょう。
大粒の涙を流し、大きく叫ぶサキ。
恐怖を押し殺し、今まで共に過ごしてきたジャックを想う。
ジャックを奪い、ノノカの屋敷に逃げ込んだサキ。
しかし、事情を知ったジャックはサキに居場所を与えてくれた。
それから共に過ごし、
人を信じる事、諦めないという気持ちを教えてくれた。
そしていつからか、サキはジャックに好意を抱くようになった。
そのジャックが、その恩人が、ヴァーデルに殺されてしまう。
……仕方ありません。
ヴァーデル卿。彼は異世界人ですが、あなたの満足できる力は持っていない。
そもそも、あなたは魔族を超越した存在。あなたを唸らせる者などいません。
それをお忘れですか?
……フン。いいだろう。ヴェイルノート、お前にくれてやる。
ほう。威勢がいいな。
シャルティア、ノノカ、下がっていろ。
これも運命だ。お前はデミアを助ける事はできない。
今ここで……
膨大な魔力を溜め、ヴァーデルは高笑いをして魔法を発動。
サキはヴァーデルを睨みつけ、小さな魔法のバリアを展開。
膨大な魔力。計り知れない力。
確かにお前は強いかもしれない。誰も敵わないかもしれない。
でもね……
私はジャックと出会えて、本当の強さを知ったの!
絶対諦めない事が本当の強さだってわかったの!!
だから……私は諦めない……!
どんなに魔法を鍛えても伸びなくて、
どんなに役立たずだと笑われても……!
どんなに小さなバリアしか作れなくても……!
ジャックを疑ったりしない!!
不思議な異世界人、ジャックに恋をしたサキュバス。
サキ。
彼女はまっすぐに前を向き、
ヴァーデルの冷たい顔を睨む。
ヴァーデルは片手から黒い炎を放ち、
サキのバリアを簡単に破壊。
けれどもサキは諦めない。
サキの心にはジャックの笑顔があった。
ジャックを裏切ってしまった事は事実。
小さく、寂しそうに呟いた。
****
冒険者ギルドの扉を開けるグラリオ。
グラリオの目の前には、半透明になったルルカの姿があった。
ルルカちゃん!?体が透けているぞ!一体どうしたんだ!?
この町にいるのはヴェイルノートだけじゃない……!
ヴァーデル……!とんでもない奴がいる……!!
見送り、したかったけど……もう、無理みたい……!
あはは……洒落にならないわよ、こんなの……!
あたしね……みんなと会えて、ほんとによかった……!
ほんとは、人間なんて嫌いで……1人の方が楽で……みんないなくなっちゃえって、そう思ってた……!
でも……あたしは間違ってた……!
ジャックとリリカと、あんたと……!みんなと一緒がいいって思ったの……!!
みんなが大好きなの……!!
もうすぐ……あたしはあたしじゃいられなくなる……!
その前に早く、みんな逃げて……!!
ヴァーデルの力で……あたしの”中”の力が溢れたら……!
この町も、ジャックも、リリカも、みんなみんな消えちゃう……!!
ヴァーデルに何かされたんだな!?
じゃあ本体の君を取り戻せば……!
今、ウメダで何が起きても……ジャックは”あそこ”に走る……!
誰が、どうなっても!!
「何が起きても解決せず、この町を出る」。
あなたが言ったこの作戦、今すぐ……!
突如として消えてしまったルルカの幻。
「ヴェイルノートを倒さずに今すぐ町を出ろ」。
それは「全員集まらずに」なのだろう。
そうルルカに言われたように聞こえたグラリオは、すぐに冒険者ギルドの扉を開け外に出る。
しかし。
どいつもこいつもみんな消えちゃえ!あはは!
あははははははははははは!
ルルカとよく似た少女から放たれる黒と白の巨大な光線。
グラリオは避ける隙もなく光線に飲み込まれ、光線は冒険者ギルドに直撃。
テーブルも椅子も、消してゆく。
たくさんの思い出が詰まった「みんなの居場所」が、たった一撃で「無」と化す。
そして、光線は冒険者ギルドを壊し、周りの民家をも火の海に変えてしまう。
あはは!死んだ死んだ死んだ!!
全部!全部消えた!あはははははははははは!!
体の中で暴走した力を使い、次々に町を破壊するルルカ。
果たして、グラリオはどうなったのか?
煌、ロザリア、サキは?
燃え盛る炎の中、
ヴェイルノートはジャックのいる西の入り口に歩き、
ただ不気味な笑みを浮かべていた……。
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