85話 元凶を絶て!天より舞い降りし救世主!
文字数 5,275文字
前回のあらすじ。
ブラックハーツ・アドベンチャー。
ジェットコースターはメルーナとマホに支えられたバルバトスによって無事に止まり、乗客は無事。
アルテミアは急いで乗り場に向かい、バルバトスの無事を願って探すけれど、担架で運ばれているのを見つけ……
天井が崩れて大岩が落下してきたにも関わらず、バルバトスから離れずにキスをする。
そして……
今日までメルーナ達には動いてもらったが、ブラックハーツに近付くなど言語道断。
俺に逆らう奴らは全て消えるんだ。
たとえ自分を犠牲にしてまで守ったものでも。
全ては闇の組織のために……!!
ははは!はははははははは!!
バルバトスの父親にしてセクシャルレインボーの元凶である男。
彼によるメルーナとその仲間達の抹殺が今……
****
セクシャルレインボー。飛行場。
メルーナの仲間、スライムのドルチェによって飛空艇から転移したソニアは、愛を司る女性「ジュリア」と出会い、ジャックへの気持ちを具現化した「弾」を作る事に協力。
ところが、観光客がブラックハーツ・アドベンチャーの事故について話しているのをドルチェが聞いてしまい、3人は動揺。
アルテミアと同じように「自分達の行動があの方にバレているかもしれない」と察したドルチェによって一時的に作業を中止。
ソニアを含めた3人は飛行船などで使う道具をしまっている倉庫に隠れていた。
おい、どうして隠れるんだ?
周りのスタッフは仲間じゃないのか?
確かにこの飛行場には整備士と操縦士、観光客のガイドがいるわ。
でも何だか様子がおかしい……
あの方が動いた、と考えた方がいいかもしれないわ……
この島のスタッフ……
この飛行場、ビーチ、宮殿、アミューズメント施設、宿泊施設、島中で観光客の接客をする人間はみんな女性で、この島の支配者に洗脳されているの。
この洗脳の内容は簡単。
1つ。メルーナちゃんの仲間はあの方の幹部のようなもの。必ず指示に従うこと。
これは私とジュリアちゃん、アルテミアちゃん、ヒビキちゃんの事だと思っていいわ。
2つ。1日に一度、大切な人への気持ちを島の中心に捧げること。
これは……
好きな人よ。
洗脳されている女性はみんな、大好きで大好きで仕方ない男性がいるの。
……島の中心にある山にはセクシャルハーツという大きなハートの塊があって、エネルギーが最大になる事で虹がかかるという伝説があるの。
エネルギーを最大にする方法は他にもいくつかあって、女性らしい言い方や仕草、ポーズをすることの他に大きな胸、綺麗なクビレ、美しいと言えるセクシーな体型を持った女性が島にいる事。
ステキでしょう?
この島の名前がセクシャルレインボーなのはそういう理由。
とってもロマンティックで、好きな人と訪れるデートスポットになるはずだった。
でも……
「好きな人への気持ちを捧げる」のは嘘なの。
あの方はこの島の伝説を知ると、効率を良くするためにこの嘘を他の町に知らせて毎日女性を招待して洗脳した。
それからずっと、彼女達はこの島から出ていない。大好きな人に会えずに、今まで1人もね。
もちろん私達はセクシャルレインボープロジェクトのメンバー、支配下にあるから逆らえない。
だから早くセクシャルハーツのエネルギーが最大になるように今まで協力してきたの。
でも、それは今日で終わるかもしれない。
さっきからみんなの「愛」が歪み始めているような……?
声も聞こえる……。
みんな何かを探しているみたい……?
大好きな人が私達に殺された……。
そう思っているみたい。今ここから出るのは危険すぎるわ。
もともとそんな洗脳なんて無いけど、あの方によって追加された可能性が高い……。
え……?彼女達の愛がどんどん黒くなって……?
ソニアちゃん、よく聞いて。
さっき事故が起きたブラックハーツ・アドベンチャーは、ブラックハーツを求めて秘境を冒険して、ドラゴンに襲われずに帰ってくるアトラクション。
でも、そのブラックハーツ本体はそのアトラクションのすぐ下にある。
だからあの方は事故を起こして近付けないようにした。
これで地中に埋まってしまった本体は誰にも壊せないし呼び起こす事もできない、けれど……
人が抱いた「黒い気持ち」がいっぱいになると、ブラックハーツ本体はそれを吸収して大きくなる。
地中から地上、地上から島の中心に移動して……!
洗脳された人は2000人を超えてる!
このままじゃ恨みなんてすぐいっぱいになる!!
どうすればいいの!?
扉の向こう側から聞こえる女性の声。
好きな人が死んでしまい、涙を流しながら殺したドルチェ達に怒りを抱く。
もっと話したかった。
もっと笑いたかった。
もっと一緒にいて、隣を歩いて、お互いの事を知って。
泣いたり笑ったり怒ったり、たくさんの思い出を作って。
セクシャルレインボーでのそれぞれの役目を放棄して武器を取ったのだろう。
ゾンビのように下を向いて歩いていた女性達は悲しむ言葉から怒りの言葉へと変わっていく。
大切な人の命も、その人との人生も、その全てを奪ったドルチェ、ジュリア、メルーナ達が許せない。
ソニアの心に浮かんだのはジャックとの思い出。
初めてジャックに会ったのはクラスタドーム。
そこでジャックの優しさを知り、また会いたいと願っていた。
それからグラーディアで再会して、異世界人が帝国に狙われている事とジャックに武器もなければお金もない事を心配したソニアは、ジャミ子としてグラスオーヴィで共同生活を提案。
その後すぐに「男嫌い」というイメージに隠れてしまっていた本当の気持ちに気付いてくれたジャックに恋心を抱いてしまうけれど……
『はあ……私はどうすればいいんだ……?この気持ちは何なんだ……?誰か教えてくれ……』
今まで異性を好きになった事などないソニアが自信をなくす中、小鳥との衝突、ナナとジャックのキス、様々な出来事を経験してきた。
1つ分かる事はジャックが気になるという事。
好きかどうかと聞かれればハッキリと「好きだ!」とは答えられず、また考えてしまう。
「気になるだけじゃない」事くらい分かっているけれど、剣士も男らしい言葉遣いもやめて、普通の女の子になれたらその先の気持ちも答えられただろうか。
そして、そんな自分がジャックを亡くしたら……
扉の向こうにいる女性のように、涙を流すだろうか。
悲しい、辛い、許せないと呟きながら武器を取るだろうか。
もしそうだとしたら……
ダメよ!
ソニアちゃん、扉を開けるつもり?
見つかったら全員殺されてしまうかもしれないのよ?
それに彼女達を攻撃するつもりならやめてちょうだい!
ただ操られているだけで、彼女達の帰りを持っている男性がたくさんいるの!
傷つけるわけにはいかないわ!
私にもジャックがいる。
でも恋人でもない、誰かを好きになるのが初めてでハッキリと好きかどうか分からない。
でも泣いている人達には恋人がいるかもしれない!結婚相手がいるかもしれない!
私のように片想いをしている人だっているかもしれない!!
ハッキリと好きだと伝える相手がいる、そんな素敵な人達を見捨てる事は出来ない!!
……教えてくれ。「あの方」の名前。
どんな奴なんだ……?
……彼の名はライドウ。
闇市場の魅力に取り憑かれて変わってしまったけれど、元々はグラーディアを支えていた英雄の1人よ。
私の父、グラス・オーヴィと
ノノの父親グランの親友……!
バルバトスとリサ姉さんの父親だ……!
とても真面目な人で、小さい時に会った事がある!
という事はライドウさんも悪い人じゃない……!
カジノの事もこの島の事も闇市場のせいでこうなったんだ……!!
くそ……!
洗脳が何だ……!闇市場が何だ……!
ふざけるな……!!
怒りに震えるソニア。
その姿を見て、ジュリアとドルチェは何かを決意し……
……やりましょう。
これ以上好きにはさせないわ。
私達の手で元に戻してあげましょう?
この島のスタッフはとても多いけど、みんな解放してあげましょう!
私も協力するわ!
意気投合するソニア、ドルチェ、ジュリア。
洗脳を解く事ができるのか?
そして……
いくつもの人骨。
冷たく分厚い鉄格子。
血のようなものが付いた甲冑。
「助けて」という文字や何かが引っかいたような爪痕がついた壁。
そして、不気味に笑うライドウと鎖に両手を繋がれたメルーナ。
ここは牢獄。
明かりが燭台に立てられたロウソクだけで薄暗く、床も壁も岩のようなもので出来ていて「綺麗」とは程遠い。
さらに何かが腐ったような悪臭が漂っていて、とても居心地が良いとは言えない。
そんな目をするな。
俺がお前達の行動に気付いていた。
こういう事態になるのはわかっていたはずだ。
そう言うと、男はメルーナの顔を蹴り、倒れた所で片足を上げて頭を踏む。
お前は今までよくやったよ。
本当は俺の指示に従いたくない、嫌だと思っていても動いてくれた。
たとえ、他の仲間に反対されても。
だが指示に無い事をされては困るんだ。
お前は娘の友達の仲間、その中で最も仲が良い。
記憶があるならなぜこんな事をするの……!?
バルバトスもリサも家族でしょう!?
記憶など関係ない。
闇市場の魅力は無限大だ。さらに手に入れるためなら家族だろうと喜んで捨ててやる。
闇の力さえあればいいのだ……!
『今日からここは私達のお家です!みんなでここに住みましょう!』
『サイコーだなぁ!メルーナちゃんとひとつ屋根の下、毎日一緒だぜっ!もう家族って事でいいよな?』
うん?痛いか?痛いだろうなぁ。
人間から女神に変わったお前でも効くんだ。
蹴っても殴っても剣で刺してもな。
闇はどんな事も可能にする。
お前の過去を知る事も、攻撃の効かない種族の能力を無効化する事も。
人間に戻す事も。
ま、待って……!
あなたの言う通りにするわ……!もう二度と逆らわない!
これまで通り私を道具として使っていいから……!
だからお願い!
私はどうなってもいいから!家族には手を出さないで!!
断る。
お前が死ぬのは当たり前だ。その後はアルテミアもマホも、この島に全ての人間に死んでもらう。
不気味に笑いながら剣を持つ男。
自分が踏んづけているメルーナの頭に刃を向ける。
これは異世界人が死んだ時と同じ事が起きる剣で、斬られた者は誰の記憶からも消える。
つまりアルテミアもレックスもヒビキも、バルバトスさえもお前の事を完全に忘れるんだ。
だが安心しろ。
痛みなど感じないぞ。一瞬で死ねば辛くなどないのだ。
それにどうせ皆死ぬ。
男の真上からフレイムイーターを手にしたジャックが落下。
そのまま炎を体に纏い、男の腹部を狙ってひと振り。
しかし、炎は決して激しく燃える事なく、
フレイムイーターで腹部を斬ったはずが血も出ない。
まるで複雑に絡まった赤い帯を優しく解くように、全ての元凶を暴き出し、断つ。
ライドウさん。
あなたはグラス・オーヴィさんとグランさんの友達で、3人でグラーディアを支えていた。
でもある日、闇市場のメンバーズカードを手に入れてから変わってしまった……!
あなたはバルバトスさんのお家から出ていく時、闇市場のメンバーズカードを体に埋め込んでいたんです。
でももう大丈夫。
カードは真っ二つに斬っちゃいました。
これでもう、元のライドウさんに戻れるはずです♪
さぁ、メルーナさん!
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