159話 心の闇に打ち勝て!友情のビクトリースマッシュ!
文字数 5,384文字
前回のあらすじ。
普段なら笑って「みんなを守る!」と言えるはずが、ヴェルグの言葉が聞こえないくらいの怒り、焦りから暴走。
ジャックの異変の正体に気付いたヴェルグは、それらを解消するために決闘を続ける。
****
ジャックの旅のゴール、公開処刑の地。
ヴェイルノートの元に、何もない所からピリカが現れた。
おや、あなたでしたか。
アルクという少年の復活のためにギャラララ・ラルルさんと出かけていたはずですが……
口の周りに血が付いていますよ?
何かあったんですか?
お腹すいたから腕1本食べちゃった!
でもまだ生きてるし、後でちゃんと合流するから安心して?
それは良かった。
私達は同じ目的を達成するために手を組んだのです。
同じ組織でない者が何者なのか、素性が分からなくても争っては意味がない。
相手の事を分かっていても協力せずに負ける事もあるのですから……
それ、チョコちゃんの事?
"あの時"ウメダに連れてったよね?
お、落ち着いて下さい。
いいですか?確かにヴァーデルさん、シャルティアさん、ノノカさんとウメダを壊滅した時に彼女はいました。
しかし、あなたとチョコさんは仲が良い。
彼女を侮辱するわけではありませんよ。
同じゲノン帝国幹部同士、そのような事はあり得ません。
ならいいや!
じゃあチョコちゃんも処刑場に呼んでよ!
ゲームするなら一緒がいいな!
どちらかと言うと我々はゲームに登場するボスの立場であって、プレイするのはジャックさんの方ですが……
やった!
じゃあ今度は潜在能力をあげた男の子の事を教えてよ!
どんな子なの?
だから大文字タケルさんを瀕死にしたんですね。
あなたが彼の腕を使い物にならない状態にする時は異常、狂気そのもの。
罵倒する声も結構な物でした……
『何がマッチョ?何がマッスルポーズ?
そんな事してカッコいいと思ってんの?
何のために体を鍛えてるか知らないけどさぁ!
いい加減、無駄だって気付きなよ!!』
『無駄じゃない!!
ゴラゴランとグラリオと友達になるキッカケだったんだ……!!
2人の好きな物を自分もやってみれば話しかけられると思って始めた事だったんだ!!』
『はぁ?じゃあ何?
まともに人と話せない人見知りで、同じ事をすれば変われると思ったんだ?』
『そうだ……!
俺は子供の頃からずっと独りだった!!
だから――』
『キッモ。クズじゃん。
そんな当たり前の事も出来ないの?』
『もういいよ。
今からお前の腕を踏み潰す。
友達と同じ共通点を失くしたら、お前はひとりぼっちだね。』
『おもしろいよね。
3人とも磔になってるのに1人だけ仲間外れがいるんだもん。
あ〜あ。かわいそう……♪』
『や、止めてくれ!!
今までのトレーニングもジャックがしてくれた事も無駄になってしまう!!』
『だから最初から無駄だって言ってるじゃん。
ほんと使えない幹部だよね。』
今まで積み重ねてきた彼の努力と喜びを完全否定し、悲痛の叫びと共に
血飛沫が舞う悪夢のような惨劇……。
可哀想でなりません。
しかし私が潜在能力を与えたのは普通の体型、名前はジャック。
どこまでも前向きで仲間想い、お人好しな少年です。
我々ゲノン帝国に対しても「友達になれる」と言い放ったくらいですから。
え、なにそれ変なの!あははは!
友達なんてなれるわけないじゃん!
そいつもバカにして踏み潰したいな〜!
人の心には限界がある。
どんなに財産を持っていても、
どんなに周りに頼れる仲間がいても、
どんなに幸せでも、不幸な事は必ず起きるもの。
そうなれば、人は頭を抱えて塞ぎ込み、周りが見えなくなる。
たとえ仲間が心配しても悩みを打ち明けずに「自分は独りだ」と思い込んでしまう。
心とはそれほど脆い物なのです。
けれど、ジャックさんはどこまでも前向きで笑顔を絶やさない少年。
今までの活躍を見ている限り、多くの人と絆を結び、どんな危機も乗り越えて行ける優しい心の持ち主。
だからこそ彼を守ってあげようとする方々は多いですし、これから先も仲間を増やして行くでしょう。
そこで思ったのです。
彼はどこまで笑顔でいられるのでしょうか?
その優しい心にはどんな悲惨な現実にも負けずに前を向けるのでしょうか?
我々に叩きつけられても生きていられるのでしょうか?
あれ?じゃあ使えないバカの事を知ったらどんな顔するかなぁ?
耐えられないよねぇ?無理だよねぇ?
タケルさんの事ですね。
確かにジャックさんにはショックが大きすぎる。
しかし、もし彼の心が強く、折れる事が無ければ処刑場に来るまでに潜在能力が鍛えられ、我々が本気で戦っても渡り合える強さを身につけられる。
つまり、手加減しなくていいって事だよね?
じゃあもし無理だったらどうなるの?
前向きな心を保つ事ができず、笑わなくなる状態が続けば潜在能力の力は発揮されません。
最悪の場合、仲間を傷付ける裏切り者になって最後には……
そうです。
メリットもありますが極めて危険な力、それが私が与えた禁忌の能力。
****
同時刻。
ラトリア、屋敷内。
ラズリーの部屋。
モニターに映ったダイナーの口からジャックの潜在能力について、ヴェイルノートと同じ説明があった。
ジャックさんの心次第?
不幸な事とは、例えばどういう事ですか?
仲間のピンチを立て続けに知った。
仲間に裏切られて殺されかけた。
公開処刑が執行されて首が飛んだ……
簡単な話さ。
ショックを受けて心が壊れれば潜在能力は体を侵蝕して、ジャックは仲間を襲う。
元々どんな人間かなんて関係ない。
本人の意識は失われて、記憶の中にある人間を圧倒的な力で皆殺しにした後、自害する。
当然、お前もだよ。縁を結んだ者は全員死ぬ。
逃げたって無駄さ、皆殺しだ。
どこまでも追いかけて追いかけて、そして……
『どこにも逃げ場なんて無いよ。
他のみんなはもう死んだんだ、君も死のう?』
怖いだろ?怖いよなぁ?
今からでも遅くないさ。ジャックが殺人鬼になる前に縁を切ってサヨナラすれば助かるかもしれないぜ?
ジャックは負けないわ!!
どんな辛い事があったって私達がいるもの!
支えてあげれば心を癒す事はできる!!
それは死にたくないからか?
これから先、ジャックが会う相手が味方だとしても潜在能力の秘密を知ったら血相を変えて離れていくかもしれないぜ?
そうなったらどうする?
「殺さないでほしいから元気出して!」
そう言ってご機嫌をとるのか?バカバカしい!
今一緒にいる仲間も再会する仲間もみんな離れていくに決まってる!
『いいよ。私を殺して。自殺するなら一緒に死のう?』
イヤです……そんなの……!
せっかくジャックさんと会えたのに、みんな笑顔で良い人達ばっかりなのに……!
そんなの酷すぎます!!
シロナ、落ち着いて!!
きっと大丈夫だから!ジャックを信じて!!
イヤあああああああああああああああああああああああああ!!
(待って……この屋敷に入った後、ジャックは誰かと喋っていた……)
(もしかしたら新しい仲間に出会っていて、今も一緒にいるかもしれない!通路の音声とここの音声を両方再生できれば……!)
良い機会だ、予言しよう!!
ジャックが処刑場に着いた時、奴は1人だ!!
当然、公開処刑なんて止められるわけがない!
ゴラゴラン、グラリオ、タケルの首が飛ぶのを見て泣き叫び、心が壊れて自害するんだ!!
いや、処刑場すら辿り着けない!!
ざまぁみろ!!はははははは!!
……ジャックが1人?
お前、変な事言うね。こっちが見えてないのか?
ん……?なんだ、今の声は!
どこから喋っている!お前は誰だ!!
突然の声に驚き、部屋に設置してあった2つ目のモニターを起動するダイナー。
映像を写すと、そこにはカメラ目線でピースをするヴェルグの姿が。
頭にツノ!?
屋敷の中に入ったのは女2人だけじゃなかったのか!?
な、な、何だと!?
化け物だ!化け物に家族がいた!!
ははは!
確かにいろんな生き物を殺したバカは親父で間違いないよ!
化け物だって言われるくらい強いし、話なんて聞いてもくれねぇ!
オマケに友達なんか1人もいないんだぜ?
笑っちまうよな!
……けどな、俺は違うぞ。
ただ意味もなく何でもかんでも殺して、
知らない奴から恐れられても自慢するわけじゃなく、何の感情も持たない。
何か楽しい事を探す事もしない、いつも不満そうな顔をしてる。
そんな生活なんてしたくねぇ。
だって、そんなもんつまんねぇじゃん!
いろんな所行っていろんな物見て、おもしろそうだなって思った事は何でも挑戦する!!
それで良い奴と会ったら戦ってみて、お互いを褒め合って強くなるんだ!
その方が楽しいに決まってる!!
だから何だと言うんだ!?
お前はその良い奴を見つけたとでも言うのか!
そういう事だから、ジャックは1人じゃないよ。
お前はブッ飛ばすし奴隷も解放する。
やっと見つけた友達を傷付ける奴なんて許すわけないじゃん。
ほら、ジャックもあの監視カメラに向かってやってみ?
俺が一緒にいるから大丈夫。せーーーのっ!
あははははははは!
何ですかあれ!あんな変顔見たことないです!
もう、お腹が痛いからやめてくださいよ〜!
ジャックとヴェルグの顔を見て、指を刺して笑うシロナと口に手を当てて笑うアラネア。
肝心のジャックはしっかりとヴェルグが手を繋いで、気持ちを落ち着かせている。
しかし、ダイナーの説明の最中も決闘を続けていたジャックの心の傷はまだ癒えていない。
とはいえ2人は「オーバードライブ」によって身体能力を上げて、ヴェルグは笑顔でパンチをし続けた。
あーーーダメだダメだ!
ほら、もう冷や汗が出てるぞ?
不満をパンチに乗せて俺にぶつける。
確かにそう言ったが、これは八つ当たりやケンカじゃない。
お前が笑わなきゃ意味がないんだ。
守りたいものは守る!
俺も一緒だ。ジャックは1人じゃない!
拳を構えろ!立ち向かえ!!
まだだ!笑顔が足りないぞ!
公開処刑だって笑ってブッ飛ばすんだ!
ほら、来い!!
うおっ!!
できるじゃねぇか!よし、もういっちょ!!
ジャック!
あなたの仲間がピンチなら、私も協力するわ!
だから……
ジャックさんが辛い時はお話を聞きます。
一緒に泣きます。1人になんてさせません。
それにあなたには素敵な方がいっぱいいます。
幸せなのに笑わないなんてもったいないですよ♪
だから……
良い事言うじゃん。
そうさ、無理に笑う必要なんか無いんだ。
ジャックは優しいんだから、いつも通りの自分で居ればいい。
そんなお前の事がみんな大好きなんだから。
よし、次で最後にしよう。
いいか?処刑場も悪い奴も全部ブッ飛ばす。
捕まった仲間は笑顔になる、一緒に戦った仲間も笑顔になる。
そんなお前はなーんだ?
えっ……? いきなりクイズ?
思わず泣いちゃったからちょっと待って。
ええと……
ヒント。ジャックはムキムキマッチョ!
正義のパンチでみんなを救う!
女の子にキャーキャー言われて囲まれちゃう!
いやぁ〜困ったなぁ〜。どの子をデートに誘おうか?
……ヒーロー。
ヒーローだ!!みんなを救うんだもんね!
正解!!
ギャラクシーの技にはそんなヒーローにうってつけのスーパーパンチがある!
当たり前だが笑顔で助けるのが基本だぞ!
その方が安心させられるからなっ!
な、何なんだあの男は!?
なぜジャックに手を貸す!?
そんなの友達だからに決まってます!
ヴェルグさんは良い人ですよ!
ふざけるな……!
ディアスだろうと何だろうと俺様に逆らう奴は絶対許さん!!
金も持たないくせに――
な、何ッ!?
じゃあ今あいつらが喋っていたのはラズリーの部屋の前だったのか!?
【ジャック&ヴェルグ】
スマアアアアアアアアアアアアアアアッシュ!!!
来たああああああああああああああああああああああああ!!!
ジャック&ヴェルグ、
部屋の扉を完全に壊し、シロナ&アラネアと再会!
つづく!
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