23話 ジャック覚醒!
文字数 6,241文字
前回のあらすじ。
ライブ会場に現れた紅との会話でジャックに関する事実が発覚。
1つ。以前、ジャックやグラリオの前にヴェイルノートが現れた理由。
『ヴェイルノートは"試したかった"だけ。
今の状況がそうだろ?』
2つ。ジャックには他の異世界人とは違う特別な何かがある。
3つ。ジャックは1つの命と引き換えに死んでしまった。
また、一度は紅の誘いに乗り、不安に押し潰されていたジャックの心をグラリオが救う。
しかし、喜ぶのも束の間。
ジャックの前に、ヴェインによって姿が変わってしまった轟鬼が現れ……
『ワイの友達には……!
指一本触れさせへんからなああああああああ!!!』
おい、待てよ。
さっきザコだと言ったよな?
いくらなんでも弱すぎないか?こんな奴、5秒も楽しめないぞ?
あぁ。たった一撃でこのザマだからな。
物足りないだろうが、"暇つぶし"くらいにはなるだろう?
なんや……!ただ黒いだけやないか……!楽勝やな……!
おい!何してんねや!
はぁ…はぁ…ここはワイに任せて脱出せんかい……!はよ行け!!
(くそ!ケバブ君も轟鬼さんも助けたい!どうすればいいんだ……!?)
……ジャック。
お前は甘いよ。純粋すぎる。
だからこそ利用されやすい。
お前の事だ。
どうせ、少しでも優しい相手なら「いい人だ」、「助けてあげよう」と思うんだろ?
たとえ、お前にとっての敵である帝国の幹部であっても。
現に今、瀕死のこいつも敵である轟鬼も助けようとしているじゃないか。
無駄だ!ジャック君には私達が付いている!お前が何と言おうと、帝国に身を置くなどあり得ない!!
すると、紅は轟鬼にアイコンタクトをする。
轟鬼はそれに合わせ、一瞬ゆらりと動いたその瞬間、全身を燃え盛る炎で包む。
あいつ、燃えてるのに服が燃えてないぞ!?どうなってんだ!?
こいつは全身に炎を纏う力を持っていてな。敵に触れるだけで焼く事もできる。
じゃあ、ただのパンチも当たれば燃やされるってのか!?
こんな奴どうやって倒すんだよー!
おいジャック!さっきも言ってたが、どうしてこいつも助けようとするんだよ!ケバブを殺そうとしてんだぞ!?
でもなんだよ!そもそもこいつはねーちゃんと同じ帝国の幹部で、オレ達を捕まえようとする敵じゃねーか!
ちょっと待った!
ジャック君、訳を聞こう。何かあったのかい?
オレは……このクラスタドームでアモンさん、秀樹さん、轟鬼さんに会って……!轟鬼さんと別れる時、言われたんです……!
『ジャック。
次に会う時は敵同士かもしれないが、仕方ない事だ。その時は今日のオレを忘れてくれ。』
オレ、あの言葉の意味、わかった気がして……!もしかしたら轟鬼さん、自分が操られる事、わかってたんじゃないかなって……!本当は優しい人なんじゃないかなって……!!
……わかった。君を信じよう。
実は、1つ思い出した事があってね。
私もだ、相棒。
私は、いや私達は、ここに来る前から彼を知っている。
8月の中旬ぐらいか……。
確か、「アルバイトの面接に来る人がいる」という話があってね。その時彼を見かけたんだ。
ところが……。
『あのねぇ。ウチは不良の生徒は募集してないんだよ。ちゃんと働きたいならちゃんと学校行ってくれる?』
『いいんだよ。
ほら、そんな所に突っ立ってないで帰ったらどう?なんなら学校に電話しようか?それとも警察がいいかい?』
ううむ……。
確かに怖い印象を与えるかもしれない人相だったが、彼が拒否される理由は別にあったんだ。
それは噂。
「五智谷高校には有名な不良生徒がいる」。駅前のラーメン屋やファミレスにも噂が広まっていて、警官も出入りしていたよ。
しかし何故かな……。
ジャック君の話を聞くと、どうもそんな事をするようには思えない。
面接を拒否された後も、怒鳴ったりする事はなくそのまま帰って行ったんだ。
アモン君。
私もジャック君を信じるよ。
君はどうする?
ああああああああもう!!
わかったよ!信じるよ!信じさせてもらうよ!!チクショーめ!!
しかしジャック。
操られている者を解く方法はあるのか?
ははは!
轟鬼の洗脳を解いて戦闘を終わらせるつもりか?
無駄だ!諦めろ!!
オレだって帝国の幹部なんかと命がけで戦うなんて思ってなかったよ!
でもしょうがねぇだろ!こいつ、相手が帝国の幹部だろうと救おうとするんだよ!勝算もねぇのに、ただの剣士のくせしてみんな救おうとするんだよ!!
轟鬼、ひと思いに一撃で終わらせてやれ。
このクラスタドームが塵になっても構わねぇ。
(そしてジャック。お前の力を使え。他の誰も持たない、お前だけの特別な力を見せろ!!)
そう言うと、轟鬼は低い声で唸りながら力を溜める。
すると、次第に小さな瓦礫が浮かびだす。
(2人を助けるにはどうすればいいんだ……!考えろ考えろ……!もしかしたら今までの会話の中にヒントがあるかもしれない……!)
『もうわかっただろ。
こいつはただの異世界人じゃねぇ。
特別なんだ。』
(……!特別……!?
もしかして、オレに特別な力があるって事!?)
おい誰か!バリアとかそういうの出すスキル持ってねーのかよー!
すまない、私はまだどんなスキルを持っているかわからないんだ!
(スキル……?
そうか……!そうだったんだ!本当はオレもスキルを持ってて、バリアを出すスキルで、それを使えばケバブ君を守れる……!!)
(何かに気付いたようだな……。
だが残念、今のお前は"不完全"なんだ。
スキルを使いたいなら使ってみるがいい。使えるなら、な。)
アホ……!はよ逃げろって言っとるやろ!ワイに構うな!
おいジャック、もしかしてお前がスキル持ってんのか?それなら急げ!
防御系のスキルは守りたい奴の方を向いて手を出すと発動するはずだ!
生き残る術など無い……!
力を溜めている間に攻撃を仕掛けようとしても無駄だ……。炎の拳で返り討ちにしてくれる!
お、おい、轟鬼って奴の体の周りに赤いオーラ出てねーか!?
気がつくと、薄い炎の膜のようなものが轟鬼の体を包み込み、
ボーリングほどの大きさをした炎の玉が宙を浮き、踊っていた。
あぁ。ここまで火力を上げたのは初めてだが、心地いいものだな。
瀕死のまま立っているのも辛いだろう。安心しろ。もうじき楽になれるぞ。
さて……。
最大まで力を溜めたのを知らせるかのように、轟鬼の周りで踊っていた炎の玉が轟鬼の体の中に入っていく。
全身の炎を腕に集め、2倍3倍もの大きさに膨れ上がる轟鬼の拳。
まるで隕石のような拳は、その熱でケバブの服を焼き、身を焦がしていく。
ジャックは手を前に出し、涙が落ちるのを堪えて叫びだす。
『ほな、焦らず楽しくやってこか!
失敗してもええよ、カットすれば問題ないから!』
出口への通路から突如現れた紋三郎。
ケバブを出口への通路の奥に突き飛ばすと、燃え盛る炎を斬り、轟鬼の腹部に一太刀。
痛恨の一撃を喰らってしまった轟鬼は大きく倒れ、紋三郎に向かって叫んだ。
わしは桃太郎。鬼退治に来ただけじゃ。
少しは効いたじゃろう?轟鬼。
それだ!その力だ!!よこせええええええええええええ!!
途端に、斧を持った紅がジャックに襲い掛かる。
紋三郎はすぐに紅を止めに入る。
おっと、そうはいかんぞ。
あ、そうじゃ。わし、90歳なんじゃよ。
というわけで……
ほっほ。それで本気かのう?
あ~背中がかゆい。かゆいぞ~。猫の手でも借りたいくらいじゃわい。
もともとジャックにスキルは無かった……!
だが、ヴェイルノートと接触したあの日、ジャックの体の中に「可能性」を埋め込んだ!
それが今、覚醒したんだ!!
紅!どういう事だ!!
なぜヴェイルノートはジャック君にスキルを与えず、妙な真似をした!!
ちょっと待て。異世界人がスキルを持っているのはヴェイルノートという奴のせいなのか?
そうだ!
普通、私達は現実世界からこの世界にやってきた時点で意識はない!
その隙にヴェイルノートがスキルを与えているんだ!
チッ!調子に乗るなよクソジジイ!!
轟鬼!立て!こいつを殺せ!!
(クソ……!これが覚醒したジャックの力!このままでは……!)
ケバブ君や、今のうちじゃ。
お主の血の跡を辿れば回復薬がある。それを飲めば傷は治るぞ。
安心せい。ジャックじゃろ?ちゃんと守ってやるわい。
リリック!「ブラッドパラノイア」を使え!
ゴラゴランと轟鬼を闇で包め!!
すると、リリックは口を大きく開け、紫色の霧を放つ。
それを見た轟鬼は攻撃の効果を察し、アモンとソニアの手をがっしりと掴むと……
お、おい、どどどどうするつもりだ!お前なんか怖くねーぞコノヤロー!!
なんと、紅を止めている紋三郎の後ろから、アモンとソニアを出口への通路にブン投げた。
あーもうしょうがねぇな!
ケバブっつったか?今すぐ逃げるぞ!!
いい加減にしろ!!
いいか、今はあの轟鬼って奴が正気を取り戻してる!
その轟鬼がオレ達を逃がしてくれるんだぞ!!
あいつを信じるしかねーだろ!!
悔しいが、あの爺さんとジャックに任せるしかないだろう。
出口まで走り、みんなを待とう!
ヒヒヒ……。記憶も人格も無と化す人形になるんだヨ……。
「ブラッドパラノイア」……。
ゴラゴランさん!轟鬼さん!!
お願いです!自分を取り戻して下さい!!
ゆっくりとジャックに近付き、襲い掛かろうとするゴラゴランと轟鬼。
ジャック君、覚醒おめでとう。
今こうして話せるのは、覚醒した君のおかげだ……。
きっと、闇を浄化する力があるんだろう……!
いいか?この後、お前に向かって同時にパンチ……。その後は、グラリオのスキルを使って出口まで飛べ……!
えっ……?飛ぶ……?
2人はどうするつもりですか……?一緒に脱出しましょうよ……!
君に出会えて本当によかった……!
これが本当のさよならだ、ジャック君……!きっともう、会えないだろう……!
オレの言葉、思い出してくれてありがとな……!
お前の事、絶対に忘れないぞ……!
……うぅっ……ああ……!ああ、聞こえているとも……!
まったく……お前は本当に熱血で、熱心で、すぐに泣く……!昔から変わらないな……!
拳と拳をゴツンと当て、笑顔になるゴラゴランとグラリオ。
再会を誓うその拳に、グラリオの涙が落ちる。
嫌だ!オレは反対です!!
ゴラゴランさんはどうなるんですか!!轟鬼さんはどうなるんですか!!
みんな……!みんな一緒に……!帰ろうよ……!!
【ゴラゴラン&轟鬼】
飛べええええええええええええええええええええ!!!
ゴラゴラン、轟鬼がジャックが向かって殴りかかり、
グラリオのスキルによって「痛み」のみを消し、その衝撃だけを生かすことでグラリオとジャックが出口への通路へと飛ぶ。
すると、出口へと走り出すグラリオとジャックを横目に、ニヤニヤする紋三郎。
ところでー、なかなかのボインじゃなぁ?一体何カップなんじゃ?
(……!力が抜けていく……!仕方ない、わしも残るか……。)
(このジジイ、ジャックが居なくなった途端弱くなった……。)
ゴラゴラン、轟鬼、ジジイ。
拷問だけじゃ済まないぞ。わかってるよな?
フッ。一度帝国に行ってみたかったんだ。楽しみだよ。
帝国には綺麗なボインちゃんがたくさんおるんじゃろ?楽しみじゃなぁ!
ニヤニヤと笑うリリック。
紋三郎の手を触れると……。
フン。哀れなヒヨコの姿のまま、帝国に連れてってやるよ。
楽しみだな!!
――
出口への通路。
泣きながら走るジャックとグラリオ。
先に走っていたケバブ、ソニア、アモンと合流を果たす。
ううっ……!うう……!うわああああああああああああ!!
ケバブを見てさらに涙が溢れるジャック。
「いたた!痛いわ!」とジャックから離れようとするケバブ。
けれどジャックは離さない。
「ジャックを守る」と叫び、笑い、守ろうとした友達を。
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