175話 熱い!重い!モリゾーとゴラゴランの過去!
文字数 6,974文字
「連合」。または「連合軍」。
それはギルドや騎士団などの壁を超えたグループのようなもの。
ある目的を達成するために集まった者達で、それぞれがメインで活動する物と両立しているのが普通。
また、その目的も魔物の討伐、ダンジョン攻略、雨や土砂などの災害における人命救助、壊れた町の復興の手伝いなど、人に感謝されるものが多い。
また、その規模が大きくなると「1番隊」と呼ばれる小チームが作られて、リーダーが決まって、
2番隊、3番隊、4番隊……という風にどんどん作られていく。
そしてその一例として挙げられるのが「クラウディア連合軍」で、
まさに魔物の討伐など、人に感謝される「理想の連合軍」そのもの。
中には「忘却の古戦場」の武器の使い手もいて、国のためにその力を使う者もいる。
しかし、反対に今恐れられている「ナイトメア連合」は違い、
町や村を焼き払う、人を殺すのはもちろんで、冒険者狩りは有名。
相手がギルドや騎士団でも容赦しない。
そしてこの男こそ、
そのナイトメア連合、十五番隊の隊長、バベル。
害虫をブラックエリアのゲートに放って、それを退治できた者を仲間に入るか断って戦うかの選択をさせる。
唯一戦って戦闘に勝利したのはゴラゴランただ1人で、その優しさからトドメを刺されずに今日まで生き延び、また懲りずに同じ事を繰り返しているが……
ついに武器であるお箸を使って害虫を見事駆除したのはモリゾー。
さらにバベルの突然の攻撃にも分身を作って回避に成功するなど、ヴェルグも思わず「すげぇ!」と絶賛するほどの活躍を見せた。
しかし……
食いしん坊で、悩みの一つもないイメージのモリゾー。
戦闘で活躍するようには見えないし、スパ・ラトリアでコタローと食べ放題を楽しんでいた時なんて「運動なんてしたくない」と言っていたほど。
ジャックも桃華も、久しぶりに再会した仲間達も、彼が子供のようにはしゃいでいた所しか見ていない。
モリゾー君と会ってからあまり時間は経ってないけど、オレにとってはもう大事な友達なんです。
どれだけ辛い過去があっても、それを知ってきちんと分かってあげたい。
そばに居たいんです。
優しいんだね。
分かった、じゃあまずは全員生きて此処を通る事が大事ね。
一旦ここを離れて助けを呼んだ方がいい。
実はさっきクラウディア連合軍の人と連絡してて……
『でも、「ウチのバカ」を向かわせてあるから大丈夫〜!
あれでも一応隊長だし、役に立つからね〜!』
って言われたから、その人に会いに行くんだ!
どうせラトリアに向かったのはいいけどブラックエリアへの道が分からなくて迷ってるか女の人をナンパしてるか、どっちかだと思うけど、
強いのは確かだから、加勢してくれれば安心できるよ!
モリゾー君の過去も知ってるから、もしもの時の対処法も知ってるかもしれないし!
急いで見つけに行こう!
早く助けを呼んで安心させてあげよう?
みんな友達なんでしょ?
モリゾー達を心配そうに見つめるジャック。
このまま戦線離脱したらみんなに何かあった時に対応が出来ない。
それでも「きっと大丈夫」と自分を納得させて、セリカと共にゲートから離れる。
****
数分後。
しばらく沈黙が続いたまま、お互い動かないモリゾーとバベル。
桃華、シロナは怖くてその場から動けずに地面に座り込む。
そんな中、バベルは正々堂々戦うわけでもなく、ニヤニヤと笑いながら口を開く。
……はぁ。
このままこうやってお互いの行動を先読みして固まってても仕方ないだろ。
いつまで俺の首にクナイを当てたまま後ろに立ってるつもりだ?
そ、そうだ!
そいつが虫を操ってた犯人に違いねぇ!
お前が動けないなら俺がさっきみたいにギャラクシーのパンチでぶっ飛ばして……!
え!?
何言ってんだよ!?チャンスじゃねぇか!
モリゾー、今こそこいつを――
何だ?こいつらは?
随分お前の事を信用してるようじゃねぇか。
"アレ"から何があったんだ?バケモノ。
何言ってんだてめぇ?
人の友達をバケモノ扱いするんじゃねぇよ!
モリゾーはどう見ても、ただの人間……
ヒヒヒ……!
おいおい、冗談はよしてくれよ。
笑えないぜ?誰が人間だって?え?
手足や内臓をクナイで何度も何度も何度も何度も引き裂いて、
何言ってやがる!
俺達はそんな怖いヤツと一緒にいるって言いたいのかよ!?
モリゾーがそんな事するわけねぇだろ!!
「忍びの里」。
綺麗な湖、花畑、大きな桜の木。
……豊かな自然に恵まれた集落の名前だ。
膨大な金も贅沢な生活もあるわけじゃないが、
ここで暮らす人間は健康で優しく、嘘も付かない正直者だけだと言われてる。
だが……
ある夜、誰かが屋根の上に立ち、
満月を背にこちらをじーっと見つめてくるのを里の人間が気付き、不幸にも目が合ってしまう。
その後は絵に描いたような地獄の始まりだ。
一瞬のうちに首を切断され、
すでに寝静まった人間の枕元に生首を置いてパニックを起こした。
他の人間も家から1人ずつ引きずり出し、手足をあり得ない力で簡単に折ったり、
「どの体の一部を壊せば良い悲鳴が聞けるか」を確かめたり、この世の者とは思えない顔で忍びの里の人間を皆殺しにした大事件……
その犯人が当時、忍びの里で暮らしていたごく普通の子ども、モリゾーなんだよ!!!
さぁモリゾー。
ちょうどいい、せっかくまた会ったんだ。
3年前、忍びの里を恐怖のドン底に落としたお前が喜ぶとっておきのステージを教えてやる!
俺と一緒に来い!!
実は俺と同じナイトメア連合軍の十三番隊隊長「メテオヴァラス」がゲノン帝国に呼ばれたんだ!
異世界人3人の公開処刑のためにな!
お前と同じ共通点を持つ"あの2人"も一緒だ!
【女の子】
『これでお前も共通点ができた!ウチと一緒だね!』
異世界人3人の公開処刑って……?
もしかしてゴラゴランさん……?
ん?なぜ処刑について知っている?
モリゾー、こいつらは一体何なんだ?
まさか……
ブラックエリアのみんなが困ってる害虫をブッ飛ばして、ウメダの公開処刑を止めてゴラゴラン達の命を守る……
モリゾーと俺達は仲間だ!!!
そうです!
モリゾー君は私達の友達です!
忍びの里が大変な事になったのが事実でも、彼は絶対にそんなひどい事しません!
そうです!
あなたは嘘つきです!!あなたがやったんでしょう!?
誰がそんな話信じるもんですか!!
ほら、お前にはそんな顔は似合わないぞ?
大丈夫さ、どんなデタラメを聞かされようが俺達が仲間なのは変わらない!!
そうです!
まだ会ったばかりですけど、私達はもう友達なんですよ?
辛い顔なんて見たくないです!
(なぜだ?俺が言った事は事実だぞ?
なぜここまで信頼されているんだ?)
さぁ、そいつを離してやれ!
害虫駆除の犯人をブッ飛ばすのはお前だけじゃないんだぞ?
俺も100発殴らねぇと気が済まないからな!!
怪我をした時は任せて下さい!
さぁ、コテンパンにやっつけちゃいましょう!
(……違った。誰もオイラを怖がってなんかない。
バベルの言葉が真実なのを理解した上で、受け入れてくれてる。
ちゃんとそばに居てくれる……)
(なるほど、そういう事か。
こいつらはモリゾーの気持ちを察して安心させたいだけ……)
さぁ観念しやがれ。
人の友達の心を追い詰めたんだ。
覚悟、出来てるよなぁ?
……てめぇの仲間がどんな過去を背負って生きていても見捨てない。全て受け入れる。
お前らが言いたいのはそういう事だろ?
お前らをメテオヴァラスに会わせてやる。
モリゾーだけじゃねぇ、お前ら全員だ。
何わけわかんねぇ事言ってんだ?
いいからかかって来いよ!
俺達はお前を倒さないとこのゲートを通れないんだよ!
そしてウメダを目指し、異世界人の公開処刑を止める。
ここを通りたきゃ勝手にしな。俺は手を出さねぇ。
それよりさっきの話、覚えてるか?
俺と同じナイトメア連合軍の十三番隊隊長「メテオヴァラス」がゲノン帝国に呼ばれた。
な、何だと!?
桃華ちゃん、こいつの言っている事は本当か!?
うん……ゴラゴランさんの手紙に書いてあった6人の敵の中に入ってる……!
ピリカ、チョコ、アルク……
この3名は今までに私達の仲間が会った事がある敵ですけど、メテオヴァラスという方は聞いた事がありません……!
一体どういう人なんでしょうか……!
力のある者は弱い者を守る、または弱い者をねじ伏せる。
グラリオ、ゴラゴラン、大文字タケルに、
筋肉質の男の考える「力を持つ者の在り方」を教えてやった男さ。
前に俺がこのブラックエリアでゴラゴランと戦った後の事だ。
ゴラゴランは自分以外にも公開処刑になる人間が居る事を知って、俺とメテオヴァラスの元へやって来たんだ。
『おいおい!もうあの時の事は済んだはずだろ!
いきなり怒鳴り出して何のつもりだ!
ここがどこだか分かってるのか?
ナイトメア連合軍の要塞だぞ?』
『そもそも、お前はウメダに用があったんだろ?
ゲノン帝国に捕まる前に、自分から向かってたはずだ!
それとも、お前と一緒に処刑されるグラリオとタケルがここに居ると聞いて、助けに来たのか?』
『だがもう遅いぞ!!
2人は十三番隊隊長のメテオヴァラスが再起不能にしてやったからな!
これからウメダに連行する所だ!
何をしようと無駄、無駄、無駄!!』
『ふざけるなああああああああああああああああ!!!』
『たとえ自分が処刑されようと、2人が処刑されるのは認めない!!
グラリオもタケルも一緒にジムに通って体を鍛え合った仲間なんだ!!』
『どうしてもと言うなら……!
2人の体を傷付ける分の暴力を、全て俺が受け止めてやる!!
さぁかかって来い!!絶対にこちらから攻撃はしない!!』
『へぇ、仲間のために身代わりになって処刑を1人だけ受けるつもりか?
泣かせるねぇ。さすがアツい男、ゴラゴランだ。
だがもう一度よく考えた方がいいと思うぜ?』
『この場には連合軍の下っ端どもが300人、これでも物足りなければウメダからゲノン帝国の下っ端どもを大量に呼んでもいいんだぞ?』
『なんならメテオヴァラスを呼んでこようか?
奴は今、休憩中なんだ。お前が望むならいくらでも人数を増やせ――』
『漢に二言は無い。つべこべ言わずにかかってこい。』
『よしお前ら、相手は無抵抗のバカだ!やっちまえ!!』
『ヒヒヒヒヒヒ!
バーーーカ!バーーーカ!ハハハハハハハハハハ!!』
【メテオヴァラス】
『もう一度言ってやろうか?
体を鍛える、強くなる、その目的こそ破壊なんだ。
気に食わなければパンチでねじ伏せれば良い。
これこそ「力を持つ者の在り方」。』
『今にも死にそうな顔で何を言う?
物を壊すのも生き物を殺すのも全て力のある者の自由!
逆らう奴は全てブン殴ればいいと言っているだろう!』
『それに、その言葉を聞いたのはこれで3回目だ。
グラリオも大文字タケルも俺の考えを否定し、そして負けた。
仲間などと甘えた関係を持ち、守りたい物があると言ったその結果がこれだ!!』
『グラリオ!!タケル!!
くっそおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
『さぁ、これで最後にしようじゃないか!!
相手が下っ端とはいえ無抵抗で耐えた事は認めているんだ!
お前が俺に勝てれば考え方が間違っていたと認めて、
2人を解放してやるよ!!!』
――そして奴は負けた。
最初こそでかい声で叫んでいたが、結局このザマさ。
何て奴なんだ……!!
ゴラゴランはギャラクシーを世界に知らしめた男だぞ!
それでも勝てないなんて……!
メテオヴァラスがどんな奴か気になるだろ?
だから会わせてやるよ。公開処刑が始まる前にな。
その男はまだウメダに行ってない。
今もナイトメア連合軍の要塞にいる。
そうさ!奴はゲノン帝国から呼び出しを受けているが、処刑の邪魔をする者を全力で叩き潰すために、準備をしている最中!!
中途半端な状態だ!!
つまり、奴が完璧な状態でウメダに着く前に、
奴を倒すチャンスをくれてやるって話だよ!!!
でもナイトメア連合軍の要塞なんて怖くて入れないですよ!
平気さ、要塞はとある町の中にあるんだ。
宿屋もあれば酒場もある。武器屋に寄って準備を整える事も可能。
ピットセレブの金持ちに建てさせた特設リング付きのスタジアムは必見だ。
「気が変わった」って言っただろ?
どうするかはお前達次第、要塞はこのゲートを通った先にある。
もし断るならそれでも良いさ、完全体になったメテオヴァラスを相手にすれば良い。
勝てる自信があるならな。
モリゾー。
公開処刑には”あの2人”も関わってるらしいじゃないか。
という事はこいつらがアレをいずれ"知る"のも時間の問題だ。
お前とあの2人を繋ぐ"共通点"、禁断の秘密をな!!
そして、オイラの闇が周りの人を容赦なく傷つける。
だからそれを期待してメテオヴァラスを一足早く倒すチャンスをくれた。
でも……
オイラは、友達を信じてる!
二度と3年前の自分と同じ事はしない!
絶対に誰も傷つけない!!!
はい!害虫に襲われた女性の遺体は全て埋葬しましたよ!
クソ!あの野郎、どういうつもりだ!?
ゲートを出入り自由にしてこの先に行けるようになったのはいいけど、あのままどこかに消えて居なくなっちまったじゃねぇか!
この時点であいつの言った話に便乗するのは確定だろ!
当然だこのヤロー!
こうなったらナイトメア連合軍の要塞のスタジアムに乗り込んで、特設リングごとブッ飛ばしてやるぜ!!
さぁ、とっとと行くぞ!メテオヴァラスをボッコボコにするんだからな!
ああああああああ!
あのヤローどこに行ったんだよ!
戻ってきたら早速、おしりペンペンだ!!
せっかくかっこいい事を言えたのに台無しじゃねーか!!
要塞をブッ壊した後だ。別に罠だって構わねぇ。
その後でじっくり教えてもらうよ、“本当のお前”について。
言っとくが尋問はそんなに甘くないぜ?
あの手この手で洗いざらい話してもらうんだからな。
あ〜んな事やこ〜んな事、全部!!
そしたらスッキリだ!
隠していたかった事、知られたくない事、
心のモヤモヤを取り除いてクリアにする!
「もう怖くないぞ」って、空に向かって叫ぶんだ!!
そんでいーーっぱい笑え!!
そうだよ!
どんな人にも秘密にしたい事はあるもん!
だから怖くなったり焦ったりする!
でも大丈夫、私達は何を知っても君から離れたりなんかしないよ!
そうそう!
私も男性にあ〜んな事やこ〜んな事をされる妄想を何度もしますけど、
本当に手を出されても良いと思ってる人がいるんですよ!
まずはジャックさんが私の××××を×××して×××××を×××××に――
モリゾー君、今の聞いた!?
絶対やっちゃダメなやつだよ!性的にアーーーウーーートーーー!!
みんな、本当にありがとう!
忍びの里にオイラの家があるから、そこで真実を話すよ!
今は冒険者として、ジャック君の仲間の1人として一緒に居させてほしい!
良かった、みんな無事みたいだね!
結局、助っ人が見つからなかったから焦ったよ!
なんだよジャック、おめーも俺と同じか?
こっちはひと暴れした後、忍びの里でモリゾーの話を全部聞こうと思ってるんだけどなぁ?
よし、じゃあ決まりだね!
ゲートを越えて、先に進もう!!
ナイトメア連合軍、隊長バベル。
彼によって明かされたモリゾー、ゴラゴランVSメテオヴァラスの過去。
ジャック達は次なる舞台に進むため、ブラックエリアのゲートを出てついにラトリアの外へ。
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