第二十四話◇???会話回
文字数 7,121文字
「ちょっとズレてる」
「今、合わせるから急かさないの」
「あ、映った映った。……何してるの? あれ?」
「おっぱいいっぱい男が仰向けに寝転んで、蜘蛛の子が裸で覆い被さっているわね」
「イチャついておるの」
「ベッタベタしてるわねー」
「あ、キスしてる」
「ふ、ふん。キスぐらいするでしょうよ。下半身を見ないようにして、魔獣の力をいいように使うためだけに、気があるふりをしてるのよ」
「そ、そうよ、人間は、男はそういう生き物なのよ」
「キス、というか舌が入ってる。いわゆるベロチュー」
「うっとりしながら深く舌を入れてる……」
「あ、あれぐらい私もしたことあるもん、」
「ゼラが一方的に襲ってる、ということでも無いのね。おっぱいいっぱい男もゼラの口の中に舌を入れてるみたいだし」
「怖く無いのかしら? 本物の勇者?」
「変態よ、きっとド変態なのよ。そうでなければこんなことできる男なんていないもの。そうじゃなかったら……、うぐ、」
「鎮静剤、要る?」
「まだ、大丈夫」
「むふん、とか言いながらまだチュッチュしておる」
「あ、おっぱいいっぱい男が蜘蛛の子のおっぱいをムニュムニュしてる」
「アシェ、もっとズーム。アップにして、アップに」
『あのね、お姉様達。私は今、コッソリ盗撮してるの。私がブツブツ言ってると見つかるから』
「母神の瞳を仕掛けるだけでいいのよ」
「見つからないようにしてね」
『赤毛の英雄は覗かれるのが嫌いなのよ。あとで見つかってバレたら不信のもとよ。二人の愛の巣に仕掛けられないわ』
「それじゃ仕方無いか」
「アシェンドネイル、おっぱいいっぱい男とは今後、良好な関係を築けそう?」
『私が? と、今、そのおっぱいいっぱい男がチラと、こっちを見たわ。私は寝たふりするから』
「ん? けっこう鋭い男?」
「あ、蜘蛛の子がズリズリと這い上がって、おっぱいで男の顔を挟んでる」
「ゼラのおっぱいは大きいわね」
「パフッてる」
「幸せそう」
「羨ましい」
「なにこのイチャつきぶりは?」
「うらあーっ! おっぱいか? 結局はおっぱいか? おっぱいがでっかけりゃいいのか? ポヨンポヨンしてたら下半身は蜘蛛でもいいのか? 結局はおっぱいか? 最終的にはデカおっぱいなのか? こんのスケベ男が! こーんちーくしょう!」
「姉さん、落ち着いて」
「そうだ。胸の大きさなんて関係無い。かつての我の想い人はちっぱいこそが至高だと」
「それ、ただのロリコンだから」
「そのために見た目が幼女に進化しちゃうのもどうなのよ?」
「千年幼女のつるぺったん」
「
「おいケンカを売っておるのか? 言い値で買ってやる。その胸抉ってズタボロにしてやる。表に出ろ」
「やめなさい、お馬鹿。二人の周りもよく観察しなさい」
「広い部屋のようだが、内装がイマイチ」
「伯爵家の屋敷にしてはみすぼらしい」
「これ、屋敷じゃ無くて倉庫を改造したみたいね」
「たしかウィラーイン伯爵の息子よね?」
「はん、そうよ。ゼラを倉庫に押し込んで屋敷に上げずに、都合よくゼラを使ってるのよ。きっとそうよ」
「単にゼラちの蜘蛛の身体が大きいだけじゃ?」
「わしらも普通のサイズの人の家には入れんじゃろ」
「それで蜘蛛の子を、改造した倉庫に住まわせてるのね」
「アシェンドネイルも今はそこで見張られていると」
「それじゃ、おっぱいいっぱい男はこの後、屋敷に戻るのかしら?」
「その辺りも含めて、おっぱいいっぱい男を見極めるのよ」
「……で、いつまでイチャイチャベタベタしてんのよこの二人は?」
「溶けてくっついてるみたいに」
「クッソウラヤマシ」
「え? そのまま寝るの? 半人半獣と抱き合ったまま?」
「背中ポンポンして? 頭撫でて?」
「そのまま熟睡?」
「「うっそぉ……」」
◇◇◇◇◇
「……ご飯食べてる」
「……普通にご飯食べてるわね」
「いや、あり得ないから。目の前で血の滴る生肉をムシャリと貪り食うのを見ながらご飯食べるとか、そんな人間いないから」
「でもシチュー飲んでパン食べてる。これ、生放送」
「ふふふ、な、生肉ぐらいなら、落ち着いてられるでしょうよ、ふふふ。目の前で生きたヒヨコとか生きた虫にかぶりついたら、絶対に引くんだから。男って大概そうだから」
「そ、そうよね。だいたいダンゴムシはエビの仲間なのよ? 味も似たようなものなのに、エビは食べるけどダンゴムシは食べないとか、そんなの人間の慣れと好き嫌いの問題でしか無いのに」
「そうよ! 人間って自分の食べないものを目の前で食べてるだけで、気持ち悪いって目で見るものなのよ。男って生き物はそうなのよ! こんちくしょう!」
「あ、おっぱいいっぱい男が何か言ってる」
『食べるなら皆でこうして一緒に食事を取る方が、美味しく食べられるだろう』
『そんなことを本気で言うなんて、信じられないわね』
『何を疑っているのか解らんが、食べ物の好みが違うくらい、たいしたことでは無い。見慣れてしまえばどうということも無い。食べないのか? アシェンドネイル?』
「いいこと言うじゃない、この男」
「ただの無神経じゃ無いのね」
「生肉を気にしないんじゃなくて、一緒にご飯を食べることの方を気にしてるの? いやんステキ」
「言ったなー! おっぱいいっぱい男! 吐いた唾飲ませてやる! アシェ! 今から目の前で生きたヒヨコ丸飲みして! ゴックンと見せてやって!」
「姉さん、やめたげて」
「どうした? アシェ、近くにヒヨコはいないの? だったらネズミとか! いつもみたく卵をカラごとゴックンとか!」
「目の前におっぱいいっぱい男がいる状況で、ワシらと話はできんじゃろ」
「他にもカダールの友人というエクアド、屋敷のメイドも一緒にご飯食べてるわね」
「こいつらもゼラと飯食うのに慣れてる感じだ。信じられん」
「無いから! そんなことある訳無いからー! だってー! 男ってー! うらあーっ!」
「姉さん、はい、精神安定剤」
◇◇◇◇◇
『ハウルルを調べるわ。お姉様達、手伝って』
「解析得意なの前に来て」
「クガセナ生合因流か、気分悪い」
「まだ隠れて残ってたの?」
「かなり無茶な手の入れ方してからに」
「白血球の数が異常に多いわね」
「NK細胞もだ。既にバランスが崩れはじめている」
「レセプター遮断剤まで、バルビツール誘導体……反応が悪いわ」
「因定珠で押さえ込んでるけれど、これは神経が痛むんじゃない? T1、T2、シグナル微弱」
「その後のことを考えずに合成してる。実験データを取るのが目的か」
「はん、所詮は人間のすることよ」
「そうそう、人間なんてみんな死ねばいいのよ」
「あんたはまたそーいうことを言う」
「それは我らが母の望みでは無い」
「モデルはアンドロスコルピオ。なんだか、私達の弟みたいね、この子」
「アシェが研究者に姿を見せたのだろう? アシェをモデルにして上半身人型を残したのじゃないか?」
「そうなると似て当然かの」
「因定珠だけなら回収対象なんだけど」
「いっそこの子を深都に回収する? ここならこの子の身体も長持ちさせられるんじゃ」
「このままだともって三ヶ月というとこか」
『ハウルルを改造した研究施設と改造したときのデータがあれば、寿命だけでもどうにかなるわ』
「アシェンドネイル、これはお前の監理不足だ」
「そうね、またお仕置き?」
『待ってよ。残った遺跡は好きにしろって言ったのはお姉様達でしょ。人間なんて、とか言って適当にしてたのに。おっぱいいっぱい男がいると解って、急にウィラーイン領に手は出すなってなったのもこの前の話じゃない』
「あのときはあのとき。今は今」
「でも
「こっちからもアシェの援護に誰か行ってもらう?」
「人間のやらかしたバカな研究などどうでもいいが、そのハウルルを助けておっぱいいっぱい男の機嫌がとれるなら、深都に運び入れるか?」
「人間を深都に?」
「その子は、もと人間で体内に回収対象がある」
「それなら人間が深都に足を踏み入れることにはならない、のかな?」
「待て、人間と判断されたなら我らが母の機能暴走も有り得る。現状、押さえ込むのも危ないのだ」
「ハウルルを保護できる施設が深都の外にあったかしら?」
「こちらでも対策を練るとしよう」
◇◇◇◇◇
「ゼラは安定しているのか?」
『暴走の危険は無さそうよ』
「成り立ての子供なのに危険は無い、か。ゼラはあまり強くないのか?」
『冗談、暴れたら私じゃ抑えきれ無いわ。お姉様達でも一対一でゼラに勝てるのは少ないと思う』
「何故、そんなに?」
『セーブして無いから。ゼラは怖れていないもの。姿形も、異形の力も、全て受け入れる赤毛の英雄が側にいる。しかもゼラが力を使えるように、出張治療院に井戸掘り、防壁作りに畑の水撒きと、その力を人が受け入れる現場を作る。ゼラは自分のすることが赤毛の英雄と人々を喜ばせると思っている。信じている。それが恐れず怯まずに潜在力を引き出す動機に繋がっている。己を怖れた私達とは大きく違うところね』
「人とゼラを繋ぐのが赤毛の英雄か。流石は我らが母の見込んだ男」
『ゼラに肋骨を折られて、腕の骨も折られて、それでもゼラを愛しているのだと』
「情の深い男だ」
『筋金入りのドMね』
「側に赤毛の英雄が居れば、ゼラは安心か」
『だけどまだ子供だから、心配ね』
「子供の癇癪でも、我らはその力が違う。近くに止める者もおらずに悲劇を起こしたりする」
『それで心を病んでしまったお姉様がいるものね』
「……アシェ、お前がされた仕打ちは許されることでは無い。だが、」
『私の過去なんてどうでもいいわ』
「人間は邪悪な者ばかりでは無い」
『それだけなら憎み恨むこともできるのにね』
「我らが母は希望を見ている」
『どうかしら? 他力本願の怠け者ばかりじゃない』
「だからこそ次代の人間は自力で生き抜けるようにと、願いを遺された」
『いい迷惑だわ』
「イラついているな?」
『……ここの連中がお人好し過ぎて調子が狂うのよ』
「アシェも赤毛の英雄の影響を受けたか?」
『……ここは、落ち着かないわ』
「得難い機会だ。近くで見ているといい。戻ってきたら呪布を外そう」
◇◇◇◇◇
「騒がしいわね、なんなの?」
「おっぱいいっぱい男が蜘蛛の子に抱っこされてるの」
「これ、リアルタイム」
「!なんで呼んでくれないのよ」
「あなた、興味無いって」
「わ、私は興味無いわ。興味無いわよ、そんなスケベ人間。だけど我らが母が気にする観察対象じゃない」
「奥で休んでていいのよ?」
「……暇だから、ちょっとだけ……」
「二人ともニッコニコねー」
「二人とも、何がそんなに楽しいのかしら?」
「……二人だから、でしょう」
「クッソウラヤマシ」
◇◇◇◇◇
「……あれ、何をしてるの?」
「ちょっと、アシェンドネイル、説明を」
『見ての通りよ』
「見ての通りって、庭で花壇の側で蜘蛛の子がクッション抱えてうつ伏せに寝てる? 日向ぼっこしてるの?」
『今日は天気が良くて風も穏やかでいい陽気ね。お茶が美味しいわ』
「アシェもくつろいでるわね」
「問題はその蜘蛛の子の背中よ」
「赤毛の女がスコルピオを抱っこして寝てる?」
「周りの人間もほのぼのとして見てるし……」
「アルケニーの背中でスコルピオを抱っこして、日向ぼっこしてお昼寝ってなんなの? アシェ?」
『あれがおっぱいいっぱい男の母よ。ゼラの蜘蛛の背はふわふわで寝心地がいいって評判のようね』
「いやー、無いわー。それは無いわー」
「魔獣の背中でお昼寝とか、無いわー」
『話を聞いてみたところ、おっぱいいっぱい男の母がゼラを嫁に迎えることに熱心みたい。伯爵家の嫁として人間社会の行儀に礼儀をゼラに教えているわ』
「……かつて、我らを受け入れた男も、わずかにはいたものだけど」
「たいてい他の人間に引き離される結果になったものよ。家族、社会、宗教、エトセトラ」
「悲劇と悲恋は聞き飽きたぞ」
「一家揃ってでウェルカム雰囲気は、初めてなんじゃ?」
『……はは、一家どころか、執事もメイドも監視してるハズの部隊の人間も、このローグシーの街の住人まで、ゼラを蜘蛛の姫と受け入れているわよ。なんなの? この絵本の中みたいなふわふわしたふざけたのんきな世界は? 頭がおかしくなりそう』
「アシェンドネイルがそう言うとは余程のことだの」
『ここに来て見てみれば解るわ。ゼラのことを怖がるどころか、お菓子をアーンと食べさせたり、ゼラに抱きつかれて頬にキスされて喜んでたり。皆、頭が湯だってるんじゃないの?』
「あー、あいつらそーなんだよな」
「あら、クイン。お帰りなさい」
「ただいま。これ、おみやげ」
「クイン? おっぱいいっぱい男を知ってるのか?」
「アバランの町でたまたま会った」
「そうなの? それでカダールとゼラは何処まで行ってるの? キスして一緒に寝てるのは解ったけれど」
「何処までって、そんなのあたいが知るかよ」
『何処までって、がっつりしっかり性交してるみたいよ』
「「性交!?」」
「え? 性交? えぇ? 合体?」
「え? ちょっと待って。蜘蛛の子は下半身は蜘蛛よ? 大蜘蛛よ? 蜘蛛の脚がワッキャワキャしてんのに?」
「キスとおっぱいは上半身だが、性交は下半身結合だぞ? 魔獣の部分だぞ?」
『おっぱいいっぱい男は気にしないみたいね。私の下半身を正面から見ても、顔を赤くして目を背けて照れてそっぽを向いてたし。黒蛇の身体も視界に入ってたでしょうに、まるで乙女の裸を見てしまって恥ずかしがる少年みたいだったわ』
「なにそれ、おかしい」
「フツー、怯えるもんでしょが」
「変態よ、ド変態なのよ」
「おっぱいいっぱい男が頭がおかしいんじゃ」
「あー、カダールもエクアドも、女の子の大事なとこ見ちゃったって感じで慌てて恥ずかしがってたな。やっぱり、あれってあたいのこと、ちゃんと女の子扱いしてくれてたんだ」
「おい、聞き捨てならんぞエアリアクイーンよ。まるで裸を見られたような言い方ではないか?」
「!? じじじ事故だ! 事故、事故。事故なんだぁ!」
「その事故、詳しく説明せよ」
「クイン、何処をどうして何をどう見られてどうなった? 女の子扱いされただと?」
「はしたないぞクイン。で、見せて誘ったのか?」
「誘ってねえし! 見せたくて見せたんじゃねえし!」
『赤毛の英雄に会ったのはクインだったの?』
「あ、あいつらエロいドスケベなんだよ! 下半身グリフォンでも欲情するようなスケベ人間なんだよ!」
「ふ、ふーん。いいわねー、グリフォンは獅子ベースだから。毛がふわふわで、もふもふだから、男もこわがらずに受け入れやすいんでしょうねー」
「哺乳類はまだマシよね。ウロコでも虫でも無いから」
「……うぅ、この身は下半身はタコだもの。ぬめる触手で抱きついたら、悲鳴を上げて、離せバケモノって、うぅ……」
「鎮静剤、要る?」
「毛か? 毛なのか? 毛が生えてりゃいいのか? モフモフしてりゃ許されるのか? オノレ哺乳類ちくしょう!」
「あー、どうせ虫ですよ、虫なんですよ。虫の脚がワシャワシャですよ、クッソウラヤマシ」
「あー、よしよし、よーしよしよし」
「暴れるようなら眠らせてやる」
「誰か酒精持ってきてー」
『一応言っておくわよ。ゼラは蜘蛛で私は蛇だからね』
「「いるかそんな男!」」
「え? 何? 蜘蛛の脚見てもギンギンになってるの? おっぱいいっぱい男は?」
「やっぱド変態じゃねえか」
「つまり、ついてるものがついていれば、おっぱいいっぱい男は欲情するのか? 例え下半身が魔獣でも?」
『そうじゃない? だから見えてしまうと恥ずかしいみたい。それで私も服を着させられてるし』
「アシェが服ぅ?」
「いっつもマッパレディのアシェが、服ぅ?」
『今は裸に白いエプロンよ』
「「おっぱいいっぱい男マニアックに過ぎる!!」」
「アシェンドネイルに裸エプロンとは、ん? それはつまりアシェンドネイルのように下半身黒蛇でも、おっぱいいっぱい男は乙女のように扱ってくれるということか?」
『ゼラで慣れてしまったみたいね。赤毛の英雄だけじゃ無くて、他の男も私を見る目に怯えは無いわ。人の女のように扱ってくれている。中には触らせてくれって、蛇体をペタペタ触るのもいるわ』
「あいつらなんかおかしいんだよ。部隊の奴等も、あたいの緑の髪が綺麗って櫛を入れたりとか、下半身のグリフォン体にブラッシングしたりとか。ぜんぜんビビらない」
「いや、無いから。慣れるとかそういう問題じゃ無いから」
「魔獣を怖れる恐怖心が払拭されるとか、そうそう無いから」
「本能に刻まれた恐怖が簡単に失せるものかよ」
『そうでも無いみたいよ。私の目の前に凄い布がドンと積まれているんだけどね』
「凄い布? なにそれ?」
「なんかやたらキラキラした布ね」
『この布の数だけ二人はヤッたみたいよ。少なくとも回数五十は越えてるわね』
「「なにそれー?!」」