108話 ノームVSナナ!ノームの涙と悲しき過去!
文字数 7,470文字
前回のあらすじ。
ノームから全てを取り戻すため、始まったのは遊園地を走って一周するスピードラン。
村エリア、ステージエリア、アトラクションエリア、お菓子エリアの順番に走ってまたスタート地点に戻って来るのだけど、数々のミッションに挑戦しないと先へ進めないルール。
そして、ノーム、ジャックとソラ、ナナに分かれて最初にゴールした方の勝利。
まずは前半。
村とステージのエリアを走るのはノームとナナ。
スタート地点である遊園地の入場ゲートから走って後半の2人にバトンタッチする。
そして今、スタートの合図が……。
『ごめん!こんなはずじゃなかったんだ!本当はみんな優しくて……!』
『わかってる。きっと何かあったんだ。それより足を休ませたい……』
『ノームは優しいな。大丈夫、後で必ず追いかけるから。』
さぁ、元気よくスタートしたのはナナ選手!
がむしゃらに走ってるようだけど落ち着いて!
まずは優しい村エリアよ♪
一方ノーム選手は……
あら?青ざめた顔してどうしたのかしら?
もう始まってるわよ?
とある記憶を思い出した事で出だしが遅れてしまい、ナナに越されてしまうノーム。
慌てて走るけれど、表情は暗く汗をかいている。
何であんなの思い出したんだ!?
くそ!さっさと追い抜いてゴールしてやる!
笑ってられるのも今のうちだぞ!
(落ち着け!周りが笑ってるのはどうせ手も足も出ないから頭おかしくなってるだけだ!
大体隙もガラ空きでジョブレベルも弱いコイツらなんかオイラがやらなくても簡単にやられる!)
『そうさ!でもただ走るだけじゃつまんないから課題があった方がいい!アイツらが勝ったら諦めてやるから協力しろ!』
『例えばDIYとかスタンプラリーとか……アスレチックなんかもおもしろいな。とにかくいろんなミッションを用意して、ちゃんと出来たか確認する審査員も用意しとけ!わかったか!』
『いいぞ!ただし不公平になるようなものは無しだ!オイラは宙に浮けるけどアイツらは浮けない!』
『あとハロウィンに近いものにしろ!
遊園地のテーマに沿った方が宣伝になる!
走ってる時はカメラで生放送する予定だ!』
……あの女がどんなものを用意したのか知らないけど楽勝だ!
あんなマヌケに負けるか!
ポーラとの会話を思い出して走るスピードを上げるノーム。
ナナは看板やカボチャに書かれた矢印に沿って走っていく。
この先は村エリア。
……と、その前に。
ルールがいまいちわからない人のために画像を用意したわ♪
スタートの位置にいる2人は左のエリアを走って上の2人へ交代!
後半の2人は右のエリアを走ってスタートの位置へ戻る!
ソラ選手が先にゴールすれば勝ち!
ジャック選手がゴールすれば負け!
この遊園地の運命がかかってるわ♪
ポーラは生放送のためのカメラに向かってスピードランの説明。
さらになぜか投げキッスをして、カメラを動かしているゾンビに合図。
今まで見た事もない乙女な顔をする主人に目を丸くして「えっ?」と言いたいけどあくまでカメラなので喋ってはいけない。
そしてカメラは再びナナを撮影。
カボチャや観戦するオバケ達が道を作ってくれたおかげで順路が分かる。
そんなナナの前にはたくさんの子供達が。
まずは「お菓子配り」。
村の中にいる子供にビスケットをあげてね♪
ナナとノームが驚いたのは
村の上空にふわふわと飛んでいる風船。
風船はいくつもあって、1つ1つに小さな木箱が付いている。
そう♪
ビスケットは木箱の中のどれか♪
村の真ん中にパチンコを置いておいたから、撃ち抜いて……
こらー!
まだ説明の途中だにゃ!ちゃんと聞かないとダメにゃ!
はい残念♪
木箱の中はビスケットだけじゃなくて、キャンディーとかちっちゃなおもちゃとかいろいろ入ってるの♪
でもお菓子を配るのは3人でいいから安心してね♪
そう、このお菓子配りは少し厄介。
いくつも飛んでいる風船の木箱から「ビスケット」を見つけ出して子供に渡さないとクリア不可能。
ここはすぐにでも撃ち落としたいところだけど、ナナは全然パチンコが当たらなくて苦戦……
はーい♪ナナ選手、ちゃんと狙って〜?
赤い風船でも黄色い風船でも撃っていいのよ〜?
手元が狂うのか、風船に当たらずに村の家の壁に当たってしまう。
しかし、それは理由があった。
この村どっかで見たような……?
うーん、思い出せないにゃ……何か怖いものがあったような気がするんだけど……
心当たりはあるけどハッキリと思い出せずに集中できず、狙いがズレてしまう。
それは次々に風船を撃ち落とし、一歩リードしているノームも同じだった。
くそ!あの女、許さないぞ!
オイラをバカにしてるのか!?
『おいノーム!綺麗だなぁ!風船がたくさん飛んでるぞ!あっちにはカボチャもみたいだし、何かのお祭りかな?行ってみようぜ!』
お見事!
ノーム選手、すごい勢いで風船を撃ち落としていきます!これは早い!!
にゃにゃあ!?
何であんなに上手いにゃ!?コツを教えてくれにゃ!
かつて誰かと一緒にいた記憶。
それはノームにとって忘れたい嫌な記憶。
この村エリアもたくさんの風船もナナの言葉も記憶に繋がるヒントになってしまう。
ノームは叫ぶながらパチンコを連続で撃ち、見事にビスケットを3つ入手。
あっという間に子供達に配ると何かを振り払うかのように次のエリアへ全力で走る。
はい、ノーム選手のクリアを確認しました♪
早くも次のステージエリアへ行ってしまうんでしょうか?
にゃあああああ!
ぜんっぜん当たらないし思い出せないにゃあ!
どうなってるにゃあ!
このままじゃ……
負けちゃうにゃああああああああ!!
スピードラン第2のエリアはステージエリア。
順路を走り、目の前に飛び込んできたのはステージエリアのパンフレットとスタンプ台。
ノーム選手ステージエリアに突入!
ステージエリア最初のミッションはスタンプラリーです!
エリアのどこかにあるスタンプ台を見つけて押せばクリア!
ただし、3メートルの大きなカボチャの頭の上にあったり、風船で飛んでたり、パレードの練習中のオバケの誰かが持っていたり、スタンプを見つけてもすぐに押せないから気をつけてね♪
押しにくいなんて関係ない!
誰かがスタンプを持ってるなら無理矢理奪ってしまえばいい!
こんなものさっさと終わらせてやる!!
村にいたオバケがアドバイスしてくれたのにゃ!みんな優しくて嬉しいにゃ!
それより無理矢理奪うなんてどういう事にゃ!
遊園地の中でも外でも人に優しくするのは当たり前にゃ!
うるさい!優しくったって何の意味もないんだ!そこをどけよ!!
そう言うと、ノームはナナの言葉が気に入らなかったのかナナの腹部を殴ると、パンフレットに1つ目のスタンプを押して走っていった。
一方のナナは思った以上に強いパンチだったのか尻餅をついてその場に座り込む。
するとその場を見ていたオバケやゾンビ達がナナの元へ。
このくらい大丈夫にゃ!
ここはスタンプを押せばいいにゃ?
エリア内のスタンプを全部押せばクリアだけど……まだやるつもりなのか?
くそ!女の子のお腹を殴るなんて何考えてんだあいつ!
きちんと心配してくれたオバケ達に「ありがとう」と伝えてパンフレットにスタンプを押すナナ。
慌てて「がんばれよ!」と声をかけると、こちらに手を振って走り去ってゆく。
****
それから数十分後。
ノームはリードしたまま数々のスタンプを押してゆく。
一方のナナも遅れをとっているけど順調。
ここまで押したスタンプの場所は様々で、
ステージの裏にある柱、風船、たくさんの目玉のオモチャの中、パレードの練習をしているオバケ、棺桶の中、ステージエリアの中にある売店の横、小さなカボチャの口の中……。
どちらかがスタンプを押すたびにポーラがその場所の魅力を説明していった。
そして、ナナはカボチャの形をした扉を発見。
扉の前にはノームが立っていて、スタンプ台が2つ設置。
周りは細い道と深い森のようになっていて、この扉を通らないと先に進めない。
にゃ!?何するにゃ!?
ウチのパンフレットを取っちゃイヤにゃー!
はい、それじゃあ説明します♪
この扉を開ける方法は1つだけ!
相手のパンフレットをスタンプ台に置く!
ただし、置かれた相手は森の中のコースに変更!
こわ〜いゾンビ達に足を掴まれて大ピンチ!
もちろんただの足止めだから痛いようにはしないけど大きくスピードダウンしちゃう!
さぁどうする?
にゃ?
つまり相手のパンフレットをスタンプ台に置けば扉が開いて安全、でも相手は大ピンチ……
途端に自分のパンフレットをノームに渡そうとするナナ。
ノームはまさかの行動に驚く。
話聴いてたのか……?
自分のパンフレットをスタンプ台に置かれたら不利になるんだぞ……?
それにこの扉の先はもう……!
おー!ゴール直前だにゃ!
スタンプラリーのゴール地点って書いてあるにゃ!
(意味がわからない……!何で簡単にパンフレットを差し出せる……?何で奪おうとした事もさっき殴った事も怒らない……?どうして笑っていられる……?)
『こらー!まだ説明の途中だにゃ!ちゃんと聞かないとダメにゃ!』
(ポーラが説明してる時にオイラがパチンコで風船を撃ち落とした時……!)
優しいから何だ?いいヤツだから何だ?
そんな風に褒められたいからやってるんだろうけど、そんなもの何にもならない……!
魔法禁止も飛行禁止も無しだ。
パワーもスピードも抑えてたけど解放。
防御もどんな武器も効かない最大レベルにする。
巨大化だってできる!
「禁止」にしていたはずの魔法も飛行もなかったことにして巨大化するノーム。
手に持っていたパンフレットを踏み潰してしまう……。
高さ10メートルを越すノームに驚くナナ。
よほど怖いのかその場に立ち尽くす。
お前はオイラに「優しくするのは当たり前」と言った!
あれは嘘だと言え!死にたくなかったらな!
怖いだろ?
こんなにでかい敵がいたらどうしようもないだろ?
だったらオイラの言う通りにしろ!
これは命令だ!!!
魔法とか空飛ぶとかいっぱいできてすごいにゃ!
ズルはしてほしくないから勝負が終わった後にいっぱい見せてにゃ!
でも人が話してる間に先に行くのはダメにゃ!当たり前って言ったのは取り消さないにゃ!
途端にナナを掴み、握り潰そうと力を込めるノーム。
周りのオバケ達が止めようとするけれど……
オイラは間違ってない!
悪はお前だ!優しい事が何になる!
取り消せええええええええ!!
オイラはずっとイライラしてるんだ!
その意味が分かるな!?
いいえ分からないわ……!
どんなミッションを用意するか決めてと言ったのはあなたでしょう?
知ってるでしょう?
私はもう死んでるわ。おバカさん♪
仲良くするな!!
状況がわかってないのか!?
ポーラはともかくニャルシーは生きてる!
このまま握り潰せばどうなるか……!
あら、仲良くして何が悪いの?
この子は私の仲間の努力を認めてくれた恩人よ?
もう友達よね?
火属性の最大魔法は使えるか!?
武器を持たずに人間を殴って一撃で殺せるか!?
どんな傷を受けてもすぐに回復できるか!?
……そうだろ!できないだろ!
だったら一緒にするんじゃない!
だからすごいって言ったにゃ……!
かっこいいにゃ!羨ましいにゃ!真似できないにゃ!
『どうして落ち込むんだ?お前は俺よりいろんな事ができるんだ。すごいじゃないか!とても真似できないよ!』
全然すごくない……!
こんな事できたって何の意味もないんだ……!
ナナの言葉でまた何かを思い出して泣いてしまうノーム。
両手に掴んでいたナナとポーラは開放されてスタンプ台の前に立つ。
その時、ポーラが優しくノームの大きな足に触れた。
ずっと自分を責めてたのね。
でも大丈夫、あなたは悪くないわ。
……ノームにはずっと一緒に旅をしていた人間がいたの。
2人はどんな時もとにかく笑って、魔物に襲われた時だって楽しんでるように見えた。
そんなある日、ノームは自分の故郷を見せてあげたいって言って、2年間離れていたとある村に人間連れて来たの。
ちょうどハロウィンの夜ね。
トリックオアトリート。
お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。
そう言われた2人は困るわ。だってお菓子なんて持っていないんだもの。
人間は「ごめんね」と言って去る。
でももう夜遅いし、宿屋を探したいけど村には民家ばかり。
困り果てていると、突然村に飾ってあったカボチャが動いてたくさんのオバケに襲われちゃう。
あまりの怖さに2人は必死で逃げる。
でも暗い森を走ってたどり着いた先は墓地。
何年もずっと放置されてて汚い。
すぐにそこを離れようとするけど、地面からゾンビの手が人間の足を掴む。
ノームは必死に人間を助けてひたすら走るわ。
暗い森を抜け、洞窟を抜け、ゾンビの手から逃れたと思ったその時……
『お!いい所にトロッコ発見!ここは廃鉱山なのかな?』
『ダメだ!!レールは崖の下にある!他の道を探そうよ!』
『ごめん!こんなはずじゃなかったんだ!本当はみんな優しくて……!』
『わかってる。きっと何かあったんだ。それより足を休ませたい……』
『ノームは優しいな。大丈夫、後で必ず追いかけるから。』
『ははっ。ノームの力は自分にしか効果が出ない。忘れたのかい?』
『平気さ、これくらい。少しだけ時間があればへっちゃらだよ!』
『どうして落ち込むんだ?お前は俺よりいろんな事ができるんだ。すごいじゃないか!とても真似できないよ!』
そう。
ゴーストコースターはノームの実話を再現したアトラクションだったの。
違うんだ……!
こんなはずじゃなかったんだ……!
村のみんなは友達で優しいはずだったんだ……!
わかってるわ。
旅人の彼もそう思ってる。あなたを責めたりなんてしてない……
だからもういいの。
あなたの力はすごい。意味のあるものなの。
いい加減、自分を許してあげましょう?
ノームは大好きな旅人との記憶を思い出して号泣。
体も元の姿に戻って、大粒の涙を流しながらポーラに抱きつく。
ずっと一緒だった。大好きだった。
故郷の村に連れてって、友達を紹介して、喜んでもらいたかった。
でも村にいたのは友達じゃなくて知らない顔の人間達。
必死で「こんなはずじゃ」って思ってた。
ずっと自分のせいだと思ってた……。
ま、待って!
こうなったら全力で走るぞ!!絶対負けない!
さぁゴール目前!
後半の2人にタッチすれば終わりよ!
スピードラン前半戦!
勝つのはノーム選手かナナ選手か!
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