第三十五話
文字数 4,094文字
「母さんも兄貴も、今を逃すと次はいつ会えるか解らないぞ。クインに触れる機会は今しか無い」
「じゃ、ちょっと失礼して」
「私も」
「お前らな……」
クインを迎えた翌日の朝。酒を呑ませ過ぎたクインは寝起きはぼうっとしていたが、ゼラの治癒の魔法でしゃっきりとする。
そしてエクアドに促されて、エクアドの兄ロンビアとエクアドの母イアナが、カーラヴィンカの姿のクインに触れる。クインは諦めたような顔で大人しく触らせている。
ロンビアは、ほー、と言いながらクインの緑の羽に触る。
「俺と母さんだけだったら、こんな風にクインに近づくこともできなかっただろうなあ」
「む? ロンビアもイアナもゼラで慣れたんじゃないか?」
「俺たちウィラーイン出身じゃ無いんだけど」
エクアドの母イアナもクインのグリフォン体に手を触れながら言う。
「ウィラーイン家の皆さんが普通に接しているので、雰囲気に流されて、なんだかこっちの方が当然なのかも、と」
クインが諦めたような口調で返す。
「いや、違うと思う、そっちが人間として普通なんだと思う……」
「クイン、見た目だけで相手を判断するのは正しく無い」
エクアドの母イアナは緑の羽の付け根、グリフォンの獅子の身体の毛に手を入れて目を細める。
「正しきを成し、それを体現し、雰囲気を作り上げるのがウィラーイン家の家風ですか。エクアド、ちゃんとウィラーイン家になれてる?」
「母さん、俺は昔からウィラーイン家のカダールとつるんでいるんだ。それに子供ができた。俺もハラード様、ルミリア様のように堂々と正しきを為す姿を、親として子に見せたい」
フェディエアと結婚し息子が産まれたエクアドは、親としての責を感じるようになったのか、前より一段と凛々しくなったように見える。
父上も母上も飄々としながら為すべきことを為す。それも楽しそうに。その姿に民は惹かれついてくる。
「ゼラもチチウエとハハウエ好きー」
「嬉しいわゼラ、私もゼラのこと好きよ」
母上が微笑み、父上がふにゃりとだらしない顔になる。暖かな家族の団欒をクインが半目になって見る。
「正しきを成す、ねえ……、ゼラに聞いたけど、カダールの父と母があの広い風呂で並んでゼラのおっぱい触ってたって」
「うむ、それが?」
平然と言う父上に首を捻るクイン。
「いや、なんか、あたいの知ってる人間の常識と違うから、あれ? あたいの方がおかしいのか?」
家族として仲良し過ぎるのかもしれない。ゼラも喜んで触らせてしまうが、俺もちょっとぐらいならいいかと許してしまう。エクアドは少し顔をしかめて、
「俺は相手がハラード様でも、フェディエアの胸は触らせたくないな……」
「そうだよな、そっちが人間の普通だよな。危ない、スケベ人間に染められるところだった」
安心したような声でクインにまた罵倒された。何やら俺とウィラーイン家が思想汚染でもしてるような言い方はどうかと思う。思わずゼラと顔を合わせると、ゼラは不思議そうに小首を傾げる。
「ゼラのおっぱい、触ってみたいって人、いっぱいいるよ?」
「あのなぁゼラ、人数が多いからってそれが正しいとは限らないだろ」
クインがもっともな事を言う。ゼラは、ンー? と考えている。こういうこともゼラは学んでいくのだろう。何が正しいのか、何が恥ずかしいのか。その切っ掛けが褐色の双丘か。人とは常に、その魅惑に惹かれる想いと理性の狭間で答を求めてさ迷う旅人なのかもしれない。
クインは父上の提案を深都に伝える為にと、早々にウィラーイン家を出て行った。人化の魔法で人に化け、ローグシーの街から離れ人気の無いところから飛んでいくという。
エクアドの兄と母はその後十日程滞在。エクアドとフェディエアの子供の名前はフォーティスと決まり、バストレードの案が採用された。
ローグシーの街でのウィラーイン家の新しい子の誕生祝いを楽しみ、エクアドの家族も戻って行った。
ウィラーイン領諜報部隊フクロウの調べで、スピルードル王国に来ていた総聖堂聖剣士団は調査を終え、中央に帰還したとのこと。
中央の動乱、聖獣一角獣のお言葉、至蒼聖王家の遷都と気になることはあるが、中央は遠くその話は届いて来ない。
エクアドの実家オストール男爵家は王都に近いので、エクアドの兄ロンビアには王都のこと、中央から王都に来る噂など、ウィラーイン家に伝えて貰えるように頼んである。
ローグシーの街のフォーティス誕生祭りも終わり、いつも何かと賑やかなウィラーイン家が、客人がいなくなり少し静かになった。
深都を抜け出したという、深都の住人の話の後では、嵐の前の静けさのように感じる。
大地を割り草木は芽吹く。人が目にするのは地上に出た芽。その芽は地上に出る前は地下に根を伸ばし、力を貯え、芽を出す時を待っていた。地下を見ることができなければ、その根は何処まで広がっているか解らない。土の中、音も立てずに密かやかに根を広げ、土の養分を吸い上げ芽を出す時を静かに待つ。
事が起きる時とは、このようなものではないだろうか? 突然に起きたように見えても、その準備は見えぬところ、知らぬところで既に終わっている。
大地を割って顔を出す芽しか、地上にいるものには見えるところが無い。見えなければ地下で何が起きているか知りようが無い。
微かなその動きを感じ、そこから起きる出来事を読み解き、動く事態の未来を告げるのは、預言者か神しかいない。
地上の人は起きた事態を目にしてやっと驚くことになる。微かな予兆、それが結びつく事態は、事が起きた後になってからようやく解る。
いつもの朝、胸の上に乗るのはゼラの頭。昨夜もその、子供が欲しいと言うゼラとムニャムニャした。愛しいゼラ、胸の上、眠るゼラの長い黒髪に指を通す。
起こした方がいいと解っていても、もう暫くこのまま寝かせていても、という誘惑にいつも負けそうになるゼラの安らかな寝顔。
む? 安らかな? 何かいつもと違う。触れるゼラの身体がいつもより熱いような。
「……ン、カダール?」
「おはよう、ゼラ、どうした?」
「なんだか、身体に力が、入らない……」
「ゼラ?」
元気が無い。寝起きだからというだけじゃ無さそうだ。
「ゼラ、具合が悪いのか?」
「……ぐあい?」
ゼラの頬に触れる、何時もより熱い、目に元気が無い。熱があるのか? 寝室を覗く見張り窓がある方、アルケニー監視部隊の隊員がいる見張り部屋に向かって。
「ゼラの様子がおかしい、ルブセィラを呼んでくれ!」
ゼラが病気になってしまった。
「症状は、発熱、いつもより体温が高いです。全身の倦怠感、脱力感。魔力が減少し魔法がわずかにしか使えない。ゼラさんが意識せず使う身体強化も使えず、筋力も人並みに」
ゼラを診察したルブセィラ女史がメモを片手に説明する。
「食欲も無いということですが、何も食べないのも身体に悪いです。ゼラさんの主食は生肉ですが、料理人に頼み、肉を細かく切り煮込み、お粥のようにできないか作ってもらっています」
「ゼラが具合が悪くなるなど初めてだ。もしかして、妊娠か?」
「先ずそれを疑い調べてみましたが、人は妊娠すれば月経が止まり、つわりなどの症状があります。ゼラさんはもともと月経が無いので、解り難いですね。吐き気も今のところ無いようです」
「妊娠ならば、時が過ぎればお腹が大きくなるか」
「それには経過を見なければなりませんね。胎児が成長すれば心音で確認できるでしょうが、今の時点では不明です」
「それとも病気なのか?」
「ゼラさんが言うには、これまで怪我をしたことはあっても病気になったことは無いと。具合が悪くなることも初めてだと言っていました。私達では、アルケニー特有の病気となるとその症例を見たことも無く、はっきりしたことは言えません」
ルブセィラ女史が悔しげに俯く、落ちかけた眼鏡を慌てて押さえる。
「ルブセィラが解らないことは、誰にも解らないだろう。ルブセィラはよくやってくれている」
「魔獣研究者としてお役に立てず、歯痒いですね」
ルブセィラ女史は魔獣研究者だと名乗るが、その顔は友人の心配をしているような顔だ。ゼラの研究に熱心だが、今ではゼラの先生役としてもゼラにいろいろと教えている。
「ゼラさんが進化する魔獣ということで、これは次の進化かと疑いました」
「進化? ゼラの姿が変わる前兆なのか?」
「ですがゼラさんが言うには、これまでの進化でも、進化前にこのように具合が悪くなることは無かったそうです。進化後に身体が痛くなることはあったと。これは成長痛のようなものでしょうか?」
「それは解らないが、これまでの進化とは症状は違うんだな?」
「そのようです。それにクインにアシェンドネイル、彼女達も上半身人型、下半身魔獣の姿のまま長年変わっていないようです。ゼラさんも同じであれば、この先も変わらないのではないかと。こうなることが解っていれば、酔わせたクインからもっといろいろ聞き出しておけば良かったです」
「誰も先のことなど解りはしない。クインも酔っぱらっても深都のことについて、肝心なとこは話さなかった。深都の住人についても、人にあまり知られたく無いのだろう」
これがクインがローグシーに来ているときなら、ゼラの症状について聞くこともできるのだが、帰った今となっては今更だ。次にクインが来るのが早いことを願うだけだ。
「ゼラはどうなる?」
「原因不明となると経過を観察するしかありません。気分が悪いとかどこか痛い、ということは無いようで、このまま安静にするしかありません。カダール様はゼラさんについていて下さい」
「もちろんそのつもりだ」
屋敷の者が、アルケニー監視部隊が心配する中、ゼラの容体は変わらない。
五日経ち、十日過ぎても、ゼラの具合は悪いままだった。
「じゃ、ちょっと失礼して」
「私も」
「お前らな……」
クインを迎えた翌日の朝。酒を呑ませ過ぎたクインは寝起きはぼうっとしていたが、ゼラの治癒の魔法でしゃっきりとする。
そしてエクアドに促されて、エクアドの兄ロンビアとエクアドの母イアナが、カーラヴィンカの姿のクインに触れる。クインは諦めたような顔で大人しく触らせている。
ロンビアは、ほー、と言いながらクインの緑の羽に触る。
「俺と母さんだけだったら、こんな風にクインに近づくこともできなかっただろうなあ」
「む? ロンビアもイアナもゼラで慣れたんじゃないか?」
「俺たちウィラーイン出身じゃ無いんだけど」
エクアドの母イアナもクインのグリフォン体に手を触れながら言う。
「ウィラーイン家の皆さんが普通に接しているので、雰囲気に流されて、なんだかこっちの方が当然なのかも、と」
クインが諦めたような口調で返す。
「いや、違うと思う、そっちが人間として普通なんだと思う……」
「クイン、見た目だけで相手を判断するのは正しく無い」
エクアドの母イアナは緑の羽の付け根、グリフォンの獅子の身体の毛に手を入れて目を細める。
「正しきを成し、それを体現し、雰囲気を作り上げるのがウィラーイン家の家風ですか。エクアド、ちゃんとウィラーイン家になれてる?」
「母さん、俺は昔からウィラーイン家のカダールとつるんでいるんだ。それに子供ができた。俺もハラード様、ルミリア様のように堂々と正しきを為す姿を、親として子に見せたい」
フェディエアと結婚し息子が産まれたエクアドは、親としての責を感じるようになったのか、前より一段と凛々しくなったように見える。
父上も母上も飄々としながら為すべきことを為す。それも楽しそうに。その姿に民は惹かれついてくる。
「ゼラもチチウエとハハウエ好きー」
「嬉しいわゼラ、私もゼラのこと好きよ」
母上が微笑み、父上がふにゃりとだらしない顔になる。暖かな家族の団欒をクインが半目になって見る。
「正しきを成す、ねえ……、ゼラに聞いたけど、カダールの父と母があの広い風呂で並んでゼラのおっぱい触ってたって」
「うむ、それが?」
平然と言う父上に首を捻るクイン。
「いや、なんか、あたいの知ってる人間の常識と違うから、あれ? あたいの方がおかしいのか?」
家族として仲良し過ぎるのかもしれない。ゼラも喜んで触らせてしまうが、俺もちょっとぐらいならいいかと許してしまう。エクアドは少し顔をしかめて、
「俺は相手がハラード様でも、フェディエアの胸は触らせたくないな……」
「そうだよな、そっちが人間の普通だよな。危ない、スケベ人間に染められるところだった」
安心したような声でクインにまた罵倒された。何やら俺とウィラーイン家が思想汚染でもしてるような言い方はどうかと思う。思わずゼラと顔を合わせると、ゼラは不思議そうに小首を傾げる。
「ゼラのおっぱい、触ってみたいって人、いっぱいいるよ?」
「あのなぁゼラ、人数が多いからってそれが正しいとは限らないだろ」
クインがもっともな事を言う。ゼラは、ンー? と考えている。こういうこともゼラは学んでいくのだろう。何が正しいのか、何が恥ずかしいのか。その切っ掛けが褐色の双丘か。人とは常に、その魅惑に惹かれる想いと理性の狭間で答を求めてさ迷う旅人なのかもしれない。
クインは父上の提案を深都に伝える為にと、早々にウィラーイン家を出て行った。人化の魔法で人に化け、ローグシーの街から離れ人気の無いところから飛んでいくという。
エクアドの兄と母はその後十日程滞在。エクアドとフェディエアの子供の名前はフォーティスと決まり、バストレードの案が採用された。
ローグシーの街でのウィラーイン家の新しい子の誕生祝いを楽しみ、エクアドの家族も戻って行った。
ウィラーイン領諜報部隊フクロウの調べで、スピルードル王国に来ていた総聖堂聖剣士団は調査を終え、中央に帰還したとのこと。
中央の動乱、聖獣一角獣のお言葉、至蒼聖王家の遷都と気になることはあるが、中央は遠くその話は届いて来ない。
エクアドの実家オストール男爵家は王都に近いので、エクアドの兄ロンビアには王都のこと、中央から王都に来る噂など、ウィラーイン家に伝えて貰えるように頼んである。
ローグシーの街のフォーティス誕生祭りも終わり、いつも何かと賑やかなウィラーイン家が、客人がいなくなり少し静かになった。
深都を抜け出したという、深都の住人の話の後では、嵐の前の静けさのように感じる。
大地を割り草木は芽吹く。人が目にするのは地上に出た芽。その芽は地上に出る前は地下に根を伸ばし、力を貯え、芽を出す時を待っていた。地下を見ることができなければ、その根は何処まで広がっているか解らない。土の中、音も立てずに密かやかに根を広げ、土の養分を吸い上げ芽を出す時を静かに待つ。
事が起きる時とは、このようなものではないだろうか? 突然に起きたように見えても、その準備は見えぬところ、知らぬところで既に終わっている。
大地を割って顔を出す芽しか、地上にいるものには見えるところが無い。見えなければ地下で何が起きているか知りようが無い。
微かなその動きを感じ、そこから起きる出来事を読み解き、動く事態の未来を告げるのは、預言者か神しかいない。
地上の人は起きた事態を目にしてやっと驚くことになる。微かな予兆、それが結びつく事態は、事が起きた後になってからようやく解る。
いつもの朝、胸の上に乗るのはゼラの頭。昨夜もその、子供が欲しいと言うゼラとムニャムニャした。愛しいゼラ、胸の上、眠るゼラの長い黒髪に指を通す。
起こした方がいいと解っていても、もう暫くこのまま寝かせていても、という誘惑にいつも負けそうになるゼラの安らかな寝顔。
む? 安らかな? 何かいつもと違う。触れるゼラの身体がいつもより熱いような。
「……ン、カダール?」
「おはよう、ゼラ、どうした?」
「なんだか、身体に力が、入らない……」
「ゼラ?」
元気が無い。寝起きだからというだけじゃ無さそうだ。
「ゼラ、具合が悪いのか?」
「……ぐあい?」
ゼラの頬に触れる、何時もより熱い、目に元気が無い。熱があるのか? 寝室を覗く見張り窓がある方、アルケニー監視部隊の隊員がいる見張り部屋に向かって。
「ゼラの様子がおかしい、ルブセィラを呼んでくれ!」
ゼラが病気になってしまった。
「症状は、発熱、いつもより体温が高いです。全身の倦怠感、脱力感。魔力が減少し魔法がわずかにしか使えない。ゼラさんが意識せず使う身体強化も使えず、筋力も人並みに」
ゼラを診察したルブセィラ女史がメモを片手に説明する。
「食欲も無いということですが、何も食べないのも身体に悪いです。ゼラさんの主食は生肉ですが、料理人に頼み、肉を細かく切り煮込み、お粥のようにできないか作ってもらっています」
「ゼラが具合が悪くなるなど初めてだ。もしかして、妊娠か?」
「先ずそれを疑い調べてみましたが、人は妊娠すれば月経が止まり、つわりなどの症状があります。ゼラさんはもともと月経が無いので、解り難いですね。吐き気も今のところ無いようです」
「妊娠ならば、時が過ぎればお腹が大きくなるか」
「それには経過を見なければなりませんね。胎児が成長すれば心音で確認できるでしょうが、今の時点では不明です」
「それとも病気なのか?」
「ゼラさんが言うには、これまで怪我をしたことはあっても病気になったことは無いと。具合が悪くなることも初めてだと言っていました。私達では、アルケニー特有の病気となるとその症例を見たことも無く、はっきりしたことは言えません」
ルブセィラ女史が悔しげに俯く、落ちかけた眼鏡を慌てて押さえる。
「ルブセィラが解らないことは、誰にも解らないだろう。ルブセィラはよくやってくれている」
「魔獣研究者としてお役に立てず、歯痒いですね」
ルブセィラ女史は魔獣研究者だと名乗るが、その顔は友人の心配をしているような顔だ。ゼラの研究に熱心だが、今ではゼラの先生役としてもゼラにいろいろと教えている。
「ゼラさんが進化する魔獣ということで、これは次の進化かと疑いました」
「進化? ゼラの姿が変わる前兆なのか?」
「ですがゼラさんが言うには、これまでの進化でも、進化前にこのように具合が悪くなることは無かったそうです。進化後に身体が痛くなることはあったと。これは成長痛のようなものでしょうか?」
「それは解らないが、これまでの進化とは症状は違うんだな?」
「そのようです。それにクインにアシェンドネイル、彼女達も上半身人型、下半身魔獣の姿のまま長年変わっていないようです。ゼラさんも同じであれば、この先も変わらないのではないかと。こうなることが解っていれば、酔わせたクインからもっといろいろ聞き出しておけば良かったです」
「誰も先のことなど解りはしない。クインも酔っぱらっても深都のことについて、肝心なとこは話さなかった。深都の住人についても、人にあまり知られたく無いのだろう」
これがクインがローグシーに来ているときなら、ゼラの症状について聞くこともできるのだが、帰った今となっては今更だ。次にクインが来るのが早いことを願うだけだ。
「ゼラはどうなる?」
「原因不明となると経過を観察するしかありません。気分が悪いとかどこか痛い、ということは無いようで、このまま安静にするしかありません。カダール様はゼラさんについていて下さい」
「もちろんそのつもりだ」
屋敷の者が、アルケニー監視部隊が心配する中、ゼラの容体は変わらない。
五日経ち、十日過ぎても、ゼラの具合は悪いままだった。