第三十四話◇◇◇???会話回

文字数 4,462文字


「これがウィラーイン家の館……、人が住むには大きいわね」
「なんだか、深都の建物に少し似てない?」
「サイズがゼラ用なのね」
「ほら、ゼラを倉庫に押し込めてたんじゃ無かったのよ。ゼラが住めるようにって館をわざわざ作ったのよ」
「信じられないわ、アシェ、これはどうなってるの?」
「ウィラーイン家の人達は、頭の中にお花が咲いてるのよ」
「今はゼラはここでおっぱいいっぱい男と住んでいるのね」
「あの、カーラヴィンカの正体を出したクインに人が群がってモフモフしてるんだけど」
「クイン、何をされても大人しくしろよ。ウィラーイン領への介入は最小限度に抑えろ」

『ゼラ、そこはくすぐったいって、あ、んう、おいそこの眼鏡、横腹に顔を埋めて何をしている?』
『匂いを嗅いでいます。なんだかいい匂いがしますね』
『どれどれ?』
『あ、おい、そこは、あふ、んー』
『ふむ、クインもくすぐったがりですか?』
『ふむ、この緑の羽に包まれると、何やら緑の雲の中へと迷い込んだような気分になって、楽しくなるのう』
『お、お前ら、あ』

「クインが玩具にされてる……」
「珍しいからってベタベタ触ってくるのよね、あの家の人間は。私もやられたけど」
「やっぱりこの館に母神の瞳を仕掛けて、なんとか盗撮して」
「それをするなら、館の主に話して許しを得てからにするべきね。赤毛の英雄に嫌われるわよ?」
「ね、アシェが置いてきた母神の瞳は?」
「機能停止して反応が無いわ。眼鏡賢者と英雄の母の玩具になってるんじゃない?」

◇◇◇◇◇

「おっぱいいっぱい男の父が外交官役を提案するとは……」
「ふん、我らを顎で使おうなど、傲慢な人間だ」
「己の力が及ばぬと判断して、強がって見栄を張ることもせず、こちらの不始末を突いて私達を利用しようと?」
「この短時間でそれ考えて言ったの? このおじさま、キレ者?」
「ちょっとアシェ、こいつら頭の中がお花畑なんじゃなかったの?」
「赤毛の英雄の父母はウィラーイン領を治めているのよ? 頭が回るのも当然でしょう。お花畑なのは間違い無いけれど」
「どうかな、ワシらをナメとるんじゃないか?」
「我らが本気を出したらどうなるか、知らないのなら見せてやろうか?」
「もう見てるわよ、ゼラが暴れたとこ目にしてるわよ。なのに棄人化しかけたゼラに、全員が取り押さえるために挑んだのよね。あの地の者が怯むところは、見たこと無いわ……」
「なにその恐れ知らずの戦闘民族みたいな。この伯爵って貴族とかじゃないの?」
「蛮勇貴族? 気取ってるのはうわべだけよ。赤毛の英雄の父は雄叫び上げて、人造魔獣に突撃してたわ」
「……今の人間って、なんなの?」

◇◇◇◇◇

「おっきなお風呂ね」
「プール? というか、ゼラが肩まで浸かれるように設計したの? ちょっとー、ゼラは甘やかされ過ぎてない?」

『はい、クイン、大人しくしてね』
『いいよ洗わなくても、自分でできるっての』
『あら、お客様を歓待させて欲しいわ。サレンはそっち側をお願い』
『はい、奥様。グリフォン体とは大きくて洗い甲斐がありますね。わっしゃわっしゃ』
『い、いや、いいから』
『はい、いい子にしてねクイン。わっしゃわっしゃ』
『ちょ、あ、尾羽の付け根は、あや、んう』

「クイン、耐えて、暴れちゃダメだから、耐えてー」
「なんだか、私達同士でお風呂するときと、あんまり変わらないんじゃない?」
「それを人間がしてるのが、異常なんだが」
「どうしてここにおっぱいいっぱい男がいないのよ」
「男と女は一緒にお風呂に入らないものでしょ」
「混浴しておっぱいいっぱい男の裸を私達にも見せなさいよ」
「クインは自分のを一回見せたっていうから、もう気にすることも無いだろうに」
「真っ()組はなんで恥ずかしいってのが解らんのじゃ」
「それは隠したくなるほど貧相では無いからだけど? ねえ?」
「おい、貴様何処を見て言った? 表に出ろ。その脂肪の塊、握り潰してやる」
「やめなさい、お馬鹿」

『クインー、湯加減はこれでいい?』
『ちょっと熱くねぇか? 総大理石であちこちキラキラしてるってのは、なんかすげえな』

「ゼラの魔法でお湯を出してるの? 便利に使われちゃってまあ」
「ゼラは水系が得意なのか? 蜘蛛なのに?」
「ゼラが得意なのは治癒系よ。火系以外にはゼラに使えない魔法は無いかもね」
「ふうん、一度ゼラと腕比べしてみたいとこね」
「お前は絶対に深都から出さんからな」

◇◇◇◇◇

『それでは我が館にゼラの姉、エアリアクイーンを招く機会を祝して』
『『乾杯』』

「アシェとゼラが人と食事してるとこは見たことあるから、も、もう驚かないわよ」
「クインが正体出したまま、これだけの人に囲まれ、和やかに宴とは」

『これはルミリアが作った蒸留器で作った、酒精の強い蒸留酒でな』
『うわ、キッツイなこれ。うん、なかなかいける』
『クインは酒に強そうだの』

「酔わせて深都のこと喋らせようとしてんじゃない? クイン、泥酔しちゃダメだから」
「クインは酒が好きだから、ちょっとまずいか?」
「蒸留器って禁則に引っ掛からない? 大丈夫?」
「内燃機関の燃料を作る為だとアウトだけど、酒の為ならセーフ」
「危ない橋を渡ってるわね、英雄の母」

『ハンターギルドで仕入れた肉だ。狩ったばかりの新鮮なヨロイイノシシだが、どうだ?』
『いや、旨いけどよ、血が垂れてきて』
『横のタオルを使ってくれ』
『なんかもう、あー、気にするのがバカらしくなってきた。もう一杯くれ』
『このチーズ、ゼラが作ったの』
『ゼラが料理? 生肉好きが料理憶えてどーすんだよ?』
『カダールが美味しいっていうの、作れるようになりたくて』
『ゼラ……』
『カダール……』
『……もう一杯お代わりくれ』
『はいどうぞ。いい呑みっぷりねクイン』

「おいクイン、呑むペースが速い。奴らの手に乗せられてるぞ、クイン、聞こえるか?」
「なんか、いいな、あれ」
「ウィラーイン家に行けば、ゼラの姉ってことで、歓迎してもらえるの?」
「生肉かじっても、怖がらないで一緒に晩餐して」
「ねえ、私達、騙されてない? これは罠なんじゃないの?」
「なんの罠じゃ。目の前の現実をちゃんと見ろ」

『クイン、これがエクアドと私の子よ』
『うわ、ちっちぇえ』
『抱いてみない?』
『やめとく、なんか壊しちまいそうだ』
『それじゃ、撫でてみない?』
『いいのか?』
『いいわよ。ほらフォーティス、ゼラちゃんのおねえちゃんよ』
『ふや?』

「平気で赤ん坊に触らせるとか、この女もいろいろと麻痺してるんじゃないか?」
「赤ちゃん可愛いわね」
「む? エクアドという男がクインを口説いた、というならそこでクインが押せば、エクアドはこの女と結婚する前に、クインに傾いたかもしれないのか?」
「なによ、クインってば、なんて希少な人間との機会を逃してるのよ」
「いや今からでも遅くは無いかもしれん。二号というのも貴族という制度の中では有りではないか?」
「クインはそういうの無理なんじゃない?」
「じゃ、私が行ってみようか? なんて言ったっけこれ、寝とりチャレンジ?」
「お前も絶対に深都から出さんからな」

◇◇◇◇◇

『ゼラ用のベッドかよ、何を作ってんだよ』
『職人も今までに無い物を作るのに、職人魂に火がついたようで、随分と気合いの入った作りになった』
『クインー、一緒に寝よ』
『いや、流石にあたいとゼラが使うには無理なんじゃないか?』
『ちょっとやそっとでは壊れんようにできている。ウィラーイン領いち頑丈なベッドと職人が自慢していた。クイン、試しに乗ってみないか?』
『あたいとゼラがベッドに入ったら、カダールは何処で寝るんだよ』
『そうしたら俺はゼラの蜘蛛の背で寝よう。クインも久しぶりにゼラと会ったのだから、今夜はゆっくり話すといい』
『これは、カダールと同衾になっちまうのか?』
『クインー、こっちこっち』
『解ったよ、うわ、この布団柔けえ』

「いきなりクインをベッドに誘ったわよ、流石、おっぱいいっぱい男」
「え? なに? クインがヤられちゃうの?」
「あなた達、何を期待してるんですか?」
「だってあのベッドでゼラとおっぱいいっぱい男は性交してるんでしょ? そこにクインを呼んだってことは」
「え? つまりそれは、ゼラとクインとおっぱいいっぱい男の三人が?」
「人間の男が一人でゼラとクインの相手をするの?」
「でもおっぱいいっぱい男なら、やれるのか?」
「え? じゃ、クインが? ええ? うそ?」
「おい、お前達、何をしてる?」
「クインの貞操の危機を見守っています」
「気になるのは解るが、いつまでも見てるんじゃ無い。空が飛べるのは脱走者の捜索に出ろ」
「そんなに慌てなくても、抜け出した五人に空を飛べるのはいないじゃ無い」
「ここから人類領域まで遠いからねー」
「そーですよ、ハイアンディプスなんて下半身はタコだから、そうそうローグシーに辿り着けませんよ」
「地下水脈に乗って移動したらどうする?」
「それこそ空からじゃ見つけられません。そっちは水中得意なのに任せまーす」
「それなら他の四人の捜索をだな」
「あ、おっぱいいっぱい男がゼラとちゅーした!」
「え? 邪魔するから大事なとこ見逃したじゃないですか! おやすみのちゅー!」
「やかましい! いいからさっさと捜索に行け!」

◇◇◇◇◇

「さて、誰が外交官としてローグシーに行くかだが」
「人化の魔法と気配隠蔽の得意な者でなければならぬ」
「じゃあ私が行くわ、仕方無いわねえ」
「待て、抜け出した五人を捕まえるのが目的だ。あの五人を抑えられる能力のあるもので無ければならない」
「ではワシが行こう。あの双子のすばしこさに対抗できるのはワシしかおるまい」
「あんた泳げないでしょ。ハイアンディプスが水中に逃げたらどうするの? ここは私に任せなさい」
「水辺から離れたら干からびる奴がどうやってローグシーで暮らすつもりだ? 今回は水中組に出番は無い。我が行こう」
「そう言うあなたも人化の魔法が下手っぴでしょうに。人間の社会に理解のある者が行くべきで、脳筋組は引っ込んでなさいよ」
「誰が脳筋だ!」
「先に水中組にケチをつけたのはそっちでしょ!」
「局地戦仕様が活躍できる場は少なくて当然だろう!」
「地力でゴリ押しできるのが汎用性とか、勘違いするんじゃ無いわよ!」
「おもしろい、表に出ろ!」
「そういうところが脳筋っていうのよ」
「人類領域に混乱を招くは不要、わらわに任せよ」
「いえ、ここは私が」
「何言ってんの、あたしが行くわ」
「ケンカするなお前ら。誰が行くかは十二姉が決める。勝手にローグシーに行くなよ。解ったか? 返事は?」
「「はーい」」

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登場人物紹介

ゼラ

もとは蜘蛛の魔獣タラテクト。助けてくれた騎士カダールへの想いが高まり、進化を重ねて半人半獣の魔獣アルケニーへと進化した。上半身は褐色の肌の人間の少女、下半身は漆黒の体毛の大蜘蛛。お茶で酔い、服が嫌い。妥協案として裸エプロンに。ポムンがプルン。しゅぴっ。

カダール=ウィラーイン

ウィラーイン伯爵家の一人息子。剣のカダール、ドラゴンスレイヤー、どんな窮地からでも生還する不死身の騎士、と渾名は多い。八歳のときに助けた蜘蛛の子と再会したことで運命が変わる。後に黒蜘蛛の騎士、赤毛の英雄と呼ばれる。ブランデーを好む、ムッツリ騎士。伝説のおっぱいいっぱい男。

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