67話 月夜とソラのワンだふるナイト!
文字数 4,443文字
前回のあらすじ。
この世界に入った者はリーダーを除き、過去の自分や心の奥底に秘めていた想いが表に出た自分、または違う世界線での自分の性格に変わってしまう。
それは新たに判明したチョコレート・クライシスの情報。
そしてこれはリサが手に入れた情報であり、彼女自身がそれを裏付ける出来事に遭遇。
最初、ジャックがリリムに撃たれるよりも前の事、フードコートにいたリサが出会ったもう1人のリサ。
その正体は、
運が良ければリサにとってかけがえのない存在を救えるかもしれないという理想を抱いていた過去のリサ自身。
「運極リサ」と名乗る過去のリサは、
今いるリサと交代し、奇跡さえも起こす運の力を持った自分がいればあの子を救えると話し、入れ替わる事を提案。
しかしリサは、過去の自分の優しさに触れるも「こんなズルまでして前に進みたくない」と入れ替わる事を拒否。
その代わり、これからも自分の心の中にいてほしいと言い、「ありがと」と一言。
……しかし、
なぜジャックは姿を変え、もう1人の自分と出会ったのだろうか。
過去の自分や違う世界観の自分、「もしも」の自分と入れ替わってしまうのはリーダーを除いた者がなる現象のはず。
夜のチョコレート・クライシス。
長いバレンタインの1日が終わろうとしている中、その鍵を握る人物は……
時雨に「元の自分」というキーワードを残したソラか……。
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五智谷中学校の廊下を歩いていたリサがジャックとゴラロボに出くわしてから数時間後。
びっくりしすぎて気を失い、廊下に倒れたはずだがリサの姿は無く……
姿が変わってしまったジャックとゴラロボとの出会いなど頭には無く、理科室の机の下でガタガタと震え、何かに怯えていた。
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そんなリサを無視して、ここは五智谷中学校。
広い校庭の真ん中に、校舎をじっと見つめながらただぼーっと立ち尽くす人影のようなものが。
彼女こそ、いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌……
ではなく、いつもニコニコジャックの隣に渦巻く嫉妬、ミノルと?
何故か正気に戻り、
反対に正気に戻っていないミノルの顔の怖さに怯えるバルバトスがいた。
暗闇など怖くないのか、どんどん進んでいくミノルを追いかけ、五智谷中学校の校舎に入っていくバルバトス。
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一方。
キィィ……
ふぅ……
歌いながらトイレに入れば何も怖くないね!
大体、グラスオーヴィのラスボスにしてオーナー、このあたしに手を出そうなんて奴はいないんだよ!
もしそんな事すればあたしの仲間が黙っちゃいないからねぇ!
いやぁ、仲間って素晴らしい!ワンダフル!
トイレのドアを閉め、ドヤ顔で笑うリサ。
「こうでもしていないと怖くて仕方ない」という気持ちを押し殺し、独り言が終わると鼻歌を歌いながらそそくさと理科室へ戻ろうとする。
しかしその瞬間。
バーン!
なんと、突然聞こえた大きな音と悲鳴を聞き、驚いたリサは倒れ、トイレの前で気絶。
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同時刻。
五智谷中学校。
いくつもの靴箱が並び、傘立てが置いてある一般的な玄関。
そして、左右には暗い廊下がどこまでも続き、教室が並ぶ。
そんな校舎に入ったばかりの地点で、姉であるリサと同じような悲鳴を上げる男がいた。
――1階の廊下。
ミノルとバルバトスはジャックを探すため、壊れた教室のドアから中を覗いていく。
――2階。廊下。
リリムといいミノルといい、
どうして顔が怖い女ばかりなのか。
守ってあげたいと思えて
かわいくて可憐で優しくて
年齢は10代から20代で
人間じゃないならエルフかサキュバスで
強い性欲を持った
そんな好みの女の子とは程遠い「訳あり女」ばかりに悩まされるバルバトス。
規格外な女が身近なところに2人もいるという事に絶望し、最後の希望として思い浮かべたのは自分の姉、リサ。
涙目になって「いつの日か」を想像するバルバトス。
そんな時、ミノルは何かを見つけたようで?
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同時刻。
五智谷中学校。
大きな体育館のステージの上。
そこにある教壇の裏で頭を隠し、お尻をプリンと出したソラ。
弱々しく呟き、ブルブルと震えながら"あるもの"が当たらないようにここでじっとしていた。
その時。
バン! コロコロコロ……
不自然な音に驚き、さらに怯えるソラ。
何の音なのか勇気を出して確かめたいけれど、音が近くで鳴った事に気付いてしまい、怖くて体が動かない。
「そうだ!そうに違いない!」と呟き、ガッツポーズをするソラ。
意を決して教壇から出ると、音の正体であるボールに気付く。
……"あるもの"を忘れて。
ボールを手に取り、勢いよく蹴るソラ。
その瞬間。
顔、手、体、足。
"あるもの"を浴びた瞬間、全身が青白く染まるソラの体。
ドクン……という心臓のような音。
何かが心の底から湧き上がるような感覚。
普段は弱いけれど、今ならどんな事でもできそうな感覚。
時すでに遅し。
目の色が赤く変わるだけでなく、
肌の色が変わり、尻尾が生えるとみるみる巨大化し、
体育館の天井を壊し、3階建ての校舎とほぼ同じような大きさへ変わったソラ。
そして、その姿にいち早く気付いたのはソニア……
ではなく、なんとトイレの前で気絶していたリサ。
「何してたんだっけ?」と立ち上がった瞬間、廊下の窓の外に立つ巨大化したソラと目が合ってしまい……?
女性らしからぬ悲鳴を上げ、まさかまさかの3度目の気絶。
チーン。
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ソラの突然の変身。
これが空のように自由でいたいというソラの気持ちが裏目に出た瞬間であり、ソニアがソラを捕まえると言っていた理由。
果たして、ソラは元の姿に戻れるのか?
五智谷中学校にいるバルバトス、ミノル、リサはどうなるのか?
そして数時間前までいたはずのジャックとゴラロボはどこへ行ったのか?
ソラは、
何かを探しているかのようにキョロキョロと辺りを見渡すと、月を見上げて遠吠えをした。