第八話◇ルブセィラ女史、主役回、前編

文字数 3,796文字


「では、ゼラさん。その赤いベビードールを脱いで裸になってください」
「ウン」

 ようやくこうしてゼラさんの身体検査ができるようになりました。生きたアルケニーの全裸、これを目の前にして魔獣研究者として血が騒ぎます。滾りますね。
 ですがこの興奮に任せてまたゼラさんの機嫌を損ねて警戒されては、これまでの努力が元の木阿弥になってしまいます。実家のカリアーニス家から取り寄せた中央からの輸入茶葉、質の良い山羊のチーズに牛のチーズと、これまでゼラさんに捧げてきました。
 また、ゼラさんの知りたいという人についての知識も子供に教えるように伝えて来ました。昔、あやとりで遊んでいたことを思い出し、ゼラさんとあやとりで遊んだりしました。
 その行いが、努力が実り、ゼラさんは私をルブセと呼ぶようになり、危険な研究者から物知りの友達、くらいには成れたのではないかと。
 こうしてエクアド隊長、カダール様、ルミリア様の立ち会いのもと、触診もできるようになりました。

「相変わらず立派ですね」
「ンー?」

 ゼラさんの胸、どうしてこのサイズで重力に逆らうようにその形を保っているのでしょうか? ドラゴン等の巨体飛行魔獣の魔法と同じように重力操作しているのではないでしょうか。
 ゼラさんの魔力隠蔽が高度な為にこれは調べても解らないのですが。
 ゼラさんの手を持ち触りながら見てみます。褐色の肌は若々しく健康的。桜色の爪は人より少し細く先端に向かってやや尖ってます。

「爪の先、伸びてるところを切りますね」
「ウン」

 爪の先を切り小瓶に入れてサンプルに。軽くヤスリをかけて丸くします。ゼラさんの人型の上半身は人の少女と変わりなく見えます。
 やや細みで何処にもホクロがありません。骨格も人と同じようですね。脈拍も人と同じ、ここから心臓もまた人と同じものと推測されます。体温は人より少し低いですか。
 ただ、なんというのでしょうか。このゼラさんの胸。大きなオッパイ。触ってるとなんだか幸せな気分になってきます。“魅惑(チャーム)”を疑いましたが、特殊な魔法は無いようです。手がムニュンと沈んでいきそうな、それでいてしっかりとした押し返すような弾力が。ずっと触っていたくなるような。おっと。

 私にはゼラさんを泣かせた前科があるので、カダール様もエクアド隊長も私の手が悪さしないかと、見張っています。ちょっとやりにくいのですが、これは仕方ありません。
 そうです。いきなりしてはダメなのです。最初に一言ことわっておけば良いのです。

「では、ゼラさん。女性器も検査させて下さい」
「えー?」
「おい、ルブセィラ」

 カダール様が冷たい声で。言外に、何をするつもりだこの変態眼鏡、と言う聞こえない声が聞こえてくるような気がします。同じ失敗はもうできません。
 眼鏡の位置を直してカダール様に応えます。

「カダール様、私は心配しているのです」
「心配って何がだ?」
「今のところゼラさんには月経がありません」
「む? あ、あぁ、そのようだ」
「これが人とどう違うのか不明ですが、この点からゼラさんの性器は未成熟なのかもしれません。それを前回、二度目の性交のときは夜中から朝までずっとしてたのですから、ダメージが残ってないかと心配なのです」
「むむ、ぐぅ。だ、だがゼラは大抵のケガなら治癒の魔法で治してしまうから」
「そうかもしれませんが、今後のこともありますので調べさせて欲しいのです」
「むぐ、うぅ」

 カダール様は俯いて顔を赤くして悩んでいます。いえ、悩んでいるのか性交のことを思い出して恥ずかしいのでしょうか。まるで思春期の少年のような。カダール様はやはり受けでしょう、ごちそうさまです。

「ゼラの、人の女と違うの?」

 ゼラさんが真剣に聞いてきます。ゼラさんはアルケニーでそこが魅力なのですが、カダール様には人の女のように扱われたいようです。たまにこうして人の女と違うのではないか、と、気にします。なので、

「そこも含めてどのように違うか、それとも違いは無いのか、酷使して腫れてないか、一度、調べさせて貰えないか、と」
「ンー、」
「どうですか? ゼラさん。もういきなり指を入れたりはしませんから」
「じゃあ、ルブセの見せて」
「は?」
「ルブセのと、どう違うか、見て、くらべる」

 なるほど。ゼラさんが自身で見て比べて調べると。その探求心、研究者としてよく解ります。同じ探求の徒とならば応えねば。

「「待て待て待て待てー!」」
「いきなり叫んでどうしました? エクアド隊長、カダール様」
「何をしているルブセィラ!」
「何って、ゼラさんに私の女性器を見せる為に服を脱ごうかと」
「俺達がいるのに?」
「?何か問題でも?」

 エクアド隊長とカダール様は倉庫の中をキョロキョロ見回して。カダール様はルミリア様に、

「母上、あとは頼みます」

 エクアド隊長はアルケニー監視部隊の女騎士に、

「俺の代理を頼む」

 と、言い残し慌てて倉庫の外に行ってしまいました。二人とも本当に二十歳超えてますか? 少年ですか? それとも私の女性器は見たくないのですか? それはそれで私が女として少しキズつくのですが。
 ルミリア様がクスリと笑います。

「騎士で、男の子なのね」

 あの二人は意外に繊細なのでしょうか? それとも女性を大切に、という主義なのでしょうか。ですがこれで倉庫の中は女性だけに。何の遠慮も要りません。
 下半身の衣服を脱ぎ捨てて、椅子に座りゼラさんがじっくりと見れるように足を開きます。私の研究室、アルケニー調査班に後でゼラさんが自分のを良く見れるように鏡を用意してもらいます。

「ンー?」
「どうですか? ゼラさん?」
「触っていい?」
「いいですよ。その代わり後でゼラさんのを触らせて下さい」
「ウン」

 まさか自分が観察対象から観察される側になるとは。ゼラさんはそうっと、チョンチョンおそるおそるという感じで指で触ります。子供のような好奇心の眼差しで、マジマジと見ています。ひととおり見てからはゼラさんが自分のを見れるように鏡を準備。ゼラさんが鏡に映る自分自身を見ながら、

「ンー? なんだか、ルブセのと違う?」
「そうですね。ですが個体差の範囲内かと」
「ハハウエ、ハハウエのは?」
「え? ゼラ? 私のを見たいの?」
「ハハウエ、見せて、お願い」
「……仕方無いわね」

 ルミリア様もドレスをパサリと脱いで、足を開いてゼラさんに見せることに。ゼラさんがルミリア様の足の間に顔を近づけてマジマジと見つめます。ルミリア様がゼラさんに。

「ここからカダールが産まれたのよ」
「!カダールがここから!」
「二十一年前にね。ずいぶん大きくなったわ」
「おー、カダールがここから……」

 ゼラさんがなんだか感動しています。解ります、生命とは神秘ですからね。
 次にいよいよ、ゼラさんの番に。ゼラさんはくすぐったがりで敏感なので一層慎重にしなければなりません。
 じっくりと観察したところ、人の女性と大きく変わるところは見当たらず。腫れているところも無く。なるほど、これならカダール様と性交できると。
 あまりしつこくしたり触り過ぎてゼラさんを不快にさせると次の機会を失なうので、程々で終わらせることに。

「見た感じでは人の女と違うところはありません」
「ホントに?」
「ホントです。安心して下さい」
「そっかー」
「気になるのは月経が無いことですね」
「月経、無いと人と違う?」
「人であれば、まだ妊娠できる身体では無い、ということになります」
「月経って、なに?」

 おっと、そうでしたね。ゼラさんにはそこから説明しないとダメでしたね。

「胎児を、赤ちゃんを迎える準備をする、というものです。ベッドを清潔に保つ為に月に一度、シーツを交換するのです」
「ンー?」

 ルミリア様に補足してもらいながら、ゼラさんに解りやすく人の月経の説明を。ゼラさんがウンウンと頷いて考えます。知識は無くとも理解力は高いのではないでしょうか。

「月経が無いと、赤ちゃんできない?」
「そこは不明です。私にはアルケニーについて、ゼラさんの身体について詳しく知っている訳では無いので。アルケニーと人の男で子供ができたという前例もありませんし」
「人とアルケニーで、赤ちゃんはできない?」
「それも不明です。ですが、魔獣と人で子供ができる例はあります」

 一通り検査も終わったので、このままお茶にしてゼラさんとお話をすることに。アルケニー監視部隊の女騎士が外のカダール様とエクアド隊長を見に行き、すぐに戻って来ました。

「二人で訓練中でした。何かを発散するかのように激しく手合わせをしてました」

 あの二人は本当に仲が良いですね。耳を澄ませると外から、うおお、とか、ぬああ、とか勇ましい声が聞こえてきます。なんだか妙なところで可愛らしく見えてしまう二人ですね。ルミリア様にお茶を淹れてもらい、ゼラさんが練習とティーポットを持ち、器の音をカチャカチャ立てないように気をつけてカップにお茶を注ぎます。
 二人の暮らす倉庫の中で、お茶を飲みながら先ほどの話の続きを。

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登場人物紹介

ゼラ

もとは蜘蛛の魔獣タラテクト。助けてくれた騎士カダールへの想いが高まり、進化を重ねて半人半獣の魔獣アルケニーへと進化した。上半身は褐色の肌の人間の少女、下半身は漆黒の体毛の大蜘蛛。お茶で酔い、服が嫌い。妥協案として裸エプロンに。ポムンがプルン。しゅぴっ。

カダール=ウィラーイン

ウィラーイン伯爵家の一人息子。剣のカダール、ドラゴンスレイヤー、どんな窮地からでも生還する不死身の騎士、と渾名は多い。八歳のときに助けた蜘蛛の子と再会したことで運命が変わる。後に黒蜘蛛の騎士、赤毛の英雄と呼ばれる。ブランデーを好む、ムッツリ騎士。伝説のおっぱいいっぱい男。

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