46話 夜露死苦!ウエノをシメるヤバイ奴登場!?
文字数 7,420文字
前回のあらすじ。
「冒険者様感謝祭」が開催され、
お祭り騒ぎのウエノに辿り着いたジャック、ソラ、結衣、ヒナ。
ジャックは、ナナにきちんと謝り元気を出してもらうため、たこ焼きボンバーをもう1度作る事を提案。
たこ焼きボンバーの素材を買うため、ヒナの案内で中心街のクラフトショップへ向かい、たこ焼きボンバーを作る事に成功する。
一方、ジャック達を見失ってしまったナナは怪しげな広場に着き、鉄の棒を持った男に出会う。
男の名はバルバトス。
「闇市場」と繋がりを持つコレクター。
バルバトスは、広場にいる人間に「奴を見つけたらここに連れて来い」と言い、薄暗い通路に消えて行く。
バルバトスが探している人間。
それは……
『指名手配。
ウメダを壊滅させ、ゲノン帝国の英雄を殺害し、グラーディアに逃亡した駆け出し冒険者……。
名前は…………』
『ハハハ……面白くなってきたじゃねぇか。
闇市場のコレクター、バルバトス様から逃げられると思うならやってみるがいい。
会うのが楽しみだ……。』
なぜかゲノン帝国幹部の殺害をした事になり、指名手配されていたジャックだった。
****
グラーディア。
グラスオーヴィ。
ジャックの指名手配、ナナの尾行など知る由もないリサは、バスタオル姿のまま昼食を食べていた。
姉さん。そんな格好で昼食なんて食べないで下さい。
服を着るか昼食を食べるか……
……コホン。
服を着るか昼食を食べるか新聞を読むか、どれか1つにして下さい。まったく、足も開いてみっともない……。下品な男じゃないんですから、もう少し女性らしく――
わぁ!リサさん、前見えてますよう!
足を閉じて下さいいいいい!
あーごめんごめん!
小鳥ちんはまだ純粋だったねぇ♪
でもいつか小鳥ちんも、好きな男の子の前でパカーッてヤる時が来るんだよ!うんうん♪
というか、ジャック君いないじゃないですか。どこに行ったんですか?
あれ〜?あれれ〜?
もしかして小鳥ちん、男の子の寝込みを襲うために部屋を覗きに行った?
ヒュー!過激だねぇ!ソニアちん、ライバル登場だよ?どうする?
何の話ですか!ニヤニヤしてないで早く服を着て下さい!風邪を引いても知りませんよ?
居ないなら仕方ないな。
剣士としてレベルアップするため、一緒にクエストでもと思っていたが、残念だ。
愛しの彼ならウエノに買い出しだよ♪
ヒナちんと一緒だから無事に帰ってくるよ!心配しなさんな♪
お・ふ・た・り・さん♪
どういう意味ですか!
私は別にあんな男などどうでも……!
くっ……!
と、とにかく、買い出しに行っているのはわかった。しかしウエノには近付いてはならないエリアがある。ヒナがいるとはいえ心配は心配だな。
ええと確か、3つのエリアがあるんだよね?中心街と闘乱街、あともう1つって何だっけ?
あ〜危ないねぇ〜♪
"知らない事は命取り"って聞いた事ない〜?
アソコはね〜小鳥ちんみたいな純粋な女の子が興味本位で覗いていい場所じゃないんだよ〜♪
知っておけば平気だけど、知らないと気になっちゃうでしょ〜?
もし覗いたら〜
言っとくけど、名前は教えられないよ?
あたしも"あっち側の人間"に目を付けられたくないからねぇ。
スラム街だ。
エリアの規模は中心街にも闘乱街にも劣る。
だが原因不明の火事、中心街に住む子供が迷い込み行方不明になった、"闇市場"への入り口がある……そう言った黒い噂が絶えない。
スラムってホントにあるんだ……ゲームの中だけだと思ってた……
町の雰囲気も最悪だな。
詐欺、窃盗は当たり前。民家も汚い。
目つきが悪い、こちらを睨む、ニヤニヤ笑っている、"そういう人間"が生活する所だ。
小鳥。
ウエノでは町の警備のボランティアをするメンバーが何十人もいる。もし窃盗や殺人を犯せばタダでは済まない。町の入り口は封鎖、転移の魔法陣も使えなくなる。
ではもし、自分がウエノで住民を殺したらどこへ逃げる?
町の外に出られないんだよね?それなら逃げ道なんてないんじゃ……?
町の外に出なければいい。
無法者が住むスラム街がある。
でも、警備してる人達がいるんだよね?それなら大丈夫なんじゃ……?
無法者もただの無法者じゃないって事さ。
警備している人間でも抑えられないんだ。
しかも。
今のソニアちんの話、実話だったりするんだよ。
いろんな国で事件起こして指名手配されてるヤバいのが、ウエノのスラム街で潜んでるらしいんだよ……。
ともかく、ウエノはそういう所だという話さ。
中心街は明るく、闘乱街は熱い。
スラム街には決して近付いてはならない。
騙されやすい奴ほどターゲットにされる。
****
一方、ウエノ。とある商店。
ジャック、ソラ、結衣、ヒナは……
ええそうです!
こちらの手乗りサイズのタマゴ、遥か昔に人々に幸福をもたらしたという伝説のドラゴンが産み落としたというそれはそれは貴重なタマゴなんです!!
皆さん、まだ駆け出しの冒険者でしょう?
旅の安全を祝って、おひとついかがでしょうか?
そう思うでしょう〜?
ところがなんと!今ならたったの……!
1リエルーーーーーーーーーー!!
買っちゃおうよ!!ヒナさんもそう思うでしょ!?4つ買っても4円なんだよ!?
タマゴの底をカチッと押すと、バッチのように小さくなるので大丈夫ですよ!あとは服に付けるだけで、持ち運び簡単!!
中身はもちろん無事です!!
ほんとだ!
見て見て!胸のポケットに付けてみたよー!
商人と大勢の客から拍手を浴びるソラ。
腰に手を当て、ドヤ顔でポーズをとる。
ジャックも怪しむ事もなく、「こんにちは!異世界実況主ジャックでーす!金のタマゴを手に入れたよ!」とスマホでソラを撮影しながら実況。
結衣もソラの隣でドヤ顔をし、ヒナも笑顔でソラと結衣に拍手。
そしてあまりの騙されやすさにニヤけるのを通り越し、呆れる商人。
(おいおいマジかよ……こいつら簡単に信じやがったぞ……1リエルで売ってる理由くらい考えてきたのに説明する必要無くなるなんて思わなかったわ……)
(でもまぁ、こいつらがターゲットなのは間違いないな。黒い制服を着ているのは指名手配のジャックで間違いない。他の連中は異世界人ってとこだろ。ドラゴンって言葉に反応しすぎなんだよ。へへへ……バルバトス様、もう少しですよ……)
そう。
この商人、バルバトスにジャックを連れて来いと言われたスラム街の住人。
金のタマゴをバッチのようにして胸に付けるのはターゲットの証であり、スラム街の住人にターゲットを確保した事を知らせる物。
もちろんソラに拍手をした大勢の客もスラム街の住人であり、カメラのような道具でジャック達を撮影し、その映像をバルバトスに送っている者もいた。
あれがジャックか……。
とても強そうにゃ見えねぇが……まぁいい。
手に持ってるのはスマホ、服装は学ラン。充分に"集める"価値はある。
いいか、今いる場所がスラム街ギリギリの店だと知られるんじゃねぇぞ。
さぁジャック、もう少しで会えるぞ……オレ達のオアシス、スラム街は目の前だぜ……?
早く来いよ……!
酒を飲み、不気味に笑うバルバトス。
ジャック達は何も知らず、商店の怪しい商品を見ていく。
異常に安い値段の値札が貼られる商品の影に、謎の男がいる事にも気付かずに。
****
一方、ここは中心街。
ナナは、ジャックの指名手配の紙をくしゃくしゃに丸め、大慌てで走っていた。
(なんでジャッきゅんが指名手配にゃ!?ジャッきゅんは悪いことなんてしないにゃ!誰かを殺したりなんてしないにゃ!とっても優しいにゃ!なのになんで……!なんで……!!)
にゃっ!?ウチは今忙しいにゃ!ウチは急に止まれないにゃあああああああ!?
ナナの目の前に男が現れ、猛スピードで走っていたナナはぶつかるのを覚悟し、咄嗟に目をつぶる。
しかし不思議と怪我はなく、目を開けると……?
ナナは、警備をしていた男に抱きかかえられていた。
その姿はまるで……
あぁすまない。
怪我をさせてはいけないと思ってね。立てるかい?
た、立てます。どうもありがとう。
それじゃまたどこかでお会いしましょうさようなら。
お姫様抱っこされたのがよほど予想外だったのか、目を丸くして放心状態でその場を去ろうとするナナ。
普段よりも早口で喋り、"何か"が足りない。
ええと……君、ニャルシーだよね?語尾の「にゃ」が抜けてるような……?
忘れてたにゃ。
じゃ、ウチはこれで失礼するにゃ。ありがとうにゃ。
自分でも落ち着かなかったのかピタッと足を止め、"忘れ物"に気付くもカタコトのように喋るナナ。
今度こそその場を去ろうとしたその時、男の目付きが変わり、ナナの腕を掴む。
僕はウエノを警備するグループのメンバーだ。君の持っている紙について、見逃すわけにはいかないんだよ。
君は彼の友達なんだろう?
さっき君はジャッきゅんと言った。
あれは帝国の幹部を殺した駆け出し冒険者、ジャッ――
ジャッきゅんは何もしてないにゃ!!
こんなのデタラメだにゃ!!
彼はウメダでボランティアの募集をしていたはずが、ウメダを壊滅に追い込み、グラーディアに逃亡。
そこを退くにゃ!
今すぐジャッきゅんに逃げてって伝えに行くにゃ!!
にゃっ……!?
グラリオ……?そんなの……!
そんなのウソに決まってるにゃ!!
いいや。
殺されたのはゲノン帝国の幹部、グラリオ将軍で間違いない。
正直、異常な死に方だよ。惨殺としか言いようがない。
何故なら、壊滅したウメダ周辺の森で、グラリオの首が見つかったからだ。
もちろん首から下は見つかっていない。よほど殺意があったんだろうね。
くしゃくしゃに丸めた指名手配の紙に、ナナの涙が落ちる。
あんなに優しいジャックが、
あんなに笑うジャックが、
グラリオを殺し、指名手配になっている。
逃亡したと書かれているグラーディアにはナナが働くグラスオーヴィがあり、ナナと同じくジャックを信じる者達がいる。
それは今ウエノにいるはずのソラ、結衣、ヒナだって例外じゃない。
見失ってしまったけれど、きっとどこかにいるはずだ。
彼らに会えれば、指名手配の紙に書いてある事を否定してくれる。
彼らに会えれば、目の前にいる男の言う言葉も否定してくれる。
涙を拭き、すぐにでもジャックを探しに行こうと前を向くナナ。
ナナは、男をキッと睨みつけ……
信じないにゃ……。
ウチは、ジャッきゅんと友達だから……!
だからお前の言う事なんて……!こんな紙なんて……!
指名手配の紙をビリビリに破くと、
中心街にいる全ての人間に聞こえるように大声で叫ぶ。
その時、中心街の観光スポットと言われる大きな鐘がカラーン……と鳴った。
さっきまで多くの人の声で賑わっていたはずが、ナナの叫び声で一気に静まり返る中心街。
ナナは再び涙を流すと、すぐに涙を拭き目の前に立つ男を無視して通り去ろうと歩きだす。
一刻も早く、この事をジャックに伝えるために。
そして、ジャックを助けるために。
……僕は最低だな。
かわいい女の子を泣かせてしまった。
どうしよう?
これも仕事です。
仕方ありません。もう良いでしょう。
いいえ。
貴女の邪魔をするつもりはありません。
なぜなら貴女の持っていた指名手配の紙は、巧妙に作られた偽物だからです。
そう。
君の持っていた紙は1枚じゃない。
僕らも"とある少年"から同じ紙を手に入れた。
でもこの紙に書いてある情報は真実じゃない。
ナナちゃん。君の言う通りこれは全て嘘だ。
つまり、ウエノを警備している僕らに嘘の情報を流し、裏で糸を引く奴がいるって事だ。
恐らく、数年前スラム街から失踪したオルニクス、またはコロシアムに出場していたバルバトス、帝国の幹部の可能性もある……!
ジャッきゅんは助かるにゃ!?
ジャッきゅんを捕まえたりしないにゃ!?
あぁ。しないよ。
僕は、僕らと同じ紙を持った君がスラム街の方から走ってくるのが見えて、話を聞きたかっただけなんだ。
まさか彼の友達だとは思わなかったけどね。
【大文字ヤマト】
僕は大文字ヤマト。
君の妹、サーニャ・ニャルキットちゃんの友達さ。
さっきも言った通り、指名手配の紙は誰かの罠かもしれない。
狙いは恐らくジャック君本人。相手よりも先にジャック君と合流し、彼を守ろう。
でもウチ、見失っちゃって……今どこにいるかわからないにゃ……
大丈夫。
ジャック君は今、僕らの仲間が尾行してる。
今頃、合流しているはずだ。
もちろんグラリオ殿は生きています。
まったく、人の友達が殺されたなどと卑劣な真似をするとは……。
ナナさん、ジャック殿を助けに行きましょう!
なんか……腹立って来たにゃ……!
どこのどいつか知らないが、ウチを泣かせた罪は重いにゃ……!!
絶対許さないにゃああああああああああああああああ!!!
****
一方。
スラム街。ナナがバルバトスを見てしまった広場。
ジャック達は商店を出ると、屋台を覗いていた。
しかし。
困りますねぇお客さん。
正真正銘、新鮮なお肉ですよ?
今なんと言いました?うちの商品が不味い?
あぁ、
もしや値段とお肉の味が合っていないと言いたいんですか?
それなら安心して下さい。中心街で売っている物と同じお肉を、激安価格で提供しているだけです。
サービスですよサービス!!
でも生臭いし、ドロドロしてるし、手がベタベタするよ?
へへへ……そりゃそうだよ。
その肉には毒が盛ってあるんだ、体の自由も効かなくなるさ……
途端にスラム街の住人に囲まれるジャック、ソラ、結衣、ヒナ。
すぐに逃げようとするが、何故か体に力が入らない。
裏の世界で開発された異世界人用の薬だ。
スプレー式でね、異世界人を麻痺させる事ができる。
おっいいねぇ。
そのまま仰向けになって足を開けよ。かわいいスカートの中はどうなってるのかなぁ〜?
ったく、騙されすぎなんだよ。どんだけお人好しなんだ。
おお……やれば出来るじゃないか。よくやったなお前達。
そしてようこそ。駆け出し冒険者ジャック君。
帝国の幹部の殺した気分はどうだ?
あぁすまない。自己紹介が遅れたな。
オレはバルバトス。このスラム街をシメるボス、とでも言えばわかりやすいかな?
おいおい、お前は"こっち側"の人間だろう?どう見ても詐欺なのに引っかかるフリをして、このスラム街に来たんじゃないのか?
まさかとは思うが、素で騙されたわけじゃないよな?
おいおいおいおい。
冗談はよしてくれ。"アイツ"を殺した凶悪犯がこんなクソみてぇな罠に……
その瞬間、バルバトスは鉄の棒を持たずに拳を握り、フルパワーで地面を殴る。
すると轟音と共に地面にヒビが入り、近くにあった屋台や汚い民家の窓ガラスが壊れた。
どういう事だこいつは……!?
ただの剣士で駆け出し冒険者、ボランティアを募集していたがグラリオを殺し、グラーディアに逃げ込んだ……!その張本人がスラム街を知らず、バレバレの詐欺に騙され、体の自由が効かない……!?この紙をオレに渡したのは誰だ……!!
うううううううううううううあああああああああああ!!!
途端に両手を広げ、獣のように雄叫びを上げるバルバトス。
民家の影に隠れていた男は咄嗟にジャックを助けようと走りだそうとする。
しかしその瞬間、広場に悲鳴が響き渡る。
バルバトス様!逃げて下さい!!
妙な奴が追いかけて……!ぎゃああああああ!!
突然悲鳴を上げたのはバルバトスの仲間の男達。
ナナが広場に辿り着いた、あの細い道から走って広場から出てくるも、背後から銃に撃たれて倒れた。
バルバトスは男達が出てきた通路を睨みつけ、他の男達に「奴を殺せ!」と叫ぶ。
しかし。
誰かの叫び声が聞こえた瞬間、通路から数十人の男達が死に物狂いで広場に出ると、バルバトスに助けを求める。
そして次の瞬間、「妙な奴」と言われた謎の人物がついに姿を現す。
それは戦車のような乗り物に乗り、バルバトスに助けを求める男達に容赦なくバズーカを放つ1人の危ないヤツ。
いや、1匹の――
汚ねぇ町を掃除しに来たぜ。
ウチはウエノをシメるボス。
ウチの名は……
ナナああああああああああああああ・ニャルキット!!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)