135話 さらばつるてかの宿!涙の別れと新たな出会い!
文字数 6,551文字
ずーーーっと入ってたい!
こんなに透き通ったキレイなお湯に入ってたら、心がハダカになっちゃう〜〜〜!
期待以上の湯加減と気持ちよさにルルカ様ご満悦。
すると脱衣所から全裸の少年がやってきて、すっかり忘れていた"ある事"を思い出す。
何でって……
ここは混浴だよ?ビースト入浴禁止のお風呂じゃないはずだ。
獣人の事だね。
アタシ達人間は獣人って呼ぶけど、本人はビーストって呼んでるんだよ。
ビーストだかトーストだか知んないけど!
あんたみたいな股間丸出しの子供に言われたくないわよ!
ってか少しは隠しなさいよ!!
指を差して笑う獣人の少年の股間にお湯をかけるルルカ。
少年の股間は人間と同じで、どう見ても動物の部分は耳と尻尾しか無い。
おや、小さくてかわいいじゃないか。
ウチの爺さんもそんな頃があったよ……
いつまでも入らせてくれないからでしょ?
そろそろ入ってもいいよね?混浴なんだし!
別に人間の裸なんて見てもちっとも嬉しくないよ。
"僕ら"は人間に見られても気にしないからね。
まぁまぁ。
ここは混浴温泉なんだからいいじゃないか。
もちろん性別の話じゃなくて種族の話だけどね。
言ってなかったかい?
男女別なのは人間だけで、後はどんな種族でも自由に入っていいのがつるてかの宿の自慢なのさ。
ここは女湯だからジャック達は入ってこれないけど、人間じゃないならどっちの性別でも入り放題。
まさか!僕は冒険者だよ!
クエストクロックだってちゃんとあるし、魔物だってたくさん倒して来たんだ!
なんてったってあのストックリバディーからここまで歩いて来たからねっ!
特濃ミルクが美味しいって評判の農場だよ。
アタシがいた世界で言う「畜産農場」に近くてね、牛とか馬とかの動物が飼われてて、ミルクやチーズをいろんな町に売って生活しているのさ。
確かストックリバディーは、
ピットセレブのもっと先にあったかね……
温泉街と竜人族の里も近かったはずだよ?
よく知ってるね!
僕の故郷を語ってもらえて嬉しいよ!
ハルのおかげでパァッと元気になる獣人の少年を見て納得がいかないのか、湯船から半分だけ顔を出してプクプクと泡を出すルルカ。
ジト目のままプイッとそっぽを向くルルカをよそに、少年は2人に自己紹介。
【コタロー】
僕はコタロー!見ての通り犬の獣人だよ!
よろしくねっ!
****
一方、どちらかというと、
いや、圧倒的に下心がある比率の方が高い男サイドは――
オラどうだコノヤロオオオオオ!!
オレ様の方がデカいだろおおおおおおお!!
おどりゃよく見とけ!
これがミーの伝家の宝刀じゃあああああ!!
YES!マイ・シンボル!
僕の暴れん棒!僕のエクスカリバー!!
しかと見やがれやボケエエエエエ!!
甘い!!我が黄金の延べ棒を見よッ!!
食用の金箔でゴージャスにデコ盛りしたんだ!これぞ金持ちの特権っ!!!
グラリオはL!ゴラゴランは2L!
俺は4L!!!お前達のサイズなど越しているのだ!
う~~む……これはこれは……
男の聖剣でマウントを取る仁義なき戦い、いい勝負だぁ……!
後はケバブ君だけだねぇ!
あっ!ケバブ君が参加しないつもりですよ!
いけませんねぇ!
ジャック君、覚えてるかな?
ブラウンにもやった例のアレの出番だよぉ?
せっかくだしパワーアップ版を見たいな〜♪
ハミ出しボンバーマックスハート!
異世界実況チンホールド❤︎
ってオイ!ちょい待たんかい!
ワイのケツにジャックの息子がツンツン当たってるわ!
よし!でかしたぞジャック!
そのまま離すんじゃないぞ!
……バーチャルアバターにアレはあるのか。
ずっと気になってたんだよ。
そんなん知らんわ!
ワイを作った人間に聞けばわかるやろ!?
「中身」ね。
ジャックから聞いたけど、普通バーチャルアバターは必ずアバターを作った人がいて、動画で喋ったりゲーム実況したりしてるらしいな。
ところがなぜかお前は自分だけこの異世界に来て、中身がいないと動かないはずの仕様を無視してる。
オンラインゲームで例えるならプレイヤーが操作しなくてもアバターが勝手に動いてるって事だよな。
まるで1人で生きてるみたいに。
もしミーだったら……!
ミーが女の子のアバターになったとしたら……!!
お腹、二の腕、そしてボイン!
かかと、太もも、そして……!
そ、そして……!!
女の……!あ、あ、あ、あ……!!
ドゥーンさ〜ん?
その先言ったらR指定になるのでやめようね?
じゃあオブラートに包んで……
んんっ。げふんげふん。
まだ見た事がない女性の大切な所を見る自分を想像してニヤニヤしだすドゥーン、パンザレス、アモン。
女性のみなさんは不快に思うかもしれないけど鼻の下を伸ばしてしまうのは男なら逆らえない悲しい現実……。
もちろん、こういう時に1人は「裏切り者」がいるのも……
あ〜、アレね!
オレっちは何度も見たから飽きちゃったぜ!
はい裏切者発見!!!もぎ取ってやるううううううう!!!
オレがここに来たのは海の上にある「マリードブルー」っていう集落のためだったんだけど、負けちゃったからなぁ〜!
そこなら知ってるぞ!
海の神様に感謝して、いろんな料理を出す祭りをやってるんだ!
いいなぁ!行ってみたいっ!
じゃあアモン君は賞金で食材を買おうと思ってたんだね!
そりゃ祭りのためだからなぁ!
周りの奴らが腰抜かすくらいでっけぇ魚を買うつもりだったんだ!!
まぁ、今回は大人しく帰るとするよ!!
せやったらワイも付いていきたいけど……
実はここに来るついでにアーリーナイト城とグロウブリッジを撮るつもりだったんや!
動画の企画も考えてあるんやで!!どや楽しみやろ〜!!
うーん、オレっちは誰だかわからない声に呼ばれてここに来たからなぁ……
あ〜……それはそうなんだけど、ちょっと違うっていうか……
もしかしてお小遣いっていう設定で、今回の主催のワールド……なんとかって所が金を出したのか?
いやそれがおかしな事があってさ。
さっきの誰だかわからない声の通りに行動してたら"向こう"のオレの家の金庫に行けて、そっから持ってきたんだ。
現実世界、言うならばもともとオレが住んでた五智谷市の実家だ。
煌さんの家ってお金持ちのはずだから、金庫って事は部屋だよね!?
たぶんセキュリティーがすごい、広い部屋!!
えーと確かどっかの家の扉を開けるように言われて、開けたら金庫に……
どこだ!?教えてくれよ!!その家と元の世界が繋がってたって事だろ!?
そうだけどそうじゃない!次に開けた時は元に戻ってたんだよ!!
オレにもわかんねーよ!ジャックの言う通りウチの家の金庫は頑丈なセキュリティーシステムに守られた部屋だ!
オレはあの時、確かにその部屋に戻れた!でも……!!
『今開けた扉は異世界。じゃあもともとこの部屋にあるドアを開けたら……!』
『開かない!? あっそうだ、鍵がかかってるんだった!』
『おい!誰かいないのか!オレだ!煌だ!
帰ってきたぞ!おーーい!おーーーーい!!』
『ふざけんな!やっと戻れたんだぞ! 大体お前、一体何者なん――』
『君には役に立ってもらうんだ。
ファンタジーの冒険は”まだまだ終わらせない”。』
『お金は金庫の中だね?中身があればいいや。
じゃあ戻ろうか!楽しい楽しいファンタジー世界に!えへへ!』
――って事があって、オレはすごい力に引っ張られて強制的に異世界に戻されたんだ……!
わからない……!
声だけはするけど、姿も何もないんだ……!!
どうする事も出来なかった……!!
多分それ、みんな同じだと思う。
例えるなら異世界転生じゃなくて、異世界転移……!
ある日突然、五智谷市から居なくなる……!!
……もし、もし仮に、
ミー達を管理してる奴がいるとしたら、煌を異世界に戻したのも神隠しもそいつの仕業って事だよな?
ミー達って……異世界人!?
そんな事できる奴がいるなら、この世界の神様とか!?
ジャック、ドゥーン、パンザレスがアーリーの森やドゥーンのスキルの中の世界で話しかけられたあの謎の声。
もしかしたらその声の主が
煌が話しかけられた者と同じで、
グラリオ、紅、大文字タケルら幹部のボス。
ゲノン帝国の皇帝かもしれない――。
この日、星乃ハルを覗く異世界人7人、
ジャック、ドゥーン、パンザレス、鬼塚アモン、後藤ケバブ、大文字タケル、一ノ瀬煌は「謎の声に話しかけられても信用せず気をつけること」を心に決めた。
そして入浴後、ジャックはクエストクロックを持っていたアモン、ケバブ、煌の3人とバディをしてフレンド登録する事、何かあれば連絡する事になった。
俺も登録したいが、幹部だからな。
そうだ、もし他の幹部に会っても俺と会った事は言わないでくれ。
俺は一度帝国に戻ろうと思う。
ここに来たのはクイズ大会に出場するように指示があったから……
だが、もう大会は終わった。ここにいる理由は何もない。
寂しそうな顔をするな。
いいかジャック?一度しか言わないからよく聞いてくれ。
俺はお前と会った事でゴラゴランとグラリオを友達として見ていいのか答えを見つけられた。
2人は間違いなく俺の親友なんだ!
あっそうだ!
タケルさん、これでお別れは寂しいけど……
短い間だったけど!とても楽しかったです!
だから、恩人よりも友達がいいです!
それで、いつかまた会いましょうっ!
ははは!ジャックならそう言うと思ったよ!
相手が帝国の幹部だろうと友達、だもんな!
いいぜ!オレも友達に入れてくれよ!
なんか寂しくなるなぁ!
タケルううう!ワイも楽しかった!これからもよろしく頼むわ!
ミーもまた会いたいなぁ!
その時は友達として、また何かで勝負しようぜ!
また勝っちゃうかもしれないけどっ!
筋肉ムキムキじゃないけどいいよね?
ボクも友達に入れてちょーだい!
筋肉を鍛えるのとは無縁で、趣味が全く違ったっていい。
身分や立場が違ったっていい。
ただ同じ時を過ごせて楽しかったから。
たくさん笑って「また会いたい」と思えたから。
だから友達として、これからも生きて行こう。
たとえ遠くにいても、たとえすぐに会えなくても。
だから僕は、何度でも君を友達と呼ぼう。
君が僕を友達と呼んでくれる限り――。
『大文字タケルか……。
オレはゴラゴラン!今日からトレーニング仲間だ!
筋肉への情熱は誰にも負けないぞ!よろしくな!』
『こら、困ってるじゃないか。
私はグラリオ。初対面でいきなりすまないが、よろしく頼むよ。』
『1人でトレーニングはやめた方がいい。
そう言っただろう? ほら、一緒にやろう!』
『みんなでやるのが一番だ!!
辛くても続けられるし、なにより楽しいじゃないか!』
ゴラゴラン、グラリオ……!!
俺は今、嬉しいのに……!
嬉しくて仕方ないのに……!!
すごく寂しい!!
助けてくれ……!! 友達と離れたくないんだ……!!
ジャック達の気持ちに感動して涙が止まらない。
けれど涙を拭いて、精一杯の笑顔で答えた。
今日から友達。
誰かが笑う時は一緒に笑って、泣きたい時は一緒に泣く。
熱血で情に熱いタケルだからこそ、友達と呼んでくれたのがとても嬉しくて、別々に行動するのがとても寂しくて。
ジムで初めてゴラゴランとグラリオに会った時、
辛くて挫けそうになった時、
いつも友達がいてくれた事を思い出すと、どうにも涙が止まってくれない。
よーーーし!
じゃあもーーーっとお風呂を楽しんじゃおう!
というわけで、みんなで洗いっこしませんか!?
7人は、この時間を忘れる事がないよう思いっきり楽しんだ――。
いやぁ待たせちまったね!
いい湯だったから長居しすぎたよ!
はっはっはっは!
大丈夫です!さぁ行きましょう!
次のクエストが待ってます!
どうしたんですか?
早くしないと置いてっちゃいますよ!
あれ?
ねぇ、クイズ大会の参加者は?
他にもいたんでしょ?
野暮な事聞くんじゃねぇ!
ミー達の冒険はこれからだッ!
ボクの熱い情熱は決して冷めない!
行くぞオリャアアアアアアアアア!!
あぁもううるさい!
何なのよもうっ!何かあったなら言いなさいよね!
何でだい?君はそんな小さい事を気にするのかい?
ダメだねぇ!そんなんじゃ社会でやってけないよ?
僕はコタロー!獣人の冒険者さ!
君達はクエストをしながら旅をしてるんだよね?
実はラトリアっていう町に用があるんだけど、よかったら一緒に行かない?
「アーリー街道」の先にある大きな町だよ!
3つのエリアに分かれた繁華街で、何でも揃うんだ!
アーリー街道はこの道の名前さ。
グロウブリッジからまっすぐ伸びててね、つるてかの宿以外にも店やら何やら建ってるんだ。
よーーーし!
それじゃあ、ラトリアにしゅっぱーーーつ!!
アモン、ケバブ、煌との再会。
大文字タケルとの出会い。
クイズ大会で出会った彼らは、もうここにはいない。
けれどジャックは大切な友達との思い出をぎゅっと心にしまって、新たな仲間コタローと手を繋いで歩き出す。
次なる舞台、ラトリアへ――。
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