26話 ジャックの選択!ヴェイルノート再び!後編
文字数 7,546文字
前回のあらすじ。
クラスタドームからの脱出、最後の難関。
ヴェイルノートとの再会。
『あなたの冒険は、まだ始まっていない。
あなたがウメダで目覚めたその時から始まり、選択をする瞬間までが長い長いチュートリアル。』
魔法陣から現れたヴェイルノートは、ジャックに大きな選択をさせ、これまでジャックが過ごしてきた日々とクラスタドームでの出来事が「チュートリアル」であることを説明。
その選択とは、
・生活をする上での家、料理、お金は全て帝国が与える。
・全ての情報を教え、必要ならばジャックの動画投稿に協力。
・最終的にジャックを生き返らせ、現実世界へ戻し元の生活へ。
・反対にジャックには、皇帝の計画に協力させる
または、
・帝国からの一切の容赦はなく、異世界人と異世界の住人の命、町や城などの崩壊は保障されない。
・ジャックの秘密や異世界の常識などの情報や力、お金、その全てを自給自足で得なくてはならない。
・ジャックの死因や秘密を知っている者の記憶は消す。
・「ジャックの秘密、帝国の秘密、ヴェイルノートを倒す」。この3つの条件をクリアできれば、それまでの傷ついた者を蘇生し、全員現実世界へ戻す。
といったもの。
『さぁ、どちらかを選びなさい
あなたの一言で、あなたの運命が、あなたの周りの仲間の運命が、この世界の運命が……』
選択を迫られ、下を向いたまま俯くジャック。
まるで選択を拒むように、目の前にいるヴェイルノートを自分の視界から消す。
……そして、ジャックはとある記憶を思い出す。
それは、学校で悩みを抱え、ため息をつきながら家に帰宅した時の記憶。
****
――日本。
東京。五智谷市。
とあるマンションの一室にあるジャックの部屋。
アニメのポスターやタペストリー、美少女フィギュアにまだプレイしていないゲームソフトの山。
高校生なのになぜか持っている、人には見せられないイラストの描かれた紙袋や小冊子。
いわゆる「オタ部屋」のど真ん中で制服姿のまま寝そべり、電気もつけずにテレビでゲームをしているジャック……。
本名、金剛寺悠哉がいた。
この日は6時限目まであったはずの学校があっという間に終わり、ミノルとケーキを買う約束をしていたのを断り、ブツクサと独り言を繰り返しながら不機嫌そうに帰宅。
楽しいはずのゲームを、「いつもは楽しいのにな」と小声で呟きながらプレイしていた。
【ジャック/金剛寺悠哉】
『はぁ……。』
その時、ジャックの背後のドアが開き、なぜかテンションの高い男性がゲームソフトを片手にやってきた。
『悠哉!ついに、ついについについに!あの念願のゲームが買えたぞ!一緒にやろう!!』
『よしさっそくやろう!すぐにやろう!いやぁ〜何時間と並んだんだぞ〜?もう楽しみで楽しみで仕方――』
『やらない!?ゆゆゆゆ悠哉がゲームをやらない!?なななななんだってえええええ!?』
ガチャ ドタドタ……
勢いよくドアを開け、嵐のように去っていく男性。
すると今度は……。
『よしよし!大丈夫だよ、ゆうくん!
家庭崩壊なんてならないからねっ!』
『でもでも〜!どう見ても反抗期だよ〜!ボクこわ〜い!』
『はぁ……。めんどくさ。
父ちゃん母ちゃん何やってんの?』
【金剛寺優一郎】
『いやぁ〜よかったぁ〜!
反抗期じゃなかったんだなぁ〜!』
【金剛寺彩香】
『ほら、大丈夫って言ったでしょ?』
『もう出てってよ〜。
今は1人になりたいんだよ〜。』
『何言ってるんだ悠哉!
悩みがあるのはわかった。あやちゃんと相談に乗ってあげるから安心しなさい!』
『つーか、なんで母ちゃん制服着てるのさ。三十路のくせに。』
『聞いてよ!捨てないでとっておいたんだけど、試しに着てみたらスッポリシッポリ入ったの!んもう〜超嬉しい!今なら何でも聞いてあげるわよ!』
『さすがあやちゃん!夏のコスプレイベントはそれで決まりだね!』
『もしかして、お姉ちゃんにも言えないような大人の悩み!?』
『仕方ないかぁ、思春期だもんなぁ。
よしわかった!姉と妹に挟まれた息子の運命的なヤツだ、悩みがあるのは仕方ない!ここは父ちゃんに任せておけ!』
『姉と妹のバストサイズは父ちゃんが測ってこよう!』
『陰キャっていうのは人見知りだったり地味だったりする人の事。反対に陽キャはパリピとかリア充とか明るい性格の人の事。』
『……今日、学校でいじめがあってさ。陽キャのグループがあるんだけど、陰キャの女の子が髪を伸ばしててずーっと地味だから、「イメチェンすりゃいいじゃん」って話しかけたんだって。そしたら女の子、小声で喋ったんだけど聞こえなくて……。』
『なるほど。「聞こえねーぞ」「ちゃんと喋れよコラ」と煽ったわけか。』
『……あの子を助けたかったけど、自分も陰キャで上手く喋れないし……そういう人怖いし苦手だし……。
でも陽キャの人っていつも楽しそうで、悩みはあるんだろうけど周りに仲間がいるから心配いらないんだろうなって……だったら、羨ましいなって……。』
『だから「陰キャが悪い」「陽キャが悪い」じゃなくて、もしどっちにも変われるならどっちがいいかなって思ってたんだ……。』
『ママはどっちでもいいと思うな。地味でも派手でも悠哉は悠哉、優しい性格を大切にしてくれるならそれでいいもの。』
『うーん、そうだな……。
とあるゲームでな、ストーリーの途中で分岐点があって1人でゲームを進めるか仲間と進めるかを選ぶシーンがあるんだ。』
『なんていうゲームだったかなぁ。結構前に発売されたんだけど、切ないストーリーでね。1人でゲームを進める方を選ぶと主人公がチートのように強くなって敵の組織をみんな倒す事ができるんだ。主人公は優しい性格でね、「これで仲間達を危険な目に遭わせなくて済む」と安心して1人で冒険を続ける。
ただ、強くなりすぎて主人公は暴走。
それまで一緒に冒険をしていた仲間達が主人公を止めようとするんだけど……。』
『うーん、よく覚えていないけどエンディングは何の救いもない、バッドエンドだったよ。』
『そっちもハッピーエンドとは言えなかったよ。
確か冒険の途中、仲間達がどうしようもない危機に襲われて「これ以上みんなを危険な冒険には連れていけない」と言って助けた後、元の生活に帰るように言うんだけど……。』
『主人公にはとんでもない秘密の力があった。それは主人公も仲間も気付かない、敵だけが知っている「あってはならない力」。
主人公はなぜ仲間達が死んでしまったのか、なぜこんな事が起きたのか、その原因が自分である事にも気付かず、最後には敵の組織のアジトまで辿り着くんだけど……。』
『なんだか嫌だね、そのゲーム……。父ちゃんはそのゲームやったの?』
『いいや、動画サイトでゲーム実況している人がいてね?確かプロゲーマーの……誰だっけな。実はそのゲームの開発中にストーリーを考えてメーカーに送った人なんだよ。』
『えっ……!じゃあ、その人がストーリーを考えた張本人!?』
『当時はネットも騒然としてたよ。プロゲーマーと言えども一般人、それなのにその人が考えたストーリーを製作していた会社が採用したんだから。まさか本当にゲームになっちゃうなんてねぇ……。』
『父ちゃんは、仲間と一緒に冒険する方を選ぶぞ!当然さ!』
『えっ……なんで?自分のせいで仲間が死んじゃうのに……』
『みんな守るのさ!ストーリー上避けられないイベントだとかレベルが足りないとかそんなもの関係ない!バグでも何でも起こして、何が何でも守るんだ!!』
さぁ、決まりましたか?
この世界の全てを知り、仲間の安全を確保するか、
自給自足の旅に出て、仲間を危険に晒すか。
おいジャック!こいつの言う事を真に受けんな!こんな質問自体どうかしてるぜ!
よし!答えは3つ目の「選択を無視してヴェイルノートを倒す」や!
……おや、ジャックさんの答えは別のようですよ?まるで戦意を感じない。
おいジャック!?まさかお前、どっちか選ぶつもりじゃねーだろーな!それならもちろん1つ目を選ぶんだろうが、やめとけ!?
「2つ目を選べばみんなに迷惑がかかる」って思ってるんやろ?大丈夫や!帝国だろうが何だろうがワイら全員で囲んでまえば勝てる!
数分前まで下を向いて俯いていたジャック。
しかしこの時、ジャックに焦りや不安は無く、これから起こる「何か」に期待しているようにさえ見えた。
(不安も消えた……。やはり、"あなた達"は似ていますねぇ……。)
答えが出たようですね……。後で訂正はできませんが、よろしいですね?
緊張感に包まれるケバブ、アモン、ソニア、ナナ、リサ、未来、秀樹。
ジャックはゆっくりと口を開く。
ええと、まずはごめんなさい!
オレ、ゲーム好きでオタクのくせに全然知識ないし、普段ゲームばっかりしてるから運動してなくて、「いざ異世界!」ってなっても何も出来なかった……。
正直ここまで来れたのも、
ウメダで話しかけてくれた煌さん、オレを追いかけて来てくれたミノル、いろいろ教えてくれたグラリオさん……みんなに着いてきたからだと思う。
次に、いつも泣いてばっかりでごめんなさい。グラリオさんの秘密を知った時も、轟鬼さんとゴラゴランさんと別れた時も、末吉さんに会った時も泣いてた。
きっと、これから先もたくさん泣いちゃうと思う。
そしてヴェイルノートさん。
憧れの異世界に連れて来てくれて、ありがとうございました。
ヴェイルノートさんなんですよね?この世界にオレ達を連れてきたの。
グラリオさんが1番最初に来て、それからたくさんの人が来て、「あっち」で死んだオレの番が来て……。
きっとこれからも新しい人が来るんだろうなって思ったら、なんだかワクワクしますよね!
オレ、何の知識も無くて、泣いてばっかりで、みんなを追いかける事で世界が広がって、あんまりこの世界の役に立てないかもしれない。
でも……
オレ、みんなと一緒にこの世界を冒険したい!
ここでこの世界とお別れするなんて嫌だし、1人で冒険なんて嫌です!
2つ目……でもちょっと違うかな。
仲間と一緒に冒険して、オレの秘密も帝国の秘密も全部知って、仲間はみんな守ります!スキルでも奇跡でも何でも使って、みんなと一緒に冒険します!!
それで、もしヴェイルノートさんが嫌じゃなかったら……
もちろん、襲いに来るなら全力で戦います!みんなを守りたいし、絶対に負けません!
バトルはしたいけど、誰かを恨んだり一言も喋らなかったり暗かったり、そんな風に戦いたくないんです。
だからオレは、何をされてもヴェイルノートさんを恨みません。
は……はは……。
あなたのような異世界人は初めてですよ。
しかし戦闘とは命の奪い合い、ゲームとは違い仲間が殺されれば――
こんなに広い世界なんだから、必ずあるはずですよね?蘇生魔法。
もちろん、「昔は蘇生魔法があったけど今は滅んだ」とか「蘇生魔法が使えるジョブはあるけど転職の方法はわからない」とか、上手くいかない事はあると思います。
でも……
(絶対の自信があるわけではない……。ほんの少しの自信すらあるわけではない……。それでも笑顔で、言い切った……!?)
(まさか本当に、"あの方"が言った通り彼は……!)
『ヴェイルノートさん。悠哉という方はとても優しい方ですよ。』
『ええ。優しすぎます。もしかすると、彼はこの世界の××になるかもしれません。』
しかし、あなたの仲間はどうですか?
帝国の最高幹部、この私を仲間に入れるなど誰も認めるわけが――
ジャックが何考えてんのかは知らんけど、戦わなくていいなら越したことないしな。ジャックがお前を仲間として迎えたその時は、ワイにとっても仲間や。
おいジャック、まさかと思うけどよ、他の幹部も仲間に入れるつもりじゃねぇだろうな?
まさか。そんなわけがない。そもそも私が誰だかわかっているでしょう?帝国の支配者、皇帝の正体を知っている最高幹部なんですよ?
お前が出した選択……。
あれは、ジャック君が帝国とそれ以外の仲間、どっちにするかを選ばせたんだろう?
ジャック君が1つ目を選べば帝国の仲間、2つ目を選べばケバブ殿やゴラゴラン達の仲間になるように。
何故選ばせたのかはあえて聞かないが、これだけは言える。
だが今すぐに、という話ではないだろう。
ジャック君はお前達……いや、「私達」帝国との戦闘がある、長い長い冒険をする覚悟があって言っているんだ。
まして”これ”はチュートリアル。そうだろう?ヴェイルノート。
もちろん、私はお前を許したわけではないからな。これでチュートリアルが終わったという事は、次に会った時は本気で来るんだろう?こちらも本気で行かせてもらうぞ。
オレもです!
みんなに守られてばっかりじゃなくて、ちゃんと戦います!
でも、あなたを恨んだり憎んだりしません!絶対に!
わかりました……!
確かに聞きましたよ、ジャックさんの答え……!
笑顔でヴェイルノートと向き合うジャック。
ヴェイルノートは黒いゲートを作り出すと、動揺したまま入り、ゲートごと消えてしまった。
――
夕陽に染まるクラスタドーム。
魔法陣の前に並ぶ、9人の影。
にゃああああああ!お別れなんてイヤにゃああああああ!
しょうがないよ、ナナちん。
推しとの別れは辛いものなのよ。尊いでしょ?
こらこらナナちん、脅してどうすんの!
ジャック少年もお家へ帰るんだよ!
おやおや〜?男嫌いだったソニアちんが、ウチの酒場に誘ってるぞ〜?
おいおい、やけに女子に人気じゃねーかー?ジャック君〜。
オレ達も連れてけ。夜の酒場♪
おお……アモン君、いいケツをしているなぁ……。舐めさせてくれないか?ハァハァ
や……やめろ来るなッ!!ヤベー目でオレの大事なところを見るなッ!!
うん……君のケツには炭酸水をかけてあげよう……。う~んシュワシュワしてるなぁ……。
ワーオ!?秀樹さんのベロがクルクル回ってヤバい事に!?
……ジャック。
あの時、助けてくれてありがとな。
お前さんとの勝負の決着は、いつか必ずつけるで。その時まで絶対に死ぬなよ。
ええな?
ジャック君、あたしのライブもいつか絶対見に来てね。約束だよ?
ウチとも約束にゃ!絶対グラーディアに来るにゃ!わかったー?
グラーディアに来たら、絶対あたしのボインにパイタッチすること!
や・く・そ・く❤
トレジャーだ!トロッコだ!スリル満点のアドベンチャーだ!一緒にやるぞ!はい約束!!
よし!ここにいる全員、ここにいた全員、必ず再会するぞ!約束だ!!
じゃあ、しばらくのお別れや!
みんな行くで?せーーーーーーのっ!
…………こうして、
ケバブとジャックの勝負(1回目)、
紅と手下との戦闘、
クラスタドームからの脱出、
そして、長い長いチュートリアル、
その全てが終わった。
ジャックは、
仲間達との約束、ゴラゴランや轟鬼を助けるという誓い、そしていつかヴェイルノートと仲間になれる未来を胸に、異世界の冒険の始まりとなった町ウメダに帰還。
ジャックくん!!おかえりなさい!!うわああああああああ!!
もう!何であんなに無理するの!ミノル泣いちゃってるじゃない!みんな心配したんだからねっ!
ちょっとなに?泣いてるの?
それなら愛のキスをしてあげるわ〜!
宇宙の神秘を唇に乗せて〜〜〜!?
せーーーーーーのっ!
わかったわ。
じゃあ、脂肪ブラザーズの必殺技でヤってあげる。
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