100話 ジャック驚愕!突然のアップデート!
文字数 5,925文字
ブラックビーストとの最終決戦が終わってから1日――。
セクシャルレインボーに平和が訪れた事を祝して、レックスの料理を堪能したジャック達。
ジャックに「せっかく元に戻ったのだから島を観光して行って」とアルテミアが提案するも、戦闘の傷が深いソラやバルバトスのために全員宿泊する事に。
メルーナ達の使っている宮殿にはかつてバルバトスがいたVIPルームのような客室がある。
ジャック達は何部屋か使って体を休める事にした……。
――ここは101号室。
壁一面に描かれたハートマークと綺麗なバラの絵。
大きなピンクのベッドと複数の白い枕。
枕元には意味深なティッシュと時計と、フロントに繋がるであろう電話。
そして黒いソファーと大きなテレビ。
何とは言わないけれど、
「あれ?現実世界に帰ってきたっけ?」と困惑するような、
都会にも田舎にもあるあのラブなホテルを思わせる部屋……。
いや、この特徴を知って「あっ」と察するのは大人だけで、未成年は知らないはずなのだけど。
白いシーツをめくり、寝返りを打つ。
「あれ?昨日何してたっけ?」と寝ぼけてもぞもぞと動く。
耳を澄ますと、自分の周りで小さな物音やボソボソと喋る人の声が聞こえる。
あぁ、うるさいな……
せっかく人が気持ちよく寝ているのに……
どこのどいつだ名を名乗れ……
眉間にしわを寄せて、そう言いたくなるような騒がしい朝。
と、その時。
目の前に、スマホで寝顔を撮影しながら小声で囁くバルバトスの姿が。
声を聴いて目を覚ました瞬間、信じられないような顔で飛び起きる。
そう。
寝返りを打って寝ていたのはジャック。
バルバトスはジャックに気付かれないようにコッソリと起き、勝手にジャックのスマホを使って寝起きドッキリをしていた。
あなた異世界人じゃないでしょうが!
何で知ってるんですかー!一体誰から聞いたんですかー!
ソラ君かああああああああああああああああああああああああい!!!
グラスオーヴィで女装をした時以来の「ソリャ子」としてジャックの前に現れたソラ。
ソラの女装に「はははは!サイコー!」と爆笑するバルバトス。
2人の寝起きドッキリは大成功!
ジャックもツッコミをするものの、元気よく笑うソラとバルバトスを見てひと安心。
「あはは!」と一緒に笑うのだった。
****
美女の絵が描かれた白い柱。
白いテーブルクロスが敷かれた大きなテーブル。
その上に並ぶ豪華な料理な数々。
現在の時刻は昼12時。
宮殿で泊まっていたジャックはもちろん、ミノルや時雨も椅子に座り、ヒビキやゼルガも座り、まさに大人数の昼食の時間が始まった。
シチューやステーキ、ハンバーグなど現実世界でよく見るメニューが並ぶ中、最初に手を出したのは食いしん坊、ソラ。
異世界の料理なのか、見た事のない野菜や果物でできたサラダやスープ、肉料理などを取り皿に移すと、目を輝かせて美味しそうに食べる。
ソラ君、嬉しそう!
オレもこのお肉、食べてみようかな!
行儀が悪いっつーの。
っていうか、朝からポンコツがうるさいんだけど。
誰か何か知ってる?
やっと思い出したのにゃあ!
リリムっち、ごめんなのにゃ!そしてありがとうなのにゃあ!!!
わかった!わかったから!
手を離しなさいよ!食べれないでしょ!?
ああああああ!
ジャック君が無事で本当によかったあああ!
後ろから抱きつくなあああああ!
フォーク落とすだろおおおおお!
っていうか席に座れよおおおお!
何言ってんだ!
ご飯はみんなで食べるから美味しいんだ!
で、せっかく食べるなら楽しい方がいいだろ?
こら。みんなにも食べてほしいから1人で食うのはダメだ。
お前の好きな骨付き肉もあるから安心しろ。
ノービスギアのマホです!
今はメルーナさんから貰ったメモリアルギアが入ってます!
大事に持っていてくれてありがとう。
バルバトス君がマホちゃんを守ってくれたのよね♪
そのメモリアルギアは島を元に戻すための手段。
2人とも無事でよかった♪
ええ。
メモリアルギアは過去も今も未来も記憶する歯車。
好きな時間を”再生”する事ができるの。
バルバトス君の父……
この島を、彼が闇市場に手を染める前のセクシャルレインボーの状態に戻す。
恐らく、彼が闇市場の力に操られている途中、マホちゃんの秘密に気付いて襲ってきたんだと思うわ。
最も、再生は闇の力で使えなかったのだけれど。
そうか!
それでジェットコースターの時、マホちゃんを狙ってたのか!
みんな。
パパが今までしてきた事は許されない事だよ。
でもお願い。恨んだり憎んだりしないでほしいの。
オレからも頼む!
襲われたのはオレもジャックもそうだけど、全ては闇市場のせいで、オレとねーちゃんの大切な家族なんだ!
許してやってくれ!!
もちろんです。
ライドウさんは悪くない。彼も連れて、みんなでグラーディアに帰るんです!
誰も反対なんてしません!
……それはいいけど、肝心の本人がいないわ。
朝から宮殿を探し回ったけど、どこにもいないの。
彼なら後で会えるわ。
ジャックと話があるって言っていたけど、真剣な顔をしていたわね……
『君はグラーディアへ戻ったらどうするつもりなんだい?』
そういえば、この島には財宝があるの。
後でメモリアルギアで元に戻したら、全部あげるわ♪
やったあああああああああああああああ!
ついに念願の音ゲー付きの改装計画がスタートにゃ!!
それから数時間後。
メルーナはメモリアルギアを使って壊れたライブ会場、ジェットコースターなどの状態を元に戻す事に成功。
ブラックビーストの触手によって観光客の一部は重傷を負ってセクシャルレインボーの病院へ運ばれたけれど無事。
完全に回復、とはいかないけれど、
ブラックビーストが消えて平和が訪れた事、もう大丈夫だという事がメルーナから島中の観光客に知らされ、安心と元気を取り戻した。
……ここは宮殿。
ジャックはある人物に誘われて、たくさんのモニターが並ぶ部屋に入った。
それはライドウ。
前回ジャックに願いを告げた彼は、
メルーナが会った闇市場の黒幕について話す。
来てくれてありがとう。
今回の件は本当にすまなかった。
早速だが、昨日の話を覚えているかい?
は、はい……。
闇市場に苦しんでいる人を助けてほしい、ですよね……
あるようだな。
そう、闇市場のメンバーを増やし、アイテムを作り出しているのはゲノン帝国幹部、紅だ。
君が私を助け出してくれた時、メルーナが会っていたようなんだが……
島に虹がかかる寸前で姿を消し、ノノちゃんとアクアトリックを解放したらしい。
恐らく虹と闇市場に何らかの関係があったんだろう。
虹がかかって不利になる前に逃亡した、といったところか。
兎にも角にもこの島の危機は去った。
私もできる限りメルーナ達に協力してから帰るつもりだ。
するとライドウは「見せたい物があるんだ」と笑ってパソコンのキーボードを叩く。
するとどうだろう。
たくさんのモニターに映るのはパソコン、鉄道、見知らぬ島、そしてジャックがよく見る某動画。
ジャックはその動画を見ると、驚きを隠せずにモニターの目の前に立った。
ご名答。さすが異世界人だ。
これは間違いなく、君が住んでいた世界の文化そのもの。
テレビゲームをプレイしつつマイクに向かって喋る「ゲーム実況」。
スキーや登山、アスレチックを楽しみながら頭に付けたカメラで撮影する臨場感のある動画や、料理動画、便利な商品を紹介する動画。
そのどれもが、君が投稿している投稿型動画サイト「gocha tube」で見る事ができる。
しかし……
はーい♪みんなやっほー♪
魔物討伐実況プレイ、して行きまーす!
彼女はナノン。
ただ魔物を討伐するのではなく、小さな子供でも使える「イタズラ」をして討伐する方法を紹介し、本当に成功するか検証する魔物討伐の実況主。
チャンネル登録者数は24000人。
他の魔物討伐の実況主とのコラボも予定しているそうだ。
え!?何でそんな……!
今までパソコンも鉄道もあるなんて聞いてなかったし、あのサイトにこの世界の人の動画もあるなんて……!
……恐らくブラックビーストを倒した事がスイッチになっていたんだろう。
君が気付いた通り、モニターに映っているのは全て今まで無かったものだ。
思い出してほしい。
君が目覚めた客室にはテレビがあった。
あれを付けると現実世界のように様々な番組がやっていて、それに携わる仕事を待つ者もいるんだ。
でも待って下さい!
ブラックビーストを倒した事でアップデートが起きたなら、まだ変わったばっかりって事ですよね?
どうしてさっきの女の子は24000人もファンがいるんですか?
いい質問だ。ジャック。
これは私の推測に過ぎないが、アップデートとは何物なのか。
それは次の通りだ。
今まで無かったものが追加され、あったものが削除される。
この事象が何度も繰り返され、やがて最後のアップデートが終わった時……
分かりやすく言うならばパズルだ。
今この世界はアップデートで追加されるはずのピースを失っている。
やがて全てのピースが埋まった時初めて、世界は完成する。
何者かに時間を止められていたものが解放された。
鉄道もテレビも彼女もずっと前からあったものなんだ。
ライドウの言葉に息を飲むジャック。
アップデートによってパズルのピースが揃っていけば完成する。
その時どんな世界になっているのだろうか。
「推測」と言ったライドウの言葉がまるで真実であるかのように思える。
さらにライドウは信じられない事を口にする。
……この部屋の壁の向こうで、ある人物がこっそりと立っているにも関わらず。
君を呼んだのはこれだけじゃない。
私は今回の件で確信したんだ。
君がいれば世界が変わる。
今回の件、もし別の誰かが解決してもアップデートは起こらなかっただろう。
だが嬉しい事ではない。
もしパズルが決められた物でなかった場合、誰かの思い通りの世界に変わってしまうかもしれない。
君は優しい。
相手があのゲノン帝国でもその心は変わらないだろう。
だがそれはとても危険な事だ。
オレ……
前に自分の性格を知られて「騙すのは簡単だ」って言われました……!
でも……!
変われとは言わないさ。
ただこの先、君の優しい心につけ込む連中がいるかもしれない。
ここまで私が言った事が合っているなら、君の力は誰にも渡してはいけないという事さ。
大丈夫さ!
君には心強い仲間達がいるじゃないか!
どんな敵が来ようと、皆で乗り越えて行ける!
いい返事だ。
さぁ、真剣な話はこれくらいにしてメルーナに会いに行こう!
手伝ってもらいたい事があるんだ!
表情をパッと変えて部屋を出ようとするライドウ。
ソニアは複雑な顔をしながらすぐにその場を去った。
あ!おいジャック!どこ行ってたんだよ!
こっちは大変だったんだぞ?
おいジャック!!
チャンネルを作るにはどうしたらいいんだ!
俺には機械はさっぱりわからないぞ!!
チャンネル……?
もしかして、アカウントを作ろうとしてるのかな?
そうなんです!
さっきメルーナさんがスマートフォンを持ってきてくれたんです!
そしたらカメラで撮った動画を投稿してみんなで見れるアプリがあったので、私達でチャンネルを作ろうと思ったんです!
もともとそんな機能はなかったはず……
これもアップデート……!
ヒビキちゃんと一緒にマッスル講座を始めようと思ってるんだ!
人と竜人族のマッスルコンビなんて珍しいでしょ?
よし!じゃあチャンネルの名前は!
モテモテレックス様のクッキングチャンネル!
そうね♪
セクシャルレインボー公式チャンネル。これにしましょう♪
いいこと思い付いたにゃ!
ジャッきゅんも動画撮ったらどうかにゃ?
セクシャルレインボーの楽しい所を紹介してもらって、いっぱい楽しむにゃ!
いいでしょー!みんなで遊ぼうにゃー!
みんなで楽しんでる所を撮ろうにゃー!
初コラボってことでー!
しょうがない。
セクシャルレインボーの事ならオレに任せな!
あたしは自分の筋肉を試せるいい所を紹介してやる!
付いてこい!
決まりね♪
ジャックのチャンネルと私達のチャンネルの初コラボ動画、スタート♪
かけ声と一緒に撮影の準備に入るジャック達。
チャンネルの名前を「セクシャルレインボー公式チャンネル」と設定。
動画を回してピチピチビーチでのビーチバレー対決。
ヒビキとソラがマッスルポーズとりながらジェットコースター。
ドルチェの魔法を使って水中で息ができるようにして海中散歩。
ついでに……
そうだ!
もしかしたら今まで会った人も見てくれるかもしれない!
グラリオさーーーーーーーーん!見てますかー!
ルルカちゃんも桃華もー!千本松さんも元気ですかー?
セクシャルレインボーサイコー!!
笑顔でピースして今まで会った人の名前を言ってみるジャック。
この他にも多くの動画を撮影し、チャンネルに投稿した。
この後、ついにセクシャルレインボーから帰る事になるのだけれど……
後にこの動画が多くの人間の目につき、新たな出会いや再会のキッカケになるのは言うまでもない。
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