７１話 ミノルの涙と明かされた最終試験！
文字数 6,152文字
前回のあらすじ。
一度見捨ててしまったリサを助けるため、体育館へ入ったバルバトスとミノル。
しかし内部にはチョコレート・クライシスの武器となる銃など無く、２人が焦っていると……
その直後、メルーナに「結晶の中にリサがいる」と挑発されたバルバトスは、メルーナを傷つけずに「姉貴を返せ」と連呼。
そんなバルバトスにメルーナは「提案がある」と言い出し、ミノルが罠である事を察しバルバトスを止めるけれど……
バルバトスはこれを承諾し、
ミノルに「ジャックを探しに行け！」と言う。
その後、何かを察したようにメルーナと話すバルバトスは＂あること＂を提案する……。
『オレ達はこれから、運命を共にするんだ。
ロマンティックだろ？』
体育館までたどり着いたミノル。
しかし扉に手をかけた瞬間、強力な電撃に襲われる。
ダメだよ……！
バルバトスさん……こんな事……！
リサさんが許してくれるわけない……！
ゲホ……！うぅ……！
体育館の扉に仕掛けをしたのはメルーナではなくバルバトス。
体育館に近付けさせないための「何か」をするのは薄々勘付いていた。
それでもミノルは諦めず、
何度電撃を受けても扉に手をかける。
＊＊＊＊
一方、その向こう側……。
体育館の中。
扉の向こうから小さく聞こえるミノルの悲鳴。
こうなるのがわかっていたかのように＂とあるアイテム＂を出し、音と声を
そしてバルバトスを見てうっとりとした表情をするメルーナがいた。
ごめんよ。
せっかくのデートをうるさくしちゃ、シラけちゃうよな？
素晴らしいわ……♪
指定した者の触れるもの全てに魔法ダメージを与えるローション……♪
使用者は２４時間の間何かに触れる事はできないけど、闇市場ではよく出回っている
これくらい持ってなきゃな。
闇市場の常連だぜ？オレは♪
本当は闇市場の常連ではなく、
闇市場への入り口を探るためにウエノのスラム街にいたバルバトス。
「同じ闇市場のアイテムを持つ者同士、チョコレート・クライシスに行く前に持っていた方がいいかも知れない」と考えていたのか、手慣れた手つきでアイテムを使った。
それが上手くいったのか、
メルーナは「私達、仲間ね♪」とバルバトスに抱きつき、頬にキスをする。
しかし一方のバルバトスは……
でも思い切ったわね？
自分の友達を怪我させちゃうだなんて、あなたもそんなつもりはなかったんでしょう？
もしデートに着いて来たら気まずいとは思うけど……
勘違いされちゃ困るぜ。
アイツはオレ達の嫌いな「表」の人間、着いて来ていいわけがない。
まして本命がいるんだ、自分の好きな奴と一緒にいた方がいいに決まってるだろ？
なるほど、あの子はジャックの事が好きなのね？
それならあなたと一緒にいて正解だわ♪
でも……
私、女の子じゃないわ。
せっかく綺麗って言ってくれたんだし、
女性……レディーとして見てちょうだい❤︎
子供が闇市場なんて行かないでしょう？
あぁごめんよ。
悪かった、許してくれ。
まるでカップルのようにイチャつき、バルバトスの手を取って胸を触らせるメルーナ。
服の上から触っているにも関わらず、大きくてハリがあってツヤツヤでいい匂いがして温かくて柔らかくて、
しかし見えそうで見えない、もどかしさ。
手に伝わる胸の感触も申し分ないというのに、メルーナは「いいでしょ？」と恥ずかしそうな顔をして頬を赤らめる。
見事なコンボでバルバトスの理性はノックアウト。
あ、あぁ。聞いてるぞ？
いいかいメルーナちゃん、こういう事は――
……あら？
私のお腹に何か当たって……？
まさかの展開にドキッとするバルバトス。
「鎮まれ！鎮まれ！」と自分の体の一部に言い聞かすが、手は動いたまま。
「お互いの立場をこれほど恨んだ事はない！」
と怒るが手は動いたまま。
正直すぎる自分の本能を抑えられなくなっていると、状況は一転。
校庭にいたはずの謎の少年が扉を越え、突然体育館の中へ入ってきた。
まるでイチャイチャしていた所に家族や友達が通りかかったかのように慌ててメルーナから離れるバルバトス。
しかし？
……って、なんだよ……
メルーナちゃん、こいつを呼んだなら言ってくれ……心臓に悪いぜ……
ゔゔん。
やっぱりそいつも仲間か。
って事はそいつも行くんだな？
そうね♪
「向こう」に着くのが楽しみだわ♪
しかし驚いたぜ。
月を見上げてたらメルーナちゃんが登場、オレに＂アレ＂を見せて「提案がある」。
見事としか言いようがないが、オレの予想が当たっていれば状況は最悪だ。
私もびっくりしたわ。
あなたの後ろから声をかけただけなのにいきなり怖い顔して飛び込んでくるんだもの。
あなたの予想にも驚かされてるけど、状況は最高よ？全てが上手くいっている。
彼には会ったわ。
あなたの予想通り、このチョコレート・クライシスの世界での試験は終了。
全員合格でグラスオーヴィに帰れるの♪
あなたのおかげよ♪
……そうかい。
何の用事だったのかは知らないが、よかったな？
もっと喜んで？
最深部にいる化け物はこの子。
でもゲームオーバーになった者は０よ♪
こいつだったのかよ……
待てよ、という事はこの学校が最深部で、メルーナちゃんがこの世界に来た事で倒さなくていい事になったって事か……
半分正解ね。
本当は最深部にいたんだけど、自由な性格でね？
この世界に参加してる誰かに乗り移る能力があって、ソニアっていう女の子と１つになってたんだけど……
そうか。
それでソニアの奴、様子がおかしかったのか……
そうね。
どこかの誰かさんを嫌ってたみたいだけど、本人は今もちゃんと生きてるから安心して♪
そいつの闇に隠してる奴、ここに置いてけよ？
オレの大事なねーちゃんなんだからよ。
どこまで見抜いてるのかしら。
結晶の中はともかく、改めてびっくりだわ。
結晶ねぇ。
まったく、ミノルにあんな演技したのはあの結晶の中身のせいだ。
かっこよかったわよ？
私に「返せ！」って叫んで、この場から出そうとして……♪
「ジャックを頼んだ」っていうアレも演技？
あの言葉は本当だ。
ついでにミノルの奴も遠くへ飛ばしてくれ。
頼む。
じゃあ、爆発に巻き込まれない所に置いておいてあげる。きっとあなたの仲間が拾ってくれるでしょう？
その後は迎えに来たアレに乗って出発よ♪
オレの用件は以上だ！
そろそろ行くか！
提案に乗ってくれるのね？
すぐ出発しましょう♪
意を決し、心の中で皆に別れを告げるバルバトス。
その瞬間、体育館から黄色い光が溢れ出す。
＊＊＊＊
一方、電撃が無くなったミノル。
扉を開けようとした途端、ピンク色のシャボン玉のようなものに包まれ、ふわふわと浮きながら猛スピードで体育館から離れていく。
待って！待ってよ！！
もう戻って来れないかもしれないんだよ……？
お願いだよバルバトスさん……！
待って……！１人で行かないで……！！
両手を広げ、声の届かないシャボン玉の中で泣き叫ぶミノル。
その瞬間、
夜空に巨大な魔法陣が出現し、真下の体育館に黄色い光が降り注いで爆発。
ソラによって壊れた瓦礫などが爆風で空を舞う中、ミノルは目の前の光景に動揺する。
間に合わなかったんだ……
やっぱりバルバトスさんはメルーナに連れてかれちゃう……！
リサさんは結晶の中にいたけど爆発させる前に脱出させて、それで自分だけ犠牲になるつもりなんだ……！
その時、ミノルは何かを発見。
それは黒い玉に入った１人の女性。
リサさん！？
なんで結晶じゃなくて黒い玉から……？
じゃあ結晶の中は……！？
まさか、ジャックくん……？
でも、だって、ジャックくんはあの男の子の闇の中にいて、ゴラロボも人の生命反応があるって……！
黒い玉に入っていたのはリサで、
結晶の中に入っていたのはジャック。
ミノルは最悪の想像をして、ゆっくりと黒い穴に入っていく飛空挺を見上げる。
次の試験もクリアしてリサさんの友達も正気に戻して、解決するつもりなんだ……！
たった１人で……全部……！
あらあの子、こっちを見てるわよ？
このまま追いつかれちゃ困るし、どうしようかしら？
攻撃しちゃおうかしら♪
この船、砲台が付いててね？魔法も撃てるのよ♪
空に出現した巨大な穴はセクシャルレインボーへのゲート。
飛空挺はメルーナ、少年、バルバトス、メルーナの結晶を乗せて猛スピードでゲートの中へ。
ミノルの叫び声をかき消すような轟音を立てて、その場から消えてしまった。
そして……
あ、あれ？あれ！？
２人とも無事だったの！？
かけがえのない大好きな人。
自分の「好きすぎる」気持ちを認めてくれて、応援してくれる恩人。
手を差し伸べる２人に、ミノルは笑顔で立ち上がる。
元気いっぱいに答えて、２人と一緒に歩いていく。
光の先へ、足並みを揃えて。
……そのはずだった。
そのはずだったんだ。
気が付けば手を繋いでいたはずのバルバトスさんの手が薄くなって。
気が付けば手を繋いでいたはずのジャックくんの手も薄くなって。
「ボクは誰と手を繋いでいたんだっけ？」と思ってしまう。
なぜなら繋いでいた手も笑っていたはずの顔も消えて、二度と見れなくなるような、そんな孤独さえ感じてしまう。
「それならいっそ」
「もう君はいないんだから」
あぁ、
＂また＂ボクはあの時と同じ事を……
……あの時？
そうだ、ボクはあの日……
涙を流しながら目を覚ますミノル。
夜空と星と綺麗な満月が、涙に濡れてゆらゆらと揺れて見える。
「ジャックくんと見たかったなぁ……」と思ったその時、視界の隅で赤い髪が動いたのが見えた。
やった！！
リサ様！ミノルさんが目を覚ましました！
起き上がるミノル。
ここは五智谷中学校。校庭。
ミノルはリサの膝枕で眠っていた。
話は＂あの子＂から聞いたよ。
あたしもミノルちんも無事で良かった。
アイツのおかげだね♪
＊＊＊＊
リサの胸の中で泣き叫ぶミノル。
やがてポツポツと雨が降り、朝が来た。
にゃーーー！
ソニアっち、ひどいにゃー！
にゃにゃ！リサっちだにゃ！
おーーーーーい！
再び集う仲間。
彼女達は笑顔を取り戻し、今までと同じように笑い合う。
よし！
じゃあみんな集まった所で、この子の話を聞いてくれる？
紗桜ゆめよ。
にゃ？許嫁って何にゃ？
悠哉っていうのはジャッきゅんの事だけど……
ジャックの許嫁、
彼女から語られるのはメルーナの出現と、
サバイバルの終了とその理由。
焼却炉でジャックに何が起きたのか、一部始終を見ていた。
そして……
次は最後の試験。
グラスオーヴィに飛空挺がある。
「嘘の航路」を見抜いてセクシャルレインボーまで飛ぶ。
もし見抜けられなければ船が落ちて全員死ぬ。
辿り着ければ試験は合格。
ついに明らかになった最後の試験。
果たして、ジャックとバルバトスの居ない次なる試験に合格できるのだろうか？
（頭が痛い……昔の事を思い出したような気がするんだけど……）
――第３試験。
裏切りと怨念のチョコレート・クライシス。
全員合格。
つづく！
