第二十二話

文字数 4,582文字


「ゼラ、しばらくは外でお茶禁止」
「エー?」

 秘密のお茶会を終え、王城から離れて、王都の館に戻る。
 国王と王妃とエルアーリュ王子との秘密の面会。スピルードル王家とのお茶会。その内容はお茶にほろ酔いになったゼラが、王族に、その、いろいろと喋ってしまった。俺とゼラの夜の恥ずかしいことなどを。どうもゼラは、非公式とは秘密のことを話してもいい、と勘違いしてしまったようだ。
 ちょっと不満げに唇を突き出すゼラ。

「王様も王妃様もエル王子も楽しんでたよ?」
「ゼラが皆を楽しませたのは間違い無いのだが、その、ムニャムニャは恋人同士の秘密というか、俺とゼラの二人の、その、なんだ、恥ずかしいところは人に話すことでは無いんだ」
「非公式は秘密のお話をするところって、話しても内緒にしてくれるって、だから大丈夫」
「そこで秘密にするのは政治的なことで、まだ公にするには早いこととか、秘密にしておこうという話をするもので、非公式とはエッチな話をするところじゃ無いんだ」
「ンー、エッチな話を秘密っていうのが、ワカンナイ」

 ゼラは納得できないように眉を顰める。

「だってムニャムニャしないと赤ちゃんはできないでしょ?」
「それはそうだが」
「それなら皆、ムニャムニャしてるってことだよね? 皆がするようなことを秘密にして隠すのがワカンナイ。犬も猫も鳥も蜘蛛もみんなムニャムニャするよ?」
「確かにその通りで、そうしないと生物は絶滅してしまう」
「なんで隠すの?」
「それは恥ずかしいからで、人が裸を人に見られるのが恥ずかしいのと同じで」

 羞恥心というのが未だによくわからず、裸を見られることも平気なゼラ。なので恥ずかしいから隠す、というのは伝わり難い。このあたりどうしたものか。

「どう説明するとゼラに解りやすいのか」
「人は外では裸にならないようにするっていうのは、教えてもらったけど。外で裸でいる人はいないから、人はそういうものっていうのもなんとなく解ってきたけど」
「服を着るのが人の当たり前になって、それで裸で外をうろつくのがおかしいっていうのが、人の常識でもある」
「でもね、ゼラとカダールのことは、エクアドとルブセに言わなきゃダメなんでしょ?」
「エクアドはアルケニー監視部隊の隊長で、報告することもあるから知っておいた方がいいし、ルブセィラもアルケニー調査班として、ゼラのことを調べねばならないし」
「それと、部隊の隊員の人もゼラとカダールのこと、コッソリ教えてって聞いて来るよ?」
「なんだって?」

 ゼラが無邪気に、両手で何かを握るような仕草をする。

「カダールのがこれぐらいのおっきさって言ったら、皆、スゴイって」

 うおう、ゼラが隊員と領主館の者とも仲良くなって、いろいろお喋りしたりもしていたが、そんなことまで話していたのか?
 
「ぜ、ゼラ……、そういうのは、広めちゃダメなことだから」
「ウン、だからコッソリ。隊員の皆の秘密なの」

 隊員の皆という時点でもはや秘密になってない。そうか、たまに隊員の視線が俺の股間の方にチラと動くのは、ゼラからその話を聞いた隊員だったのか。俺のサイズは部隊の皆に知られてしまっているのか。何故、俺の大きさを話題にして気にする?
 ……隊員がスゴイって言うことは、俺のは人とサイズが違うのか? 風呂で湯着に着替えるところで見たエクアドも、俺と同じぐらいだったと思うのだが。いったいどのくらいが平均サイズなのか?
 いやサイズうんぬんの話じゃ無くて。

「ゼラ、そういう話も人に広める話題じゃ無くて」
「ウン、だからコッソリ。でもゼラもフェディみたいに赤ちゃんが欲しくて、それでフェディにどういう風にしたら赤ちゃんができたの? って聞いたら、フェディがコッソリ教えてくれたよ?」

 フェディエア、まさか赤ちゃんができたことで、ゼラからムニャムニャの仕方を聞かれることになっていたとは。きっと何度も聞かれたのだろう。ゼラに無邪気に尋ねられて、つい話してしまったのか。

「フェディはね、エクアドの上に乗るのが好きみたい。エクアドとこう、手をギュッて繋いで、エクアドが下からズンズンって、あ、でもフェディは、これはゼラと二人の秘密にしてねって言ってたから、カダールも秘密にしてね」
「それはフェディエアも恥ずかしいから、秘密にして欲しいと言ったのだろう。解った、俺も秘密にするが、その、ツガイのムニャムニャというものは、他人には内緒にするものなんだ」
「ンー、どこから他人で、どこまでがナイショのお話をしてもいい仲間?」
「ううむ、初対面の人には、話さない方がいいか」
「ゼラとカダールのムニャムニャは、初めて会う人に話しちゃダメ、ウン、解った」

 コックリと頷くゼラ。素直なゼラは俺が頼むと応えてくれる。
 服を着るのも肌がムズムズして嫌だというのに、人前では服を着てくれるようになった。あまり我慢させてばかりではゼラに悪いので、新領主館の中ではゼラが裸でもいいか、となった。外で服を着てくれればいいのだから、たまに館の中を裸で過ごすくらいはいいだろう。
 その結果として、父上に母上、館で働く者がゼラの裸を見る機会が増えてはしまったが。

「エクアドはどう思う?」

 少し意見を聞いてみたくなり、エクアドに訊ねてみる。ゼラに人の羞恥心を教える方法が何か思いつくかもしれない。
 エクアドは腕を組み、

「どう思うと言われてもな。前に会ったクインは、見られることに真っ赤になって怒るくらい、恥ずかしそうにしていた。だから、ゼラも人の中で暮らしていれば、人のような羞恥心が自ずと芽生えるのではないか、と考えていたのだがな」
「しかし、アシェンドネイルは裸を恥ずかしいとは感じないようだった。なんでも、もとが脱皮する習性だったというアシェンドネイルにゼラは、服を着ていると肌がムズムズして脱ぎたくなる、ということらしい」
「アシェンドネイルは裸を見せつけて、こちらが目のやり場に困る様を見て楽しんでいたようでもあるが」
「そうなると、ゼラには恥ずかしいという感覚は、いつまでも理解しにくいものなのか?」

 エクアドは顎に手をやり少し考えて。

「ゼラの場合、常にアルケニー監視部隊が監視しているから、誰にも見られないように隠すことが難しい。そして隠さず見られていることが日常となると、見られて恥ずかしい、知られて恥ずかしい、という気持ちは育ち難いのかもしれん。これは環境のせいもあるかもな」
「しかし、今の態勢を変えるのも無理だ。アルケニー監視部隊がゼラを監視している、そしてその様子を王家に報告している。これでアルケニーの暴走は無いと、安心できる者がいる」
「煩く言う輩を黙らせる方便でもあるが、二人のムニャムニャまで監視した結果として、ゼラは見られることをなんとも思わなくなったのか?」

 エクアドの言うことにキョトンとするゼラ。

「ゼラとカダールのベッドは、カーテンで隠されてて見えないよ?」
「流石に全部丸見えではカダールが可哀想だろう。それでもゼラの魔法の灯りで、シルエットで見えてしまうが」
「ゼラの身体は半分蜘蛛だから、カダールとどういう風にしてるの?って、皆、知りたくなってゼラに聞いてきたりするよ?」
「それは言わなくていいから。隊長の俺とルブセィラだけが知っていればいい」
「もう言っちゃった。ハハウエにも、ダメだった?」
「……蜘蛛の姫見守り隊なら外に広めることはしないだろうが、念の為にそこは引き締めておくか」
「じゃあ、ゼラがフェディにムニャムニャのことを聞くのも、ダメ?」
「フェディエアがゼラに少し話したと、フェディエアから聞いてはいるけどな。フェディエアはなんて言ってた?」
「フェディはね、エクアドにぎゅーってされるとホッとして安心するって。でもなんだか小娘扱いされるのが、モヤッてするって」

 フェディエアは負けず嫌いなとこがあるのか。槍の修練でも、むきになっていたりする。それが上達に繋がってはいる。
 もともとウィラーインの女は強い、という評判でもあるが。

「それでね、ゼラとフェディとシグルビーでお話したんだけど、そのときシグルビーがね、『ムニャムニャは裸と裸のぶつかり合いだろ? 金で買われてるんじゃねえんだから、相手に惚れてるんなら気取って無いで、心のパンツも脱いで本音で相手にぶつかりゃいいじゃねえか。隊長なら受け止められんじゃねえの?』って言ってた」
「……そうか、フェディエアが、シグルビーとそんな話を、」

 エクアドがううむ、と考え込む。

「フェディエアを守るのは俺だ、と、思っていたが、ただ守られるように扱われるのはフェディエアのプライドが許さない、か」
「それでね、シグルビーから、女からどういうふうにしたら男が喜ぶかって、ゼラとフェディは教えてもらったの」
「フェディエアがムニャムニャのとき、妙に積極的で何処でそんなことを憶えたのかと疑問を抱いていたが、今、その謎が解けた」
「ムニャムニャは気持ちいいよね、エクアド」
「そ……、そうだな。フェディエアとは、今までに感じたことの無い満足感がある」

 エクアドがうつむき気味に恥ずかしそうに言う。隊員シグルビーがゼラにいろいろ教えている、というのは俺も知ってるが、フェディエアにも夜の技を伝授していたのか。
 確かにムニャムニャのときは裸を全部相手に見られるわけで、それは相手に隠すことは無いということでもあり、互いにその信頼があってこそのツガイなのかもしれない。
 心のパンツを脱いで本音で相手にぶつかれ、というのは名言かもしれん。過去に苦労が多かったと聞く隊員シグルビーの人生哲学なのか。
 ゼラがハッと思い出したように。

「あ、この話はエクアドもカダールも秘密にしてね。フェディはゼラとフェディの秘密って言ってて、でもシグルビーも知ってることだし、エクアドとカダールは家族だし、知ってた方がいいのかなって」
「解った。ゼラもこの話は隊員には喋らないようにしてくれ。フェディエアのことを教えてくれてありがとう」

 エクアドが俺を見て、俺もエクアドを見る。俺とゼラのムニャムニャは皆に筒抜けな訳だが、エクアドとフェディエアのムニャムニャも、こうして俺とゼラの知ることとなってしまった。
 エクアドがウィラーイン家に養子に入り、俺の兄となったのだが、その兄のエクアドと、その妻であり俺の姉となるフェディエアの、その、夜のムニャムニャ事情。まるで興味が無いというわけでも無いが、こうして知ってしまうと妙な気分になる。
 ゼラはニコリと笑む。

「ハハウエが家族で隠し事は無しって言ってたよ?」
「ウィラーイン家の絆は深いな、カダール」
「いや、ここまで深いのは俺達だけかもしれない」

 他の家族は、ここまでつまびらかに語り合うものだろうか? 
 俺とエクアドで、ゼラに誰に何処まで話していいか、これはいい、アレはダメ、と細かく教えることにする。ゼラは、ふんふん、と素直に頷いて聞く。
 ただ、素直なゼラは聞かれたことにも素直に応えてもしまうので、どうしたものか。

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登場人物紹介

ゼラ

もとは蜘蛛の魔獣タラテクト。助けてくれた騎士カダールへの想いが高まり、進化を重ねて半人半獣の魔獣アルケニーへと進化した。上半身は褐色の肌の人間の少女、下半身は漆黒の体毛の大蜘蛛。お茶で酔い、服が嫌い。妥協案として裸エプロンに。ポムンがプルン。しゅぴっ。

カダール=ウィラーイン

ウィラーイン伯爵家の一人息子。剣のカダール、ドラゴンスレイヤー、どんな窮地からでも生還する不死身の騎士、と渾名は多い。八歳のときに助けた蜘蛛の子と再会したことで運命が変わる。後に黒蜘蛛の騎士、赤毛の英雄と呼ばれる。ブランデーを好む、ムッツリ騎士。伝説のおっぱいいっぱい男。

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