10話 絶体絶命!?ヴェイルノート現る!
文字数 4,665文字
ゲノン帝国。
それは、東の大陸に存在するも、東と西その全てを支配しようと企む国。
絶対的な力と重大な秘密を持つ。
****
ここはゲノン帝国。
その中心に位置する「ゲノンムルグ城」。
帝国の兵士はもちろん、尋常でない力を持った「幹部」や皇帝のいる巨大な要塞である。
他国を滅ぼす為、多くの兵士が武器を持ちあちこち歩いている中、1人の男が不気味な笑みを浮かべて部屋に入っていった。
部屋の中には巨大なカプセルがあり、それを囲むように白いテーブルと椅子が置いてあった。
椅子には目隠れの女性や糸目の少年、甘い香りのする少女、炎のように熱い熱血漢の男が座っている。
何だと!?俺のどこが暑苦しいというんだ!!
うおおおおおおおおおおおおおおお!!
まぁまぁ、いいじゃないですか。
暑苦しいというのは元気がある証拠ですよ?
あぁいけませんねぇ。
そう無表情では感情が読み取れません。
私達はゲノン帝国の未来を担う仲間なんですから、もっとコミュニケーションを大事にしなければならないのですよ?
無駄よ。
その子、「他の人間」に興味なんてないから。
おや。
あなたがここへ来るとは珍しい……。
他の人間、とは?
「本命」がいるって事よ。
誰にでもいるでしょう?決着をつけたい相手、因縁の相手、宿敵、ライバル。
その子は極端だから、本命以外の人間には興味を持たないのよ。
なるほど……。
わかりました。個人の事情を尊重するのは重要な事ですからね。
で、これだけ幹部を集めて何話すのよ?異世界人?裏切り者?まさかと思うけど……新人?
おお!!新人の特訓なら任せておけ!!武器はわからないが、体術ならいくらでも付き合ってやる!!
おい、そこは武器だろ?
バトルっつったらでけーの振り回して、一気に消し飛ばすのが1番に決まってんだろ!
自分のスタイルを大切にしているのですね。素晴らしい……。
なぁ、もったいぶってねぇで教えろよ。ウチらは何のために集められたんだぁ?
……そうですね。
1つは皆さんの言う通り、新人さんのお話です。「ディアス」の王子、異世界人の不良の男子生徒、異世界人の天才少年、セクシーな魔族の女性を引き入れようと考えています。
指揮は私がしますが、挨拶はきちんとして下さいね。
いいじゃない。仲良くしてあげなさいよ。なんなら魔族の女の子だっていいんだから。
ちょっと待て!ディアスは物理攻撃に長けた魔族の一種、ここはウチが指揮をとる!いいな!!
やれやれ……本当はグラリオさんの事の他にもう1つあったのですが……
仕方ありません。「ボランティア」の件は私1人で行きましょう……。
****
ウメダ。
冒険者ギルド。
お茶を飲んでいたグラリオの元に、小さな鞄を持った少女が訪ねていた。
すみません、こちらにジャックという方はいらっしゃいますか?
あぁ、今日はまだ来てないがこの町の宿屋に泊まっているはずだよ。
ふむ……。
もしよければ、彼が来るまでゆっくりしていってはどうかな?君は郵便局の者だろう?
はっはい!
まだ見習いですけど、いろんな所に配達に行くので、もしかしたらお兄ちゃんに会えるかもしれないって思って……
はい……お兄ちゃん、突然居なくなってしまって、気付いたら私も「ここ」にいて……
もしかしたらお兄ちゃん、どこかにいるかもしれないって思って……それで郵便局を見つけて……
なるほど。世界中どこでも配達に行くだろうから、手伝いをしながら探しているのか。
あぁ。彼はまだ駆け出し冒険者で、ジョブも基本職の剣士、レベルも低い、この世界の知識も少ない。大型モンスターの討伐も未経験、もちろん女の子にモテるわけでもないし、イケメンというわけでもない。
でも、彼は1人じゃない。
最初は見知らぬ世界に戸惑っていた彼が、今では何人もの仲間に囲まれ笑い合っている。
すごいだろう?
きっと、人を惹きつける力があるのさ。
羨ましい限りだよ。
あっいえ、なんでもないです!
そろそろ行きますね!ジャックさんの事は気になりますが、私も忙しいので!
グラリオさん、もしお兄ちゃんに会ったら伝えておいてくれますか?
あらおはよう!
どうしたの?ニコニコして♪
いい出会いでもあった?
……よし、今日は気分がいい!
私のギャランドゥに名前をつけよう!!
え!?まさかルルカちゃんの付けたへんちくりんな名前、気に入っちゃったの!?
イヤあああああああ!腰がヤバい動きしてるううううう!!
(「お家へ帰ろう」か……。
ひょっとすると本当に、ジャック君の妹かもしれないな……。)
あぁん❤︎ジャック様ぁ❤︎
こんなに固くして……❤︎
マッサージ、そんなにイイんですか?❤︎
あぁん❤︎いけませんわ❤︎
ジャック様のたくましいアレが汚れちゃう❤︎
私の胸、見すぎで・す・よ❤︎
知ってる?
サキュバスの胸は巨乳。
だけど男に見られすぎると破裂して、
(なんてね。
おもいっきりウソだけど、いくらジャックでもこんなのに騙されるわけ――)
なななななんだって!?
サキちゃん、死んじゃイヤだああああ!!
ジャックっておもしろいのね!
この間のお礼にマッサージしてあげようと思ったけど、私の胸ばっかり見てたんだ〜?
いやあの……女の子も女の人も慣れてないから意味深な言葉とかそういうのは刺激が強いというか……!
っていうか胸は見てないよ!?ぜんっぜん見てない!ほんとに!!
あはは!
んもう、誰も見るななんて言ってないんだけどな〜?ジャックがその気なら、別に目の前で眺めててもいいのよ?減るもんじゃないし❤︎
サキュバスの胸は男に3秒見つめられると男を一瞬で八つ裂きにできる。(早口)
巨乳がおにーさんを八つ裂きにする、と聞こえたもので!
それにしても珍しいですね!
おにーさんがギルドじゃなくて宿屋にいるなんて!もうお昼ですよ?
んー。なんだか今日は気分じゃなくてさ。「今日はボランティアの話はない」ってゴワスさんから言われたし。たまにはのんびりしてるのもいいかなーって思ってさ。
喜ばないの。
まったく、今日はいい天気なのに、何か起きそうなのよね〜。
……勘だけどね。
ノノカも朝からいないし、ちょっとイヤな予感がするだけよ。あたしものんびり寝てようかしら。
それなら、みんなでのんびりしててよ。ミノルのヤツも寝てるし、この部屋にいてくれると嬉しいな。
はぁ?まさか、どっか行く気?
せっかく1つ屋根の下、同じ部屋に天才少女と純真無垢な女の子とデカいサキュバスがいるっていうのに出かけるなんてもったいないわ。
それよりジャック、スマホ持ってるんでしょ?動画撮りましょうよ!サキュバスのデカいヤツより、特別にあたしの――
おにーさん行っちゃいましたよ!?
なんだか様子、おかしくないですか……?
――ウメダ。
周辺の森。
ジャックは木に寄りかかり、ズボンの中に隠していた紙を出す。
紙を広げ、字を読むジャック。
紙にはこう書かれている。
"この紙はジャックさん1人で読んで下さい。
決して他の方に知られてはいけません。
あなたの旅は終わりを迎えるでしょう。"
……この紙、一体誰がオレのベッドの下に置いたんだろう……。
……それに、最後に書いてある言葉……。どういう意味なんだ……?
辺りを見回すジャック。
ザァァ……と風が鳴り、木が揺れる。
その瞬間、木の陰から男が現れた。
****
一方ウメダ。
冒険者ギルドに異変が起き騒然としている中、宿屋からリリカ、ルルカ、サキが駆けつけた。
なんでも、誰かが急に暴れだしたらしいぞ。名前なんつったかなぁ……。
確かグラ……?
リリカちゃん!ルルカちゃん!サキちゃん!
んもう〜大変なのよ!!
すると、ゴッツァンが誰かの体をガシッと掴み床に叩きつける。
それは……。
彼、急に頭を抱えて叫び出したの!!
胸も苦しいみたい!!
『あぁ。
だが問題ない。私の"スキル"を使い、一瞬で消す。援軍など必要ない。
……では行ってくる。』
『私は普段、このゲノン城にいます。しかし幹部の身に何かが起きるというのなら、すぐに助けに行きます。』
『私達は仲間です。
幹部が他国の人間に攻撃される、または心動かされる事などあってはならない。』
『私が"危険"だと判断した時点で、あなたを止めさせていただきます。
……それではどうぞ、くれぐれも気をつけて。』
(……間違いない……!この胸の痛みは私を止めるため……!あれは私を助けるという意味ではなく、幹部であるはずの私が帝国を裏切る事を察していたのか……!)
(だとすれば、奴は私がジャック君や煌君、ゴワス君、リリカちゃん達と仲良く話しているのを知って……?
いや違う……!)
(まさか……奴はずっとこの町の近くで私達を見ていた……!?)
スキルとは、あなた方異世界人のみが使える特殊能力の事。
ジャックさん。
私はあなたにやっていただきたい事があるのですが……その前に、自己紹介が必要ですね。
私は、あなた方異世界人にスキルを譲渡し、冒険の手助けをするあなたの"敵"……。
【ヴェイルノート】
ゲノン帝国最高幹部、ヴェイルノート……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)