31話 裏切りと陰謀渦巻くウメダからの脱出!Part.3
文字数 4,362文字
ウメダ。西の入り口。
町を出ようとしていたジャックとグラリオは、謎の感覚に怯えていた。
力強く叫び、両手を大きく広げて全力で地面を殴るグラリオ。
地面を割り、ジャックとグラリオの間に大きな穴を開けた。
まっすぐな眼でジャックを見つめるグラリオ。
ジャックに剣を向けると、二度三度ジャックの方を振り向きながら冒険者ギルドの方へ走って行った。
****
ウメダ。
冒険者ギルド。
グラリオは、適当な椅子に座ると誰もいなくなった室内を眺める。
静かに佇んだテーブルと椅子。
いつも多くの冒険者で溢れかえっていたジョブカウンター。
ジャックに説明するつもりが、結局教えてあげられなかったギルドカウンター。
「とうとう、この日が来てしまったんだ。」
グラリオはため息をし、小さく呟いた。
わかっていたけれど、今まで過ごしてきた仲間との別れは辛い。
しかし、ジャックはきっと世界中を旅して成長する。
ジョブのレベルもそう、心もそう。人間として大きくなる。
そう確信しているからこそ、今までジャックを応援し、共に過ごしてきた。
ここで別れても、きっとどこかでまた会える。
今日だってそうだ。町の住民を避難させた後は一度冒険者ギルドに戻り、ヴェイルノートとの戦いに備えて作戦通り動く。
この冒険者ギルドを出たその時が、このウメダで出会えた全員の最後の戦いになる。
今は一時的に別行動をとっているだけ。
このままジャックだけを”あの場所”へ連れて行き、さよならをするつもりはない。
あるとすれば最終手段。
本当に、また会えるだろうか?
もう少しここにいてくれ、と願っては駄目だろうか?
ジャックがいて、ミノルがいて、煌がいて、グラリオがいて、
リリカ、ルルカがいて、サキがいて、ロザリアがいて、
ゴワス、ゴッツァンがいて、
泣いたり笑ったりしていた日常を、もっと続いて欲しいと願ってはいけないのだろうか?
気が付けばグラリオの目に涙が浮かんでいた。
勢いよく椅子から立ち上がり、笑顔でガッツポーズをするグラリオ。
するとその時、ガチャ……と冒険者ギルドの扉が開いた。
扉の向こうにいる誰かに呼びかけるグラリオ。
子供だと思い、怖がらせないようにゆっくり扉へ近付き、半開きになった扉を開けると……。
****
ウメダ。東の入り口。
ロザリアを探しにウメダの中を歩いていた煌。
東の入り口へ辿り着くもロザリアの姿は見えず、キョロキョロと辺りを見渡していた。
謎の感覚に焦り、ぶつくさと呟きながら元来た道を戻り始める煌。
すると、少し遠くの方から少女が歩いてくるのが見えた。
突如聞こえた声。
それはとても近く、耳元で喋っているような子供のような声だった。
すぐに横を向くと、ジャックが笑顔で立っていた。
まるで少女のように首を傾げ、きょとんとするジャック。
煌は違和感を表に出さず、動揺せずに普段と同じようにジャックと話す。
……ジャックの後ろから近付く少女から、自分に注意を引くために。
コートのポケットから小さなアメを取り出す素振りをする煌。
ジャックは、よほど嬉しいのか目をつぶって大きく口を開ける。
その瞬間。
ジャックの後ろから近付いていたリリカがジャックの背中に手を当てて魔法を発動。
ジャックの背中はプクーッと大きく腫れ上がり、そのまま体が破裂。
パンッ!と大きな音を立て、勢いよく手足や首が飛び散ってしまった。
「ロザリアを取り返した」。
リリカの言った言葉を聞き、ロザリアが見つからない原因を察してしまった煌。
「ロザリアちゃんを守るって決めたはずなのに。」
「オレは今……何をしている?」
何もできず、何もせず、ロザリアは再び操られ、多くの人を斬っていく。
煌の心は情けなさと悔しさで溢れ出す。
すると、チョコに操られたリリカそっくりのゾンビはチョコのように溶け始める。
その中から出てきたのは……。
突然現れたロザリアに驚く煌。
慌ててロザリアの手を引っ張ろうとするが、ロザリアのお腹に穴が開き、中からチョコが現れた。
狂気。
想像するだけで恐ろしい事を、目の前の少女は笑いながら楽しみにしている。
いつか交わしたロザリアとの会話。
「もう二度と」と宣言した自分の言葉が突き刺さる。
一瞬だった。
チョコはアメの形になったゾンビを召喚。
ショックを受け、動きが止まった煌の腹部に向かって放つ。
まるで弾丸のように放たれたそれは、煌の体を貫通して民家の壁に当たる。
煌は腹部を押さえ、激しく吐血。
そのままうつ伏せになって倒れる。
チョコは「イイコト思いついた♪」と笑いだし、倒れた煌の髪を引っ張って持ち上げるとニヤッと笑みを浮かべ……
煌の体を貫いたアメ、いや、ゾンビを元の姿に戻す。
するとゾンビは煌の髪を引っ張ったままズルズルと引きずり歩き出し、
チョコもどこかへ歩き出す。
そして煌は、朦朧とした意識の中歯を食いしばり、
その悔しさを小さな声で呟いた。