第三十六話
文字数 4,169文字
酒宴は続く。クインはゼラと違い酒精に酔うようで、かなり回っている。俺のことをド変態と言いながらもそれが楽しげだ。ならば我慢するとしよう。
クインもエロ娘とか言いながらもゼラがムニャムニャの話をすると、なにやら羨ましそうに聞いてたりするし。姉御という感じのクインが処女というのは驚いたが、それを口にするとまた怒られるので黙っておく。処女、なのか。
酒が回るほどにクインしか知らないことがその口から語られる。
俺とエクアドでクインのグラスに酒を注ぎ、ゼラの出した氷を入れる。今はゼラがウィラーインの倉庫での暮らしをクインに話し、クインはそれを笑って聞いている。
「でね、ハハウエがカトラリーのこと教えてくれるの」
「宮廷のテーブルマナーなんて教えてどーすんだか。どこで使うんだよ」
隠密ハガクが、ゼラとクインを姉妹のようだ、と言っていたがずいぶんと仲がいい。
話が一段落したところでクインに訊ねる。
「今回のグレイリザードの王種は随分と変わった奴だったが、今後もああいった王種が現れるのだろうか?」
「そうなっていくだろうよ。これから王種の発生は増えていくだろうし」
「おいクイン、それは聞き捨てならんぞ。王種の発生が増えるとはどういうことだ?」
「それが魔獣というものだからだよ。人の数が増える程に王種の発生率は上がる。そういうもんだからね」
「クイン、魔獣について何を知っている? 教えてくれないか?」
「お前らは魔獣を何だと思ってんだよ」
「闇の神の産み出した尖兵で、光の神に属するものに仇なす生物。これが教会の説く魔獣でこれを信じる者が多い。ルブセィラのような魔獣研究者が調べているが、生物として異常な戦闘力を持っていることについては謎のままだ」
「よく解らねえもんは神の仕業にしとけってことか」
ゼラが爪でピンと弾いた豆がクインの開けた口にパクリと入る。食べ物で遊ぶのはどうかと思うが、二人とも楽しそうなので、そのままにする。
「もぐ、魔獣には人を殺せ、と本能に仕込まれている。独自の言語を持つゴブリンにオークといった亜人型とも交渉なんてできやしねえ。あいつらにとっては、人間とは敵だと産まれたときから決まっている。魔獣の戦闘力は人間を殺すためのものだ」
「それは闇の神がそのように造ったからか?」
「じゃ、闇の神ってのは何だ?」
「この前の闇の母神、ボサスランのような存在では無いのか?」
「発音が違うんだけど。ルボゥサスラァ、だ。では、我らが母、闇の母神ルボゥサスラァを産み出したるは何者か?」
「神々の古き神話の話か?」
「はん、昔は昔だがこれは伝わってやしねえのな」
クインが酒を飲みグラスを持ったままの手で俺を指差す。
「魔獣を造ったのは人間だよ」
「なに?」
「正確には今は滅びし古代魔術文明の人間が、我らが母、この世全ての魔獣の母を造った。そして我らが母は魔獣を産み出す。これは直接産むのでは無く生態系のコントロールだけど」
「古代魔術文明の人間が魔獣を造った? 何の為に?」
「人類が滅ばぬように、てね」
「人を殺す魔獣の目的が、人類が滅ばぬように、だと? 矛盾していないか?」
「その文句は過去の人間に言えよ。人はその文明を育て上げたときに滅ぶ。そうさせないようにする為に、人が増えれば数を減らす為に魔獣も増える。そういうふうに造られた」
「クインの話がいまいち理解できないのだが」
「その時代に生きてなけりゃ理解できないんじゃねえの? そうだな、お前らは服を着てるだろ?」
「あぁ、それが当たり前だが」
「服を着るのが当たり前って生き物がどれだけいる? 服を作り鎧を作り、身を守る物を作って頼り人間は肌が弱くなった。人間の作る物っていうのはそういうもんだ。人間の代わりに荷物を運ぶ馬車とか、そんな道具を作る。技術を魔術を進歩させて作るものの果ては、人間の代わりに戦う物、人間の代わりに働く物、人間の代わりに考える物、そして人間の代わりに生きる物だ」
必死に頭を働かせてクインの話を想像する。人が便利に、人が楽に、そのために産み出す物、その果てに。
「人間にとって、生きるのに社会は必要でも行き着いた社会には人間は必要無い。そこには人間より賢く強い物がいて、弱く愚かになった人間は必要無いどころか邪魔な生き物になる」
「まさか、そんなことには、」
「古代魔術文明の人間は滅日を迎え、次の人間が滅ばぬようにと我らが母のような闇の神というシステムを作って残した。常に戦う相手に不自由しなけりゃ、鍛えられるからね。ついでに数も減らせる」
「そのために、常に魔獣被害に苦しみ続けろと?」
「はん、魔獣が居なければ代わりに人間同士で間引きしてただろうよ。悪役を被る魔獣がいい迷惑だ。だけどそれで我らが母は狂ってしまった。『人類を守れ』そのために『人を殺せ』そんな無茶な命令されて、長い時をその通りにし続けて、おかしくなっていった。我らが母は人も自分の子も好きだから」
過去の古代魔術文明の人間が、闇の神を作った。そして人類を未来に残す為に、闇の神に魔獣を産ませている。魔獣に人間を襲わせている。それでは、
「この世界に魔獣はもともと存在しなかったのか? 古代魔術文明の人間が作ったのなら、それ以前は魔獣がいない世界だったと?」
「そうだよ」
「では、もしも魔獣のいない世界であれば、人間はどうなる?」
「かつての古代魔術文明と同じく、パッと栄えてサッと滅んだんじゃねえの」
「人間はそんなに簡単に滅ぶ生き物なのか」
「人間以外に敵のいない古代魔術文明の人間と、常に魔獣との戦いのある今の人間とは逞しさがかなり違うし、思想も精神も違う。まぁ、そういうのを狙ってたんだろうね」
今までの常識が壊れていく。かつての古代魔術文明を研究する者はこれを知っているのか? 魔獣のおかげで人が栄える、などと言えば邪神を奉ずる異教徒と同じだ。これは軽々しく人に話せるものでは無い。これを大声で言おうものなら教会より異端とされてしまう。
いや、魔獣から聞いたなどという話を信じる者はあまりいないか。
「エクアド、これはテントの外でできる話では無いぞ」
「あぁ、そこを気を使って魔法でこの話を外の見張りに聞こえないようにしてくれたのか。クイン、感謝する」
「まぁ、べつに。これからもゼラと一緒にやってくつもりなら、知っておいた方がいいんじゃねーのか」
「魔獣は人を殺すのが本能ということだが」
「殺すべき敵って、見たら感じるんだよ。勝ち目が無けりゃ逃げるけどね」
「クインは違うのか? ゼラも人を敵とはしていない。進化する魔獣とはそうなのか?」
「そこは、その、魔獣の軛 から外れたのが進化する魔獣だから」
「そうなのか? それは何故だ?」
「なんだよ、解れよ。それは、人間に惚れちまったからだよ。その感情が本能の設定とかち合わないように、我らが母が魔獣の本能から外してくれるんだよ。そのおかげでこれまで悩まなかったことに悩むようになっちまうけどよ」
恥ずかしさを誤魔化すようにクインはグラスを空ける。新しく開けたブランデーをそのグラスに注ぐ。
「……進化する魔獣なんてのが産まれるのも、我らが母が狂ってしまったから、なんだけどよ」
「その闇の母神ルボゥサスラァが狂った、というのはどうなんだ? 魔獣が異常に増えたりとかするのか?」
「我らが母が昔の人間の思い通りに動いていたら、人間の数はもっと減っているんだけどね。人を守ろうとして自ら狂った。深都はそんな母を守る為の砦。だから人間は近づくなよ」
「そういうことだったのか」
これまで知らなかった世界の裏側を聞かされた。頭がついて行かないが、これはどうすればいい? いやどうにもならないことか。俺ではどうしていいかも解らんし、どうにかできることとも思えん。
闇の神を奉じる者の教えも一部は正しいということか。いやその教義自体が古代魔術文明に作られたものかもしれん。
魔獣のいない、魔獣に襲われぬ世界は平和だろうと思っていたが、それが人類の滅日に近づくものだとは。戦わねば弱くなる。弱さを補う物を作ってもそれが人類の敵となる。いや、それに頼り人間が生きる力を失うということか?
人の知恵の産物が人の滅日を招く。それがどういう状態なのかはよく解らない。だが古代魔術文明はそれで滅び各地に遺跡が残るのみ。
魔獣を産み出す闇の神、などという信じられないものを作り出す文明が、滅んで亡くなる。
「腹黒アシェがゼラに目をつけたのは、我らが母が期待しているからさ」
「期待だと? 何に?」
「これまでに無い、魔獣と人間の関係に」
「そうなのか? ゼラと俺のような者は過去に居なかったのか?」
「いるわけねえだろ。教会が在って良しと認めるかどうか、そんなことを真面目に会議するような魔獣なんているもんかよ。で、ゼラはこれからどうするんだ?」
「ンー? カダールと一緒にいるよ」
「いつまで?」
「いつまでも、ずっと一緒」
ゼラの言葉にクインは鼻で笑う。
「はん、いつまでも? そんなのは無理だ。今日の葬式で見たろ。人間はあたいらよりも寿命は短い。あたいらを置いて先に死んでいく」
「カダールは死なない! ゼラが守る!」
「守っても無駄だっての。寿命はどうにもならねえ」
「クインのいじわる!」
「意地悪じゃねえよ、ゼラのこと心配して言ってんだよ」
今日の葬式。リアーニーおばあさんの葬式。
人は死ぬ。長生きしてもいずれは死ぬ。リアーニーは九十三歳とアバランの町で一番長生きしたが。
そのリアーニーを若い頃から見てきたクインは今も若く見える。これで七十を越えているようには見えない。
クインは想い人エイジスを見送り、今日はエイジスの妻、リアーニーを見送った。ゼラがクインのように生きるのであれば、俺よりずっと長く生きるのだろう。ゼラより先に俺は死ぬ。
「カダールは死なないもん! ゼラが守る!」
ゼラがこっちにきて椅子に座る俺を後ろから抱きしめる。マフラーのように首に腕を回し、俺の頭に頬を擦り付ける。
クインもエロ娘とか言いながらもゼラがムニャムニャの話をすると、なにやら羨ましそうに聞いてたりするし。姉御という感じのクインが処女というのは驚いたが、それを口にするとまた怒られるので黙っておく。処女、なのか。
酒が回るほどにクインしか知らないことがその口から語られる。
俺とエクアドでクインのグラスに酒を注ぎ、ゼラの出した氷を入れる。今はゼラがウィラーインの倉庫での暮らしをクインに話し、クインはそれを笑って聞いている。
「でね、ハハウエがカトラリーのこと教えてくれるの」
「宮廷のテーブルマナーなんて教えてどーすんだか。どこで使うんだよ」
隠密ハガクが、ゼラとクインを姉妹のようだ、と言っていたがずいぶんと仲がいい。
話が一段落したところでクインに訊ねる。
「今回のグレイリザードの王種は随分と変わった奴だったが、今後もああいった王種が現れるのだろうか?」
「そうなっていくだろうよ。これから王種の発生は増えていくだろうし」
「おいクイン、それは聞き捨てならんぞ。王種の発生が増えるとはどういうことだ?」
「それが魔獣というものだからだよ。人の数が増える程に王種の発生率は上がる。そういうもんだからね」
「クイン、魔獣について何を知っている? 教えてくれないか?」
「お前らは魔獣を何だと思ってんだよ」
「闇の神の産み出した尖兵で、光の神に属するものに仇なす生物。これが教会の説く魔獣でこれを信じる者が多い。ルブセィラのような魔獣研究者が調べているが、生物として異常な戦闘力を持っていることについては謎のままだ」
「よく解らねえもんは神の仕業にしとけってことか」
ゼラが爪でピンと弾いた豆がクインの開けた口にパクリと入る。食べ物で遊ぶのはどうかと思うが、二人とも楽しそうなので、そのままにする。
「もぐ、魔獣には人を殺せ、と本能に仕込まれている。独自の言語を持つゴブリンにオークといった亜人型とも交渉なんてできやしねえ。あいつらにとっては、人間とは敵だと産まれたときから決まっている。魔獣の戦闘力は人間を殺すためのものだ」
「それは闇の神がそのように造ったからか?」
「じゃ、闇の神ってのは何だ?」
「この前の闇の母神、ボサスランのような存在では無いのか?」
「発音が違うんだけど。ルボゥサスラァ、だ。では、我らが母、闇の母神ルボゥサスラァを産み出したるは何者か?」
「神々の古き神話の話か?」
「はん、昔は昔だがこれは伝わってやしねえのな」
クインが酒を飲みグラスを持ったままの手で俺を指差す。
「魔獣を造ったのは人間だよ」
「なに?」
「正確には今は滅びし古代魔術文明の人間が、我らが母、この世全ての魔獣の母を造った。そして我らが母は魔獣を産み出す。これは直接産むのでは無く生態系のコントロールだけど」
「古代魔術文明の人間が魔獣を造った? 何の為に?」
「人類が滅ばぬように、てね」
「人を殺す魔獣の目的が、人類が滅ばぬように、だと? 矛盾していないか?」
「その文句は過去の人間に言えよ。人はその文明を育て上げたときに滅ぶ。そうさせないようにする為に、人が増えれば数を減らす為に魔獣も増える。そういうふうに造られた」
「クインの話がいまいち理解できないのだが」
「その時代に生きてなけりゃ理解できないんじゃねえの? そうだな、お前らは服を着てるだろ?」
「あぁ、それが当たり前だが」
「服を着るのが当たり前って生き物がどれだけいる? 服を作り鎧を作り、身を守る物を作って頼り人間は肌が弱くなった。人間の作る物っていうのはそういうもんだ。人間の代わりに荷物を運ぶ馬車とか、そんな道具を作る。技術を魔術を進歩させて作るものの果ては、人間の代わりに戦う物、人間の代わりに働く物、人間の代わりに考える物、そして人間の代わりに生きる物だ」
必死に頭を働かせてクインの話を想像する。人が便利に、人が楽に、そのために産み出す物、その果てに。
「人間にとって、生きるのに社会は必要でも行き着いた社会には人間は必要無い。そこには人間より賢く強い物がいて、弱く愚かになった人間は必要無いどころか邪魔な生き物になる」
「まさか、そんなことには、」
「古代魔術文明の人間は滅日を迎え、次の人間が滅ばぬようにと我らが母のような闇の神というシステムを作って残した。常に戦う相手に不自由しなけりゃ、鍛えられるからね。ついでに数も減らせる」
「そのために、常に魔獣被害に苦しみ続けろと?」
「はん、魔獣が居なければ代わりに人間同士で間引きしてただろうよ。悪役を被る魔獣がいい迷惑だ。だけどそれで我らが母は狂ってしまった。『人類を守れ』そのために『人を殺せ』そんな無茶な命令されて、長い時をその通りにし続けて、おかしくなっていった。我らが母は人も自分の子も好きだから」
過去の古代魔術文明の人間が、闇の神を作った。そして人類を未来に残す為に、闇の神に魔獣を産ませている。魔獣に人間を襲わせている。それでは、
「この世界に魔獣はもともと存在しなかったのか? 古代魔術文明の人間が作ったのなら、それ以前は魔獣がいない世界だったと?」
「そうだよ」
「では、もしも魔獣のいない世界であれば、人間はどうなる?」
「かつての古代魔術文明と同じく、パッと栄えてサッと滅んだんじゃねえの」
「人間はそんなに簡単に滅ぶ生き物なのか」
「人間以外に敵のいない古代魔術文明の人間と、常に魔獣との戦いのある今の人間とは逞しさがかなり違うし、思想も精神も違う。まぁ、そういうのを狙ってたんだろうね」
今までの常識が壊れていく。かつての古代魔術文明を研究する者はこれを知っているのか? 魔獣のおかげで人が栄える、などと言えば邪神を奉ずる異教徒と同じだ。これは軽々しく人に話せるものでは無い。これを大声で言おうものなら教会より異端とされてしまう。
いや、魔獣から聞いたなどという話を信じる者はあまりいないか。
「エクアド、これはテントの外でできる話では無いぞ」
「あぁ、そこを気を使って魔法でこの話を外の見張りに聞こえないようにしてくれたのか。クイン、感謝する」
「まぁ、べつに。これからもゼラと一緒にやってくつもりなら、知っておいた方がいいんじゃねーのか」
「魔獣は人を殺すのが本能ということだが」
「殺すべき敵って、見たら感じるんだよ。勝ち目が無けりゃ逃げるけどね」
「クインは違うのか? ゼラも人を敵とはしていない。進化する魔獣とはそうなのか?」
「そこは、その、魔獣の
「そうなのか? それは何故だ?」
「なんだよ、解れよ。それは、人間に惚れちまったからだよ。その感情が本能の設定とかち合わないように、我らが母が魔獣の本能から外してくれるんだよ。そのおかげでこれまで悩まなかったことに悩むようになっちまうけどよ」
恥ずかしさを誤魔化すようにクインはグラスを空ける。新しく開けたブランデーをそのグラスに注ぐ。
「……進化する魔獣なんてのが産まれるのも、我らが母が狂ってしまったから、なんだけどよ」
「その闇の母神ルボゥサスラァが狂った、というのはどうなんだ? 魔獣が異常に増えたりとかするのか?」
「我らが母が昔の人間の思い通りに動いていたら、人間の数はもっと減っているんだけどね。人を守ろうとして自ら狂った。深都はそんな母を守る為の砦。だから人間は近づくなよ」
「そういうことだったのか」
これまで知らなかった世界の裏側を聞かされた。頭がついて行かないが、これはどうすればいい? いやどうにもならないことか。俺ではどうしていいかも解らんし、どうにかできることとも思えん。
闇の神を奉じる者の教えも一部は正しいということか。いやその教義自体が古代魔術文明に作られたものかもしれん。
魔獣のいない、魔獣に襲われぬ世界は平和だろうと思っていたが、それが人類の滅日に近づくものだとは。戦わねば弱くなる。弱さを補う物を作ってもそれが人類の敵となる。いや、それに頼り人間が生きる力を失うということか?
人の知恵の産物が人の滅日を招く。それがどういう状態なのかはよく解らない。だが古代魔術文明はそれで滅び各地に遺跡が残るのみ。
魔獣を産み出す闇の神、などという信じられないものを作り出す文明が、滅んで亡くなる。
「腹黒アシェがゼラに目をつけたのは、我らが母が期待しているからさ」
「期待だと? 何に?」
「これまでに無い、魔獣と人間の関係に」
「そうなのか? ゼラと俺のような者は過去に居なかったのか?」
「いるわけねえだろ。教会が在って良しと認めるかどうか、そんなことを真面目に会議するような魔獣なんているもんかよ。で、ゼラはこれからどうするんだ?」
「ンー? カダールと一緒にいるよ」
「いつまで?」
「いつまでも、ずっと一緒」
ゼラの言葉にクインは鼻で笑う。
「はん、いつまでも? そんなのは無理だ。今日の葬式で見たろ。人間はあたいらよりも寿命は短い。あたいらを置いて先に死んでいく」
「カダールは死なない! ゼラが守る!」
「守っても無駄だっての。寿命はどうにもならねえ」
「クインのいじわる!」
「意地悪じゃねえよ、ゼラのこと心配して言ってんだよ」
今日の葬式。リアーニーおばあさんの葬式。
人は死ぬ。長生きしてもいずれは死ぬ。リアーニーは九十三歳とアバランの町で一番長生きしたが。
そのリアーニーを若い頃から見てきたクインは今も若く見える。これで七十を越えているようには見えない。
クインは想い人エイジスを見送り、今日はエイジスの妻、リアーニーを見送った。ゼラがクインのように生きるのであれば、俺よりずっと長く生きるのだろう。ゼラより先に俺は死ぬ。
「カダールは死なないもん! ゼラが守る!」
ゼラがこっちにきて椅子に座る俺を後ろから抱きしめる。マフラーのように首に腕を回し、俺の頭に頬を擦り付ける。