25話 ジャックの選択!ヴェイルノート再び!前編
文字数 6,645文字
前回のあらすじ。
ナナ、リサ、未来の前に再び現れたアルバート。
星乃紋三郎をヒヨコに変えたリリックの力は、星乃紋三郎に関する周囲の人の記憶から新しい記憶に上書きしてしまう力もあると説明。
さらに、緊急通路の先にある扉の鍵を持ち、謝罪と自分のメイドになる事を命じる。
しかしその時、秀樹が登場。
大自然で鍛えた強力なパンチをすると思いきや、まさかのピンクなムードに。
「誰かなんとかしてくれ!」と慌てて助けを求めるアルバートだが、今まで体験したことのない刺激とハチミツのあま〜い香りに包まれて……
戦意喪失。
いろいろなものを失い、クラスタドームの外へ出て行った。
その後、ジャック、グラリオ、アモン、ケバブ、ソニアが合流。
ナナ、リサ、未来と共に魔法陣の部屋へ進み、
ついに魔法陣の部屋へ到着した。
…………。
ジャックとケバブの勝負から突如始まったクラスタドームからの脱出。
ついに、最後の難関が待ち受ける。
****
魔法陣の部屋。
未来はライブに来た客に一列に並んでもらい、1人ずつ魔法陣に入るように案内していた。
うん!ありがとう!また会おうね♪
それじゃあ、クラスタの南へ転移!
すげー。シュンッて鳴って一瞬で人が消えたぞ。マンガでよく見るやつじゃねーか。
それにしても、えらい人気やなぁ。
さすがクラスタ人気ナンバーワンのアイドル、今日来てくれた客にチケット代全部返して、次はタダライブやろ?
しっかりしてるっちゅうか、優しすぎるっちゅうか、人気が高いのは歌だけしゃないんだなって思うわ……。
なんだよジャック~?「あんな風に」どうなりたいんだ~?オラ言ってみろ~?
いいかジャック?この異世界では、ストレス社会とも言われてるオレ達の現実世では許されない事も許されるんだ!
ほら、言うだろ?「ただし二次元に限る」って。
ここは二次元、オレ達のしたことを誰が裁けるかってんだ。な?そうだろ?
じょ、冗談だって冗談!
とにかくほら、言ってみなさいよ!言うだけならセーフだって!
一体何を想像したんだ?
『アハン❤
んもう、ジャック❤そんなにサービスされたら、出ちゃうわ❤
見てて❤出るとこ❤』
『あぁん❤私もそろそろ限界❤
無料であ~んなことやこ~んなことシていいなんて、たまんない❤
ねぇ、おかわりちょうだい❤
足・り・な・い・わ❤』
『あっ❤いけませんわそんなところ……❤
100万リエルではまず叶わないそんなこと、無料でしていいなんて❤』
……お、おう……。
ジャック~お前~……結構、ハードな妄想するんだなぁ……。
あー、なんつーか、ギャップすげーよ。
うっ……。ア、アモンさんはどんな妄想するんですか?
未来ちゃんみたいな風になったら、そりゃもうウルトラハードな事したいんじゃないんですか?
ふふん、よく聞いてくれたなジャック。
何を隠そう、オレはツンデレが大好きでね。普段はツンツンした女の子がデレデレしちゃうところなんて、オレの股間の〇〇〇が〇〇〇して〇〇〇しちゃうぜ!?
ワ、ワーオ。
ツンデレっていえば、ソニアちゃんの他だとルルカちゃんに会ったことあるけど……
な、なにいいいいいいいいいいいいいいい!?
ジャック、お前、あの、ツンデレの、天使の、オレの、愛しの、あ”あ”あ”あ”あ”!!
なんと!?本人がいたら間違いなく消される問題発言!?
あっいけね。つい先走っちゃったよ。
あー、説明するとな?ルルカ様のファンなんだよ!
えっ。なんでルルカちゃんの事を?会ったことあるの?
いいや、ない!会った事はない!
実は、西の大陸の天才少女が東の大陸に来てるっつう噂を聞いたことがあってな?ある時見ちまったんだよ!
夜空に浮かぶ、箒にまたがった群青の髪……高嶺の花っぽい見付き……喋ったら口の悪そうな顔……!
運命だ!!オレはそう確信して、今日この日まで生きてきたんだ!!
イェイ!ルルカ様ー♪L・O・V・E・ルルカ様ー♪
つーわけで、もしオレがあの子みたいになったら、そこにルルカ様がやってきて……
『「ベッドに移動しようデュフフ」?
ちょっと!タダでいいなんておかしいと思ったのよ!この縄を解きなさい!』
『え?じゃあ解いてあげる?逃げていい?
……ウソよ!ウソなの!』
『ほんとはあたし、あなたとタダでシたかったの!ほんとなの!
……ねぇ、キスして?』
もうオレの釘バットがおさまらねぇ!まさにうっひょいひょい!!
たまんねーなオイ!!
あ、そういや……
急がなくていいのか?あいつら追いかけてくるだろ?
いや……それはないだろう。
ライブ会場からここへ来る時、紅が言っていた……。
なんだ、じゃあもうヤベーヤツは来ないのか!ならもう安心だな!
いやーなんとか脱出成功ってやつだなー!
あ!
せや!ワイが紅にやられた時、コントロールルームが燃やされたんや!
アモン君。ここは異世界、現実じゃないぞ。
それに……。
俯きながら周りをチラチラと見渡すグラリオ。
確信はないが、”とある可能性”を感じていた。
そうだ……。
気になる事といえば、ずっと頭から離れない事があるんだけど……。
ほんとは、紅さんって悪い人じゃないんじゃないかな……。
おいおい、何言ってんだよ!?
ケバブを殺そうとした帝国のヤベー幹部で、お前の事を連れてこうとしたんだぞ!?
本人も言ってたけど、甘すぎだぞジャック!少しは人を疑えよ!!
その真意はわからないが、ジャック君に危害を加えるつもりはないはずだろう。きっと「不自由などない優雅な暮らしを約束する」と言い、帝国の特別な部屋に案内される。
グラリオの感じていた可能性が確信に変わり、魔法陣に指を差す。
すると、魔法陣は怪しく光り、やがてグラリオの言った”あの男”が姿を現した。
あぁ、さすがグラリオ将軍……。
私のセリフをとっておく事、しっかりと理解していただけるなんて光栄です……。
それに、私がいる事にも気付いてくれるなんて……。
やはりあなたは優しい男だ……。間違いなく、この世界に必要不可欠な存在です。
おいおいウソだろ!?帝国の幹部のボスじゃねーか!!
途端に、武器をとるグラリオ、アモン、ケバブ。
ソニア、リサも警戒し、ナナ、未来、ジャックを自分の後ろに隠す。
ひい、ふう、みい……。
ふむ……人数が多いですねぇ……。
しかし……みなさん、なぜですか?
なぜ、ジャックさん1人のために武器をとり、守ろうとするんですか?
もしや……彼が特別だから、ですか?
我々ゲノン帝国の皇帝の正体は誰も知らない……。
もしかすると、ジャックさんこそが皇帝……いわゆるラスボスで、あなた達を操っているとしたら……それでも彼を守りますか?
おいヴェイルノート!前回ウメダに来た理由を言え!!
さもなくば……!
その瞬間、グラリオは剣を構えて走り出す。
ヴェイルノートは「やれやれ仕方ない……」と呟く。
あなたが紅さんと会った事は知っています。紅さんからいろいろ聞いた事も。
ですが……
するとヴェイルノートは、目の前に迫るグラリオの剣を受け流し、グラリオの鎧をトンとタッチして体を回転。
大きなローブをカーテンのように踊らせ、右手でグラリオの首に掴み強力な電撃を放つ。
まるで雷のように轟音が鳴り、グラリオは魔法陣の部屋の壁に吹き飛び激突。
そんなに怒らないで下さい。
グラリオさんには少し眠ってもらいたい、それだけです。
もちろん大丈夫ですよ。彼にはまだまだやっていただきたい事があるんです。
死んでもらうには早すぎる……。
……教えて下さい。ヴェイルノートさん。
オレ、わかんない事がたくさんあるんです!
ほんとはケバブ君と勝負しようってなって、
だけど帝国の人がやってきて、いろんな人が戦って、ゴラゴランさんや轟鬼さんが居なくなって……!
オレは特別だとか、可能性がどうとか、居場所を与えてやるとか……!
なんでこんな事になったのか、全然わかんないんです……!!
……いいでしょう。今回のクラスタドームについて簡単にお話します。
ふむ、そうですねぇ……。
あなたにとってのチュートリアルの1つ、と言えばわかりやすいでしょうか?
あなたがウメダの冒険者ギルドでボランティアをしているのと同じ事です。
今回のクラスタドームでの出会い、そして騒動。
これらの中で、わかった事や体験した事は多くあったはずです。
1つ。クラスタドームではライブが行われている。
2つ。CDEネットワークという団体がある。
3つ。グラリオさんのライバルであるゴラゴランという異世界人がいる。
4つ。ゲノン帝国の幹部には、異世界人でありながら幹部となった者がいる。
5つ。この世界には、西の大陸の炭鉱やグラーディアという町がある。
6つ。ジャックさんにはゲノン帝国が求めている秘密の力がある。
7つ。ジャックさんの死因。
ちょっと待てよ!
6つ目の秘密の力はお前がジャックに与えたんじゃねーのかよ!
ええ、そうですよ。
これは「ジャックさんは他の異世界人とは違う」という認識を持ってもらうためのチュートリアル。
まさに物語の主人公にぴったり、思っていた通りです。
そうです。
この世界にはゲノン帝国という「悪」がいて、様々なギルドやセント・ブルムといった町が襲われ、大量の血が流れる。
そこで、ある時から異世界人という「この世界にないもの」がやってくる。
年齢、性別、職業、性格、全てバラバラ。
この世界から出ようとするか、冒険を楽しむか、その考えも一致しない。
しかしその中で、唯一「敵」に選ばれたあなたは「主人公」としてこの世界で目覚めた。
だから私は、他の誰にも持つことが許されない「特別な能力」をあなたに与えたのです。
どうしてオレなんですか?
オレはどうしたらいいんですか?
その前に、選択をしてもらいたい……。
このクラスタドームのチュートリアルの1番の目的です。
待てよ。まさか、紅とかいうねーちゃんみたいにジャックを利用しようとしてんじゃねーだろーな?
いいえ。騙すつもりはありませんし、利用するつもりもありません。
もちろんどちらかを選んだ瞬間、罠が発動するわけでもない。
ただ単に、あなたのこれからの行動について選択をしてもらいたいだけです。
それではどちらかを選んで下さい。
1つ。帝国に行きわからない事を全て説明した後、現実に戻る。
まず、「わからない事」の内容について。
ジャックさんの秘密の力、帝国の秘密と力の正体、この世界の全てを説明し、お望みならば新たな異世界人をどんな方にするかジャックさんが選んでいただいても構いません。
さらに、普段の生活も最高級のものを約束しましょう。
豪華な部屋、眠くなったら贅沢なベッド、お腹が空いたら豪華な料理を用意し、なんの不自由もない優雅な暮らしを実現。大量のお金も差し上げますので、好きな物も自由に手に入ります。
そうだ。
オプションとして、可愛らしいメイドに奉仕させてもよろしいでしょう。思春期なんですから、性的な命令をするのも自由です。
不埒?
性的欲求は男女問わず起こる生理現象。
子孫を残す哺乳類の本能に従うも良し、服従するメイドなのですから性的欲求を満たしても誰も文句は言いません。
あぁ、そういえばジャックさんはゲーム実況動画を投稿する有名人でしたね。なんでしたら最新のスマートフォンとパソコンを"あちら"から取り寄せ、自由に撮影・編集してもよろしいのです。
必要ならば、幹部の能力で空を飛びながら美しい景色を撮影してみてはいかがかな?
きっと視聴者の方々に最高の動画をお届けできますよ。
そして最後に、この世界から元の世界へ戻らせて差し上げます。
細かく言えば、あなたは傷1つついていない状態で、自分の望む場所へ生き返ることができます。
もちろんすぐに帰るかどうかはあなた次第ですが……。
察しが良いですね。
その代わり、あなたには我々帝国の仲間として皇帝の計画に協力していただきます。
その途中から最後までの間に亡くなった異世界人がいても問答無用。
……たとえ、この世界が無くなっても黙っていていただきます。
では2つ目。
普段の生活やお金、武器や防具など……その全ての保障はしません。
ジョブ、スキル、ジャックさんの力や帝国の秘密の情報などは全て自力で得て下さい。
もちろん我々帝国は「敵」としてジャックさんの前に何度も姿を現し、何度もジャックさんを奪おうとします。
当然ジャックさんの周りの方が守ろうとするならば、誰であろうと加減をせずに攻撃します。
死んでしまっても関係ありませんし、町や国が崩壊しても関係ありません。
その代わり……。
まず無理ですが、ジャックさんの秘密と帝国の持つ秘密がわかり、さらにこの私を倒すことができたら…………
それまでに亡くなったり居なくなったりした異世界人を蘇生して全員現実世界に戻してあげましょう。
あぁそれと……ジャックさんの死因や秘密について知っている方の記憶は消させていただきますよ?
この場合グラリオさん、アモンさん、ゴラゴランさんが対象となりますが、まだ会っていない方の記憶も対象です。
これは我々帝国とジャックさんが、今後どう動くかの重要な選択。
ジャックさんの好きなゲームで例えるならば、ニューゲームの冒頭でゲームの難易度を決めるようなものでしょうか。
そうです。
あなたの冒険は、まだ始まっていない。
あなたがウメダで目覚めたその時から始まり、選択をする瞬間までが長い長いチュートリアル。
アクスビットやマギアルクラフト、西の大陸の冒険、
ルルカさんの正体、
グラリオさんとゴラゴランさんの再会、
轟鬼さんとの再会、
星乃紋三郎さんの運命、
ケバブさんとの勝負、
我々ゲノン帝国との戦闘、
皇帝の正体……。
それぞれの物語が、やっと始まるのです。
さぁ、どちらかを選びなさい。
あなたの一言で、あなたの運命が、あなたの周りの仲間の運命が、この世界の運命が……
ヴェイルノートからジャックへの選択。
1つ目。
・生活をする上での家、料理、お金は全て帝国が与える。
・全ての情報を教え、必要ならばジャックの動画投稿に協力。
・最終的にジャックを生き返らせ、現実世界へ戻し元の生活へ。
・反対にジャックには、皇帝の計画に協力させる。
2つ目。
・帝国からの一切の容赦はなく、異世界人と異世界の住人の命、町や城などの崩壊は保障されない。
・ジャックの秘密や異世界の常識などの情報や力、お金、その全てを自給自足で得なくてはならない。
・ジャックの死因や秘密を知っている者の記憶は消す。
・「ジャックの秘密、帝国の秘密、ヴェイルノートを倒す」。この3つの条件をクリアできれば、それまでの傷ついた者を蘇生し、全員現実世界へ戻す。
ジャックは、下を向いたまま俯いてしまった。
果たして、ジャックの選択は――
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