66話 2人のリサと心の涙!
文字数 6,272文字
前回のあらすじ。
バルバトスの車の暴走中、
突然のレーザー光線の攻撃からミノルに助けられるジャック。
しかしその直後、バルバトスは車を止め、ジャックの敵のチームである事を告白。
すぐに車から降りようとするジャックだが、後ろの席……そう、後部座席に座っていたミノルに掴まれ、「ここまで良くしてくれたバルバトスとミノルは敵だったんだ」と疑うジャック。
その後、レーザー光線を撃った張本人ゴラロボが現れ、ツッコミをするが……
ジャックに異変が起き、
精霊の森のフレイムイーター、
ライブでバルバトスと歌った「クレイジーピーポー」の時の顔に次ぐ変身を遂げ、ゴラロボと共にどこかへ消えてしまう。
そして……
ジャックは、
深い闇の中で変身した状態であるもう1人のジャックと出会う。
ジャックが今まで1番嫌っていた裏切り。
それによって生まれ、ジャックの代わりに裏切り者を殺しに行くと宣言するもう1人のジャック。
ジャックは止めようとするけれど、
「なぜ自分を騙してまでチョコレート・クライシスのポイントを稼ごうとするのか」と疑問が浮かび、もう1人の自分が言った言葉を止められず……
ソラの名前を弱々しく呟くと、
悲しみとショックからか、深い眠りへと堕ちていった……。
****
日本。五智谷市。
五智谷高校。
本来はジャックの他にミノルとゲノン帝国の幹部の轟鬼も通っていたが、ここはジャックの世界を再現し、廃墟となった世界。
その名もチョコレート・クライシス。
広い校庭の真ん中に立つのはソニア。
そして頭のツノの力を使い、標的に向かって確実に弾を当てようとする時雨の動きをじっと見つめていた。
ソニアに怯え、標的となった者に弾を当てられず困っている時雨。
その標的とは……
バン!バン!バン!バン!
パクッパクッパクッパクッ
そう、軽やかなジャンプで空を舞い、時雨の撃つ弾……もとい、義理のチョコを美味しそうに食べる男子中学生。
その名も、犬星ソラ。
学校の窓から窓にジャンプしたり、
サッカーのゴールに移動し、飛んできた弾をサッカーボールに見立ててゴールキーパーのように走り回ったり、
花壇の後ろに隠れてジャンプし、飛んできた弾をパクッと食べたり、
とにかく自由で元気。
「どんな事も楽しみたい!」
それはソラが大切にしている言葉で、例えば勉強もスポーツも遊びも、ゆっくり空を眺める事もそう。
ソニアと時雨に狙われている今この状況さえも、ソラは笑顔で飛び回り「こっちだよー♪」と言って楽しんでいるように見える。
そんな"自由すぎる"ソラにも
親に捨てられ、大好きだったジャックの死を知って、義理の親に虐待を受けたという辛い過去があった。
もしあの時ヴェイルノートが現れ、「異世界に行けばジャックに会える」とソラに生きる理由を与えていなかったらどうなっていただろうか?
待ち望んでいたジャックとの再会。
それからのソラは、かつて現実世界でジャックと遊んでいた頃と同じように「いつもの自分」でいられる。
そしてその喜びを知ってほしいのか、彼はジャックの隣でいつも笑っていた。
そう、ジャックの心は折れ、
復讐を宣言したもう1人のジャックへ変わってしまった事も知らずに……。
****
一方、ここは五知谷中学校。
五知谷高校の近くにあり、本来は犬星ソラが通っていた。
この廃墟となった校舎で魔物と戦っていたのは……
1位、リリム。5600ポイント。
2位、ソニア。5400ポイント。
3位、リサ。3460ポイント。
腕に付けた腕輪の画面に映る魔物の討伐ポイントのランキングを確認するリサ。
そう言うと、「はぁ……」とため息をつき、手に持った銃で魔物に義理のチョコを撃つリサ。
リサの言う「あの時」とは、ジャックが"怪しい男の子"に会う前……
つまり、五智谷駅前にたどり着き、リリムに撃たれるよりも前の話。
見慣れない現実世界を警戒しつつ、不思議そうな顔でショッピングモールのフードコートを歩いていた時、"彼女も"出会っていた。
そう言うと、運極のリサはフードコートにあるうどん屋のカウンターをバン!と叩く。
するとどうだろう。カウンターの奥の厨房から何十本もの白いうどんがウネウネと伸び、リサを取り囲んだ。
その瞬間。
リサは胸の谷間に挟んでいた銃を取り、うどん屋のカウンターに立つもう1人の自分……運極のリサに向かって発砲。
弾は頬をかすり、厨房の奥に当たると、リサを取り囲んでいたうどんは力を無くして床に落ちる。
と、同時に……
運極のリサの頬に弾がかすった事から出血。
リサの頬からも同じ事が起きた。
運極のリサの言う「あの子」という言葉に動揺し、数回発砲しようとするリサ。
「あの子」とは、
セクシャルレインボーのメンバーであるメルーナやヒビキ達をまとめているボスであり、リサにとってかけがえのない存在。
かつて共に交わした会話も、ずっと抱えてきた悩みも、悲しみも悔しさも、2人とも覚えている。
しかし。
大好きだったあの子が、優しかったあの子が、変わってしまった。
それはきっとあの子が助けを求めていたのに気付かず、何もできなかったからではないか。
ずっと後悔していた。
ずっと悩んでいた。
ずっと引きずっていた。
ずっと自分を責めていた。
もし自分に奇跡でも何でも叶えられる運があれば……。
それで、運が良すぎてバカみたいにカジノで大儲けして、バカみたいに使えるようになれば……。
いつからか、ずっと思っていた事だ。
目の前にいるもう1人の自分が言う言葉は、今まで自分がずっと思い続けていた事だ。
今やっと、それが分かった。
……運が良いわけじゃない、
自分じゃあの子を取り戻せない事も。
全部、自分のせいだって事も。
涙を流すリサに優しく声をかけ、ぎゅっと抱きしめる運極のリサ。
「自分で自分を抱くのって、なんか複雑だよね」と照れ臭そうに笑みを浮かべ、頭を撫でる。
その瞬間、自分を抱きしめていた運極のリサの手を掴み、胸に当てるリサ。
反対に運極のリサは自分の手がリサの胸の中に少しずつ入っていき、「え?え?」と焦る。
自分がバカな考えを持っていた事を教えてくれた。
自分のせいだからと泣いていたけれど、改めて前に進む決断ができた。
辛い、悲しいと誰にも言えず悩んでいた自分を慰めてくれた。
それは、運という不思議な力があればなんとかなるかもしれないと思っていた過去の自分。
そして、この不思議な世界で出会ったもう1人の自分。
リサは涙を流し、「ありがとう」と笑う自分が光の粒になって消えていくのを見届けると……
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そして現在。
「あーやだやだ」と照れ臭そうに独り言を続けながら五智谷中学校の廊下を歩いていたリサは、割れていない鏡を見ると、足を止めた。
しかし、その瞬間。
突如、復讐を宣言したジャックと助けを求めるゴラロボが校舎の壁をブッ壊して廊下に飛び込み、鏡を粉々に割ってしまい、
リサは……
突然大きな音を立ててジャックとゴラゴランが現れた事、
ジャックの顔がゴラゴランのようになっている事に驚き、なんと割れた鏡の前で気絶。
撃たれたわけではないのでライフポイントは減っていないが、サクッと鏡の破片が頭に刺さり、後頭部の辺りから出血。
普通なら致命傷のはずだが、
気絶しているにも関わらず、心がリフレッシュされた後だからかジャックとゴラロボと自分の顔が同じ事に気付き、ボケをかまし、眠りにつき……
心の中にいた運極のリサは、ツッコミを入れるのだった。