第六話
文字数 2,733文字
父上とウィラーイン領兵団、アルケニー監視部隊がローグシーの街に戻る日。
ローグシーの街は祭のように賑わうこととなった。
メイモント軍をスピルードル王軍が撃退。王都ではエルアーリュ王子と王軍が華やかに戦勝パレードをしたという。
父上と俺達がウィラーイン領を見回りながらのんびりと戻っている内に、王都では賑やかな催しをしていたらしい。
ゴスメル平原の戦いは噂に乗り、あちこちに知れ渡っている。ゼラがゾンビとスケルトンを千切っては投げ砕いては蹴り未知の魔法の光線で爆発させて、最後には、びー、で灰と塵に変えたというのも。スピルードル王軍で見ていた者も多いので仕方が無いか。
その後のアンデッド軍の残党を片付けるのに、ウィラーイン領兵団がその力を見せた、と、エルアーリュ王子が語った、なんて話もある。王都の戦勝パレードに参加しなかった父上のことを気遣ってくれたのだろうか。
それで盛り上がったローグシーの街の住人が、俺達も戦勝パレードやろうぜ、と、なり屋台が出たり花屋の商品が売り切れになったり。旅芸人に吟遊詩人が集まって祭のように。
「ノリがいいのかイベントが好きなのか」
「それだけウィラーイン伯爵が慕われてるってことだろ」
「エクアド、俺達はどうする? 先に戻ってきてしまったし」
「出迎える側になってしまったな」
母上と相談しつつパレードの道順を考え、警備の強化にハンターギルドに依頼をする。交通整理に見物客を押さえるのに人手がいる。
「ついでに街の住人にゼラをお披露目しましょう」
「母上、それは止めたほうが。パニック起こして混乱するのでは?」
「そうならないようにすればいいのよ」
母上は軽く言う。
「エクアドはどう思う?」
「対メイモント戦で活躍した噂の流れるゼラはここで一度見せた方がいいか」
「ローグシーの街の住人に、危険では無い、人と仲良くできる魔獣とアピールするか?」
「ここまで広まってから隠すのも不自然に見えないか?」
これまで村と町でゼラを見てる人も多いか。
「じゃあゼラ、パレードするか」
「パレード?」
「父上と皆でローグシーの街を歩くんだ。これで街の住人の反応を見てみようか」
キョトンとするゼラに母上がニコニコと、
「ゼラ、おめかししてちょっと練習しましょう」
「ウン」
父上の帰還する日、ローグシー街で戦勝パレードの日。今日もよく晴れている。ここのところ雨が少ない。
大きく開いた街門の前で、俺とエクアドは軽く磨いて綺麗にした鎧を身に付け、ゼラと母上と一緒に出迎え組で。
ゼラはいつもの赤いブレストプレート。そこから紋章入りの赤い前掛けを下げてお腹とその下を隠している。
母上は赤い髪を結い上げて水色のドレスで、ゼラの蜘蛛の背中に刺繍入りの布を敷き優雅に座っている。
既に伯爵夫人の乗る蜘蛛の姫は街の住人の注目の的。噂になってるアルケニー、王家より面倒を見るようにとウィラーイン伯爵が保護する特別な魔獣。どんな怪我も魔法で癒す黒の聖女。メイモント軍に超絶魔法をかました一騎当千。灰龍を滅ぼした最強の魔獣。結婚式に飛び込み花婿を拐う愛の狩人。愛しき人を求める蜘蛛の姫。世界一の豊乳。などといろいろ噂になっているゼラ。噂の中にはなにか変なのも混じっている気がするが、俺を指差して黒蜘蛛の騎士とか、拐われ男とか、屋根の上の抱っこちゃんとか言ってる奴もいる。
ゼラの蜘蛛の背の上で、母上は楽しげに扇子を弄び、ゼラは母上につけてもらった銀の髪飾りに触れている。
「カダール、どう?」
「黒い髪に銀は映える。まるで夜空に浮かぶ銀の三日月のようだ。似合っている。可愛いぞ、ゼラ」
「むふん、ふふー」
母上が教えて俺が誉めて、ゼラはお洒落に目覚めたような。
馬に乗る父上がウィラーイン領兵団の先頭を進みローグシーの街門に到着。
「あなた、お帰りなさい」
「ルミリア、大事無くてなにより」
「少しは心配してくれました?」
「いつも心配はしとる。それ以上に信頼しとるが」
街の住人が歓声を上げ、住居の二階の窓から花を投げる。賑やかな騒ぎの中を父上は進み、隣をゼラが歩く。ゼラの背中に乗る母上は扇子を振り街の住人に応え、俺は先導するようにゼラの前を、エクアドはゼラの後ろを歩く。
「ゼラ、昨日練習した奴。笑顔で手を振って」
「ウン、ニッコリでパタパタ」
灰龍に村を焼かれたりと被害を受けたウィラーイン領だが、領民にローグシーの街の住人はウィラーイン家を慕ってくれている。これも父上と母上が行ってきたことの成果だろう。
大通りを練り歩きちょっとした戦勝パレードでローグシーの街は盛り上がった。
「ウィラーイン領兵団最強、とか、ハラード様無双伯爵とか歓声上げるのがいたが、前から思ってたがウィラーイン領の民って勇ましいというか血の気が多くないか?」
「エクアド、魔獣深森に近いウィラーイン領ではこんなものだ」
「農民がコボルトをクワと鎌で追い返すウィラーイン領ってホントだったのか」
「農民でもそれぐらいできないと畑を守れないだろう? ゼラ、ローグシーの街はどうだ?」
「ンー、人がいっぱい、皆、楽しそう。なんで皆、お花を投げるの?」
「攻めてきたアンデッドの軍勢を追い返した、ゼラとウィラーイン領兵団に感謝してるんだ」
街の住人の投げる花まみれになりながら、ローグシーの街を練り歩く。ゼラを見て驚く者はいても、怯えるのはあまりいないか?
「これならゼラと一緒に街でショッピングもできそうね」
絵本に紙芝居にミュージカルで情報操作した母上が楽しそうに言う。
パレードは終わりその日は休める者は休み、街で遊びたい者は好きにさせる。アルケニー監視部隊も行軍中の疲れを癒すように。とは言ってもアルケニー調査班は邪教について調べたり、他の者もゼラの護衛があったりで。
早くも人員を増やす必要があるか?
ゴスメル平原でゼラがその力を見せてしまったことで、ローグシーの街にゼラを調べようという密偵が増えているとのこと。
母上がさらりと、
「事件を起こすでも無くておとなしいから泳がせてます。フクロウが調べて目星をつけたのがこの地図の丸印を拠点にしてるわ。詳しくはクチバに聞いてね」
地図をエクアドに渡している。他所の密偵を探るのが諜報部隊フクロウの練習台になってるらしい。
その夜にフェディエアを倉庫に呼び、エクアド、ゼラ、俺と軽く酒を飲みながら話をすることに。ゼラにはエルアーリュ王子から貰ったお茶を少し。
フェディエアも楽にしてブランデーのグラスを傾ける。