27話 ジャックの忘れられない一日!前編
文字数 5,807文字
クラスタドームの事件が起きてから数日後。
ジャックはミノルと共にウメダから旅立つ事を決意。
ルルカや煌に反対される事を予想していたジャックだが、
紅の手下のレンが紅によって解散を命じられた時、持っていたアイテムを捨てていった事でウメダにいた全員がクラスタドームの一部始終を見ていた事から、反対されずそのまま通常通り過ごしてきた。
――
……冒険者ギルド。
ジャックのスマホを持って集まるルルカ、リリカ、サキ、ロザリア、煌の姿があった。
しかし不思議なことに、スマホにはクラスタドームでの出来事が撮られた動画がいくつも保存されていた。
この映像、レンとかいう帝国の奴が見せてくれたやつのはずなんだけど……どうしてジャックのスマホの中に入ってるの?
つーかこのスマホ、ジャックのだろ?渡さなくていいのか?
そう言うと、ルルカはスマホを操作。
動画のサムネイルが並ぶ画面を消し、「Gocha Tube」と書かれたアイコンをタップする。
あ〜これね。
投稿型動画サイトってやつでな?誰でも撮った動画をアップロード……投稿できるサービスなんだ。
それは誰かが動画を見てくれた数。
3580って書いてあるだろ?この数字が多けりゃ多いほど動画は有名って事なんだ。
これはチャンネル登録数。
自分が投稿してる動画を配信するところ、みたいなもんかな。
確かジャックのチャンネル登録数は5……
煌は二度見、三度見して画面に表示されたチャンネル登録数を見る。
そこには、54と表示されていた。
は!?増えてんじゃん!!
なんで!?どーして!?え!?
これが多いと有名!人気!!
女の子にキャーキャー言われたり、テレビに出たり、ネットで話題になったり、すげー有名人になれるんだよ!
そうね。もしあたしが有名になったら、イケメンがやってきて……!
ふふふふ……世界中のイケメンを服従させてやるの……ふふふふふ……
あんたはトラブルメーカーなんだから、「眠ってたはずのドラゴンが起きた」とか「ダンジョンで謎の爆発」とかそういう感じで有名になるわよ。
珍しい噂を聞いたら現場直行、試してみないと気が済まないあんたの性格考えたら簡単に想像できるもの。
まぁ、有名って言っても良い意味で有名にならなきゃ人気にはなれないからなぁ。
良い意味と言うと、まさにジャックかしら?ケバブ君もクラスタドームでは有名で人気が高いようだけど。
悪い意味なら、帝国もそうだけどサキュバスの話に出てきたヴァーデルとかいうディアスもそうよね。あんたと会った後調べてたんだけど、魔族の中では有名らしいわ。
サキュバスってあたしの事?
そろそろサキュバスじゃなくてサキって呼んでくれると嬉しいんだけど……。
忘れないでよね。
あたしはネクロマンサー、あんたは魔族!
あたし達は上下関係にあるのよ?
ネクロマンサーが操れるのってアンデットだけじゃないのか?
あ、そういう事?
それならまだ子供だし、気にしなくていいんじゃないか〜?
や……ッやめろ……ッ!
ハサミでオレの息子をちょん切るつもりだろ……!
大体、文房具をそんな使い方しちゃいけないんだぞ……!
2人とも怖ぇし!つーかなんでハサミがあるんだよ!?
ハサミとか文房具の事は西の大陸にある「ルシエラ図書館」で知って、ハサミはクラスタの道具屋で売ってるわ♪
あっ。それとも、鎌がよかったかなぁ?
それとも斧?槍?大剣?ナイフ?両剣?
めちゃめちゃ怒ってんじゃねーか!?
悪かった!悪かったよー!勘弁してくれルルカ様ー!!
シャキーンシャキーン
ドタバタドタバタ
ハサミを持って走り回るルルカ。
「マジでヤヴェー!」と走り回る煌。
そんな2人を、サキは少し寂しげに見ていた。
(いつもと変わらない毎日……でも、今までとは違う……。)
『えっと、実は……今までの事はチュートリアルで……!』
(ジャックにとってのチュートリアルが終わった……。つまりこの日々ももうすぐ終わるという意味……。)
ない!ない!ないないない!!
オレのスマホどこ行ったあああああああ!?
見てねーよ知らねーよいつの間に買ったんだお前ー!!
……ったく……。
こっちは荷物まとめたいのに、スマホ無くて困ってんだぞ〜?
うっ。ほんとだ……。
最初にこの町に来てから全然お金稼いでないよな……。これから先の宿屋とかご飯とかちゃんと自分達でやりくりしたいけど、またゴワスさんを頼るわけにはいかないし……。
でも、きっと大丈夫かな!
ゲームみたいに地道に努力して、お金も武器も出会った人も全部コンプリートしちゃおう?
ボク、ジャック君と一緒だから不安なんてないよ!
それにさ、ワクワクするでしょ?
これから先、ゴワスさんが言ってた総本山に行ったり……
ええと確か、女の子の格好したオッサンみたいな人のアジトがこの世界のどこかにあるんだっけ……。
うう、濃厚すぎて気絶したらどーしよ……。
せっかくの異世界だし、ギルド建てるのもアリだよなぁ。
オレがギルドマスターになってアモンさんに会いに行ったら、驚くかなぁ!
おっ。いっそ学校に通ったらおもしろいかも!
現実の学校なんかより異世界の学校の方がいいに決まってるよな!
あっ。ゴワスさんから聞いたんだけど、世界中のアイドルが集まって競い合う大会もあるんだって!
競う内容は歌とパフォーマンス!
参加できるメンバーは5人まで!
東の大陸と西の大陸、全てのアイドルが集まるんだよ!
いいじゃんいいじゃんそれ!!
歌も踊りもやった事ないけど、1回くらい出てみたいなぁ!
あれ?珍しいね?
普段はカラオケに誘っても断るくせに。
そりゃお前、異世界のアイドルだぞ?きっと美少女揃いのド派手なパフォーマンスで会場はピンクになっちまうよ!動画撮って実況すれば人気急上昇!間違いなし!!
ジャック君?
YESシリーズはゴラゴランさんのネタなのに勝手に増やしちゃダメでしょー?
ほんと楽しみで……仕方ないよ……!
なぁ、これからどこに行こうか……?
(ジャック君、気付いてるんだね……。ここを出て旅に出るってことはルルカちゃんやグラリオさん、サキさんに煌さん、みんなとお別れしなくちゃいけないってこと……。)
ミノルは、涙を流すジャックを後ろからそっと抱きしめる。
ごめんな、ミノル……!すぐ泣くの、なんとかしないとなぁ……!!
きっと、泣きやすいのは優しすぎるからだよ。そのままでいいよ、大丈夫。
ジャックの頭を優しく撫でるミノル。
泣き叫ぶジャック。
2人の声を、部屋の扉の向こう側にいたグラリオが聞いていた。
……困ったなぁ。
ジャック君のスマホを届けるついでに、様子を見に来たつもりだったんだが……。
よし。これまでの思い出を忘れられないように、思いっきり派手に盛り上げてやろう!
****
冒険者ギルド。
グラリオによって集められたジャック、ミノル、煌、ゴワス、ゴッツァン、ルルカ、リリカ、サキ、ロザリア。
グラリオは、ありったけのお金の入った袋を出し、とあることを提案。
そうだ!ここにはざっと10万リエルがある!これを使って酒場へ行き、思いっきり楽しもうじゃないか!!
ヤヴェー!10万リエルって10万円と同じだろ!?オレっちのヘソクリよりたけーぞー!?
ヘソクリ!?グラリオさんもめちゃくちゃお金持ちだけど、煌さん一体いくら持ってるんだろう……?
どういう星の下に生まれたらそうなるのかしら……。すごいわねぇ……。
あぁいいとも!
別にご飯だけじゃなく、ウメダの中でできる事なら何でもいいぞ!
……それに、
今日で今までが終わり、今日からまた新しく始まるんだ。
今まで言えなかった事などないくらいたくさん話してたくさん笑って、たくさん楽しもうじゃないか!!
あたしも!あたしも行きたい所があるの!みんなで行きましょ?
盛り上がる一同。
しかしこの時、これから収集のつかない1日になる事など、誰1人……
ま、いいわ。
こういう時くらい盛り上がらなくちゃね。
少しくらいヘンな事があっても気にしなくていいかな。
じゃあさっそく、最初はあそこに行くわよ!
パネェー!なんで"これ"が異世界にあるんだよ!ヤヴェー!!
というわけで、最近オープンしたばっかりの温泉旅館よ!宿屋と同じで泊まる事もできるし、ただ温泉に入るだけでもオッケー!
「ルシエラ図書館」っていってね、西の大陸にあるおっきな図書館があるの。
そこで読んだわ。
ってことは、その図書館にオレ達の世界について書かれた本があったりするのかな?いつか行ってみたいなぁ。
マジかよ!記憶戻ってよかったなぁ!
てか温泉街ってヤヴェー!だから美人なんだな!
うん。
パパのお城に大浴場があってね。
毎日たくさんのサキュバスが通うの。
なんだって!?
ってことはサキュバスが……!超セクシーなレディー達が!毎日大浴場でキャッキャウフフ!?
まっ!まままま魔王!?サキちゃんのお父さん、魔王なの!?
ねぇジャックくん!一緒に入ろう?ねぇ入ろう?ねぇねぇねぇねぇ!
他の女の匂い、全部洗い落としてあげるよ……あはは……
そうだな。
兎にも角にも、まずは入ってみようか。
日帰りか泊まりかは後で決めるとして……
頭につけたゴーグル、たくましい腕。
マギアルクラフトが認めた技師である事を証明するバッジ。
まだジャックがボランティアを始めたばかりの頃、ジャックにソラマシまでの護衛を依頼した技師、オルテガが登場。
うおっ!?あの時のチビ!?
頼む!なんとかしてくれ〜!
オルテガと出会った時、ステーキなどの料理を10種類も食べ尽くし、トラウマ(?)を植え付けたルルカ。
オルテガは怯えながら誰かに助けを求める。
すると、何もないはずの所からうっすらと少女が姿を現した。
それは……。
そう、ジャックがリリカと初めて会った時、不気味な館でルルカに追いかけられていた幽霊の少女、ノノカ。
あ〜すまんすまん。やっぱり怖いよな。オレも怖いぜ……。
ノノカちゃん、最近見ないなと思ってたけどオルテガさんと一緒にいたの?
あぁ。どうやらジャックが怖いらしくてな。
ジャックと一緒にいろっつったのに、まさかオレの所に来るなんて思わなかったぜ……。
異世界人ってのは不思議な力が使えるんだろ?
もしかして、それじゃねーか?
あ〜……実はまだどんなスキルがあるかわからなくて……
まぁいいや。
せっかく会えたんだ。入ってけよ、温泉!
あっ。もしかして、この旅館オルテガさんが作ったのかな?
地中を掘ったらゴーストが出てきてな?そしたらノノカがピカーッと光ってコテンパンにして問題解決!この通り、無事に温泉旅館をオープンってわけよ!!
まぁまぁ詳しい話は後にしろ!
「ここの最初の客はジャックにする」って決めてたんだ!
さぁさぁチビもサキュバスのねーちゃんもイケてるにーちゃんも入った入った!!
ジャックとルルカの背中を押すオルテガ。
リリカ、グラリオ、サキ、煌も旅館の入口へ進む。
すると、なにやら口喧嘩のような声が聞こえる。
てやんでぃ!ここはまだオープンしてねぇって言ってんだろ!立ち入り禁止だ!
よく見ると、入口で腕を組み、仁王立ちをしている男性と青髪の青年が立っていた。
ジャックは、その2人を見ると思わず叫ぶ。
しかし、そろそろ彼と会えるはずなんだ。
私はここから動かないぞ。
それは、以前ジャックのボランティアで「私の話を聞く」というクエストを出し、異世界人について教えてくれた青年、綿貫末吉。
団体様ご案内!オレ達の最初の客だ!!
ノノカは女湯、千本松は男湯に案内してやってくれ!
温泉旅館「金剛寺の湯」オープンだああああああああ!!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)