154話 獣人街を救え!モリゾーとコタロー救助隊!
文字数 7,463文字
久しぶりに会っていきなり何言ってんの?
あんたの公開処刑なら喜んで参加してやるわ!
なんなら今ここでやってもいいんだからね!
ちょっとルルカちゃん!?
こいつがヴェイルノートならゲノン帝国の最高幹部で間違いないんだろ!?
刺激してどうするんだよ〜〜〜!?
どんな用件にしろ戦闘は避けられないだろ。
帝国といえば町の住人を虐殺するのは当たり前、他国を滅ぼす悪魔そのものだ!
全員武器を取れ!!
そんな事はさせないよ!
ミルフィー先生、僕のお星さまに隠れてて!
今すぐこの人をやっつけるから!!
待ちな……!!
アンタには聞きたい事が山ほどあるんだよ……!
うわあああ!?
ハルさんの後ろに鬼みたいな影が出てる!?
その瞬間、ハルがヴェイルノートに向かって走り出し、あっという間に目の前に移動して刀を振る。
しかしヴェイルノートは呆れたようにため息をすると闇魔法を発動。
黒い魔法陣を自分の目の前に出現させるとハルの攻撃を防ぐ事に成功。
しかしそれだけではない……
やれやれ。
せっかく手紙の通り「旅の続き」の説明をしに来たというのに。
そう噛みつかれてはきちんとお話が出来ないじゃないですか。
罰として、あなたの攻撃……
どれほどの強さなのか皆さんに見ていただきます。
あなたの体に、そのままお返ししましょう。
それは相手の攻撃の痛みを跳ね返す魔法。
その威力は元の攻撃の2倍で、ハルの全身にズタズタに引き裂くような切り傷が……
駄目だ……!
血まみれだよ……どうしよう……!!
ハルさんが死んじゃうよ……!!
おぉ、これはすごい。
さすがは星乃家最強のバーサーカー。
骨の髄まで切り刻む剣技、見事!
もし彼女の攻撃を跳ね返せなかったと思うと、恐ろしい……!!
彼女から私に攻撃をして来ただけ。
私はジャックさんとその仲間の皆さまに、このラトリアを出た後の説明をしにはるばるやって来たのです。
さっきゴラゴランの公開処刑って言ったよな!?
確かあの人はクラスタドームでパフォーマンスをする集団に入った筋肉ムキムキのマッチョで、どこかのスタッフもしてるって……!
よく知っていますね。
そう、彼はCDEネットワークという組織に所属しているエンターテイナー。
「YES!マッスル!」という言葉を広めた有名人。
そもそもジャックさんとハルさんの旅のキッカケは彼の未来にある。
ジャンキラーという方から自分が死亡する未来を告げられた彼は、ジャックさんに助けを求めました。
ところがその時、ジャックさんはセクシャルレインボーからグラスオーヴィに向かったばかり。
相棒であるグラリオ将軍と一緒にいた彼は、ヒビキという竜人族がいない間の筋肉担当になって未来を変える方法を探しました。
そして数日後、ゴラゴランさんは星乃ハルさんと出会い……
『そうです!あなたの夫の星乃紋三郎という方はゲノン帝国に捕まってから行方不明!
しかしジャック君という男の子のアップデートを起こす力があれば、会えるかもしれない!!』
『その代わり、宣告された未来になるならば彼と修行の旅のゴールを私の公開処刑の場にして欲しい。』
『どれくらい先になるかは分かりませんが、とある女性から未来を宣告されて……』
『今日までこの島で未来を回避する方法を探しましたが、ジャック君に頼る以外に助かりそうになく、不甲斐ないばかり……!!』
『ハルさん!お願いします!!ジャック君と会えればお互いの願いが叶う可能性がある!!
どうかこの通りッ!!!』
――その後もゴラゴランさんの熱烈な叫びが続き、
ハルさんとジャックさんはグラスオーヴィで出会う事ができた……
ハルの夫が行方不明?
それはゲノン帝国が連れてっただけでしょ!?
だったらあんたが解放しなさいよ!!
皇帝はゲームがお好きでね。
もし本当にゴラゴランさんの公開処刑を止める事が出来たなら、星乃紋三郎さんを無事に返すと約束しましょう。
ふざけるな!
人の命を奪うような事をしておいて、ゲームのつもりだとでも言うのか!?
そうです。
そもそも皇帝が姿を消してあなた達に付いて行ったのはきちんと次の場所へ行けるようにアドバイスして、本当にゲームを始めるかテストしていただけ。
そしてあなた達は見事に合格した。
その代わり、もし公開処刑を止められずあなた達が負ければ当然死ぬ事になりますし、
星乃紋三郎はもちろんゴラゴラン、グラリオ、大文字タケルの命は無い。
いわゆるゲームオーバーです。
仮にも我が帝国の幹部ですよ?
そんな彼が温泉宿で呑気に異世界人と入浴などあってはならない……
それに一ノ瀬さんが皇帝と会った時の事を話し、男湯にいたメンバーは「声に気を付けろ」と注意する事にした。
言うまでもなくそれは皇帝の事ですが、確かその中にドゥーンさんもいましたね?
大文字タケルは我々の裏の幹部、ピリカさんによって……
せっかく鍛えた腕は使い物にならず血まみれ。
二度とトレーニングなど出来ない体で磔になっています。
『俺はお前と会った事でゴラゴランとグラリオを友達として見ていいのか答えを見つけた。
2人は間違いなく俺の親友なんだ!』
『これでやっとトレーニングが出来るッ!!はっはっは!!』
さて、説明はここまでかな?
本当はこの説明を皇帝がする予定でしたが、ジャックさんとの再会を希望した結果、交代する事ができた。
今の時点でどれくらい強いか試す事も出来ましたし――
ヒヒヒ……
確かに先ほどの爆発は私の魔法によるもの。
しかしジャックさんは流石ですねぇ……
彼はきちんとクエストをクリアしてあの部屋から脱出しました。
今は爆風に飛ばされてここへ来るのに時間がかかるでしょう。
え!?
じゃあジャックもアラネアもシロナも無事なの!?
お、お前はどうするんだ!
ジャックを探しに行くのを止めるつもりならミーが相手してやる!かかってきやがれ!!
決戦の地はここではない。
公開処刑までまだ何日も空いている。
それまでに相応しい仲間と出会い選び抜くなり、ジョブを鍛えるなりしっかりと準備をして来て下さい。
あぁ、ジャックさんに私の言った事をしっかり伝えておいて下さいね?
ジャックとハルが旅をする発端。
ゴラゴラン、グラリオ、大文字タケルの公開処刑。
皇帝にとってはただのゲーム。
これらは必ずジャックに伝えなければならない。
ヴェイルノートは不気味に笑うと、地面に黒い魔法陣が出現。
ゆっくりと姿を消した……。
****
――数十分後。
ラトリア。コロシアム周辺。
爆風やガラスの破片、壁のレンガ、木片による被害は想像以上に大きく、至るところで住人の救出作業が行われていた。
おい、誰か手を貸してくれ!
家族が家の下敷きになってるんだ!
よし、加勢しよう!
ついでに動ける奴を呼んでくる!諦めるなよ!
はぁ、はぁ……!
どの家も壊れててえらい事になってるな……!
『ちょっと待てよ!!
決戦の地はここじゃないんだろ!?
皇帝に言われたのを忘れたのかよ!!』
『だから、今はアルクの復活が優先だって言ってんだ!
どうしても殺したきゃそいつの代わりを探してやるから我慢しろ!!』
『分かった。
ぐちゃぐちゃにしていいオモチャ、見つけてくれるならいいよ。
でもその前に、まずは……』
『え、え?
おい待てやめろ!何でこっち見てんだよ!バカよせ!!』
――とにかく指名手配犯になって手配書を作られた事、
あの声の正体が皇帝だったって事、
ギャラララ・ラルルとピリカがアルクの復活を企んでる事……!
どう考えても緊急事態だ!!
急いでジャック達と合流しなきゃならない!
爆発に巻き込まれてなきゃいいけど大丈夫かな!?
一刻も早くジャックやドゥーンに知らせるために、ラトリアの住人の呼びかけがあってもひたすら走り続けるパンザレス。
手配書のせいでビースト学校にはいられないし、もしかしたらこの町にいるのも危ないかもしれない。
これからどうなるんだろう。
そんな事を考えていると、どこからともなく少年のような声が……
見つけた!見つけたよーーーーっ!
アレだよアレ!オイラが探してるの!
えっと、ピットセレブ襲撃及びつるてかの宿襲撃の犯人で間違いないよね?
『手配書が出回っている時点で「ギルド協会」からも追われる身、バウンティハンターも各国の騎士団も敵に回したも同然。』
確か自分の懸賞金は100万リエル……!
どんな奴が来てもおかしくないもんな!
絶対に捕まるわけにはいかないんだ、どこで話してるか知らないけどさっさと逃げて――
【女の子の声】
えっ!?ピットセレブでどんな事したの!?
ん、かわいい女の子の声?
この感じだと小学生、いや中学生か……
【男の子の声】
アレは極悪人だよ!
ピットセレブでは金庫の中にあるゴールデンケーキを盗んで、つるてかの宿の温泉まんじゅうを100個食べたんだ!
思わず身の危険を感じたけれど、少年と少女の会話に思わずツッコミを入れてしまうパンザレス。
ひとまず胸に手を当てて落ち着く事はできた。
足を止めて声のする方を見ると、太った少年と帽子を被った少女が立っていた。
まんじゅうはお前のじゃないだろ!
それより隣にいる女の子、かわいいじゃん!
ねぇねぇイラッとした?
でもオイラはかわいいから何でも許されるんだよ〜?
デブじゃないよぽっちゃりだよ!
例えるならボーリングの玉よりマシュマロだよ!
スイカよりうずらの卵の水煮だよ!
何で例えが日本なんだ……
っていうかうずらの卵の水煮って細かいし……
あいつ異世界人か?
モリゾー?
賞金稼ぎか?トレジャーハンターか?
騎士団か?帝国の人間か?それともギルドか?
【モリゾー】
ラーメン大好き13才!
愛くるしい食いしん坊ボディー!
どんなクエストも"まるっと"解決!
ドジっ子だけどかわいいから許してね♪
あと冒険者。
【金剛寺桃華】
私は桃華です!
普段は郵便局でお手伝いをしているんですけど、お兄ちゃんに会いたくてここに来ました!
そんなに緊張しなくていいよ。
郵便局があるのは知らなかったけど、わざわざお兄ちゃんのために会いに来るなんて健気なんだなぁ……
あぁ、こんな妹が欲しいっ!
私、どうしてもお兄ちゃんに渡さなきゃいけない"手紙"があるんです。
爆発であちこち大変な事になってるけど会わなくちゃ……
今まではお婆さんに届けていたけど、今は”怖い人”が来てて届けられない状態になっているはずだから……
なるほど、じゃあ直接渡すしかないな。
よし分かった!ボクがそのお兄ちゃんを一緒に探してあげよう!
おうともよ!
ボクには相棒のドゥーンとジャックっていう仲間がいるんだ!
ちょうどみんなに会いに行く所だったし、合流すれば人探しなんてすぐだよ!
えーーーーーーーーーっ!?
ちょっと!オイラの用件は!?
何だよ。
食いしん坊の愛されボディーだか何だか知らないけど、ボクはお前に用なんて無いぞ。
オイラが言ったのは愛くるしい食いしん坊ボディーなんだけど……
そんなに褒められたら照れちゃうぞ〜♪
実はクエストを一緒にやってほしくてね?
このラトリアには入り口が2つあって、そのうち1つに害虫が大量発生してるんだ!
そのせいで外に出られないんだよ〜。
そうなんだよ〜。
それで害虫駆除のクエストを受けたんだけど、やっぱり1人じゃ心細いっていうか〜……
被害は大きいし、受けてくれたのはこわ〜いディアスの男だけで……
特に女の子は危険だね〜。
あああ、おなかすいた……
誰か一緒にクエストを受けてくれないかなぁ……
あのなぁ、ボクは一刻も早く仲間に会いに行かなくちゃいけない緊急事態なの。
桃華ちゃんのお兄ちゃん探しも手伝いたいし、忙しいんだ!
じゃあバディ!
クエストクロックで友達になれば、他の冒険者にメッセージを送れるんだ!
そっちの用事が終わったら連絡してちょうだい!
ああああああ……おなかすいた……
このままじゃ餓死しちゃうよ……
だんだん意識がボーッとしてくる〜……
あーーーっ!ダメだあああ〜!
山みたいに大きなプリンが食べたい!
禁断症状が出ちゃうよ〜〜〜!
お願い、何か困ってるなら手伝ってあげるからまずはオイラを助けてよ!!
手伝うったって……
あんなに怖い女の子とアルクが現れたら命がいくつあったって……
…………。
はぁ……分かったよ。
バディするから、連絡するまで待っててくれ。
わざとらしく嘘泣きをして、ケロリと顔を変えるモリゾー。
折れたパンザレスはバディをすると、桃華と一緒にその場を移動。
しかし……?
そういえば、君のお兄ちゃんの特徴は?
背が高いとか剣を持ってるとか眼鏡かけてるとか……
えっと、ゲームが好きで……
今は星乃ハルっていう人と旅に出てるはずで……本名は別にあるんですけど、別の名前があって……
へぇ、ジャックっていうのか!
ちょうどいいや、ジャックに会ったら聞いてみよう!
きっとすぐ見つか――
実はパンザレスと一緒にいる金剛寺桃華は正真正銘、ジャックの実の妹。
その事実に気付くまであと3秒……
****
一方。
コタロー、ウルク、ミルフィーは最も爆発の被害が大きい瓦礫の山の近くを探索中。
その瓦礫は間違いなくジャックとアラネアとシロナがいた部屋の壁や天井で、近くにあった民家はほとんどが完全に崩壊。
住人同士の救助が行われているけれど、火の手も上がっていて困難を余儀なくされた。
おい、危ないぞ!
この家も崩れる!みんな離れろおおお!
どうしましょう!
お母さんと離れちゃったのね?
どなたか、この子のママは誰いませんか!?
スーパースター!
パワー強化、スピード強化!
家の下敷きになんてさせないよ!
そうだよね、ウルク君♪
当然だ。
ラトリアに住んでいる者だけじゃなく、俺達の先生まで傷付けるなんて許さない。
行くぞコタロー。
崩壊した家がさらに崩れ、命の危機に晒されたミルフィーと獣人の子ども。
咄嗟に出てきたコタローが2人を抱えて避難させ、今度はコタロー&ウルクで崩れる家を全力で殴って屋根や壁を小さく砕き、被害を最小限に。
上出来だ。
また誰かが下敷きになる前に、崩れそうな家は全部壊した方がいいかもしれないな。
ああっ!無事で良かったわ!
ミルフィー先生、うちの子を守ってくれてありがとうございます!
見事、コタローとウルクの活躍で救出成功。
3人はジャックを探している途中で、今にも崩れそうな民家を横目にこうなる事を予想していた。
しかしミルフィーはそれが的中してしまった事で不安が募る……。
どうしましょう……
ジャックさんも心配だけど、学校の子ども達は今頃泣いているかもしれない……!
あそこにはパンザレスさんを置いてきてしまったから、彼も心配だわ!
コロシアムから学校まで、大体歩いて30分……
爆発の被害が届いてなければいいんだが……
ジャック君と一緒にいるはずのシロナお姉ちゃんとアラネアさんも心配だよ!
うぅ、一体どこにいるんだよーっ!
……不安になっても仕方ない。
敵が言った事を信じるのは気が進まないが、今俺達が持っている手がかりはヴェイルノートが言った事のみ……!
ジャックは奴の攻撃を受けてもコロシアムから脱出して、どこかに飛ばされた!
悔しいが、信じるしかない!シロナもアラネアもきっと無事だ!
俺達で見つけよう!
そ、そうだよね!
ミルフィー先生、ウルク君の言う通りだよ!僕達も信じよう!
みんな無事だって!
立ち止まった足をまた動かして、再び歩き出すコタロー、ウルク、ミルフィー。
ジャックを探すのは前提として、まだ危険な目に遭っている住人はいるはず。
ひとまず崩れかけた家には近付かないよう周りの住人に声をかけながら救助する事に決めた。
これはアレだね!
アレだよウルク君!僕は全て理解したよ!
僕達はビーストエリアに住む人を助ける正義のヒーロー!
コタロー救助隊だよ!!!
まぁ!
それじゃあ私は美人救助隊ミルフィーね!
今は3人だけどきっとステキな仲間が入ってくれるはず!
テーマソングも考えないと♪
それ、僕も歌いたーーーい!
ウルク隊員も賛成だよね?
……はぁ。
救助はそんな甘い物じゃ……って言いたいけど、まぁいいか。
俺も賛成だよ、コタロー隊長。
やったーーーーーー!
よーし!愛と平和を守るため、まずは……!
何だか楽しくなってきてスキップするコタロー。
こうして、コタロー救助隊は結成された。
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