139話 ジャック涙目!?ダクトを進め!
文字数 4,429文字
ビースト街、奥地。
ドゥーンとパンザレスが時間稼ぎをしているうちに獣人達が根城にしている建物に行って親玉を叩く……
その作戦通り、フェリスを先頭に最短ルートを通っていたジャック。
最後にドゥーンを見た時に獣人に見つかってしまって焦っていた事から、ジャックは手を合わせて「守りたい」と願っていた。
あまり不安な顔をするのはおすすめしないよ?
アンタの潜在能力は笑う事で成長しやすくなってるんだ。
仲間の無事を願うなら自信を持って、笑顔が大事なのさ。
いい感じだね!
気持ちを落ち着かせて、自然に笑える練習をしておきな!
(ドゥーンさん、パンザレスさん、オレが守りますっ!だから安心して下さいね!)
いい笑顔だな。
さぁ、そろそろ着くぞ。周囲に警戒を怠らず、慎重に進もう。
ハルのおかげでドゥーンとパンザレスへの心配が少し軽くなって、さらに元気に笑って返事をするジャック。
一行は、蜘蛛の獣人アラネアの部下が居ないか注意しつつ、いよいよ何重もの糸で包まれた建物へ辿り着く。
何なのよこれ!白い何かが建物をぐるぐる巻きにしてるんですけど!悪趣味にも程があるんじゃない?キモ〜!
ここが黒幕の根城で間違いない。
どんな罠が仕掛けられていてもおかしくないだろう。壁や天井、怪しいと思った物には触らない方がいいな……
そんなの正面突破に決まってるじゃない!
思いっきり派手にブチかましてやればいいのよ!
ちょ、ちょっと待ってくれ!
わざわざ別ルートを使ってここまで来た意味がないだろう!
敵に囲まれるのを避けるため、慎重に進もうと言ったはずだぞ!?
そう、ジャック達の現在位置は建物の入り口の反対側。
辺りには人気もなく枯れ果てた木が生い茂るばかりで、見張りの姿は見えない。
恐らく入り口からの侵入はできない。
この近くに他の侵入口があればいいんだが……
黒幕の正体はわからないが、人間と獣人の問題に深い恨みを持つのは確か。
その黒幕が根城にしているこの建物がただ生活するだけの家とは考えにくい。
確か、恨みを持つ人達は増えていってるんですよね?
それで大勢でラトリア全体をめちゃくちゃにするとしたら、たくさんの武器があってもおかしくないかも……!
ふむ……
となると、アタシ達の目的は黒幕を倒すのはもちろん、どこかにある武器を没収ないし破壊する……
あぁ。
ただどんな武器があるか分からない。
爆弾の可能性もあるから無闇に触るのは危険だ。
そうだな。
クエストクロックと人間と獣人の争いにも何か関係があるかもしれない。
何にしても、まずは敵を倒す事よりも情報収集だ。
建物に入ってしまえば敵だらけ、騒ぎを起こさず慎重に進んで部屋を巡ってみよう。
入り口の扉以外で中に入る場所がないか建物をじっと見つめるジャック達。
扉がダメなら……?
一方、時を同じくしてここは建物の入り口である扉。
狼の獣人の少年が頭を抱えながらゆっくりと歩いていると、建物の中から馬の獣人がやってきた。
おいお前、アラネア様はどうした?一緒だったんじゃないのか?
人間を捕らえた……すぐに戻ってくるだろ……!
それより頭が痛い……!!
本当に大丈夫か?
顔色が悪いぞ?しばらく中で休んでいた方が……
お、おい、本当にどうしたんだ?
コタローはお前の嫌いな奴の名前だろ?
ここにはいないぞ?
コタローとの会話が頭に浮かび、
「ここにはいない」という言葉を聞いて空を見上げる少年。
今思い出したものが過去の記憶なのかは分からないままだけど、何かを忘れているような、そんな感覚に違和感を覚える。
すぐに薬を飲んだ方がいいな。
その様子じゃ大変だろう、今誰か呼ぶから……
問題ない……!
薬の後は倉庫の見張りをすればいいか……?
自分の役割を果たすため、この後の行動の確認を終えた少年は、心配する獣人をよそに苦しそうに頭を抱えながら入り口へと入っていった……。
いいかい?
ここは狭くて暗くて窮屈なんだ!
四つん這いになって進むよ!いいね!
ちょっと!ジャック、先に行ってよね!
変なとこ見たら容赦しないから!
そう、ダクトである。
それは数分前、コタローが建物の窓を発見した時のこと。
「扉がダメなら窓から」と侵入したものの、そこは男子トイレ。
「しかしこのまま部屋を通るのは危険だ」とフェリスが口を開き、どうやって他の部屋に行こうかと悩んでいたところ、天井にダクトがあるのに気付いた結果……
本来は人が入るところじゃなくて、気体を運ぶ管の事だね。
建物の中で換気したり排煙したりするために作られたものさ。
まぁ、空気の通り道だと思えばいいよ。
もっとも、人が入れるくらいの大きさで簡単に入れるなんて思ってなかったけどね……
この管は天井裏と同じようなもの。
この中を通っていけば他の部屋や通路を上から覗く事ができるが、どうも怪しい……
本当にダクトなのか……?
ともかく、入っちまったモンは仕方ない!
さっさと先に進もうじゃないか!
なんだかワクワクしてきたよ!
でも、僕が先頭でよかったの?
コタローは鼻が効くはずだからね。
少しでも変な匂いがしたらすぐに教えておくれ!
ダクトの中で頭をぶつけたジャックをよそに、元気いっぱいの返事をするコタロー。
彼らは今、
コタロー、ハル、ルルカ、ジャック、フェリスの順で四つん這いになってゆっくりと前に進む。
む〜〜……
スカートで四つん這いなんて落ち着かないんですけど〜〜……
大丈夫だよ!
ドゥーンさんとパンザレスさんならまだしも、オレは真面目な男子高校生だから!!
そういうの興味ないし、いつもツッコミしてるから!ホントに!!
はっはっは!それは一理あるね!
あの2人よりはマシだよ!
くんくん。くんくんくん……
あれ?何か食べ物の匂いがするよ?
って事は光があるはずだね。
見つからないようにこっそり覗いてみようか。
暗く狭いダクトの中で白い光があるのを探す。
これは下に部屋があって、その明かりが漏れているということ。
食べ物の匂いがするということは敵が食事をしているに違いない。
ハルは見つからないように部屋の中を覗く。
すると数人の獣人がドーナツのようなものを食べながら雑談をしている姿が見えた。
しかしここでジャック達はとんでもない話を聞いてしまう。
なぁ、あの話本当か?
今までに捕まえた人間は俺達と違う薬を飲ませて、違う生命体にするって話……
あぁ。なんでもグランドールとかいう国が開発した秘薬らしいんだが……
俺達と同じ獣人の中でも嫌われてる種族、いるだろ?
え!?もしかして「あの方」と同じ蜘蛛の……!
まさか人間達を蜘蛛のビーストにするのか!?
あのウルクって子供まで蜘蛛になったら大変だ!!
獣人の会話の内容に驚いて思わず大声で叫んでしまったコタロー。
慌ててハルが口を塞いで落ち着くように注意を促すけれど、フェリスも動揺していた。
と、とにかく薬については黙ってた方がいい!
もし本当にあの種族に変化したら逃げ出そう!
それから、この話は他言無用だ!
他の奴らに話したら全員ここを出ようとするだろ?
そうなったら「あの方」に襲われて……!
また誰かの声が聞こえたぞ!
あぁ気味が悪いっ!さっさと持ち場に戻ろうぜ!
コタロー、フェリス、ジャックが慌てて叫んでしまったにも関わらず、獣人達は部屋から出て行き、運良く見つからずに済んだ。
けれど……
あり得ない……!
黒幕の正体が蜘蛛のビースト、アラネア……!?
グランドール騎士団の1人がなぜ人間と獣人の問題に関わっているんだ!?
ドゥーンとパンザレスが必死に戦った少年、アルクが所属する騎士団の名前だよ。
さっきの話が本当なら、蜘蛛の獣人のアラネアとかいうのがジャックのクエストクロックを盗んだ犯人で、捕まえた人間を蜘蛛の獣人にしちまうって事だね……
そういえばさっきの2人、蜘蛛の獣人を嫌ってるように聞こえたけど何か訳があるのかい?
ビーストはビースト同士全員仲が良いわけじゃない。
特に蜘蛛はビーストからも人間からも嫌われていて、あまり人前に姿を見せないんだ。
確かに言ってたけど聞いたことないわ。
知り合いなの?
ウルク君は狼のビーストだよ……!
僕の大切な友達で、いつも笑ってた……!
それで、冒険者になれて……!
僕、ずっとお祝いしたくて……!
うん……!
壊れたクエストクロックの持ち主だよ……!!
じゃあ、あのクエストクロックはアラネアに壊されたってこと……?
アラネアとウルクの関係性が分からない……
どうして学校の前に置いたのかも謎だ……
へぇ?
わからないなら本人に会っちゃえばいい……
ジャックにしては良いこと言うじゃない♪
ちょっと待った!
余計な戦闘を避けるために慎重に進むんだ!
どんな敵がいるかわからないんだぞ!
かくして、
黒幕の正体であるアラネアの存在、
狼の少年ウルクの存在、
捕らわれた人間が蜘蛛の獣人にされてしまう事を知ったジャック達。
事の真相を知るにはコタローの友達であるウルクに会うしかない。
一行は彼と会うことを目標に、狭いダクトの中を進む。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)