第二話

文字数 5,156文字


 ゼラが満足するまで、めいっぱい性交しろ、と言われてどう答えるといいのか解らない。どう答えても墓穴に嵌まる気がする。いくらルブセィラ女史でも面と向かって性交したら、と言い出すとは思わなかった。だが、

「ゼラが、欲求不満? それだけなのか?」

 フェディエアが頷く。

「ゼラちゃんは初対面の相手でも物怖じしないで話しますし、子供とは一緒に遊んでいて、それが負担になってるようには見えないです。ゼラちゃんの見た目に怖がる人は、最初から近づいて来ませんから」

 続けてルブセィラ女史が眼鏡の位置を直して、

「ゼラさんもお喋りが好きなようで、いろんな人といろいろ話しています。私が文字の読み書きなど教えていますが、ゼラさんは文字を憶えて本を読みたいみたいですね。学習が嫌いでストレスとなってはいないようです」
「それではゼラの欲求不満を解消すればいいのか。だが、本当に他の問題では無いのか?」
「無いですね。私がゼラさんから、『皆はどうやって我慢してるの?』と、相談されましたから」
「うむぅ、ゼラがルブセィラにそんな相談をしていたのか。それでなんて答えた?」
「カダール様と相談するので少しお待ちを、と」

 それでこんな話になる訳か。ルブセィラ女史がピッと人差し指を立てる。

「この問題の原因のひとつとして、ゼラさんが自慰を知らない、というのがあります」
「じ、自慰か」
「別名、オナニーです」
「言い換え無くても意味は解ってる」
「なので、カダール様の許可があれば私がゼラさんにひとりエッチのやり方を教える、という解決方法もありますが」

 俺とエクアドでつい半目でルブセィラ女史を見てしまう。この研究バカでは少しズレている。だいたいゼラに自慰のやり方を教える、というのが、なんというか、その、なんだ? ルブセィラ女史が講師だと不安だ。
 
「エクアド隊長もカダール様も、ゼラさんを泣かせた前科のある私では、こういったデリケートな分野を任せるに心配というのも解ります。なので、フェディエアさん、どうですか?」
「……え? えぇ? 私? 私に来るの?」
「はい、ゼラさんに自慰の手解きを。または、ゼラさんにオナニーしてるところを実例として見せる、というのも。見本があればゼラさんも理解しやすいでしょう」
「ちょ、ちょっと待って。流石にそれは」

 フェディエアがプルプルと首を振る。フェディエアがゼラに自慰の見本を見せる? ひとりエッチ指南? ゼラは興味のあることには学習熱心で、そうなると、フェディエアがひとりでしているところを、ゼラが接近して、かぶりつくようにじーっと見る、ことになるのか。

「……カダール様、エクアド隊長、今、何を考えてます?」
「いやっ、何もっ、何もやましいことはっ」
「そんなに力強く応えると逆効果です。それで、私が教える、と、なると……、テントで、ですか?」

 片手で頬を押さえて言うフェディエアに、ルブセィラ女史がコクリと頷く。

「隊員には覗かないようにと通達しますが、警備に当たる者には声が聞こえることになりますね」
「う……、ゼラちゃんの欲求不満はなんとかしてあげたいけれど、そのときの声が丸聞こえ、というのは。それも私の自慰の仕方をゼラちゃんに説明するのが、皆に聞かれてしまうというのも……」

 俯いて頭を抱えるフェディエア。自分がどんな自慰の仕方をしているかを、職場の同僚に知られてしまうというのは、かなりキツイものがあるか。だが、女性の自慰の仕方は女性にしか解るまい。これは俺では教えられないか。

「カダール様はこんな気分を味わっていたのですか。よく平然としていられますね」
「フェディエア、俺は平気では無いぞ。気合いでメンタルダメージに耐えているんだ」
「カダール様が勇者と呼ばれるのも、改めてよく解りました」
「こんなことで勇者と呼ばれるのは、遠回しに恥知らずの変態と言われているだけのような」
「申し訳ありません。私は勇者にはなれそうも無いです」

 俯いて頬を赤くするフェディエアが辞退する。そうなるとルブセィラ女史しかいないのか? なにやら嬉々としているルブセィラ女史では、いろいろと心配なのだが。ゼラに何か変なことを教えそうで。
 俺とエクアドの不安を察したフェディエアが提案する。

「アルケニー監視部隊の女性で、ゼラちゃんに自慰指導できそうな人を募ってみましょう」
「それで誰も見つからなければ、私が一肌脱ぎましょう。るふふ」

 にこやかに笑うルブセィラ女史が何やら不穏な感じだ。だが、こういうことで隊員に恥ずかしい思いをさせるのも良くない。

「女性隊員に頼る前に、やれるだけやってみよう」

 ゼラを幸せにすると誓ったのは俺だ。ならば俺ができることをする。
 その晩、ゼラ専用特大テントの中で、ゼラと二人きりになる。心配になったエクアド、ルブセィラ女史、フェディエアは部隊の見張りと共にテントの外で待機。今はテントの中の音に耳をそば立て、交代で覗き窓から中を窺っている。

「ゼラ、その、ゼラが欲求不満で困っている、と、ルブセィラから聞いたのだが」
「よっきゅーふまん?」

 コテンと首を傾げて聞き返すゼラ。ちょっと考えて。

「ルブセに聞いた……、あ、カダールとムニャムニャしたいけど、遠征中はガマンしなきゃで、でもムニャムニャしたくて」
「そうか、我慢させてしまっていたのか」
「いつもカダールと一緒に寝るけど、キスのあととか、身体がポカポカしてムズムズして、でもカダールもおっきくして硬くしてるのにガマンしてるから、ゼラもガマンしなきゃって」

 うむう、これは俺の意思の力が弱いのか。いや、男なら誰でもゼラのポムンをムニュンとされたら制御不能になってしまうのではないか? 毎晩、裸のゼラに抱き枕のようにされて押しつけられて、だからといって身体は慣れて大人しくは、なってくれないのだ。
 俺はテントの中に持ち込んだ丸太にシーツを巻きつける。大人の腕の長さで切った短い丸太。肌が触れても痛く無いように布を巻く。不思議そうに見てるゼラに改めて向き直る。一度深呼吸してから。

「ゼラのそのムニャムニャしたい、というのを解消する方法を試してみたい」
「カダール? ドキドキしてる?」
「あぁ、俺では上手く教えられないかもしれないが、ちょっとやってみよう」

 昼間の会議で出た結論のひとつ。ゼラは人に触るときは常に力加減のコントロールに気をつけている。ゼラにとっては魔法は思いのままに使え、常に身体強化の魔法を使っているようなもの。細腕に見合わない怪力はこれが原因。そのために魔力枯渇状態では、その怪力が発揮できない。これまでゼラとムニャムニャするには、ゼラが魔力枯渇状態になるのが必要条件だった。
 ルブセィラ女史とフェディエアの観察から見ると、ゼラには力いっぱい俺にしがみつきたい、という気持ちがあり、それで昂ると手加減を忘れてしまう。

『ゼラさんが酔ったりイキそうになったりと、我を忘れる状態になるとカダール様の肋骨が折れることになります』
『ゼラちゃんの怪力は知ってましたけれど、骨折するって』
『最悪、内臓破裂もありえますね。逆に言うとゼラさんはいつもこの気持ちを押さえて、カダール様に触れていることになりますね』
『ギュッとしたい、ギュッとされたい、というのは少し解りますが、その限度が人の力を超越しているのですね』

 俺の身体が脆いせいでゼラには気を使わせてしまっている。鍛えてはいるので俺が人並み外れて脆いわけでは無いのだが、ゼラの力には耐えられない。

「ゼラが魔力枯渇にならなくてもスッキリできる方法を試してみたい。ゼラ、この丸太を持ち上げて抱きしめてくれ」
「ウン」
「これはただの丸太だから、力を入れて壊しても問題無い」

 シーツを巻いた丸太を抱くゼラ。その蜘蛛の背に乗って、ゼラを背後から抱きしめる。これで俺が正面からゼラにベアハッグされて、肋骨が折れることにはならない。

「ゼラ、今から俺がすることを自分でできるようになると、ひとりでスッキリできる、かもしれない」
「ンー? カダール、何するの?」

 何からしよう? 後ろから胸に手を回そうとしたが、ゼラが抱きしめる丸太が邪魔だ。両手でゼラの脇腹をそっと撫でる。ゼラの頬にキスをする。

「アン、くすぐったいぃ」

 身を捩るゼラの耳たぶをくわえて、耳の裏を舌でなぞって。左手は丸太でムニュンと形を変えたゼラのポムンを横から撫で、右手はそっとゼラのおへその回りを撫でて、ツツツと下へと下げる。

「は、あ、ふぅン」

 ゼラの声の質が変わる。いつもは子供のようなのに、こういうときは艶っぽいというか大人っぽくなる。そんな声を出させたくなる。耳の裏から首筋へとキスをして、舌でなぞる。手は優しく、そうっとそうっと動かして。

「ゼラ、気持ちいいか?」
「はふ、ウン、イイ。カダールぅ、もっと、して」

 熱を感じるような声で甘えるように囁かれて、うぐ、俺の方がガマンできなくなりそうだ。いかん、堪えろ。興奮して手に力が入らないように気をつけて、手の動きを少し早くする。
 ゼラの身体がピクンピクンとして、少し熱くなって、指先に何かがジワリと、ぬぐぐ、このままムニャムニャしたい。いや、目的を忘れるな俺。これはゼラが魔力枯渇にならなくても、欲求不満が解消できるようにするためであって、俺の欲求不満は後回しだ。今度は反対側の耳たぶを唇にくわえて。

「はぁっ、カダールぅ、もっと、もっと、ギュッてして」
「ギュッてして? こ、こうか?」
「はうぅん!」

 ちょっと力を入れて押し込むように、声が大きくなるゼラ。それに合わせてミシミシ、メキメキとゼラが抱える丸太から軋む音がする。少し指先を沈めるように動かす。

「ア! はぁあ!」

 天井を仰ぐゼラが大きく声を上げて、ゼラの抱く丸太がメキメキバリボリンと音を立てて、バラバラと砕けて落ちていく。俺の胴と同じ太さの丸太がこんなにあっさりと、割れて破片になってゼラの手から落ちる。あれが俺の胴体だったらと考えると、冷や汗が出る。

「あぅふ、カダールぅ、ふぅん、もっとぉ」

 掴むものが無くなったゼラの手が俺の腕を掴む。俺の左手をゼラの胸へと、右手も更に深くと押しつけるように。目が潤んで赤紫の輝きが少し強くなる。

「はぁ、もっと、強くして、ギュッて、して」
「わ、解った」

 これは少し危ないか? だが、ゼラは目が潤んでもう少しでいい感じになりそうだ。それに俺はゼラの背後にいるから、ここなら肋骨が折れることは無い。このままゼラをスッキリさせよう。ゼラの望むままに手に力を入れてギュッと、左手も右手も押し込むように、震わせるように蠢かせながら。こ、こうか? これでいいのか?

「はあぁっ! カダールうぅー!」

 ゼラが一際大きく俺の名前を呼び、ゼラの身体がブルリと震える。ゼラの全身に力が入り、

 ペキリ♪

 音を立てて俺の両腕の骨が折れた。

「あがあ!」
「カダール? ふえ? カダール? カダールー!!」

 両腕圧壊骨折。脳天に響くような激痛に驚いて、ゼラの蜘蛛の背から転げ落ちる。うおおおお、腕があああ。ビックリしたゼラが赤紫の目を見開いて俺を見る。異常に気がついたエクアド、ルブセィラ女史、フェディエアがテントに駆け込んでくる。両腕の痛みに声も出せずにもがく俺をエクアドが調べる。泣き出すゼラ。

「あぅ、カダール、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ゼラ! 謝るのは後で、カダールに治癒を!」
「ちゆ? 治癒! え、えっと、えっと」
「ゼラさん、落ち着いて。カダール様は死んでませんから」
「ほ、骨を元通りに、真っ直ぐに」
「ゼラちゃん、いつも出張治療院でやってるみたいに、深呼吸して、落ち着いて」
「カダール、この手拭いをくわえていろ」

 ぐあお、俺の腕がプランと間接の無いところからぶら下がる。痛すぎて頭が朦朧とする。夜中に大騒ぎして、皆でゼラを落ち着かせて、俺の両腕はゼラの治癒の魔法でなんとか、もとに戻った。治癒したばかりの腕はまだ、腕から指先がジーンと痺れている。口にくわえていた手拭いで顔の汗を拭う。
 ゼラが泣いている。ボロボロ泣いている。

「あえええん。カダール、ごめんなさいぃ」
「よーしよしよし、ゼラは悪くない。調子に乗った俺が悪いんだ」
「ひうっ、ご、ごえんなさあいい」

 しゃくりあげるゼラを抱きしめる。痺れる指先でゼラの髪を撫でる。

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登場人物紹介

ゼラ

もとは蜘蛛の魔獣タラテクト。助けてくれた騎士カダールへの想いが高まり、進化を重ねて半人半獣の魔獣アルケニーへと進化した。上半身は褐色の肌の人間の少女、下半身は漆黒の体毛の大蜘蛛。お茶で酔い、服が嫌い。妥協案として裸エプロンに。ポムンがプルン。しゅぴっ。

カダール=ウィラーイン

ウィラーイン伯爵家の一人息子。剣のカダール、ドラゴンスレイヤー、どんな窮地からでも生還する不死身の騎士、と渾名は多い。八歳のときに助けた蜘蛛の子と再会したことで運命が変わる。後に黒蜘蛛の騎士、赤毛の英雄と呼ばれる。ブランデーを好む、ムッツリ騎士。伝説のおっぱいいっぱい男。

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